聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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星の祝福を受けた少女・翔子。
仔馬座(エクレウス)の聖衣が輝き、
その手に託されるは、“守る力”か、“破滅の運命”か――。

しかし、平和な誕生日の夜に忍び寄る影。
黄金の林檎が静かに誘う、神話の闇。
目覚めるは、争いの女神・エリス――

少女の願いが世界を動かし、
友情と愛が試される運命の時が始まる!

次回、「エリス降臨 ―星の少女と神話の闇―」
星々の小宇宙が、いま闇を切り裂く!


エリス降臨 ―星の少女と神話の闇―

(翔子視点)

 

 十八歳の誕生日は、きっと一生忘れない夜になったと思う。

 

 晩ごはんのあと、弟たちがケーキをぐちゃぐちゃにしたり、アフロディーテちゃん(あとで聞いたけど男だって!絶対ウソでしょ?)が「美しさとは」なんて熱弁ふるったり――我が家は史上最高のカオス。でも、不思議と温かい空気に満ちていた。

 

 

 やがて家族が寝静まり、中庭に出ると、夜風がほっぺたを優しく撫でる。

 星空の下、アイオロス君が大きな箱(パンドラボックス)を抱えて立っていた。

 「翔子、誕生日おめでとう」

 その瞳はいつになく真剣で、でも優しくて――

 差し出されたのは、「君の魂にふさわしい贈り物」――仔馬座(エクレウス)の聖衣。

 

 私は一瞬きょとんとして、思わず吹き出してしまった。

 だって、普通の女の子の誕生日プレゼントに「星の鎧」って。どこのファンタジー?どこの神話?

 けどアイオロス君の表情はあまりに真剣で、優しくて――

 なんだか泣きたくなるほど、愛おしくてたまらなかった。

 

 「もう、アイオロス君って本当にロマンチストなんだから!」

 私は笑いながらも、心から嬉しくて。

 「最高のプレゼントだよ、ありがとう!」

 

 そっと箱に触れると、冷たい金属の感触。その瞬間、まばゆい光が溢れ、世界が静止した。

 光の粒子が身体を包み、不思議なくすぐったさと、じんわりとした温もり――まるで「大丈夫、君ならきっと強くなれる」と星に抱きしめられているみたいだった。

 

 ――気づけば私は、仔馬座の聖衣を纏っていた。

 

 肩や胸元の星座の意匠、銀色のガード。

 背筋に新しい“強さ”が宿った気がした。

 

 「…わぁ……」

 自然と声がこぼれる。

 アイオロス君が、心から嬉しそうに叫んだ。

 「ああ……!信じていたぞ、翔子!聖衣が君を主と認めたんだ!」

 

 私は胸に手を当てる。

 

 これが、聖闘士――

 どこまでも強くなりたい。自分を信じたい。

 今日まで家族のため、道場の娘としてがむしゃらに頑張ってきた。

 でも今は、初めて「私自身のために」この力があるんだと思えた。

 

 「この星の鎧に、恥じない自分でいたい。これからも、みんなを守る力になれるよう頑張るね」

 

 アイオロス君が優しくうなずく。その笑顔が、星明りよりまぶしかった。

 

 

 

 

 私は、聖闘士――エクレウス翔として、

 この星の下で、私だけの戦いを――

 

 

 

 

(アイオロス視点)

 

 

  翔子の身を包む仔馬座の聖衣は、月光を反射して美しかった。

 

 俺は、目の前の奇跡にただ立ち尽くしていた。

 小宇宙が確かに翔子の中で灯り、そしてその始まりに俺が立ち会えた――

 聖域でのどんな神話よりも、温かい現実。

 

 「でも、アイオロス君は?君の聖衣は――」

 

 その問いかけに、俺は一瞬言葉を失った。

 俺の聖衣――射手座の黄金聖衣。

 城戸邸の奥深く、長いこと手を触れていない。

 思えば、この二年間、聖闘士としての自分からずっと目を逸らしてきたのかもしれない。

 

 「ああ…。俺の聖衣か……」

 言葉を紡ぎながら、遠い記憶が胸に蘇る。

 「射手座の黄金聖衣は、城戸邸に置いたままだ。この二年、一度も纏ってはいない……」

 

 ――この言葉をきっかけに、俺の心の奥に溜めていた想いが堰を切ったようにあふれ出した。

 

 俺はギリシャで生まれ育ち、女神アテナに仕えるためにすべてを捧げてきた。

 だが、聖域に謀略の嵐が吹き荒れ、赤子のアテナ――沙織様を守るため、命からがらこの日本に逃げてきた。

 あの時、最後に背中を押してくれたのが、今夜ここに集った三人の黄金聖闘士――

 シュラ、デスマスク、アフロディーテだった。

 

 彼らは、俺の友――アッシュの弟子たちでもある。

 そしてサガ。もう一人の親友。

 誰よりも信頼し、誰よりも恐れていた存在。

 聖域を追われ逃げ延びたその日、俺は聖闘士としての自分も、ギリシャ人としての自分も捨ててきたような気がする。

 

 ……全てを翔子に話した。

 どんな反応をされても、受け止めるつもりだった。

 だが彼女は一言も遮らず、ただ静かに俺を見つめ続けてくれた。

 

 ――言葉が途切れる。

 自分が、長い冬をひとり歩いてきた子供のような気がして息が詰まりそうになった。

 

 その時、翔子の手がそっと俺の手を握りしめた。

 

 その手は温かかった。

 「話してくれて、ありがとう。大変だったね…。でも、もう一人じゃないよ」

 

 たったそれだけの言葉に、救われた気がした。

 聖衣でも、小宇宙でもない人の温もりが、こんなにも力強いものだとは思わなかった。

 

 ――涙が出そうになった。

 けれどそれは弱さじゃない。

 これまで守ろうとしてきたすべてのものが、今静かに俺の中に還ってくる。

 

 「……ありがとう、翔子」

 そう口にしたとき、ようやく心の中の霧が晴れていく。

 

 気づけば俺たちは寄り添って、夜空を見上げていた。

 無数の星がこの地上にも、確かな道しるべを投げかけているようだった。

 

 「……これからは、君と一緒に歩きたい」

 その想いが自然に口をついて出た。

 「もう聖闘士でいるだけじゃない。君と――君の家族と――新しい人生を、作りたい」

 

 翔子はにっこりと笑い、俺の肩に頭を預けた。

 

 聖衣を脱いでも、過去を語ってもすべてを受け入れてくれる人がそばにいる。

 それだけで、もう何も怖くはなかった。

 

 

 この夜、俺たちは本当の意味で“二人”になれたのだと思う。

 

 

 俺たちは並んで夜空を見上げていた。

 言葉はなくても、不思議なほど満ち足りた気持ちだった。

 翔子の手の温もり。心臓の鼓動。

 この平和な夜は、俺がずっと願ってきた奇跡のような時間だ。

 

 そのときだった。

 

 ひときわ大きな流れ星が、山の稜線を越えて空を横切る。

 翔子が思わず小さく歓声を上げた。

 「わあ、綺麗…!」

 

 俺もつられて笑みをこぼす。

 彼女の喜びは、なぜか自分の心まで明るく照らしてくれる。

 ――ああ、守りたい。

 この穏やかなひとときをずっと。

 

 ……ふと翔子の横顔が硬くなる。

 

 その瞳が、流れ星の消えていった山の彼方――

 何かを感じとるようにじっと遠くを見つめていた。

 

 「…アイオロス君、ごめん。ちょっと用事を思い出しちゃった。先に城戸邸に帰っててくれる?すぐ後から行くから」

 

 言葉は穏やかだったが、妙な緊張が混じっていた。

 けれど、俺は深くは考えなかった。考えられなかった。

 ――彼女を信じている。

 さっきまでのやり取り、心からの笑顔、温かい手。

 何一つ嘘ではなかったはずだ。

 

 「分かった。気をつけてな」

 俺はそう言って、微笑んだ。

 夜風が二人の間にそっと舞い込む。

 

 もう一度だけ振り返ると、翔子はまだじっと夜の向こうを見つめている。

 その背中に小さく手を振って、俺は城戸邸へと歩き出した。

 

 ――信じている。

 何があっても、きっと彼女なら大丈夫だ。

 

 そう自分に言い聞かせながらも、

 心の奥で、小さな違和感が消えなかった。

 ほんの少しだけ、胸がざわめく。

 

 だが、いまは――

 

 

 

 

 

 

(翔子→エリス視点)

 

 アイオロス君が遠ざかっていく足音を、私は背中で聞いていた。

 振り返らない。今は、どうしても――どうしても、行かなきゃいけない気がする。

 

 ……流れ星――

 あれは星じゃない。山の向こうに、ずっと冷たい光を残している。

 

 気がつけば、身体が勝手に森の中へ歩き出していた。

 誰かの“呼び声”が、胸の奥をざわつかせて止まない。

 仔馬座の聖衣は不思議なほど軽い。でも心の奥底で「危ない」と叫ぶ声があった。

 (帰らなきゃ――みんなのもとに)

 だけど体は止まらない。何かに操られているみたいに。

 

 山の闇に包まれ、気づけば真夜中の森を走っていた。

 木々のざわめきも、虫の声もすべてが遠ざかる。

 ただ、あの光――あの呼び声だけが、耳の奥で響いている。

 

 小さな開けた場所に出たとき、私は“それ”を見つけた。

 

 ――黄金の林檎。

 

 まるで神話の絵本の中から抜け出してきたような、

 眩いほど輝く果実が、森の中にぽつりと浮かんでいる。

 光はやがて薄れ、林檎だけが、不気味な光彩を放って宙にとどまる。

 

 (なんで……こんなものが……)

 

 思考は混乱していた。

 だけど、私の足はもう止まらない。

 “手を伸ばせ”と、

 “触れろ”と、

 何かが命じてくる。

 

 手のひらが、冷たい夜気に震えながら、林檎へと近づく。

 私は――止めなきゃいけないはずなのに。

 「ダメ……」

 心で叫んでいるのに指先がふるえる。

 

 その時。

 

 指が、黄金の林檎にそっと触れた。

 

 パチンッと静電気が走る。

 目の前が、一瞬で白く、そして黒く――

 

 ――なった。

 

 闇。

 深い、底なしの闇。

 私はどこにいるの?何も見えない。

 ただ冷たい何かが、私の内側を満たしていく。

 

 (いやだ、誰か――)

 

 “お前の願いは何だ?”

 

 耳の奥で女の人の声がした。

 甘く、冷たく、残酷な、でも、どこか――懐かしい。

 

 (守りたい、みんなを、私の大切な人たちを……)

 

 “ならば与えよう。絶対の力を。

 争いを、悲しみを、すべて焼き尽くす力を――”

 

 違うそれは、そんなの――

 

 (アイオロス君……)

 

 彼の顔が脳裏に浮かぶ。優しい手、温かい言葉。

 私は、私は――

 

 “愚かな少女。お前の願いはただの独占欲。

 愛も、家族も、友も、

 争いの果てにしか得られぬものと知れ。”

 

 ――そうだ。

 心が、塗りつぶされていく。

 どこまでも黒く、重く、冷たいものが私の胸に広がる。

 

 ふと、肉体の感覚が戻る。

 

 私の指はしっかりと黄金の林檎を握りしめていた。

 地面が揺れる。

 巨大な黒い神殿が山の奥からせり上がっていく。

 

 「……あれは……」

 

 口が勝手に動く。

 私の声ではない声が世界に響く。

 

 「我が名は、争いの女神――エリス」

 

 青白い光が指先から立ち上る。

 それは、もはや私の小宇宙ではない。

 遥かに古く、強く、邪悪な、――神のコスモ。

 

 視界が滲む。

 山の下、墓場がぐらりと揺れ、

 地中から、かつて死した聖闘士たちが次々と這い出してくる。

 

 私は、いや、“わたし”は、

 その光景を心から愉快に眺めていた。

 

 

 私の心は、世界を満たす争いと混沌、

 不和と、孤独と、哀しみで甘美に満ちていく。

 

 「この世界は、争いによってこそ輝く。

 愛も、力も、失い、奪い合い、勝ち得るからこそ価値がある」

 

 女神の声が、いやもう“私の声”が闇夜に響き渡る。

 

 

 だけどもう、翔子の叫びは誰にも届かない。

 黄金の林檎を手にしたこの身体は、

 もはや“エリス”そのものだった。

 

 祝福しなさい。世界に争いを、不和を、新たな神話の夜明けを。

 

 私は高らかに笑った。

 夜空の星が、一つ、また一つと瞬きをやめていく。

 

 

 

 これが争いの女神エリスの

 ――復活の夜だった。

 




エリス「……ああ、可哀想な子。そんなに強くなりたいの?哀れで滑稽――それがお前の“願い”なのかしら?」

翔子(心の声)「……それでも、私は――みんなを守りたい。強く、なりたい……」

エリス「守る?あはは、聞いた?“守る”だって。結局、お前も手に入れたいだけなのよ。“安心”も、“誰かの微笑み”も、すべて自分のため――本当は、弱くて、臆病で、寂しくて堪らないから。だから強さにすがるのよ」

翔子「ちがう!私は……!」

エリス「違わないわ。願いなさい、もっと。私が“力”をあげる。その代わりに――哀れな小鳥よ、世界の痛みも憎しみも、ぜんぶ、その小さな心で受け止めてごらんなさい」

翔子「……それでも、負けない。私は……私を、諦めない……!」

エリス「ふふふ、いいわ。その“意地”、いつまで続くか楽しませてもらうわ。
苦しみも、絶望も、全部私と一緒に抱えて――
さあ、“争い”の祝福を受けてごらんなさい。愉快で素敵な終わりの始まりを、ね?」

この先の物語は

  • もっとギャグに振りきってくれ‼‼
  • シリアスな熱血が聖闘士星矢だ!
  • バランスよくどちらも見たい
  • 全部盛り込んでぶっ飛べばいいと思うよ
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