聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖衣チェンジ希望!? ボクと杯座とメロンソーダ

(ルカ視点)

 

 

 あの日、空から流れ星が降ってきた。

 いや、正確には“流星”などという生易しいものではない。夜明け前、アッシュとふたり、まだ朝露の残る道場で型稽古をしていると、どこからともなく轟音が響いた。

 

 ドォォン――と大地を揺るがす音。

 見ると、そこには金属の箱。いや、違う。“聖衣(クロス)ボックス”だ。私もこの目で見るのは久しぶりだ。

 アッシュは目を輝かせて駆け寄った。

 「きたっ!いよいよ俺も黄金聖闘士の座に近づいたかッ!?」

 

 聖衣ボックスの蓋が、自動的にガコン、と開いた。

 現れたのは、堂々たる銀色のクロス。杯座(クラテリス)の聖衣だ。

 

 「おお……杯座……!」

 私は胸が熱くなった。

 この若さで聖衣から白銀聖闘士に認められるとは。まさに歴史的快挙。私は涙腺が緩みそうになるのをこらえながら、

 「アッシュ、立派になったな……」

 と言いかけた、その時だった。

 

 「チェンジ!」

 

 ……え?

 

 アッシュは、信じられないほどテンションの低い声でボソッとつぶやいた。

 

 「いや、なんか……もっさりしてません?この聖衣……。黄金とかスリムでカッコイイのが良かったのに。しかも柄が地味すぎ……」

 

 私は頭が真っ白になった。

 まるで新しい靴を買ってやった子どもが、タグも取らぬうちに「これ色がダサい」と言い出したようなショック。

 

 「お前なあ!聖衣だぞ!?聖闘士に選ばれるというのは……」

 私の真剣な説明をよそに、アッシュはボックスのまわりをグルグル回りながら、腕を組んでブツブツ言っている。

 

 「うーん……肩のあたりが重そうだし、飲み会帰りのサラリーマンみたいな地味感があるし……チェンジ希望で!」

 その瞬間、杯座の聖衣がピカピカと光ったかと思うと、しゅん……と輝きが一段階ダウンした。

 まるで「そんなこと言うなよ……」と抗議しているかのようだ。

 

 あまりの事態に私は狼狽しつつ、なんとかアッシュを説得しようとした。

 

 「この聖衣はな、ただの鎧じゃないぞ。杯座の聖衣で汲んだ水は、飲めばたちどころに傷が癒える。その水面には未来を映す力もあるのだ!」

 「へー。治癒効果って言っても、今は薬があるしなあ……。未来を映すのも面白いけど、いちいち脱いで水汲みに行くの、面倒じゃないですか?普段はクロスしてるのに」

 

 私は、全力で力説する。

 「……いや、だがな!もし運命を知ることができれば、人生の大きな選択で――」

 「師匠、もしも僕が恋のライバルの動向を知るためだけに水汲みしてたら、聖闘士の名折れじゃないですか。もうちょっと、こう……戦闘で役立つ機能とか、ないですか?」

 

 今度は聖衣が、明らかにプルプルと点滅し始める。

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。

 まるで「ご主人、やめてよ!」と言いたげだ。

 

 私は動揺を隠しながらも、真顔で伝える。

 「……たとえば、だ。この聖衣でしかできないことは――えー……ある。はず……きっと」

 

 アッシュはすかさずノートを取り出し、「じゃあ今度、“便利機能リスト”まとめておいてください」と無邪気に言ってくる。

 いや、家電じゃないんだから、カタログ化しないでくれ。

 

 「そもそも聖衣ってカスタマイズできないんですか?カスタム聖衣、出ませんかね」

 またも聖衣がジリジリと点滅。「改造反対」とでも言いたいのだろうか。

 (杯座よ……がんばれ、負けるな……)

 

 しばしの沈黙。

 私は考えた。いや、ここは冷静に、教育方針を見直すべきかもしれない。

 今どきの子は“オプション”とか“スペック”とか、そういう発想なのか?

 伝説の装備を目の前にして、まさか「地味」と言い放つ時代が来ようとは。

 私が若い頃は――いや、やめよう、年寄りの昔話は負け戦だ。

 

 アッシュは聖衣に話しかけている。

 「なあ、もうちょっとスリムになってみない?ほら、角度によっては映えるかもしれないよ」

 聖衣がピクリとも動かない。点滅速度だけが上がっている。

 

 私は静かにため息をついた。

 「……やはり、教育を間違えたかもしれない」

 

 師匠として、いや、ひとりの大人として何を伝えるべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

杯座(クラテリス)の聖衣――。

 

 あの日、空から“流星”が降ってきたとき、正直、僕は胸が高鳴った。

 来た!ついに来た!これは絶対、黄金聖闘士の座の予兆だ――と、100%思い込んでいた。

 まさか開けてみて白銀、しかもよりによって“杯座”だったとは。

 いやいや、どの星座だよ!と一瞬混乱し、思わず聖域の聖衣カタログ(師匠作・手描き)をめくって「……いた、これか」と地味なページを見つけるはめになった。

 

 正直、僕のイメージは獅子座一択だった。

 「師匠、僕は百五十パーセント、獅子座希望です!」なんて熱烈アピールまでしてきた。

 憧れのアイオリア(獅子座の黄金聖闘士)、光速拳、ライオンのたてがみ!男のロマンじゃないか。

 黄金聖闘士といえば、正義、勇気、強さ、そして“映え”。

 にもかかわらず、目の前に現れたのは、“杯”という、どう考えても戦闘向きではなさそうな聖衣である。

 

 初対面の感想は、「もっさり」。

 いや、ごめん、素直な気持ちだ。

 

 さっそく文句のオンパレードが始まった。

 「肩、重いなこれ」「動きづらいし、手入れが大変そうだし……」

 「色味も地味だし、何より正面から見ると“給食当番”感があるんだけど」

 正直、黄金クロスの“光り輝く”イメージと比べると、テンションが上がらない。

 

 ……それでも。

 これもまた運命なのかもしれない。

 原作の記憶を辿ってみる。杯座の聖衣といえば、「水鏡」。

 裏切りの白銀聖闘士――聖域を裏切り、敵方につき、その後心の中では血の涙を~な男。

 「やめてくれ……僕は裏切らないぞ?絶対に」と聖衣に心の中でアピールしたくなった。

 

 でも思い返してみれば、杯座の聖衣、あれは水鏡が着ているシーンもなくほとんど出番がなかったはずだ。

 地味だし、能力も「水に治癒効果」とか「未来を映す」とか、やたら渋い。

 そういえば、師匠もやたら熱弁していた。「杯座の聖衣で汲んだ水は特別なんだぞ!治癒効果!未来予知!」

 でも、ぶっちゃけ今どきは傷薬もあるし、テレビで未来予知はできなくても天気くらいは調べられるしなあ――と、気が付けばまた口が勝手に動いている。

 

 「どこでもテレビが見えるとか、そういう機能ついてないかな……」

 思わずそんなことを口走った瞬間。

 

 杯座の聖衣が、ガタン、と音を立てて震えた。

 次の瞬間、すごいスピードでボックスごと浮き上がり、ビューンと道場の窓から空高く飛び去っていった。

 

 「えっ、ちょ、まっ――」

 予想外の展開に僕も師匠も絶句。

 師匠は「ああああ……やっぱりお前、教育間違えた……」と頭を抱えてうずくまっている。

 いやいや、僕だって悪気があったわけじゃない。たしかに言いすぎた感は否めない。でも聖衣のプライド、繊細すぎやしませんか?

 “チェンジ希望”は冗談のつもりだったんだって!戻ってきてくれ!!

 

 とはいえ、やっぱりどこか受け入れがたい。

 獅子座だったらどんなに良かったか。黄金聖衣なら、きっといろんな技が使えて、街でも「うおお、あれが伝説の!」って言われて、映え写真も撮り放題だったろうに。

 杯座は、せいぜい「水汲み担当」か「給食係」みたいなものじゃないか。

 

 でも――もしかしたら“つなぎ”としては悪くないのかも、と思い始めている自分もいた。

 聖域の伝統では、白銀聖闘士として力を認められた後に黄金への昇格があるとも聞く。

 今はまず、ここで“コツコツ”と実績を積んでいくのもアリなのかもしれない。

 

 ……でもやっぱり、ちょっと納得がいかない。

 「カスタマイズとか……できないんだよな、これ」

 再びそんなことを呟くと、どこか遠くから聖衣ボックスの“怒りの点滅”が見えた気がする。

 

 「……やっぱり、聖衣も生きてるんだなあ」

 僕はちょっと苦笑いしながら、空を仰ぐ。

 

 道場の外では、師匠が「おーい!戻ってこいー!」と必死に叫んでいる。

 聖衣も師匠も、なかなか扱いが難しい。

 

 

 三日ぶりに、杯座(クラテリス)の聖衣が帰ってきた。

 

 

 道場にドスン!と帰還した聖衣ボックス。蓋が自動で開き、内部にはたっぷり水が溜まっている。

 「今度は未来でも映るのか?」と覗き込んだ僕は絶句した。

 

 ――水面に映っていたのは、テレビのバラエティ番組だった。

 

 どうやら最新のトレンドに対応してきたらしい。

 しかも、リモコン機能付き。水面をなぞると、バラエティ、ニュース、アニメ、CMまでザッピングできる。

 「おおっ……やるじゃん、杯座……」

 僕は普通に感心してしまった。

 ……が、しかし。

 音が出ない。

 

 「……音、ないんだ。惜しいな。やっぱりチェンジで」

 またもや聖衣がビカビカと点滅、シュッと空中に浮かび上がる。

 師匠が「今度は何だ?」と呆れている。

 「たぶん、音声出力機能を実装しに行きました」

 「家電の修理じゃないんだから……」

 その後、一週間の“技術研修”を経て、聖衣は無事「音声機能」を実装して帰還した。今度は完璧、音付き。映像はバッチリ。

 ――すごいぞ杯座、時代に順応しすぎだ。

 

 ここまでされたら、さすがの僕も「じゃあ、まあ……聖闘士やってみるか」と腹をくくる気になった。

 どのみち獅子座は空席、黄金への道もいつか繋がるかもしれない。

 「杯座のアッシュ、悪くないな」

 ――と自分に言い聞かせて、聖衣を身にまとった。

 

 師匠はその様子を見て、喜んでるのか怒ってるのかよくわからない複雑な顔をしている。

 「お前なあ……歴史上、ここまで聖衣を振り回す聖闘士はいないぞ」

 「いや、僕だってこんなに意思の強い聖衣とは思いませんでしたよ」

 「まったく、伝説だな」

 苦笑いと溜息と微妙な感動で、ごった煮みたいな空気になる。

 

 ただ、聖域に「新たな聖闘士が誕生した」とはすぐには認めてもらえないらしい。

 師匠曰く、「お前、試験やってないから」

 ――え、今さら?

 

 面倒くさいが、手続きは手続き。僕は「杯座の聖闘士」として書類を整えられ、遠く聖域本部の認定待ちリストに放り込まれることとなった。

 「どうせ、また何か変なことが起きるに違いない」

 そんな諦めを感じつつ、僕は聖衣と日常を共にするようになった。

 

 ……ところが、ある日ふと、

 「水じゃなくてもいいのか?」

 と閃いてしまったのが、すべての始まりだった。

 

 試しに聖衣の杯にコーラを注いでみる。

 しゅわしゅわと泡が立つ。画面には……バグった映像と「ピーピーピー」という点滅。

 どうやら抗議らしい。

 さらにメロンソーダも試してみる。最初は拒絶のピカピカだったのに、三回目には明らかに反応が変わってきた。

 ――なんだか点滅が控えめで、泡の色が微妙に緑がかっている。

 

 「まさか……気に入った?」

 それ以来、杯座聖衣はメロンソーダが注がれると“ご機嫌”モードに突入するようになった。

 映像の明るさがアップし、リモコン操作も滑らか。たまに勝手に好きな番組に切り替えるまでに成長した。

 どういうことだ……。

 「こら、勝手にチャンネル変えるな!」

 

 師匠は「なんだこれは……こんなのは聖衣じゃない……」と完全に混乱している。

 ついでに道場もメロンソーダ臭で満ちてきた。

 

 だが――問題はそこじゃなかった。

 

 杯座聖衣、メロンソーダが好きすぎて“持ち主の僕”には厳しい対応。

 僕がうっかり自分用に買ったメロンソーダを飲もうとすると、

 「ピピピッ!」と激しく点滅、時には小さな放電までして抗議してくる始末。

 仕方なく譲ると、杯座の中で泡が嬉しそうに弾けている。

 (なんだこの聖衣……)

 

 そして気づく――

 

 「聖衣着てメロンソーダの匂いが染みつくの、マジで嫌かも」

 しかもベタベタする。いや、これ、聖闘士としてどうなんだ。

 「頼むからもうちょっと“凛々しく”いこうよ……」

 でも、あげないと抗議されるし……。

 

 その夜、僕は聖衣の輝きがメロン色に点滅するのを眺めながら、深くため息をついた。

 

 (……やっぱりチェンジ、検討しようかな)

 

 杯座の聖闘士としての日々は、まだまだ波乱含みで続きそうである。

 




最近、僕と杯座(クラテリス)の聖衣は、なんだかんだで“いい相棒”になってきた気がします。
 毎晩の日課は、聖衣をピカピカに磨くこと。べたついたメロンソーダの跡が残らないように、丁寧にクロスで拭き取り。最初はめんどくさかったけど、だんだんクセになってきた。

 それに――聖衣のほうも、学習してきたのか、最近「べたつき防止コーティング機能」が実装されたらしい。
 おかげで、どれだけメロンソーダを注いでも、表面サラサラ。最新家電も真っ青の進化っぷり。

 たまに鏡面仕上げの聖衣越しに自分の顔が映ると、「……なんか俺、ちゃんと聖闘士やってるな」と少し誇らしい気分になる。

 正直、最初は「地味だ」「チェンジだ」と文句ばかりだったけど――
 こうして毎日手入れして、たまに“機能追加”なんかもあったりして、
 気がつけば“相棒”として気に入ってきている自分がいる。

 そして、最近は聖衣のほうも、
 「ピピッ(メロンソーダ冷えてます)」とか、
 「ピカッ(番組表更新完了)」とか、
 どんどん現代志向のアプデが止まらない。
 ――なんか、だんだん“飼い主とペット”じゃなくて、“同居人”みたいな関係になってきたかも?

 ……まあ、何はともあれ。
 これからも“聖闘士(セイント)×現代志向クロス”の迷走コンビ、
 楽しくやっていきます!

 (杯座クロスの輝きは、たぶんこれからもメロン色。)

 

 次回もぜひ、お楽しみに!

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