聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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新たな舞台は、聖域(サンクチュアリ)でも戦場でもない――
煌めく制服、きらめく青春、そして謎のファンクラブまで!?
伝説の射手座・アイオロス、まさかの「転校生」となって日本へ!

待ち受けるのは、友情、部活、体育祭、クレープ、そしてモテモテの学園生活!
だが、彼の心には守るべき「使命」と「秘密の女神」が――

アイオロスは本当の“居場所”を見つけられるのか?
日本の学校社会という新たな戦場で、
いま――伝説が再び動き出す!

次回「射手座の伝説!城戸アイオロス、令和の学園へ」
君の小宇宙(コスモ)を燃やせ!!




射手座の伝説!城戸アイオロス、令和の学園へ

(城戸光政視点)

 

 

 私がアイオロスという名の少年に初めて会ったのは、ギリシャのアテネ郊外の何もない土地でのことだった。

常人離れした気品、優れた頭脳、そして何より己の使命に命を賭ける勇者の眼。

あの少年の瞳に、私はただならぬ未来を見たのだ。

 

 そして今――彼は我がグラード財団の客人として、静かにそして時に愉快に日本での日々を過ごしている。

日本語も覚え、文化も体験し表面上は順応しているように見える。

しかし私の目には分かる。彼は“聖闘士”であるがゆえに、まだこの社会のどこにも完全に居場所を持たないことを。

 

 彼の行動は常に遠慮がちだ。食堂での食事も、誰よりも早く起きては片付けを手伝い、スタッフや私にもどこか“客人”の距離感を崩さない。

彼は己が“招かれざる者”なのではないかと、無意識のうちに怯えているようにさえ見える。

 

 私は思うのだ。

 ――聖闘士としての力も使命も、現代社会では何の証明にもならない。だがこの国に来たからには、彼が「社会の一員」として根を下ろす経験を与えたい。家族の一人として、人間社会に溶け込む“普通の人生”も知ってほしい――と。

 

 だから、私は動いた。

 

 世界有数の権力と財力、それを全て“家族のため”に使うのが城戸家の流儀である。財団の法務部に特命を出し、役所との調整を命じついに、戸籍を“新規作成”した。

 

 「戸籍上、君はこれから“城戸家の101人目の息子”となる」

 

 アイオロスは最初、戸惑い、礼儀正しく断ろうとした。

 「私は、そんな栄誉に値しません……」

 だが私は彼の肩に手を置き、穏やかに諭した。

 

 「君は、我が家族だ。聖闘士であることも、アテナを守る使命も大切だ。しかし、今ここで“人として生きる”経験もきっと君にとって宝となる」

 

 そして彼は、ゆっくりと頷いた。

 「……分かりました。城戸家の一員として、誠実に生きてみます」

 

 さて、次は“学校”だ。

 

 私が用意したのは、地元でも有数の伝統と進学実績を誇る名門・童守中学校。これまた理事会や教育委員会と交渉し、“転校生・城戸アイオロス”として編入手続きを完了させた。

 

 制服、鞄、体操服――全てが新品。

アイオロスはそれを眺めきまり悪そうに微笑んでいた。

 

 編入初日、私は彼を玄関先で見送りながらこう伝えた。

 

 「アイオロス、君はもううちの家族だ。困ったことがあったら、必ず帰ってきなさい。学校で友達ができなくても私たちがいる」

 

 彼はまっすぐに私を見て、誇らしげに一礼した。

 「はい、父上」

 

 ……だが、心のどこかで思う。彼の持つ“使命”が、必ずしも平穏な未来だけを約束するものではないことを。

 それでも私は、家族としてできる限りの幸福と居場所を与えてやりたいのだ。

 

 城戸アイオロス――

 この名が、彼の新たな人生の出発点となることを、私は心から願っている。

 

 

 

 

 

 

(アイオロス視点)

 

 「自己紹介をお願いします」

 

 クラスの視線が一斉に俺に注がれた。日本の中学校――童守中学校転校初日。

 制服のネクタイがまだ妙に首元に馴染まない。黒板の前に立ち、深呼吸する。

 

 「皆さん、はじめまして。城戸アイオロスです。アメリカから来ました。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 (完璧な発音だと光政殿に教わった通りだが、逆に日本語が上手すぎると疑われないか……?)

 

 「うわ……めっちゃイケメン……」

 「声も綺麗だし、なんか、彫刻みたい」

 「やばっ……アイオロス様って呼びたい……!」

 

 ざわざわ――

 クラスの女子たちの視線が痛い。さすがにこれは聖域の戦場より緊張する。

 男子たちもコソコソと何やら相談している。

 

 担任の先生が「それじゃあ、アイオロス君の席は――」と言うと、すでに周囲の女子が色めき立ち、

 「先生!私の隣空いてます!」「いや、うちの班に!」

 ――もはや、争奪戦状態。

 

 結局、くじ引きで一番前の窓側に。ほっとする俺。

しかしさっきからクラスの全女子が“アイオロスレーダー”で逐一視線を飛ばしてくる。

 (これが日本の“学校社会”というものか……油断ならぬ)

 

 最初の休み時間。「アイオロス君!」と数人の女子が集まってきて、矢継ぎ早に質問攻め。

 

 「アメリカってどんなとこ?」

 「スポーツ何やってた?」

 「彼女いるの?」

 「好きな芸能人は?」

 

 え、こんな質問、光政殿に予習してもらってない。咄嗟に

 「アメリカでは……友達(サガとアッシュ)との遊びを大切にしていました」

 「スポーツは……まあ、槍投げと……弓術、です」

 「彼女は……いません」

 「芸能人……“ペガサス星矢”?」

 

 全員「???」

 まずい、滑った。

 しかし女子たちは「正義感あるんだ!」「スポーツ万能!」「空いてるってことだよね!?」と勝手に盛り上がる。

 

 男子は男子で、「イケメンすぎ」「どうせ性格悪いだろ」みたいな距離感。昼休みも、なんとなく一人で弁当を食べていた。

 

 ――だが、流れが変わったのは体育の授業だった。

 

 今日はバスケットボール。

 「アイオロス、スポーツは得意なの?」と声をかけられ、「はい、まあ……」と控えめに返す。

 

 ジャンプボール。俺が跳ぶと、気付いたらリングに指が届きそうなほど跳躍していた。

 

 (しまった、抑えきれなかった……!)

 

 「え……今、足浮いてた!?」「ジャンプやばっ!」

 「じゃあ、パス!」「おい、打て打て!」

 

 仕方なくボールを受け取り、スリーポイントラインからシュート。

ボールは美しい放物線を描き、スパッとネットに吸い込まれる。

 

 「うおおおおおおお!」

 「緑間やん!!」

 「アイオロス様、バスケ部に来てくれ!!」

 

 いや、俺はバスケ部じゃなくて、

 (本当は射手座、矢を射るのが本業です)

 と言いたいが、日本では通じない気がする。

 

 続くサッカーも「キーパーやって!」と言われたので、反射的に両手でゴールポストを掴んで空中でキャッチ、味方すら驚愕。

 ドッジボールは、まるで流星雨のような速さでボールを避け続け、最後は渾身の一投で「窓を割る」寸前に止める。

 

 気付けば、男子たちが「アイオロスすげえ!」「マジで超人!」とハイタッチ。

 

 休み時間も男子が

 「バスケ一緒にやろうぜ!」

 「昼休みサッカー!」

 と、みんな笑顔で寄ってくる。

 

 女子たちは「アイオロス君、彼女いるの?」と再確認、なぜか「アイオロス様」と呼び始めた者も現れた。

 

 ――学校中が何だか騒がしい。

 「アイオロス」コールが響き、廊下を歩けば「握手してください!」「LINE交換しよ!」と追いかけられる。

 (聖域でモテるのと違う。これは、“学校アイドル”というやつか……?)

 

 そして部活動見学。

 

 体育館ではバスケ部、サッカー部、剣道部から猛烈な勧誘。「うちに来てくれ!」と囲まれるが、

 俺は「……矢を扱う部活は?」と尋ねる。

 

 「弓道部ならあるよ!」

 「アイオロス君、絶対似合う!!」

 

 

 

【弓道部・顧問:内山田先生の視点】

 

 

 

「神か……?」

 

初めてこの言葉が口をついて出たのは、アイオロス君が弓道部に入部した初日だった。

 

弓を手にした彼の立ち姿は気品があり、矢を放った瞬間、すべての部員と私が言葉を失った。

 

――バシュッ。

 

音もなく、一本目の矢が的の中心を貫く。

 

二本目、またしても真ん中。

 

三本目――今度は、先に放たれた矢を寸分違わず真っ二つに叩き割った。

 

「……すごい……」

 

隣の副部長が呟いた。みんなが呆然とする中、私は思わず本気で正座し直した。

 

「部の伝説になるぞ、あの子は……」

 

正直、指導者冥利に尽きる。顧問人生でこんな逸材に出会えるとは。

 

 

 

【生徒・男子:大地の視点】

 

 

 

初めは正直、嫉妬してた。転校生で、イケメンで、スポーツ万能。どうせ調子に乗って、女の子とばっかり喋る奴だと思ってた。

 

でも体育のサッカーで、思いっきりドリブル突破されてでも最後はちゃんと「ナイスキーパー」と笑って握手してくれた。

バスケも、野球も、全部本気。でも絶対に自慢しない。負けた時は素直に「君がすごかった」と言う。

 

一緒に帰るとよく道端のゴミを拾ったり、老婦人に道を譲ったりしてて、男子の間でも「アイオロスはなんか格が違う」と評判になった。

 

それに、女子に告白されても全員にちゃんと目を見て「ありがとう、でもすまない」と断ってるらしい。

 

イケメンで性格まで紳士とか、反則だろ。

でもムカつくほど憎めない。友達としても誇れる奴だと思う。

 

 

 

【生徒・女子:響子の視点】

 

 

 

最初は「イケメン!かっこいい!」で騒いでたけど、気付けば校内の全女子の話題の中心はいつもアイオロス様。

 

廊下で目が合うと「おはよう」と柔らかく微笑んでくれるし、テストで落ち込んでいたら励ましてくれる。しかも、成績もいつもトップクラス!

 

バレンタインは下駄箱が溢れるほどチョコまみれ。でも、全部きちんと「ありがとう」と言いながらも「ごめんなさい」と断る。それでも「好きな人がいる」って断り方がまた誠実で、逆に女子たちは燃え上がってる。

 

体育祭の時なんて、走れば風が起きるし、応援団に誘えば和太鼓まで上手い。噂ではギターもピアノもできるらしい。

ほんと、どこの漫画の主人公?

 

でも……誰なんだろう、「アイオロス様の心にいる人」って。

 

 

 

【アイオロス様ファンクラブ(探偵団)・会長:みさきの視点】

 

 

 

正直、悔しい。

あんなに全女子の人気を集めておきながら、全員振り続けるなんて。

 

私たちは決めた。「アイオロス様の“本命”を突き止めよう!」って。

 

朝練の時、放課後、帰り道――みんなで交代で尾行する。

でも絶対見失う。階段を一瞬で駆け上ったと思ったら、もう別の棟にいる。校庭にいると思ったら、いつの間にか屋上で本を読んでいる。もはやワープ疑惑!

 

噂をまとめると「姉妹校の先輩」「近所のOL」「伝説の美少女」――全く手がかりなし。

 

最近は、みんなで“謎ノート”を作り始めた。彼が弓道部で静かに的を射抜く後ろ姿を遠巻きに見て、「今日のアイオロス様も素敵だった」と日記のように書き込んでいる。

 

好きな人がいるなら、それを守っているアイオロス様がまた格好いい。でも、せめて“アイオロス様の心”だけでも知りたい。女子全員の共通の夢だ。

 

 

 

【教頭・加納の視点】

 

 

 

職員室でも、転校生・城戸アイオロスの噂は絶えない。

 

「授業態度も真面目で礼儀正しい」

「部活も無遅刻無欠席、学級委員の仕事も率先」

「けど、恋愛は全く浮いた噂がない」

 

廊下で見かければ、必ず挨拶してくる。職員にも「気持ちがいい少年」と評判だ。

 

先日、保健室の先生が「昼休みにアイオロス君が花壇の手入れをしてくれていた」と嬉しそうに語っていた。

 

噂が噂を呼び、気づけば彼の伝説は「何でもできるスーパー帰国子女」「地元神社の御子息」「実は芸能プロダクションのスカウト」などバリエーション豊かに広がっている。

 

これほどの生徒が、今後どんな青春を見せてくれるのか、私も教師人生の楽しみのひとつである。

 

 

 

【ファンクラブ探偵団・まとめ】

 

 

 

――今日もアイオロス様は完璧だった。

――告白は三件。返事は全部「好きな人がいる」

――誰?本当にこの学校の中?

――帰り道、また尾行に失敗。「アイオロス様、また消えた」

――伝説は続く。明日も探るぞ!

 

 

 

そんな噂が、童守中学校の日常になった。

 

 

 

 

(アイオロス視点)

 

 

日本の中学校生活にもすっかり慣れ、部活も友達もできた。

そして一番大切な“特別な友人”がいる――翔子だ。

初めて日本に来て右も左も分からない時、声をかけてくれた女の子。

彼女といると、自分も“普通の少年”に戻れる気がする。

 

ある日放課後。偶然駅前で出会った翔子と一緒にクレープを買う。

「アイオロス君、これ美味しいよ!」と言われて、おそるおそる口にすると、思わず笑みがこぼれてしまう。「うまい……!これは、聖域では味わえない贅沢だな!」

 

……そのとき、近くの物陰に女子の気配。

ふと振り向くと、なぜか見覚えのある顔ぶれがずらり。

「あれは……学校の女子たち?いや、ファンクラブの皆さん……?」

 

気のせいかと思い直し、翔子と二人で並んで歩く。会話はたわいもない。

「クレープは何味が好き?」「ええと……チョコバナナと、いちごミルクが……」

「あ、甘党だね」「(はい、ギリシャでもよく蜂蜜を……)」――気がつけば、もう陽が傾いている。

 

別れ際翔子がはにかみながら言う。「今度、アイオロス君のお家にも行ってみたいな」

 

一瞬、頭に「聖域」「城戸家」「ベビーベッドのアテナ様」などが浮かぶが、俺は迷わず微笑んで答えた。「もちろんだ!我が家へようこそ!」

 

――数日後。

 

翔子が城戸邸にやってくる日。俺は門の前で何度も深呼吸していた。

考えてみれば、普通の日本の女の子が来るには、あまりにも規格外の豪邸だ。

 

だが、彼女が到着すると同時に玄関のドアが開き、辰巳が恭しく頭を下げる。

「アイオロス坊ちゃまのお連れ様でございますな。ご案内いたします」

 

翔子は目を見開いたまま口があんぐり。

俺の後ろでしばらく「……夢じゃないよね?」とつぶやいている。「すごい、お城みたい……えっ、これ全部、アイオロス君の家なの……?」

 

「うん、まあ……その、そうなんだ」と照れ笑いしつつ館内へ。

 

最初に案内したのは、応接間。

光政殿から「ここはお客様の前で堂々と誇ってよい」と教わっていたが、翔子は緊張でガチガチ。

 

「どうぞ、遠慮せずに」「は、はい……」

 

そして、いよいよ「一番大切な人」を紹介する時が来た。

 

「翔子、紹介しよう。こちらが私が命を懸けてお守りしている――アテナ、沙織様だ」

 

寝室のベビーベッドを指し、真面目な顔で説明。中にはすやすやと眠る赤ん坊の沙織様。

 

翔子は一瞬、言葉を失っている。「……えっ?あの……赤ちゃん……?」

 

「うん。将来、世界を救うお方なんだ。だから全力でお守りしてる。沙織様は今は無邪気な子供だが、本当に偉大な存在なんだ」

 

翔子は(お金持ちの壮大なごっこ遊び……!?)と心の中で思っている気配。

けれど、俺の真剣な表情を見て思わず吹き出しそうになりながらも、「なんか……素敵だね」と微笑んでくれた。

 

「それにしても、アイオロス君、本当に家族思いなんだね」

 

「うん、沙織様は……大切な妹のようなものだから」

 

リビングを抜けて庭へ。広々とした和洋折衷の庭園、池には鯉、巨大な灯籠、手入れの行き届いた松の木。

 

翔子が「すごい……ここで何してるの?」と訊く。

 

俺は少し誇らしげに、「ここで少し鍛錬をな……」と、つい口にしてしまう。

ふと、その隣の灯籠を見て、「あれは重そうだけど、こんなふうに――」と片手で軽々と持ち上げて見せる。

 

翔子の目が点。「……え?」

 

「けっこう重いよ、これ。けど、鍛錬の成果だ」

 

「う、うそでしょ……!?」

 

「うそじゃない。聖闘士のトレーニングは、ちょっと普通じゃないから」

 

翔子は「やっぱりアイオロス君、ただ者じゃない……」と、信じていいのか分からない様子。でも、そのあと、灯籠をそっと下ろして手を差し出すと、握ってきた彼女の手が少し震えているのに気づく。

 

「大丈夫。俺は君や、沙織様や、みんなを絶対に守るから」

 

その言葉に翔子はふっと安心したように微笑んだ。

 

家の中を歩けば、光政殿の肖像画や、廊下にずらりと並ぶ歴代の当主たちの写真。途中、辰巳が紅茶とケーキを持ってきてくれるが、「坊ちゃま、もう少し落ち着いた身なりで……」と小声で心配していた。俺はそのたびに「あっ、はい……」と姿勢を正す。

 

翔子が「すごい、なんだかドラマの主人公になったみたい……」と笑う。その笑顔を見ると、どんな聖域の戦いよりも、今この日常の方が大切に思える。

 

――この家で、もっと普通の青春も味わっていいのだろうか。

 

そんなふうにふと思う。

 

 

 

 

 

 

 

(サガ視点)

 

 

本日も「書類の壁」に埋もれながら、「聖域水道局・老朽配管工事計画」

「新規黄金聖闘士の健康診断表」「カリキュラム改定案」と、終わらぬ実務に心を砕いていた。もうダメだ。目がショボショボする。人間やめたい。

 

だが、時代は便利になった。ネットというものがある。さっきアッシュが導入した光回線のおかげで、仕事の合間の“現実逃避”くらいは容易いのだ。

 

「む……現代日本のスポーツ……“弓道”?」

 

たまたまクリックしたニュース動画に、ふと目が留まる。

画面の向こう、的に向かって弓を引き絞る茶髪の少年――

 

「……ほう、なかなか見事な型だな」

 

バシュッ!的の真ん中に見事命中、そのまま矢が“先に刺さっていた矢”を真っ二つに割った。

 

「ふむ、これは……まさか日本にこんな逸材がいるとは……」

 

カメラが寄り、画面の下にテロップ。

 

【城戸アイオロス選手(童守中)】

 

「――……ん?」

 

妙な既視感。見覚えのある顔立ち。キリッとした眉、誠実そうな眼差し、だが時折見せる妙に無邪気な笑顔――

一瞬、心臓がドキリとした。

 

「まさか……いや、まさか……な……」

 

いや、待て。

アイオロスはオレのために、シュラの手で……(いや、ちょっと違う)ともかく命を賭して戦い逝ったはず。

 

それに、だ。

画面の彼は、的を射抜いた瞬間、満面の笑みでカメラにピースサイン。

 

「やったー!最高だ!!」

「うおおアイオロス、かっけぇぇ!」

「さすが我が部のエースだ!」

「次は全国制覇だ!」

 

わらわらと群がるチームメイト女子に囲まれて、

「クレープも買ってきたぞ!翔子、優勝祝いだ!」

……なぜか、隣の少女にクレープを差し出している。

 

俺はディスプレイの前でしばし固まった。

“あの”アイオロスが、女子生徒たちに黄色い声援を浴び、全力で日本文化を満喫している……だと……?

 

「いや……ありえん、絶対にありえん……」

 

俺の知っているアイオロスは、常に凛然、寡黙で孤高。聖域で“青春”を叫ぶことなど一度もなかった。

なにより、“テレビカメラの前でにかっと笑ってピース”など、するはずがない。

 

「――これは……別人、だな」

 

きっと、どこかでアイオロスの血を引く日本の子孫が生まれていたのだろう。

“似ている者は七人いる”とはよく言う。

偶然にも、弓の達人で、たまたま顔が似ていて、たまたま「アイオロス」と名乗っているだけの、どこにでもいる転校生……うん、現実はそういうものだ。

 

俺はそう自分に言い聞かせて、ブラウザを閉じた。

(だいたい、本物のアイオロスなら、全国ネットで日本の学生服を着て、クレープ片手に女子とデートなんかするわけがない)

 

「――それより、次の議題は“聖域のペーパーレス化”だ……現実逃避している場合じゃない。目薬、目薬……」

 

パチパチと目をこすりながら、俺は再び「書類の壁」に向かった。

その日からしばらく、ネットニュースの「城戸アイオロス特集」がサムネイルに出ても、二度とクリックすることはなかった。

 

……まったく、世の中には“瓜二つ”という現象があるものだ。

 

一方その頃、日本――

全国大会を制した城戸アイオロスは、翔子やチームメイトと記念写真に納まり、「日本の学校生活は最高だな!」と大声で笑っていた。

親友が自分の生存に全く気付いていないことなど、知る由もなかった。

 

悪サガ「本当に、そっくりさんっているものですね……」

善サガ「いや絶対アイオロスだろ!オイ!」




翔子「ねぇアイオロスくん、“聖闘士”ってなに?この前、弓道部で“聖域がどうの”ってボソッと言ってたよね?」

アイオロス「えっ!?あ、あれは……その、えーと……“聖闘士”って、あの……星座にちなんだ……“スポーツマン”みたいな?(汗)」

翔子「スポーツマン?なんか普通のスポーツじゃない気がしたけど……」

アイオロス「いやいや、気のせいだよ!うん、たぶん俺の“家のしきたり”みたいなものなんだ。ギリシャ流、みたいな!」

翔子「ふーん……でも、すごく似合ってるよ。なんだか“伝説のヒーロー”みたい」

アイオロス「(顔真っ赤)き、君にそう言ってもらえるなら、どんな“秘密”も――じゃなくて、どんな“部活”も頑張れるよ!」

翔子「ふふっ、じゃあまたいろんなお話聞かせてね。今日の“伝説”、私もこっそり日記につけておくから!」

アイオロス「や、やめて~!それだけは勘弁して~!」

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