聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
黄金聖闘士・シュラ、デスマスク、アフロディーテ――
豪華リムジンで向かう先は、ヒーローの恋人の実家、そして大波乱の空手道場!
騒ぐ子供たち、謎の小宇宙実験――
英雄の休暇は、波乱と笑いと優しさに満ちていた!
だが、彼らの胸に灯る新たな強さ――
それは“日常”を、家族を守る勇気!
平和な午後に、伝説がそっと降り立つ――
次回、「平和を守る強さ ―黄金たちの休日―」
小宇宙は静かに、しかし確かに、今日も燃えている!
(シュラ視点)
――これが、黄金聖闘士に課された使命なのか。
俺は、豪華絢爛なリムジンの後部座席で仔馬座の聖衣箱を抱きしめながら、城戸邸の門前に到着した。
伝説の英雄の恋人に贈る特別任務。だが、現実はそう甘くない。
リムジンが止まった瞬間から、城戸邸の守衛たちは露骨に警戒モード。
怪しい外国人三人組、しかも一人は巨大な箱持ち。自分が逆の立場なら即座に通報するだろう。
俺は一応、礼儀を尽くして名乗ったが――
「…山羊座の黄金聖闘士、シュラと申す。アッシュ師範の命で、アイオロス殿に……」
警備員はポカンとした顔で、明らかにどこの宗教だという目だ。
「仕方ない、ここは俺に任せろ」
デスマスクがさっそうと割り込み、やけに丁寧な日本語で身分証を提示し始めた。
「こちら、ギリシャ政府からの公式使節団です。重要な贈り物がありまして」
その場に流れる妙な納得感。さすがだ、場数が違う。
しばらくして、なんと城戸光政自らが玄関先まで現れる。
「これは遠路よりご足労いただき恐縮です。どうぞお入りください」
――完敗だった。社会性って大事だな、とつくづく思い知らされる。
しかしここで新たな問題が発覚。執事の辰巳が深々と頭を下げつつ言う。
「アイオロス様は、ただいま恋人の翔子様のお宅にご滞在です」
……まさかの空振り。
俺は深呼吸し、理性的に提案した。
「では、ここで戻りを待たせていただけますか」
だがその希望は一瞬で打ち砕かれる。
「はぁ!?待つだと?馬鹿言え!英雄様の彼女の実家にご挨拶!これ以上のメインイベントがあるかよ!」
デスマスクが大声で騒ぎ、
「そうだぞ、シュラ。彼の選んだ女性の家族構成と生活環境、しっかりとリサーチしないと」
アフロディーテもノリノリだ。
「……それはただの野次馬根性だろうが!」
思わず声が裏返る。だが二人は一切耳を貸さない。
「さあ案内しろ!」と両腕をがっしり掴まれ、
「辰巳さん、運転を頼む!」と、すでに運転手まで巻き込まれている。
まるで悪徳セールスマンに連れ去られる善良な市民だ。
デスマスク、黄金聖闘士の矜持はどこへ行った――
ため息もここまでくると、もう芸術の域に達した気がする。
こうして、聖域史上最も厄介な三人組を乗せたリムジンは、
日本が世界に誇る空手道場――翔子の実家へ向かって爆走するのだった。
(デスマスク視点)
俺は、リムジンのドアが閉まる音と同時に、門の向こうをそーっと覗き込んだ。
アフロディーテは優雅に髪を整え、シュラは相変わらず苦虫を噛み潰したような顔だ。
だが――そんな俺たちの目の前に広がる光景は、想像の斜め上をいっていた。
あの伝説のアイオロス様が、Tシャツ姿でガキどもと鬼ごっこ?
しかも全力ダッシュ、子どもと笑い転げてる。あの鋼鉄のような男がだぜ?
聖域の連中に見せたら、絶対誰も信じやしねぇ。
ほんわか空気に、俺もちょっと気が抜けちまったその時だった。
道場の奥でケンカが勃発。男のガキがワーワー泣きながら門を飛び出しやがった。
「おいおい、マズいぞ!」
反射的に身体が前に出る――
が、それより速かったのは女だった。
「こら、ケンジ!」
甲高い声と同時に、女の身体がアスファルトを蹴る。
その瞬間、空気が変わった。
トラックのクラクション。
でも次の刹那――
華奢な女子が、暴走トラックのボンネットを片手で受け止めて止めやがった。
……おいおい、冗談だろ。
コンクリにタイヤがキュウキュウ鳴り、エンジン音が絶叫し、女はほんの少しも下がらねぇ。
その細腕からは、まるで氷のように青く澄んだ小宇宙(コスモ)が立ち上ってる――
目の錯覚じゃない。俺たち黄金の目はごまかせねぇ。
しばらく、空気が止まった。
俺は口笛を吹く。
「ヒュー……」
そして、にやりと笑った。
「とんでもねぇお姫様だな。気に入ったぜ」
シュラは顎が外れそうな顔して固まってるし、アフロディーテは優雅に髪をかきあげ「美しい力だな。合格だ」なんて気取ってやがる。
――聖域も、時代も男女も関係ねぇ。
すげえ女ってのは、たった一発でわかるもんだ。
アイオロスさんよ、お前……面白ぇもん見つけたな。
こりゃ、俺ももう少し見物させてもらうぜ。
(シュラ視点)
あのトラック騒ぎから、まだ数分も経っていないはずだ。
なのに道場の空気は、異様なまでの温かさに満ちている。
アイオロスが、あの無邪気な子供たちに囲まれ、Tシャツ姿で笑っている――
聖域では決して見せなかった“普通の青年”の表情だ。
あの孤高の英雄が、弟や妹と本気で追いかけっこ。
――いや、正直適応力が高すぎるだろう。
そして、主役の彼女――翔子はといえば。
弟をしかりつけて涙をぬぐわせた後、何事もなかったように俺たち三人のほうへ歩いてくる。
その顔には暴走トラックを片手で止めていた気配すらない、屈託のない笑顔が広がっていた。
「まあ!アイオロス君のお友達?みんなカッコいいね!弟たちがごめんねー」
天真爛漫という言葉が、これほどしっくりくる人間も珍しい。
さらに驚いたことに、翔子は当然のようにデスマスクやアフロディーテの頭を「よしよし」と撫でていく。
……頭を、だ。
あのアフロディーテが、苦笑しながらも撫でられている。
デスマスクもなぜか嬉しそうに尻尾を振っている。
――聖域で見たら即座にバトル必至の二人が、今や完全に「お姉さん」に懐く犬猫だ。
俺は何がどうしてこうなったのか分からないまま、仔馬座の聖衣箱をリビングの隅に置いた。
家に上がると、弟妹たちは遠慮なく俺の腕や背中によじ登り、「お兄ちゃんで小宇宙の実験だー!」と叫んでいる。
「ま、待て、私は黄金聖闘士だぞ……」
抵抗する暇もなく、押し倒され手足を引っ張られ、まるで巨大な人間ジャングルジムの扱いである。
その合間、真面目に翔子の小宇宙現象について語ろうとすると、
「すごいねー、お兄ちゃん!もっと光らせてー!」と弟妹の拍手。
黄金の威厳が、見事に子供たちの好奇心で塗り潰されていく。
デスマスクとアフロディーテは、クスクスと笑いながらお菓子をつまみ、翔子は弟妹たちをたしなめつつも、結局は俺の背中に更に子供を乗せていく。
アイオロスは、そのカオスな光景を心から幸せそうに眺めていた。
(――本当に、平和で、温かい場所だな…)
ため息すら、もう呆れを通り越して笑いになった。
黄金聖闘士でいることの意味すら、少し揺らぎそうだ。
だが――こんな“異常な日常”も、悪くない。
心のどこかで、そう思ってしまう自分がいる。
(デスマスク視点)
子供らがシュラに群がり、アフロディーテが食卓の美学を語り出す。
翔子は弟妹をあやしつつ、黄金の面々を“お兄ちゃん”“お姉ちゃん”呼びで手玉に取っている。
アイオロスは、その輪の中で一歩引いて、穏やかな笑みを浮かべていた。
ふと、あの瞬間――
さっきのトラック事件が、俺の脳裏をよぎる。
……普通なら、アイオロスが一番に動いたはずだ。
聖域最速の名を冠する男だぞ?
だけど、今日のアイツは翔子が先に動くのを見ていた。
それが妙に引っかかった。
だから俺は、珍しく真面目な顔で声をかける。
「おい、アイオロス。さっきのトラック、お前なら翔子が行く前に対処できたはずだ。少し動きが鈍ったんじゃねえのか?」
――内心は、からかいでも皮肉でもない。
本当に、ちょっと心配になったんだ。
俺らは“最強”を目指してきた戦士だ。
気を抜いていい場面なんて、聖域じゃなかった。
でも今のアイオロスは――
アイオロスは、俺の視線をまっすぐ受け止めて、
静かに微笑んだ。
「ああ、そうかもしれない。だが、俺はもう聖域最強の戦士である必要はないんだ。
今の俺には、この平和な日常と彼女や君たちのような仲間を守れるだけの強さがあれば、それでいい」
……正直、俺は返す言葉を失った。
なんだよ、それ――
まるで“主人公”みたいなこと言いやがって。
だけど、妙に納得しちまう自分がいる。
最強でいることも、戦い続けることも俺たちの誇りだった。
だが、こうしてみると――
“誰かの日常を守るための強さ”も悪くねぇのかもしれない。
俺は無言で空になったメロンソーダの缶を握りしめた。
(……アイオロス。お前、幸せそうだな)
(アフロディーテ視点)
アイオロスの言葉が、茶の間の空気をふわりと変えた。
最強の黄金聖闘士――かつての英雄が、少年のように微笑む。その横で弟妹たちが騒ぎ、翔子が母親のように皆を包み込む。
腑抜けた発言だ、と一瞬は思った。
かつてのアイオロスなら命を懸けてでも戦う守護者であろうとしたはずだ。
今の彼は、最強ではなく幸せを守ると言った。
私は、そういう腑抜けには冷たいひと言でもくれてやる主義なのだけれど――
その顔を見て、何も言えなくなった。
(……まあ、いいか。今は野暮というもの)
穏やかな空間。
デスマスクは悪態をつきながらも、隠しきれない笑みを浮かべている。
シュラはすっかり子供たちの遊び道具になっているし、聖衣箱の傍らで妙な風格を漂わせている。
私もしばらくは“美の判定者”という役割を忘れ、ただこの温もりに身を預けてみるのも悪くないと思った。
英雄は戦場を去り、新たな時代と新たな宿命がこの場に舞い降りようとしている。
過去の“強さ”ではなく、今ここにある平和を認めてみるのも――美のひとつの在り方だろう。
私は窓の外に流れる柔らかな陽差しを眺めながらそっと微笑んだ。
アイオロス「……翔子が聖闘士になったら、やはり仮面をつけなければならないのか……?女性聖闘士の掟――伝統とはいえ、心が痛むな……」
デスマスク「はっ、何時代の話してんだよ。あんなの、今じゃ古い風習で撤廃だろ?」
アイオロス「えっ……そうなのか?」
デスマスク「ああ。男女平等だの多様性だの、聖域もいろいろアップデート中よ。そもそも仮面つけたままメロンソーダ飲んでみろ、ストローさえ挿せねぇんだぞ?」
アイオロス「なるほど……それは困るな。いや、そういう理由で掟がなくなったのか……?」
デスマスク「細けぇことは気にすんな!翔子の小宇宙なら、誰が見たって堂々としてりゃいいのさ!」
アイオロス「……うん、そうだな。時代は変わる――大事なのは、心の誇りだ」
デスマスク「よし、それでいい!さて、今日は仮面も外して、堂々とメロンソーダで乾杯といこうぜ!」
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