聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖域本部・地下書庫――
静寂を破るは、未曽有の“文官悪霊騒動”。
書類と魂が乱れ飛ぶ混乱の中、現れるは積尸気の鬼才・エレナ。
「アッシュ様の功績を汚す者、成仏してもらいます!」
一方、事件解決の余韻の中ですれ違うアッシュとエレナの心。
伝わりそうで伝わらない想い。
パートナーとして?それとも…?
――生涯“秘書”という名の、すれ違いラブコメディ、いざ開幕!

私の小宇宙は今、猛烈に爆発してる!!


“生涯秘書”宣言!? 書庫の静寂とふたりのすれ違い

(エレナ視点)

 

 

 

聖域本部・地下書庫――

 そこは静謐と叡智の殿堂であり、私エレナが魂を込めて整理した「アッシュ様改革史」専用ファイルの聖域でもある。

 

 だがその日、私は目撃してしまったのだ。

 

 

 「な、何てこと……」

 

 整理されたはずの書架が、ぐっちゃぐちゃに引き倒され、

 あの“アッシュ様の功績記録ファイル”が、床一面にばら撒かれているではないか!

 

  ――これは、犯罪。いや、世界終末レベルの非常事態である。

 

 慌てて近づくと、もやもやと浮かぶ“幽霊”たちが、古文書を引っ掻き回して大騒ぎしていた。

 

 「ケケケ…!わしらは古代聖域の正規文官!夜勤・残業・サービス労働の怨念じゃ~!」

 「申請書類の誤字脱字、未処理決算、全部やり直せえええ~!」

 「稟議書の“朱肉”どこいった~!」

 

 (……こ、これは完全な“文官系悪霊”!冥界の新種……!)

 

  そのとき――

 背後から乱暴な声。

 

 「ケッ、こんな雑魚霊、俺様がまとめて成仏させてやるよ!」

 

 現れたのは蟹座の黄金聖闘士、デスマスク。

 まあ、私から見れば「黄金座の座布団を私から盗った男」だが、

 この場はひとまず頼りにさせてやろう。

 

 「積尸気冥界波ァッ!!」

 

 ドギャーン!

 

 ――しかし、悪霊たちは怯むどころか

 

 「我らは聖域の正規職員!この待遇、悪霊労組に訴えるぞ!」

 「定年退職金まだもらってねー!」

 「冥界波は“業務命令書”がないと効力無効だぞ!」

 

 バリアのごとき“魂の労組パワー”で跳ね返されている。

 

 デスマスクが苦い顔で振り返る。

 

 「チッ、なんだよこの変な理屈は……エレナ、お前の出番だ」

 

 私は静かに、足音もなく書庫の中央へ進み出る。

 

 

 ――そして、愛する「アッシュ様改革史」ファイルの一枚を拾い上げ、

 薄く乱れたページをそっと撫でる。

 

 

 「……アッシュ様の偉大なる功績を汚すとは、万死に値します」

 

 

 

 魂の底から“怒り”が湧き上がる。

 積尸気(せきしき)よ、我が忠誠の炎とともに燃え上がれ!

 

 

 「積尸気鬼蒼焔!!!!!!!」

 

 

 

 放たれた私の鬼蒼焔が、悪霊たちの魂を焼きながら叩きつけるは――

 “経費精算書の不備履歴”

 “欠勤届の未提出回数”

 “遅刻常習者リスト”

 “確定申告における控除申請忘れ”

 “弁当レシートの領収書未添付”――etc.

 

 「うわあああああ!!やめろぉぉ!!そのExcelのリスト、魂に直接刺さるゥゥ!!」

 「サービス残業の記録がぁぁ!」

 「確定申告の悪夢がああああ!!」

 

 魂の一人が「明日までに再提出しますぅぅぅ!」と絶叫しながら、

 全員、自主的に成仏して消えていった。

 

 書庫は一瞬で静寂。

 私は勝利の余韻を噛みしめて「アッシュ様ファイル」を整え直す。

 

 

 ……その時、背後からボソッと呟き。

 

 

 

 「……なあ、お前……俺の積尸気は“魂を送る”技だけどよ、あんたのは……“魂を折る”って感じだな……勝てねえ……」

 

 

 

 (フッ、認めたな。デスマスク――いいえ、“■■■■■■”さん?)

 

 

 

 (※本名を知っているが、言うと絶対キレられるのでニヤリとするだけ)

 

 

 

 デスマスクがふてくされて、

 

 「ま、いいさ。お前は“白銀”だしな、俺の黄金には到底及ばねえだろ?」

 

 カチン。

 

  「…………言いましたね」

 

 私は静かに指を鳴らす。

 

 

 「往生しろや‼ 積尸気冥界波――白銀特盛スペシャル!!」

 

 ズバババッ!!!

 

 

 デスマスクは鮮やかに積尸気の彼方へ消えていった。

 「ぐああああ!やっぱお前だけは無理だあああ!!」

 

 

 ふう。

 “蟹座の座は譲ってやったが、秘書能力も積尸気も――私は絶対に負けない”。

 

 

 あ、でも彼が冥界で拾ってきたファイルの一枚を差し出してくれるのは、ちょっとだけ嬉しい。

 (やっぱり根は悪い人じゃないのかも?)

 

  ――さあ、今日もアッシュ様のために、聖域の業務管理は完璧です!

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

 事件は終わった。

 書庫で起きた悪霊騒動、アッシュ様改革史の惨劇、そしてエレナの冥界級“業務監査”攻撃。今や全ては静けさを取り戻し、書類は完璧に整え直されている。……本当に、完璧だ。

 その書庫の隅、俺はエレナと二人きり。いや、正確には俺の意志で呼び出した。今こそ、ちゃんと感謝を伝えたい。尊敬も、できればもう少しだけ、素直な気持ちも。

 

 (……いけ、俺!積尸気だって魂だけど、想いは言葉だ!)

 

 「エレナ……ちょっと、いいかな」

 

 エレナは無表情でこちらを向く。その背筋の通った立ち姿、氷のような冷静な視線、そしてファイルを抱く指先――まさに秘書の鑑。見惚れると言えばそれまでだが、正直“怖い”が勝つ。

 

 俺は深呼吸。

 (緊張してるのが絶対バレてる……でも、言うぞ)

 

  「君は本当にすごいよ。あんな事件でも冷静で、有能で、綺麗で……その……」

 

 (“ずっと側にいてほしい”。そう、俺はパートナーとして――)

 

 「俺の、側にずっと……」

 ……と、その時。

 エレナは表情を微動だにせず、しかし動きだけは完璧な90度のお辞儀で答える。

 

 「はい、アッシュ様。生涯秘書として、貴方様にお仕えいたします」

 

 俺の脳内で鐘が鳴る。

 (え?生涯……秘書?そっち?いや、そうだけど!そうなんだけど!)

 

 もう一度、伝えたかったニュアンスを振り返る。

 

 “側にいてほしい”――イコール、いわば……いや、パートナーって意味で……えっ、今「生涯秘書」と来た?そっちだけ確定?断る隙ゼロ?この超高速合意は何!?

 

 「……そ、そうか。ありがとう、これからもよろしく頼むよ」

 

 俺は全身の力が抜けるのを感じた。安堵……ではなく困惑と感動が同時に襲ってきて、なんだかよくわからないまま頭を下げ返している自分がいる。

 

 その後のエレナは、秘書としての礼儀の極致。ファイルをピシッと抱え、「今後も業務の最適化と、アッシュ様の健康を全力で支えます」ときっぱり宣言。後ろ姿からも「秘書道」の小宇宙が滲み出ている。あまりに神々しい。

 

 (俺の気持ちは、微塵も伝わっていない……)

 

 そして――その瞬間のエレナの内心など知る由もない。

 

 (プロポーズ!これは事実上のプロポーズ!『側にずっと』ですって!ええ、生涯貴方様の妻として……いえ、秘書として!アッシュ様、愛しております!)

 

 俺はしばらく茫然と立ち尽くした。気まずさと焦燥感、それでいてどこか満たされた不思議な安心。いや、安心できるのかコレ!?俺の人生、今この瞬間“エレナの生涯秘書宣言”で完全にロックされたんじゃないのか?逆らえる未来ある?

 

 書庫の静寂の中、ファイルをまとめながら

 

 「……エレナ、今日はありがとう。本当に君のおかげで助かったよ。書類も、みんなも、俺も」

 

 「あたりまえです、アッシュ様。私はあなた様のためなら、聖域の公文書全てを三日で暗記し、魂の一つ残らず管理いたします」

 

 

 (やっぱり怖い!)

 

 だが同時に、これほど心強い味方もいないのだ。俺はこの人に支えられて、教皇の補佐も聖域の改革も――全部やっていける。少なくとも“ペーパーワーク地獄”にはもう二度と沈まない。

 

 (……っていうか、もうちょっとだけ恋愛寄りの返事も欲しかった気が……いや、違う!俺が悪い!)

 

 その日の帰り道、エレナが無表情で「お先に失礼いたします」と去っていく背中を見送りながら、俺は静かに拳を握った。

 

 「……まあ、いいか。これが俺たちの距離感だ」

 

 

 

(エレナ視点)

 

 

 

書庫に二人きり。アッシュ様の隣――私の、心がもっとも安らぐ場所。

さっきまで、あんなにも冷静だった私が、今は心臓の音で全ての書類のページが震えている気がする。だって……今、アッシュ様が、私だけを見ている。

 

 

「エレナ…君は本当にすごいよ。有能で、綺麗で…その…俺の、側にずっと…」

 

 

……え?

 

 

 

……え?

 

 

 

まさか、まさか今の台詞は――

「側にずっと」って、これ、どう考えても、プロポーズ!?

えっ、えっ、待って、心の準備が……!いや、してきた、何千回も脳内で練習したプロポーズ返しを、今こそ実行する時が来た!

 

顔はいつも通り、氷の仮面。でも内心はお花畑に満開のバラと祝砲とケーキが舞う!

 

 

私は人生最高の角度で90度のお辞儀を打ち込み、最敬礼で返す。「はい、アッシュ様。生涯秘書として、貴方様にお仕えいたします」――

(……いえ、本音を言えば“生涯妻として”と言いたいですが、まずはここから!じわじわ攻めます!)

 

頭を下げている間も、顔は見せないけど脳内は祭り状態。

 

 

 

やったやったやった!ついに!アッシュ様が“ずっと一緒に”と言ってくれた!この人生、積尸気も事務も全てはこの瞬間のためにあった!アッシュ様ぁ!私、貴方様のためなら公文書3万枚だって暗記します!魂だって喜んで冥界に送ります!どんな小さなスケジュール管理も全部“夫婦の営み”だと信じて一生全力でサポートします!

「生涯秘書」?それはつまり、世間的には“夫婦”と同義!だって現実問題、四六時中スケジュールも食事も健康管理も人生設計も全部一緒!秘書力イコール妻力、完璧!これを婚約と言わずして何という!?もう明日から私“アッシュの妻”にしていいですか!?秘書ハネムーンはまず書庫から!“側にずっと”……夢にまで見たワード!

ああ、ついに私、アッシュ様の隣に“生涯”居場所をいただきました。すべての魂が成仏するまで、全身全霊でお仕えします――そして、必ずいつか、秘書から本当の妻へ……!

 

 

 

(ふふ、教皇陛下にもこの朗報を……いえ、まずは新婚生活の準備……え、何着て寝ればいいの!?いや、まずは冷静に、秘書業務を完璧にこなして、“妻力”をさりげなくアピール……!)

 

 

見上げると、アッシュ様はなぜか呆然としている。大丈夫です、きっと嬉しすぎて言葉を失っているんですね!私は分かっています!幸せは行動で証明するもの!

 

 




デスマスク「よぉ、エレナ。お前、いつの間に“祭壇星座”の白銀聖衣まで手に入れやがったんだ?」

エレナ「ごく自然な流れです。アッシュ様をお支えするために、聖域に必要な全ての装備を揃えました」

デスマスク「しかしよぉ、祭壇星座(アルター)の聖衣って“教皇の補佐専用”だろ?地味だけど、実は超重要ポジションじゃねぇか」

エレナ「地味で結構。“表”に立たず、裏から支える――まさに理想の秘書道です」

デスマスク「秘書道って、お前な……。つーか俺は、聖衣で殴るタイプだが、
お前のは“書類でトドメ刺す”タイプか」

エレナ「文書も積尸気も、魂に響く威力は同等です。むしろ、“魂を折る”のが積尸気の真髄――」

デスマスク「……やっぱ、怖ぇな、お前。ま、頼りにしてるぜ、“白銀の秘書殿”」

エレナ「光栄です、“蟹座の黄金”。ですが油断は禁物。いざとなれば、祭壇星座の聖衣で“冥界送り”のお手伝いもできますので」

デスマスク「ヒィィ!俺の魂、また棚に送られちまうのかよ……!」

エレナ「大丈夫です。アッシュ様にご迷惑をかけない範囲で、魂の管理は万全ですから」

デスマスク「……やっぱり、お前が一番こえぇよ、聖域で」

大きな章ごとに新しい作品として分けて投稿しますか?それとも今まで通り一つの作品として連載し続けますか?

  • 一作品として連載してほしい(今まで通り)
  • 章ごとに作品を分けてほしい・十二宮編など
  • どちらでも良い/お任せします
  • その他(ご意見があればコメント欄で!)
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