聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
しかしヴァルハラ宮に待つは、微笑を纏う教主ドルバル、そして氷の姫君フレア!
友情の誓いを胸に進む蠍座・ミロ。
大地の如き盾を掲げる牡牛座・アルデバラン。
だがその背で、参謀長アッシュを狙うは――秘書エレナの嫉妬の刃‼
「アッシュ様は渡しません」
「参謀長はご自分で決められる方ですわ」
愛と陰謀が交錯する氷原の闘い!
次回――「氷原に響け!友情と嫉妬の凍てつく牙‼」
参謀長よ、胃痛に耐えて証を掴め!
氷原に響け!友情と嫉妬の凍てつく牙‼
聖域に、北欧アスガルドから一本の緊急連絡が入った。「定期視察に訪れていた水瓶座(アクエリアス)の黄金聖闘士カミュが、消息を絶った」。報が届いたのは夜明け前、教皇庁の量子通信端末。受信記録は短い。救難信号のタイムスタンプ、送信座標、そして風切り音のような雑音だけ。信号は途中で途切れ、それ以降は沈黙だった。
教皇シオン(中身はサガ)は会議室に入り、地図と気象データを重ね合わせた。表示された座標は氷原の外縁、アスガルドと聖域の緩衝地帯。吹雪が多発し、普通の捜索隊なら近づけない場所だ。サガは即座に悟った。これは遭難ではなく、もっと深い政治的な問題を孕んでいる。
彼は短く指示を下した。「公式調査団を派遣する」。名目は捜索だが、実際は交渉と観測、抑止のすべてを含む。同行者は四名に絞られた。
聖域総参謀長・杯座(クラテリス)のアッシュ。冷静な頭脳と現場判断の責任者。
首席秘書官・祭壇星座(アルター)のエレナ。参謀長を支える右腕であり、防諜と補佐を担う。
護衛は二人。牡牛座(タウラス)のアルデバランと、蠍座(スコーピオン)のミロ。アルデバランは圧倒的な盾であり、ミロは氷使いのカミュと縁深い盟友だ。
サガは彼らに親書を託した。封蝋の印章が押され、出発は日の出と同時と決まった。
輸送機はアテネを飛び立ち、北へ。雲海を越えて氷の大地に入る。機内ではアッシュがブリーフィングを行い、最後に発信された座標と現地の気象を共有した。エレナは淡々とメモを取り、アルデバランは大きな体を窮屈そうに折り曲げ、ミロは黙ったまま窓の外の雪雲を見ていた。
アスガルドの前線基地に降り立つと、乾いた冷気が肌を突き刺した。迎えに現れたのは女神官フリーダ。彼女は言った。「まずは前線の状況を確認してほしい」
基地の廊下には吹雪記録や物資の一覧が貼られ、数字は不足を示していた。フリーダが広げた地図には、吹雪の壁と巡視隊の引き返し地点が記されている。「ここでカミュ殿の信号が消えた」と彼女は言った。
「救助は?」アッシュが問う。
「二度出した。だが雪庇の崩落で引き返した。これ以上は無駄だ」フリーダは冷たい声で答えた。
アッシュは親書を渡し、「ドルバル教主へ直接」とだけ告げた。彼女は封蝋を確かめ、胸にしまった。
調査団は正午前に出発。雪上を進み、一時間後に発見したのは雪面の擦過痕。聖衣の外装が触れた跡だ。ミロは即座に断言した。「カミュだ」
午後、吹雪が強まり、視界が縮む。アッシュは「十歩ごとに声を出せ」と命じ、四人は声をつないで隊列を保った。その時、氷河の割れ目が現れた。裂け目の奥に青い光が揺れる。カミュの小宇宙の残滓だった。
「昨日の夕刻以降の痕跡だ」ミロが呟く。
アッシュは方針を変更し、「同心円で洗う」と指示。だが強まる吹雪に遮られた。雪が収まった後、残っていたのは引きずられたような線と、聖域のマントの端布だった。
「戻る」アッシュは即断した。
夜、前線基地でフリーダが彼らを迎え、「明日、ヴァルハラ宮で代表者会合がある。聖域も参加を」と伝えた。政治の場だ。アッシュはうなずき、エレナは親書を再確認した。アルデバランは暖を取り、ミロは窓外の闇を凝視し続けた。
眠りは浅かった。氷の割れる音と風の唸り。四人は無言のまま、心のどこかで「カミュは生きている」と感じていたが、遠い場所にいるとも理解していた。
翌朝、調査団は雪上車で神殿の町へ。窓の奥からよそ者を測る視線が突き刺さる。広場には狼の像と氷柱が並び、神殿の扉は重く音を立てて開閉する。案内の兵は「代表者が集まる。武器は持ち込めない」と言った。
四人は視線を交わし、紙と声だけで戦う準備を整える。扉が開く直前、風が止み、外の光が差した。遠い山脈の上、誰も気づかぬ青い閃光が走った。氷原は確かに応えていた。静かな時間は終わりを告げようとしていた
(アッシュ視点)
氷のヴァルハラ宮殿。白い石の壁と氷柱でできた大広間は、やたらに広くて寒い。暖炉もあるにはあるが、炎が小さくて全然役に立っていない。アスガルドの連中はこの寒さに慣れているのだろうが、こっちは薄着じゃないけど聖衣の下で体温調整に必死だ。
俺――聖域総参謀長、杯座(クラテリス)のアッシュは、堂々と歩を進めていた。護衛にアルデバランとミロ、秘書のエレナもきちんと控えている。教皇から託された親書を手にして、アスガルドの最高権力者ドルバル教主の前に立った。
ドルバルは玉座に腰かけ、実に穏やかな笑みを浮かべて言った。
「遠路はるばる、ようこそおいでくださった、アテナの聖闘士たちよ。カミュ殿の件、我らも心を痛めておる」
見た目だけなら完璧に善人だ。白髭に温厚な顔立ち、柔らかい声色。だが俺は知っている。この映画での黒幕はこいつだ。俺の脳内アラームは鳴りっぱなし。
(いや待て。今は映画じゃない。俺はこっちの現実にいる。だが、この笑顔は怪しい。映画と違う展開でも、絶対裏がある!)
俺は表情ひとつ変えず、親書を差し出した。
「ご配慮に感謝いたします、ドルバル教主。カミュは、定時連絡の直前に、こちらのヴァルハラ宮に立ち寄ったと聞いておりますが…」
「うむ。確かに彼は一度、私に挨拶を。だが、その後は『氷原の様子を見てくる』と言い残し、宮殿を出られた。以来、我らも彼の姿を見てはいないのだ」
ドルバルは落ち着いた声で答える。その仕草ひとつにも怪しさを感じる俺。
(ほら出た!映画と同じ流れだ!「去って行った」って、それ以上掘り下げさせない気満々じゃないか!俺は見逃さないぞ!)
俺は頭の中で大文字フォントで警戒レベルを「MAX」に設定。表情は完全にポーカーフェイス。だが内心では「よし!いざとなれば俺が真っ先に突っ込む!」とテンションが上がりすぎていた。
ドルバルは続ける。
「もちろん我らも最善を尽くそう。直ちに大規模な捜索隊を編成する。必要ならば騎士団も総動員しよう」
アルデバランが隣で頷いた。「ありがたい話だな。協力感謝する」
エレナも事務的に「ご対応に感謝申し上げます」と頭を下げた。
俺は内心で叫んだ。
(いや!信じるなアルデバラン!エレナ!それは善意の仮面だ!絶対に!)
でも声には出さない。参謀長の役目は冷静に観察、証拠を掴むことだ。だから俺はすぐに聖衣の量子回線でこっそりスキャンを開始した。通信妨害、盗聴、隠された回線。全部洗ってやる。
(ピピッ…!ノイズ多すぎる。これは自然の吹雪による干渉か?それとも意図的なジャミングか?……くそ、確証はない!)
「参謀長?」エレナが横目で俺を見る。
「ん?いや、何でもない」俺は咳払いでごまかした。
ドルバルはさらに優雅な笑みを浮かべた。
「どうか心配召されるな。聖域の同志がここで倒れているなど、あってはならぬこと。我らは必ずや見つけ出す」
ミロが口を開いた。「カミュは俺の戦友だ。頼りにさせてもらうぜ」
(おいミロ!簡単に信用するな!いや…ミロはそういうやつだな…。くそ、ここは俺がしっかりしなきゃ!)
俺は深呼吸し、丁寧に頭を下げて答えた。
「ご高配に感謝します。調査団としても最大限の協力を約束いたします」
その間も俺の心は絶叫していた。
(これ完全にラスボスの顔芸じゃん!絶対あとで豹変するやつ!頼む、今すぐ仮面外してくれ!)
だが周囲は真面目に会話を続けている。アルデバランは暖炉の火加減を気にして「もう少し強めにしてほしい」なんて要望を出すし、エレナは「輸送機の燃料補給もお願いしたい」と淡々と交渉している。
俺だけが必死にメタ的な予感と戦っていた。
「参謀長、体調は?」エレナが耳打ちしてくる。
「大丈夫だ。冷えてきただけだ」
(いや冷えてるのは確かだけど!本当に冷や汗で背中まで濡れてる!)
そんなやり取りの最中、ドルバルは席を立ち、大広間に響く声で告げた。
「では、明日から捜索隊を組織しよう。聖域の代表もぜひ同行を」
拍手のように周囲の家臣たちが応じた。雰囲気は完全に「誠実な同盟」。
(違う!絶対この人、裏切る!……でも証拠がない!参謀長の直感だけじゃ誰も動けない!)
俺は心の中で「証拠はどこだ」と繰り返しながらも、外面は冷静に「ありがたく」と答えるしかなかった。
ヴァルハラ宮殿での会談を終え、俺たちはようやく一息つけると思った。だが、そうは問屋が卸さなかった。ドルバル教主は自らの側近であるフレイ司教と、その妹フレアを呼び寄せた。
兄のフレイは見ての通りの真面目な戦士。無骨そうなのに顔立ちがやたら整っているせいで、妙に絵になる。妹のフレアはというと――まるで北欧神話から抜け出したような美貌に、あの氷の世界に似合わぬほど温かい微笑みを浮かべていた。
「アッシュ様…でしたか。長旅でお疲れでしょう。こちらでは、どうかご不便なくお過ごしくださいませ」
彼女はにっこり微笑みながら、初対面にも関わらず、俺の半径30センチ以内に侵入してきた。普通の外交儀礼なら1メートル以上は距離を取るもんだろう。
(なんだこの近さ。俺の個人スペースは氷原より広いはずなのに…!)
しかも視線が熱い。氷の国の姫君らしい神話的な美貌に、慈愛に満ちた瞳。完全に「アッシュ命名済み」みたいな顔をして俺を見ている。
俺の横にいたエレナの表情が、すっと氷点下に落ちた。
(やばい。きた。積尸気ジェラシーモードだ)
空気が一瞬で張り詰める。アルデバランが「む…?雪雲でも来たか?」と首をかしげるほど。違う。これは積尸気。
俺は慌てて小声で囁いた。
「エレナ、やめろ!外交中だぞ!」
「承知しております、参謀長」
エレナは笑顔を崩さず答えるが、目は死ぬほど冷たい。
「ただし、あの女が貴方様の半径1メートル以内に入った場合、私の小宇宙は暴発します」
(暴発すんな!爆弾かお前は!)
ところがフレアはそんな空気を全く意に介さない。俺の腕に自然な流れで自分の指先を軽く触れさせた。
「アッシュ様のお手は…こんなにも冷たいのですね。どうか、このフレアが温めて差し上げたく存じます」
(おいおい!初対面で「温める」ってなんだ!人肌カイロじゃないんだぞ俺は!)
隣でエレナの積尸気ゲージが一気にレッドゾーンに突入。背後に冥界の門が見えた。
「エレナやめろォ!!!」
俺は小宇宙を全力で展開して相殺する。外交どころじゃない。胃が死ぬ。
アルデバランが怪訝そうに振り返る。
「どうしたアッシュ?さっきからお前と秘書官殿の後ろに変な蜃気楼が見えるんだが」
「気のせいだ!温度差で見える蜃気楼だ!気にするな!」
フレアはさらに追撃してくる。
「アッシュ様、長旅でお疲れでは?もしよろしければ今夜、私の部屋でお茶を」
「ダメです」即答したのはエレナだった。声のトーンは0度。
「参謀長は外交日程で多忙です。余計な誘惑に乗る必要はありません」
フレアはくすっと笑い、俺を見つめたまま答える。
「まあ…参謀長はご自分で決められる方だと、私は思っております」
(お前らやめろ!外交を私物化するな!)
俺は両手で二人の間に物理的な壁を作るしかなかった。氷原より寒い視線と、春の陽気みたいな甘さに挟まれて、汗が背中を流れる。
宿舎に着いても事態は収まらなかった。夕食の席でも、フレアは俺の隣に座る。料理を取り分けてくれる。
「アッシュ様、この鹿肉をどうぞ。お口に合うかしら」
「いや、自分で取れるから!外交官として手は使えるから!」
隣のエレナは完全に沈黙。しかし、フォークを握りつぶさんばかりの力で皿が軋んでいた。
(皿が割れる!やめろエレナ!食器は外交の友だ!)
フレアはさらに大胆になった。
「アッシュ様、雪解けの泉が近くにございます。明日の朝、二人で散歩など…」
「却下です」エレナの声が響く。
「参謀長は夜明けと共に会議資料の整理をされます。そんな暇はありません」
「まあ…エレナ様は本当にお仕事熱心なのですね。でも、たまには人の心も見て差し上げないと」
その言葉にエレナの額の青筋が見えた。小宇宙の温度も一気にマイナス200度へ。
(戦争だ!こいつら明日には戦争を始める!)
俺は立ち上がり、両者に両手を突き出した。
「落ち着け!ここはアスガルドだ!俺たちは外交に来てるんだ!頼むから氷原に冥界の門を開くな!」
二人とも口を閉じたが、目は火花を散らしたまま。
(くそっ…本当に戦うべきは氷の戦士じゃない。女神みたいな姫と、俺の秘書官の恋の戦争だ…。俺の胃袋がもつかどうかは、誰も保証してくれない…!)
フレア「アッシュ様は…実に頼もしい方ですね。ぜひ、このアスガルドの地にも、何度も足を運んでいただきたいものです」
エレナ「……参謀長のお務めは聖域にございます。無闇に他国に足を運ばせるわけには参りません」
フレア「まあ。ですが、氷原に立つ姿もまた絵になると思いませんか?極寒の中で輝く参謀長――まさに英雄のよう」
エレナ「……絵になるかどうかは存じませんが、参謀長を“飾り”にする気はございません。彼は聖域にて指揮を執るべきお方ですから」
フレア「ふふ……聖域に縛り付けておきたいのですね。けれど心は自由なもの。参謀長が選ぶのは……きっとご自身の意思」
エレナ「……心配なさらずとも、参謀長は必ず正しい選択をなさいます。――ええ、“余計な誘惑”に惑わされることなく」
フレア「……ふふ、頼もしいですわね、エレナ様」
氷の花より冷たく、炎より熱い火花が散った。
十二宮編の最後は誰と誰の対決に?
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アッシュと星矢
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サガとアイオロス
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アッシュとアイオロス
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サガと星矢