聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
毒に五感を奪われ、立つかアイオロス!?
呼べど応えぬ射手座の黄金聖衣――孤絶の拳が、なお闇を撃つ!
怒りの星屑、翔子のエクレウス流星拳が逆巻き、
玉座では邪神エリスの甘美なる誘惑が運命を嘲る……!
そして空間は裂け、幾何の亀裂より歩む影――双子座、降臨!!
次回――「最強白銀ジャガー猛る!黄金、孤絶の一撃!!」
燃えろ小宇宙!守るべき名のために、矢はまだ折れない――!
(アイオロス視点)
――見えない。
視界の端から、色が滲み、崩れていく。
さっきまで確かにそこにあったジャガーの輪郭が、煙のようにぼやけて溶ける。
耳もおかしい。玉座の間に響くはずの足音や息遣いが、まるで水の底から聞くようにくぐもっている。
右腕に残る鈍い痛みが、矢が刺さった場所を思い出させた。
魔矢の毒――エリスが宣告した通り、五感が一つずつ奪われていく。
「……行くしかない」
俺は息を吸い、小宇宙を燃やす。
全身を駆け巡る光の奔流を、拳へ――。
「アトミック――サンダーボルト!!」
光速の矢のような拳が、放たれた。
だが――。
空気を切る感触が軽すぎる。
狙った手応えがない。
次の瞬間、神殿の奥で轟音が響いた。砕けたのは壁。ジャガーの気配は、そこにはない。
「フン……もはや間合いも測れんか」
声が、どこから響いているのかも分からない。
右か、左か、それとも背後か。
俺の耳は正確な位置を拾えない。視覚の焦点も合わない。
目の前に誰か立っている気がしても、瞬きをすれば空虚になる。
「くそ……!そんな馬鹿な……!そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
足を踏み出す――つもりだった。
だが、床の感触は半歩ずれて伝わってくる。
踏み込んだつもりの場所に足がなく、バランスを崩しかける。
腕を振れば、力の入れ具合が読み違えられ、拳は空を切る。
毒は、筋肉でも神経でもなく、俺と身体の間の「感覚の距離」を壊していた。
頭の中で描いた動きと、実際に動く身体が一致しない。
戦士にとって、これ以上残酷な拷問はない。
「聖衣も纏わぬ貴様が、この俺に勝てるわけがなかろう」
ジャガーの嘲笑が、どこからともなく降ってくる。
見えぬ敵に対し、今の俺はあまりに無防備だ。
だが――まだ終わっていない。
「ならば……もはや虚勢を張ってはいられないな!来い、サジタリアス!」
胸の奥に、小宇宙をさらに燃やす。
遠く離れた城戸邸に眠る射手座の黄金聖衣を呼び寄せる。
黄金の光が、きっとこの背を包むはず――。
……何も、来ない。
呼吸の音すら聞こえない沈黙が、玉座の間を満たす。
聖衣は俺に応えなかった。
どうしてだ?
何が――。
「忘れたか、アイオロス。聖衣は戦う聖闘士と共にある。日常という名のぬるま湯に染まった貴様の小宇宙に、もはや聖衣は応えないのだ!」
その言葉は、毒よりも鋭く、俺の胸を抉った。
……そうなのか。俺は、あの聖衣に見放されたのか。
仲間を守るために戦った日々を、誇りを、もう失ってしまったのか。
一瞬、足元が崩れる。
自分が崩れ落ちているのか、床が沈んでいるのか、もはや区別もつかない。
「メガトン・メテオ・クラッシュ!!」
その名を聞いた瞬間、何かが迫る気配だけは分かった。
見えない。
でも、重力が急に偏る感覚。空気が揺れる音。
――右側から、くる。
避けようとした。だが、命令と身体の動きがずれている。
間に合わない。
次の瞬間、世界が爆ぜた。
腹部を中心に、全身が折れ曲がるような衝撃。骨が軋み、肺の空気が一瞬で押し出される。
同時に、視界が真っ白になった。
まるで、体の芯を巨大な鉄槌で殴られたようだった。
その衝撃は、一撃で全身の筋肉から力を奪い取った。
俺の体は宙を舞い、柱に激突する。石の硬さが背中を砕き、口の中に血の味が広がる。
重力に引かれて、頭から床へ――。
何かが砕ける音が耳の奥で響いた。自分の骨なのか、床の石なのか、もう分からない。
動けない。
視覚は闇に閉ざされ、聴覚は鼓動だけを響かせている。
冷たい石の感触だけが、かろうじて現実に繋ぎ止めていた。
――翔子。
俺は……まだ、終わってない。
だが、この意識は……もう……。
闇が、静かに、確実に、覆いかぶさってくる。
(翔子視点)
――アイオロス君。
血飛沫が、私の視界を赤く染めた。
ジャガーの蹴りを受け、アイオロス君の身体が宙を舞う。
その瞬間だけ、時間が引き延ばされたみたいに、彼の表情がはっきり見えた。
――痛みよりも、私を案じる顔。
次の瞬間、柱に激突する鈍い音が響き、彼は崩れ落ちた。
声が、出ない。
足が、動かない。
けれど、胸の奥が熱い。
何かが、破裂する寸前のように膨らんでいく。
『ショーコ、落ち着け』
エリスの声が頭の奥で響く。冷たく、制止する響き。
『今は私が――』
「黙って!」
その瞬間、弾けた。
紫の小宇宙が頭から離れないよう絡みついていたのに、青い光がそれを押しのけ、焼き払っていく。
視界が鮮明になり、呼吸が戻る。
全身に、力が満ちる。
『なっ……!』
エリスの驚きが伝わる。
私は、自分の意識で自分の体を動かしていた。
今だけは、完全に、私の主導権だ。
怒りが小宇宙に変わり、天へ立ち上る。
背後に、仔馬座の星座が浮かび上がる。
光の破片が私の周りを舞い、聖衣が身体を包む。胸当て、ガントレット、脚部装甲……その一つ一つが、心臓の鼓動に合わせて輝いた。
「よくも……よくも、アイオロス君を!!」
私は、ジャガーに向かって踏み込んだ。
彼は一瞬目を細め、構えを取る。
――最強の白銀聖闘士? 関係ない。今の私は、ただ怒っている。
「エクレウス流星拳!!」
無数の拳が、光の矢のように走る。
それは怒りの小宇宙に後押しされ、光速にまで高められていた。
ジャガーは腕を交差させて防御するが、衝撃が容赦なく押し込み、足が床を削る。
「くっ……! この小娘……ただの依り代では……ない……!」
拳が一際強く彼の肩を打ち抜き、その巨体が後方へ吹き飛んだ。
石壁が亀裂を走らせ、破片が崩れ落ちる。
ジャガーは膝をつき、荒い息を吐いた。
私はまだ構えを崩さない。追撃して、倒し切る――そう思った、その瞬間。
『ショーコ!だから言ったであろう、お前は出てくるなと!』
エリスの声が割り込む。
身体が一瞬硬直する。
だが、さっきのように押し戻されることはない。
……ああ、分かった。
私はもう、この抑制を破る方法を覚えてしまった。
けれど、今回は争わず、わざと主導権を緩めた。
今は――彼女の動きも、見ておくべきだと思ったから。
玉座の間の空気が再び重くなる。
エリスは、いつもの冷酷な顔でジャガーを見下ろす……と思いきや、次の言葉が信じられなかった。
「それからジャガー! 貴様も手加減しろ! その男は、いずれ我が夫となるのだぞ! 傷物になったらどうする!」
「……は?」
ジャガーが目を瞬かせる。
あまりに唐突で、私も思わず固まる。
「ちょ、ちょっとお待ちください……」
ジャガーが低く呻くように言った。
「敵を倒せと言われたから全力で戦った。だが倒したら倒したで、手加減しろと……それは……どういう……」
「聞こえなかったのか? 夫になるのだ。傷物は困る」
「理屈になってないでしょう!」
珍しく声を荒げるジャガー。
「戦場で手加減しろって……こっちは命を懸けているんですよ!」
「知ったことか」
エリスは、つまらなそうに片手を振る。
私は、唖然としながらも……心のどこかで笑いそうになっていた。
この人(神?)、本当に部下の心情を理解する気がない。
いや、理解はできても、するつもりがないのかもしれない。
ジャガーは溜息をつき、肩を落とした。
「……最強の亡霊聖闘士と呼ばれても、主君がこれではな……」
◆◆
ジャガーは一度、深く息を吐いた。
先ほどの理不尽な叱責を飲み込み、再び戦士としての冷徹な顔へ戻る。
今この場で逆らうことはできない。恩義ある主君の命令には従う――それが、彼が死してなお動く理由の一つだった。
「エリス様! 今こそ、この男にとどめを刺すべきです!」
足元には、意識を失ったアイオロスが横たわっている。
聖衣も纏わぬその身体は、もはや満身創痍だ。呼吸は浅く、血は床を濡らしわずかな小宇宙の残光すら揺らいでいる。
エリスは、わずかに視線を落とした。
彼女の瞳の奥に、一瞬だけ逡巡がよぎる。
――夫に望んだ男。この肉体を依り代とする翔子が、心から愛してやまない相手。
ここで彼を失うのは惜しい。だが。
紫の小宇宙が、玉座から波紋のように広がる。
エリスは悟っていた。翔子の抵抗は予想以上に強く、このままでは魂を完全に支配することが難しい。
その抵抗心を燃やし続ける火種こそが、目の前の黄金聖闘士だ。
「……仕方あるまい。やれ、ジャガー」
命令を受けたジャガーは、一歩前へ。
重い足音が、静まり返った玉座の間に響く。
右足を高く上げると、倒れたアイオロスの頭部に向け、ゆっくりと、だが確実に力を込めて降ろしていく。
狙いは一点。頭蓋を粉砕する。その瞬間――
音が、消えた。
いや、正確には音が奇妙に引き延ばされ、耳の奥で低く唸るように変質した。
ジャガーの足が床に触れる直前、空間そのものが――ぐにゃり、と、ありえない音を立てて歪んだ。
「……何だ?」
彼は咄嗟に足を止める。
いや、止めたのではない。
踏み下ろす動作そのものが引き延ばされ、異様に遅くなったのだ。
視界の端が波紋のように揺れ、柱や壁の直線がぐらつき、まるで熱気に包まれた空気の中にいるような錯覚が広がる。
エリスも目を細める。
紫の小宇宙が歪みに触れた瞬間、表面が油膜のように虹色に揺らぎ、力を削ぎ落とされた。
次の刹那――。
アイオロスの身体がジャガーの足元から掻き消えた。
誰も触れていない。引きずられた痕跡もない。
ただ、その場から「存在」だけが抜き取られたように。
ジャガーの足は虚しく空を踏み抜き、その勢いのまま床を砕いた。破片が飛び散り、鈍い音が玉座の間に響き渡る。
「……今のは……」
エリスの眉間に皺が寄る。
だが、異常はそれだけでは終わらなかった。
玉座の間の空気が震える。
先ほどの歪みは、偶発的な波ではない。むしろ、規則性を持ち始めていた。
壁や床、天井の縁が、光の線で縁取られる。
その線は螺旋を描きながらねじれ、やがて幾何学的な模様へと収束していく。
幾何学模様は、視覚だけでなく感覚に直接触れてくる。
足元から伝わる微かな振動が、心臓の鼓動とわずかにズレ、呼吸のリズムすら狂わせる。
視界の遠近感は不安定になり、近くにあるはずの柱が遠くに引き伸ばされ、遠くの壁が目前に迫ってくる。
「空間が……ねじれている……」
ジャガーが低く唸る。
戦場で幾度も死線を越えてきた彼ですら、この異常には本能的な恐怖を覚えた。
中心点は、玉座の間の中央――そこだけが世界の焦点になったかのように、すべての歪みが集まっていく。
空気が渦を巻き、床の模様が引き延ばされながら渦の内側へ吸い込まれていく。
やがて、空間が裂けた。
亀裂の奥には、完全な闇――しかし、そこには上下も左右もなく、深さの概念すら存在しない。
その闇の奥から――。
カツリ。
硬質な靴音が、一歩、また一歩と響く。
音は闇の深淵からではなく、まるで頭の内側に直接届くようだった。
だが確かに、足音には規則正しい間隔があり、近づいてくる。
カツリ。
カツリ。
やがて、影が現れる。
最初は輪郭も曖昧で、漆黒の闇に溶け込んでいた。
しかし、亀裂から漏れる奇妙な光に照らされると、その姿は徐々に明らかになっていった。
漆黒の髪がゆるやかに揺れる。
その双眸は、紅蓮の炎――の光を宿している。
纏うのは黄金聖衣。だが、その輝きは清廉な金ではなく、影を抱えたような重厚さを帯びていた。
その存在が持つ小宇宙は、善と悪、光と闇の二極を同時に孕み、常人なら触れるだけで心を引き裂かれかねない。
その男は、間違いなく――。
「……双子座の聖闘士……!」
ジャガーが呟く。
エリスの瞳がわずかに細まる。
サガは亀裂から完全に歩み出ると、背後の闇が音もなく閉じ、空間の歪みがすっと消えた。
今この瞬間、彼はギリシャの聖域で教皇として君臨しているはずの男。
それが、何故ここに――?
休暇届
本日「半日休」。私用につき。
署名:教皇
アッシュ「……は?」
アッシュ「おい、誰か猊下見たか」
書記「今朝、これだけ置いてスッ…と」
アッシュ「“半日休”って教皇職にそんな制度ねぇよ!」
書記「前例ができました」
アッシュ「作るな!」
(別紙メモ:〈急用。日本方面。午後には戻る。多分〉)
アッシュ「“多分”て書くな“多分”って……あの野郎……!」
(未決裁の山を睨みながら、コーヒーを一気にあおる)
アッシュ「戻ったら説教三時間コースだ。……いや、まずは無事に戻れ、バカ友よ」
この先の物語は
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もっとギャグに振りきってくれ‼‼
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シリアスな熱血が聖闘士星矢だ!
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バランスよくどちらも見たい
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全部盛り込んでぶっ飛べばいいと思うよ