聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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エリスの玉座に響く、二つの声――。
翔子を操る邪神の囁きと、彼女自身の必死の叫びが、黄金聖闘士アイオロスの胸を撃つ!
だが、その行く手を阻むは……かつて白銀聖闘士最強と謳われし男、オリオンのジャガー!

魔矢の毒が肉体を蝕む中、繰り出されるは亡霊の一撃!
負ければ、小宇宙すら燃やせぬ暗黒の奈落――だが、アイオロスは退かない!

次回、――「玉座を揺らす挑発 ― 黄金VS白銀最強の亡霊」

友のため、愛する者のため、そして黄金の誇りのため――
立て、アイオロス!たとえ五感が尽きようとも!!


玉座を揺らす挑発 ― 黄金VS白銀最強の亡霊

(翔子視点)

 

――もう、限界かもしれない。

 黄金のリンゴに触れてからは、ずっとその感覚と隣り合わせだった。

 

 最初のうちは、エリスに「乗っ取られる」なんて、よくあるホラーのように思っていた。だってほら、よくあるじゃない、憑依とか怨霊とか。ところが、実際にやられてみるとホラーどころじゃない。

 視界が白く染まり、耳の奥で知らない声が響く。体が勝手に動く。自分の意思がどんどん奥へ押し込められる――あれは、本当に怖かった。

 でも、不思議なことに、何度かは私のほうが勝てたのだ。気合と根性、女子大生のしぶとさで「返せ!」と叫んだら、あっさり主導権が戻ったこともあった。

 

 ……今考えると、「気合と根性」って、神様相手に通用する単語じゃないはずなんだけど。

 あのときの私は必死すぎて、そんな理屈はどうでもよかった。

 

 それからの私は、四六時中、頭の中でエリスと会話していた。

 最初はただの口喧嘩だったけど、だんだん彼女が自分のことを語るようになった。

 

『ショーコ。私は争いと不和の女神として生まれた。人間の心に溝を作ること、それが私の存在理由だった』

 声はよく通るけれど、どこか遠くから聞こえるようだった。

 その響きには、寂しさが混じっている……気がする。

 

『黄金のリンゴは、私の力の象徴だ。だが、それは同時に私の牢獄でもあった。

 千年、暗い空間でただ待っていた。私を呼ぶ声が届くまで』

 

 私はその時、何も返せなかった。

 孤独に耐えてきた時間の長さを想像すると、軽々しい言葉が浮かばなかったのだ。

 ……まあ、本音を言えば、「封印って便利だな」とか思ってしまった自分がいるけど。それは飲み込んだ。

 

 そうやって少しずつ打ち解け――というか、会話が成立するようになった頃、私は気づいた。

 エリスは、私を道具として使いたいだけじゃない。私に、たぶん……似ているところがある。

 強がって、遠回しに本音を隠すところとか。

 

 でも、だからといって、彼女に体を明け渡すわけにはいかない。

 私には私の大事な人たちがいるし、その中には――。

 

『ショーコ、立て。来るぞ』

 その声に、思考が引き戻される。

 胸の奥がざわめく。吐き気が波のように押し寄せる。視界がじわりと霞む。

 ……ああ、これ、危ない。主導権、持っていかれるやつだ。

 

『私が出る』

「やだ、アイオロス君に会うのは私!」

『馬鹿を言うな。あれは聖闘士だぞ。私のほうが話が通じる』

「私だって聖闘士だよ!」

『聖闘士……ふん、そう呼ぶのか。お前、女のくせに』

 

 軽口の裏に、微かに棘がある。

 でも、その棘の奥には……心配の色も混じっているように感じた。

 ――いや、今はそんな分析してる場合じゃない。

 

 足は勝手に神殿の奥へ進む。

 分かる。来てる。アイオロス君が、近くまで。

 

 玉座の間へ踏み込んだ瞬間、視界の奥で何かがパチンと切り替わった。

 私の意識が、ぐっと奥に押し込まれる。

 代わりに響く、あの神々しい声――いや、正直ちょっと芝居がかった声。

 

『アイオロス!待っていたぞ』

 

 冷たい。鋭い。息を呑むほどに神々しい。

 でも、アイオロス君の顔に浮かんだ驚きと安堵の入り混じった表情を見て、私は……飛び出してしまった。

 

「アイオロス君!来てくれたんだね!」

 笑顔で手を振る。胸が熱くなる。

 ――が、その瞬間、頭の中で怒号。

 

『ショーコ!出てくるな!今、私が格好良く登場したところだろうが!』

「だって今、すごくいいタイミングだったし!」

『お前は舞台をぶち壊す才能があるのか!?』

 

 いや、この人、神様にしては器ちっちゃくない?

 

 その後も、私とエリスはアイオロス君の目の前で何度も主導権を取り合った。

 外から見たら、完全に怪談かコントだと思う。

 神の声で命令したかと思えば、次の瞬間に女子大生が笑顔で手を振り、そのまた数秒後には女神が氷の視線を向けるのだから。

 

 でも、私は知っている。エリスは私を完全に押しのけたいわけじゃない。

 むしろ、この数日で――お互い、妙な信頼のようなものが芽生えてしまった。

 

『……ショーコ』

「なに」

『あれは……お前にとって、そんなに大事なのか』

「……あったりまえでしょ」

 

 沈黙。

 

 エリスは私の意識を奥に押し込み、ぐっと主導権を握り返した。

 さっきまで私が一瞬だけ顔を出せていたのは、本当に偶然だったらしい。

 玉座に腰かける感覚。まるで自分が女王になったみたいな高揚感……いや、これはエリスの感情が混ざってる。

 

「この黄金の林檎でアテナの生気を吸い尽くせば、我が名は、そしてこの肉体は、完全に蘇るのだ!」

 

 ――ああ、完全に悪役の台詞。

 声も低めで迫力満点、BGMが流れそう。こういうの、観客席から見てる分には楽しいけど、当事者になると胃が痛くなる。

 

 けれど、次の瞬間、彼女はゆっくりと立ち上がり、アイオロス君の方を見た。

 その笑みは、氷みたいに冷たいのに、妙に色っぽい。

 私の顔でそんな笑い方しないでよ……って心の中で全力ツッコミ。

 

「だが、アイオロスよ」

 声色が一段低くなり、玉座の間の空気が凍る。

 それでも、私の胸の奥が変にざわつくのは――彼の名前を呼んだからだ。

 

「お前は我が肉体であるショーコの愛しい人」

 

 ――はぁぁぁ!?

 ちょっと待て、勝手にそんな紹介しないで!?

 いや、間違ってるわけじゃないけど、こういう場で言うことじゃないでしょ!?

 

「もし、お前が私の夫(もの)となると誓うならば、命を助けてやるばかりか、永遠の命すら与えてやろう!」

 

 ……。

 …………。

 

 頭の中で、一瞬、時間が止まった。

 いや、冷静に考えたらとんでもない提案だ。永遠の命? 神の伴侶? 悪役が出す条件にしては豪華すぎる。

 でも同時に、「アイオロスを夫にできる」という甘美な響きが、耳の奥で反響する。

 

『冗談じゃないわ!彼は私の……!』

 そう叫びながらも、ほんの一瞬だけ、胸の奥がふわっと熱くなるのを感じてしまった。

 だって――もし、もしも、それが私と彼の未来だったら……。

 

 いやいやいや、落ち着け私。これは罠だ。

 しかも、相手はエリス。私の体を使ってそんなこと言ってるだけ。

 わかってる、わかってるけど……。

 

『……ショーコ? お前、今……迷ったな』

「迷ってない!」

『ふん、顔に出ていたぞ』

「顔って、今私の顔はあんたの顔でしょ!」

『細かいことを言うな』

 

 くっそ、この女神、ほんとに腹が立つ。

 でも、エリスの声の奥に、わずかに笑っているような響きがあった。

 からかわれてる。私が揺れたの、完全にバレてる。

 

 その時――。

 

「黙れ、邪神!」

 アイオロス君の声が、玉座の間に鋭く響いた。

 いつも柔らかい笑顔を見せてくれる彼じゃない。黄金聖闘士として、全力で立ちはだかる時の顔だ。

 

「お前の好きにさせるものか!」

 

 その言葉は、まっすぐに私の胸に届いた。

 彼は……私じゃなくて、エリスに向かって言ってるのに。

 でも、間違いなく、私を守ろうとしている。

 

 奥でエリスが舌打ちするのがわかる。

『……愚か者め』

 愚か者、かもしれない。

 でも、私はこの人のそういうところが――。

 

「やっぱり……好きなんだなぁ」

 思わず、心の中でぽつりと呟いてしまった。

 

 エリスが一瞬黙る。

 何か言いかけたけれど、その声は小さく、聞き取れなかった。

 

 黄金のリンゴが脈打つ。玉座の間の空気が張り詰めていく。

 私の意識はまだ奥に押し込められたまま。でも、さっきよりも強く、彼の声が響いていた。

 ――負けるな、アイオロス君。私も、ここから足掻くから。

 

 

(アイオロス視点)

 

――行く。

 エリスの玉座まで、もう何歩もない。

 

 アテナを、そして翔子を救う。

 そのためなら、何度だって命を賭ける。

 俺にとって、それは選択でも義務でもない。ただ当然のことだった。

 

 駆け出そうとした瞬間――。

 

「来い、ジャガー!」

 

 エリスの声が玉座の間に響き、足元から空気が揺らいだ。

 濃い影が床を這い、俺の視界を覆う。

 そしてその影が形を成す。長身、分厚い胸板、獣のような眼光。

 ――オリオン座のジャガー。

 

 かつて、白銀聖闘士の頂点に立った男。

 その戦いぶりを知る者は皆、彼を最強の白銀聖闘士と呼ぶ。

 死んだはずの彼が、エリスの命令で俺の前に立ちはだかっている。

 

「ジャガー!かつて最強の白銀聖闘士と謳われた男が……今ではエリスに尻尾を振る飼い犬とはな!」

 

 挑発の言葉は、自分でも驚くほど鋭く響いた。

 だが、それは覚悟を固めるための自分への号令でもあった。

 

 ジャガーの眼光がわずかに揺らぐ。だが、すぐに憤怒で塗り潰される。

 

「お前たちに、死の国で忘れ去られる者の無念が分かってたまるか!」

 

 その声は、鋼を叩くような硬さと、血の匂いが混ざっていた。

 ――そうか。彼はまだ、死を受け入れていない。

 

「うるさい!お前を倒し、翔子を――ぐっ……!」

 

 突き上げる痛みが、右腕を焼き尽くした。

 視線を落とすと、袖の下に紅が滲み、腕が黒く変色している。

 ……これは――。

 

 脳裏に、先ほどの戦いがよみがえる。

 魔矢との死闘。奴の最後の一撃。かすったと思っていた矢は、確かに俺の腕を貫いていたのだ。

 

 痛みはすぐに全身へ広がった。

 呼吸が浅くなる。耳鳴りが始まる。

 脚が、地面を捉えられない。

 

 玉座の上で、エリスが勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「その矢には、必殺の毒が塗られているのよ」

 彼女の声は、ゆっくりと、確実に俺の心を抉る。

 

「お前は間もなく、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚……五感の全てを失う。さあ、その前に、私にひざまずき、永遠の忠誠を誓うがいい!」

 

 ――五感を奪う毒。

 それは聖闘士にとって、死より残酷な罰だ。

 小宇宙を燃やす感覚も、仲間の声も、大切な人の温もりも、すべて失う。

 それは、戦士としての死を意味する。

 

 膝が震えた。視界が揺らぐ。

 だが――。

 

 俺は見た。

 意識の奥で、翔子が俺を見ている。

 心配そうに、でも必死に「大丈夫」と言おうとしている、その顔を。

 

 ……笑わせるな。

 彼女の前で、膝などつくものか。

 

 体を苛む激痛と、遠のく意識。

 それでも、俺は力を振り絞って立ち上がった。

 五感が一つずつ、砂のように指の間からこぼれていくような感覚の中で。

 

 そして――笑った。

 不敵に。強く。彼女を安心させるためだけに。

 

「こんなもの……痛くもかゆくもないわ!」

 

 本当は、全身が焼けるように痛かった。

 立っているだけで、足が砕けそうだった。

 だが、その強がりこそが、俺に残された最後の矢だった。

 

 最強の亡霊聖闘士ジャガー。

 五感を奪う毒。

 二重の絶望が、音もなく迫る。

 

 それでも、英雄は背を見せない。

 たとえ、その小宇宙の灯火が、今にも消えかけていようとも。

 

 




アイオロス「必ず……必ず君を助ける」
翔子「……っ、そんなの……泣いちゃうじゃん……」
アイオロス「泣かなくていい。君は笑っていてくれ」
翔子「……うん……」
エリス「……ふん。人間ごときが……」
翔子「なに、ちょっと拗ねてる?」
エリス「……別に……羨ましくなんて、ない」

この先の物語は

  • もっとギャグに振りきってくれ‼‼
  • シリアスな熱血が聖闘士星矢だ!
  • バランスよくどちらも見たい
  • 全部盛り込んでぶっ飛べばいいと思うよ
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