聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
(ルカ視点)
まったく、何がどう転ぶかわからないものだ。
ほんの数日前まで、小宇宙(コスモ)とは何か、どうすれば感じられるのかと悩みぬいていたアッシュが、今や道場で縦横無尽に駆け回り、小宇宙のあれこれを自分なりに試している。いや、試しているどころか、楽しみすぎている。
朝から晩まで、「師匠、見ててください!」だの、「これも試してみてもいいですか!?」だの、まるで遊園地で遊び倒す子どものようだ。
私が柱の陰から様子をうかがうと、彼は満面の笑みで拳を構える。
「ライトニングプラズマァァ!!」
そう叫びながら、空中に何度も拳を繰り出す。音速拳とまではいかないが、何か空気がビリビリと震えるのを感じる。
他にも、「エクスカリバー!」と叫び、手刀で植木を真っ二つ……とまではいかないが、刈り込みバサミのような不思議な切れ味を見せてみたり。自分なりの“技”を片っ端から再現しようと挑戦する。
時に失敗し、転んだり、枝に引っかかったりしても、ケラケラと笑い飛ばす。
これほど純粋に修行を楽しんでいる弟子を、私は見たことがない。
それにしても――驚くことが多すぎる。
小宇宙に目覚めたてのはずなのに、応用やイメージの“拡張”が異常に早い。普通は、小宇宙の制御すら覚束ない時期だ。ひとつの技を身につけるのに数年を要するのが当たり前。だが、アッシュは、頭の中で思い描いたものを即座に実行に移し、すぐに手応えを掴んでしまう。
まるで、天賦の才が身体の奥底から湧き出てくるかのようだ。いや、それだけでは説明がつかない。たぶん彼の“執念”と“知恵”が、どこか違う次元で結びついているのだろう。
私は驚きのあまり、思わず柱の陰で息を呑んでしまった。
(なぜだ。なぜ、ここまで応用が利く? この年齢で?)
思えば、あの川での出来事も異常だった。死の淵に沈んでから帰ってきたアッシュは、どこか別人のような目をしていた。
※師匠、誤解です。嫉妬パワーです。
“あれ”を超えた子どもには、きっと大人には見えない世界が広がるのかもしれない。
午後、私はいつものように修行の指導をした。
だが、心のどこかで、彼の成長に追いつけるかどうか、師としての自信が揺らいでいたのも事実だ。
だが、そんな心配をよそに、アッシュはどんどん自分の限界を押し広げていく。
「師匠、ひとつ質問してもいいですか?」
道場の稽古が一段落したとき、アッシュが真剣な顔で切り出した。
私は「何でも聞け」とうなずいた。
「聖衣(クロス)って、どうやって決まるんですか?」
なるほど、彼らしい。
普通の子なら、まず目の前の課題をこなすことばかり考えるが、アッシュは常に“先”を見ている。
私は少し微笑みながら答えた。
「基本は、聖域が認めた資質や運命、そして本人の小宇宙の“型”による。だが、どの聖衣になるかは、最後まで分からぬことも多い。候補生の希望が通るとは限らんぞ」
すると、彼は一拍おいて、自分の胸を拳でトントンと叩いた。
「僕は、できれば“獅子座”がいいと思ってるんです」
「獅子座か?」
「はい! 黄金聖闘士の中でも憧れのポジションですし、小宇宙のイメージも合ってる気がして……。獅子座の技も再現してみたいし、何より正義感とか、仲間を守るっていう“獅子”の精神に惹かれるんです」
目を輝かせて語るアッシュに、私は思わず胸が熱くなった。
「黄金聖闘士を目指すとは、剛毅なものだな」
(――本当に、たいしたものだ。十二歳にして、この自信と覚悟。)
私の目が潤みそうになるのを、なんとかごまかした。
「実を言うと、今、獅子座の黄金聖闘士は空位なんだ」
アッシュの目がさらに輝いた。
だが、私は付け加えた。
「ただし、黄金聖闘士の座は聖域に選ばれし者だけが手にするもの。まだお前には“修行”が足りんぞ」
「はい、もちろんです!」
素直な返事。
私は思わず彼の頭を優しく撫でてしまった。
「今いる黄金聖闘士は誰ですか?」
「射手座(サジタリアス)と双子座(ジェミニ)だけだ。どちらもまだ若い――射手座も双子座も、たしか十一歳だな」
「えっ、僕より年下なんですね……」
アッシュが一瞬戸惑ったような顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。
「やっぱり、子どもでも選ばれるんですね。よし、僕も負けていられないな」
その言葉に、私はもう耐えきれず、少し目頭を押さえた。
(――こんなに真っ直ぐで、熱心な弟子を持てたこと、神に感謝するしかない)
これからの修行も、きっと困難が待ち受けているだろう。
聖闘士の道は、ただ強さだけでなく、心の在り方も問われる。
だが、私は信じている。この子はきっと、己の運命を自分の力で切り拓いていくはずだ。
修行の最後、アッシュが再び“獅子座パンチ”を試みた。
失敗しながらも、満面の笑みでこちらを見る。
――なんて、愛おしい子なんだろう。
私は柱の陰でそっと涙を拭い、弟子の背中をまぶしく見つめた。
(アッシュ視点)
ついに僕も“小宇宙(コスモ)童貞”を卒業した。しかもきっかけは嫉妬パワー。ああ、思春期男子って恐ろしい。いや、ほんと、コンクリートの壁が拳で粉砕できた瞬間は自分でもビビった。
「これが……小宇宙? 嫉妬の化身? いや僕、どんなヒーロー設定?」
そう思いつつも、味を占めた僕は修行が急に楽しくなってしまった。なんか、昨日までの“見えない何かを感じろ!”地獄はどこへやら、今日の僕は新生アッシュである。
さあ実験だ!
「ライトニングプラズマァァ!」
……と言いながら、必死に両手両足を高速でバタバタ。全身で拳を振り回す! どうだこれが光速拳……のつもり!空気がビリつく(気がする)!いやこれたぶん近所の犬もドン引きだよ!
次は「エクスカリバーッ!」って叫んで、手刀で木の枝に挑戦。見事に斬った(先っぽがちょっと折れただけ)。よしよし、進歩進歩、昨日までの僕とは違うんだぞ!
最近の僕は、練習の合間もずっと“コスモ技”の新ネタ開発に夢中。
「師匠ー!小宇宙を燃やしてビッグバンってどうやったら出せます?」
「やめろ!道場が吹き飛ぶ!」
師匠が必死に止めるので、さすがに自粛。でもこっそり「鳳凰幻魔拳ごっこ」とか「フリージングコフィン」とか、バリエーション練習は欠かさない。
これ、完全に“推しキャラごっこ”である。聖闘士星矢世界に転生したのに、やってることは小学生の昼休み。いや、でもこれが楽しい!
で、そんな僕を――師匠が遠巻きに柱の陰からガン見していたのは、あとから気付いた。
(え、もしかしてこの姿、見られてる?やばい、なんか思いっきりノリノリで遊んでたぞ俺……)
師匠はというと、いつもクールぶってるくせに、なんか顔が引きつってる。
「……なぜだ。目覚めたてなのに応用しすぎじゃないか……」
いやいや、師匠、あなたが“感じろ”っていうから、感じた結果がこれなんですよ。しかも誰よりも楽しんでる自信ある!
で、せっかくなので素朴な疑問もぶつけてみる。
「師匠、聖衣(クロス)ってどうやって決まるんですか?あと、僕の希望とか出せます?」
師匠は一瞬、眉をひそめてから「原則は本人の資質と小宇宙の型、そして運命の導きによる」とか真面目に説明しだす。
「……つまり、運か……!」
ここは正直に希望を出しておこう。「師匠、僕、獅子座がいいです!150%希望を込めて!」
「黄金聖闘士を目指すとは、剛毅なやつだな」と感心される。やった、師匠褒めてくれた!
「ちなみに今は獅子座の黄金聖闘士は空位だ」
「おお! マジっすか!いや、ワンチャンあるなこれ……!」
「今いる黄金聖闘士は誰です?」
「射手座と双子座だ。どちらも11歳の子供だ」
「えっ11歳!? 僕より年下!? ちょっと、未来へのプレッシャーえぐいんだけど……」
しかもよく考えたら原作で僕、28歳くらい?おいおい、全盛期どころか星矢が活躍する頃には“おっさん枠”になってんじゃん!
星矢の世界って、全体的に成長早すぎませんか!?
こりゃ急がなきゃヤバいなと、焦って修行に拍車がかかる。
この際、嫉妬パワーだろうが、昼ドラ展開だろうが、もうなんでもいい。目指せ、黄金聖闘士!目指せ、アイオリアの後釜!
でも、心のどこかで思う。「この世界、主人公年齢低すぎじゃない?」
それなのに師匠は「アッシュ、お前はやればできる子だ!」って、どんどんハードル上げてくるし。
頼むから将来の自分の老化を心配しなくていいように、いま全力でコスモ燃やしておくから!
ああ、それにしても――師匠、
お願いですから、これ以上ハードル上げないでください。僕、ギャラクシアンエクスプロージョンを爆発させる日まで体力もつかなあ……?
とりあえず、明日も全力で叫びながら修行だ!
――あとがきの時間です。
修行もひと段落したある日、アッシュが妙にニヤニヤしながら近づいてきた。
アッシュ「師匠、いつもお世話になってるので、ちょっとしたお礼を用意しました!」
ルカ 「おお、気を遣わなくていいぞ」
アッシュ「いやいや、せっかくなんで。はいっ!」
ルカ 「……これは?」
アッシュ「見てくださいよ、この鍵! 師匠のためにイタリアで一番高いスポーツカーを注文しました! “家が二軒建つくらいのやつ”です!」
ルカ 「ええっ……」
アッシュ「しかも、専属の運転手も付けてありますので、どこへでも送迎OK!」
ルカ 「……いや、その、アッシュ……実は、私……運転免許を持っていないのだ……」
アッシュ「……あ、それは全然大丈夫です! むしろ師匠がハンドル握ったら、絶対事故る予感しかないので、運転はプロにお任せください!」
ルカ 「……(なんだか敗北感がすごい)」
アッシュ「これからは、どこでもドーンと送迎! 師匠、これでローマの街も楽勝ですね!」
ルカ 「……いいのだろうか、聖闘士の師として、こんな豪遊して……」
アッシュ「細かいことは気にしないでください! うちは親が聖域財団の理事ですから、領収書も経費で落ちます!」
ルカ 「……お前、本当に金持ちのボンボンだったのだな……」
アッシュ「修行もビジネスクラス、聖闘士もグローバル化の時代です!」
ルカ 「(時代が変わりすぎて、もう何も言えん……)」
――というわけで、今後も“ボンボン弟子”と“庶民派師匠”の師弟修行、
イタリアの街を高級車で爆走しながら(運転はプロ)、ますますパワーアップ予定です!
次回もお楽しみに!
大きな章ごとに新しい作品として分けて投稿しますか?それとも今まで通り一つの作品として連載し続けますか?
-
一作品として連載してほしい(今まで通り)
-
章ごとに作品を分けてほしい・十二宮編など
-
どちらでも良い/お任せします
-
その他(ご意見があればコメント欄で!)