聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
聖衣なきまま正面回廊に立つアイオロスの前に、“必殺の矢”が唸りを上げる。
伝説の英雄か、冥府の亡霊か――。
交錯する誇り、魂と魂の激突!
その矢は、黄金(ゴールド)すら貫くのか?
次回――「死の狩人現る!孤高なる英雄の矢」
“孤独な英雄、誇りの矢で死線を射抜け!”
(アイオロス視点)
――神殿正面の回廊。
石畳に広がる冷たい闇、その奥から禍々しい小宇宙が波のように押し寄せてくる。
俺は、その重圧に一瞬だけ息を呑んだ。だがすぐに覚悟を定める。
(…来るか、亡霊聖闘士!)
その時だった。
俺の進路を真っ向から塞ぐように、一人の男が現れた。暗がりの奥で得意げに腕を組んでいる。
「待っていたぞ、アテナの聖闘士!」
芝居がかった大仰な声。こいつがエリスの刺客か――
俺は警戒を解かず相手を睨みつけた。
「貴様は誰だ?」
男は堂々たる態度で回廊の中央に立ち、
顔を仰向けて高らかに名乗る。
「お前も聖闘士の端くれなら聞いたことがあろう。狙った獲物は絶対に外さぬ必殺の矢を持つ死の狩人、矢座(サジッタ)の魔矢の名をな!」
……知らん。
俺は真顔で、首をひねった。
「矢座の魔矢…?知らんな。今の矢座はトレミーのはずだが…。」
その瞬間、相手の顔が真っ赤に染まり眉間に青筋が浮かぶ。
「なんだと!?俺を知らんとは、よっぽどの田舎者の聖闘士と見える!聖衣も纏わずに来るなど笑止千万!死ねぇッ!アテナの聖闘士!」
自尊心を傷つけられたのか、魔矢は怒りの小宇宙を爆発させ、
俺の目の前へ瞬時に肉薄してきた。
交差する拳、激突する小宇宙
次の瞬間、正面回廊が閃光に包まれる。
拳と拳が火花を散らし、打撃の余波で回廊の壁石が砕け散る。
(速い――!)
亡霊聖闘士――ただの幽鬼と思っていたが、その速度も威力も、
現役の青銅聖闘士を遥かに上回る。
「エリスの刺客とあらば、容赦はしない!」
俺も小宇宙を解き放つ。
黄金のオーラが全身を包み、闘志が一気に燃え上がる。
(…聖衣がない。だが、後には引けない!)
翔子と沙織を守るため――
「アトミックサンダーボルト!」
右手を掲げ、黄金の稲妻を迸らせる。
それは天空を裂く雷、聖域最強の一撃だ。
この技をかわした聖闘士は、これまで僅かしかいない――
「ふん、来い!」
魔矢は、涼しい顔で構えた。
稲妻の奔流が神殿の通路を破壊しながら一直線に迫る。
しかし――
魔矢は、まるで散歩でもするかのように、
片足で床を蹴り身体を捻って――
「……かわした、だと…!?」
アトミックサンダーボルトが魔矢の身体を完全に逸れ、
背後の壁だけを粉砕した。
あり得ない。
この技を肉眼で見切り、軽々と躱すなど――
「それで終わりか?アテナの聖闘士!ならば、今度はこちらの番だ!」
魔矢の拳から、無数の光弾が迸る。
本物の矢のように鋭く、速度も射程も常人の反応を遥かに超えている。
「ハンティング・アロー・エクスプレス!!」
弓を引く動作すら不要。
狩人は拳を振るい、俺めがけて矢の雨を降らせてきた。
(まずい――!)
俺は紙一重で跳躍し、転がり、回廊の柱の陰へ身を隠す。
だが矢は追尾するように軌道を変え、しつこく俺を追い詰める。
「逃げ場はないぞ!死ねぃッ!」
柱を背に、何発かの光矢が肩をかすめた。
聖衣なしの肉体には、それだけでも痛烈な衝撃が走る。
攻撃が途切れることはない。
右から左から、魔矢の拳と矢が襲いかかる。
(防御に徹していれば、いずれは突破口が見つかる――)
そう信じて拳を振るうが、
魔矢の動きは常にわずかに先を読んでくる。
まるで自分の攻撃が、すべて見透かされているかのようだ。
「どうした!亡霊に押されて黙り込むだけか!?情けないものだな!」
(なぜだ……?)
俺の技もスピードも、常人には決して見切れないはず。
だが、魔矢はまるで狙い澄ましているかのようだ。
「俺はな――この世のすべての獲物を撃ち抜くためだけに冥府から帰ってきたんだ!」
魔矢の目は獲物しか映していない。
「お前の一挙手一投足――その呼吸、鼓動、筋肉の動き、すべて俺には“見える”んだ!」
(冗談じゃない…!)
さらに光矢の雨。
俺はギリギリで左右に身を捻り、なんとか大半を躱すが、
一発が脇腹をかすめた。
「……ぐっ!」
熱い痛みが走る。
聖衣がないただの肉体に、この威力――
このままではいずれは必ず“当たり”が来る。
俺は咄嗟に後ろへ跳び、壁を蹴って高く跳躍した。
回廊の天井近くから、魔矢の動きをじっと観察する。
(冷静になれ、アイオロス。相手は亡霊――だが、決して不死身ではない。
必ず“勝機”はある。すべての生物に必ず“死角”はある――)
翔子の笑顔、沙織様の寝顔――守るべきものが脳裏をよぎる。
(倒れるわけにはいかない。たとえ聖衣がなくとも、俺は必ず生きて二人を取り戻す!)
魔矢の猛攻は、なおも止まらない。
拳、膝、肘、そして光矢。
間断なく俺を追い詰めていく。
(だが、まだ終わりじゃない。まだ――倒れられない!)
俺は唇を噛みしめ、汗を拭う暇もなく、
再び回廊を駆け抜ける。
魔矢の笑みが、不気味に闇に浮かぶ。
「命惜しさに逃げ回るとは、道化そのものよ!」
「ふざけるな!」
俺は、再度小宇宙を高め反撃の一手を狙う。
黄金の輝きが、聖衣なき肉体にまばゆく燃え上がる。
(次の一撃で決める――
この命を賭しても、突破口をこじ開ける!)
(……この感覚、初めてだ――)
防戦一方、反撃の糸口すら掴めない。
(…まずい、想像以上だ)
魔矢の小宇宙は、ただの聖闘士の域を超えている。光弾の連射、矢のごとき拳撃――だが、それだけではなかった。
壁に突き刺さる無数の“矢”を見て、俺は戦慄した。
(あれは……本物の矢?)
ただの拳ではない。魔矢は、殺意を込めて本物の矢を仕込んでいる。
光速の拳撃の中に、死の矢が潜んでいる――
これでは、いずれ避けきれなくなる。聖衣なき肉体なら尚更だ。
「エリス様の依り代の恋人というから期待したが、随分と弱いな。聖衣も纏わぬ姿は、青銅聖闘士以下だ!」
闇の奥、魔矢が嘲笑を浮かべている。
侮辱――いや、見下すことすら許さない。
「……黙れ!」
怒りが、俺の全身を突き動かす。
守りたいものがある。譲れない誇りがある。
俺は壁から躍り出て、拳を握りしめた。
小宇宙が、天に届かんばかりに爆発する。
黄金のオーラが回廊を照らし、稲妻のような輝きが俺の拳を包んだ。
「ハンティング・アロー・エクスプレス!!」
魔矢の声と同時に、回廊を埋め尽くすほどの光の矢が、怒涛の勢いで殺到してくる。
今度は避けない。俺は拳を胸に当て、全小宇宙を込めて一歩を踏み出す。
「アトミックサンダーボルト!!」
黄金の雷光が轟音と共に放たれ、矢の嵐の中心を貫いた。
雷と光矢が正面から激突し、神殿全体が揺れる。
壁が崩れ、床が割れ、空気が逆巻く。
閃光と轟音、視界も聴覚も全てが光と闇に呑み込まれる。
(……負けるわけにはいかない!)
矢の嵐が俺の身体を切り裂き、稲妻が魔矢の聖衣を打ち砕く。
魂と魂、誇りと誇りのぶつかり合い。
すべてを焼き尽くす閃光の中――
最後に立っていたのは、俺だった。
魔矢の身体が聖衣ごと砕け、地面に崩れ落ちる。
回廊に静寂が戻った。
俺は膝をつき、荒い息を吐きながら倒れた男に近づく。
「翔子はどこだ!答えろ!」
返事はない。
――いや、死の狩人は、かすかに目を開けた。
「……くく……強いな……やはり、伝説の黄金聖闘士か……」
その声に、俺は静かに問いかけた。
「お前の名は、死の狩人――矢座の魔矢で間違いないか?」
魔矢は、血の混じった息で笑う。
「そうだ……俺は……矢座の魔矢……死の獲物を追う者……」
「俺は、黄金聖闘士・射手座のアイオロスだ」
その名を聞いた瞬間、魔矢の表情が一変した。
「……やはり……か。アテナの矢を託された……あの英雄……」
死の狩人の瞳に、憧れと妬みとそして納得が去来する。
「お前の矢は……冥府にも届く……か。ふ、ふは……誇り高き……射手座の……」
そこまで言いかけて、魔矢は崩れるように目を閉じた。
俺は無言で立ち上がり、次の敵を探そうと背を向けた。
だが、その瞬間――腕に、激痛。
「……ッ!」
見ると、右腕に一本の矢が深く突き刺さっていた。
小宇宙の奔流の中で、まったく気づかなかった。
「こんなもの……!」
俺は力任せに矢を引き抜き、投げ捨てる。
亡霊聖闘士の一撃など、黄金聖闘士には通じない――
そう高を括っていた。
だが矢を抜いた傷口は、黒ずんでいた。
傷口から、奇妙な痺れが広がっていく。
だが、今はそんなことを気にしている暇はない。
(早く……翔子とアテナを……!)
アイオロスが去った後、回廊には静寂が戻る。
崩れ落ちた魔矢が、わずかに目を開けて呟いた。
「……それで……十分よ……。おれは……必殺の矢を持つ男……。いずれ……思い知る……」
血を吐き、薄れゆく意識の中で、
狩人はなおも呪詛のごとき小宇宙を放ち続ける。
「いずれ……あの男の矢が……我が矢が……冥府の扉を開く……」
死の狩人、魔矢。
その矢は死んでも消えず、アイオロスの身体を密かに蝕み続けていた。
回廊の奥へ、俺は小走りで進む。
右腕に違和感を感じつつも、気力を振り絞って先を急いだ。
(倒れるわけにはいかない……必ず、翔子とアテナを救い出す!)
背後で、誰かの声が遠く響く気がした。
「……黄金聖闘士、射手座のアイオロス……」
それは、敗れ去った狩人の、誇りのこもった呟きだったかもしれない。
あるいは、死してなお矢座の誇りを捨てきれぬ亡霊の名乗りだったか。
神殿の奥へ、俺の足は止まらない。
腕の痛み、体の痺れ――それでも、
自分に、もう“逃げる”選択肢は残されていなかった。
(翔子……アテナ……待っていろ。必ず……必ずこの手で――)
冥府の矢の呪いも知らぬまま、英雄は、静かに、だが確かに、新たな死闘の扉を叩いた――。
歩を進めるたび、足元がふらつく。
さっきから何度も視界が揺れる。
まるで自分の身体が、どこか遠くへ引きずられていくようだ。
――あの矢のせいか?
だが立ち止まるわけにはいかない。
ここで倒れるわけにはいかないんだ。
翔子……アテナ……
待っていてくれ――
(背筋を伸ばし、もう一歩、前へ)
この先の物語は
-
もっとギャグに振りきってくれ‼‼
-
シリアスな熱血が聖闘士星矢だ!
-
バランスよくどちらも見たい
-
全部盛り込んでぶっ飛べばいいと思うよ