聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
兄フレイ、己が命を懸けて訴える忠誠の声!
妹フレア、その想いを受け継ぐ凛とした瞳!
だが、玉座に座すドルバル教主の微笑みは、果たして慈悲か、それとも支配の仮面なのか!?
参謀長アッシュ、命を懸けた論戦の小宇宙を燃やせ!
秩序は揺らぎ、忠誠は震える。
氷原の真実を貫くのは、言葉か、それとも矢か――!!
次回「揺らぐ秩序、震える忠誠!兄妹の絆と参謀の誓い!!」
アスガルドの夜が、運命を照らす!
(フレイ視点)
俺は、胸の奥が燃えるように熱かった。
ロキの野望は、もう見過ごせない。あいつはアスガルドのためを口にしながら、自分の欲望のためにすべてを利用している。聖域の使者を挑発したあの態度もそうだ。必ず禍を招く。
だからこそ俺は、教主ドルバルの前に膝をついて訴えていた。
「教主!神闘士のロキには、アスガルドのみならず、聖域をも支配しようという邪な野望があります!このままでは、アテナとの間に無用な戦が起きてしまう!」
自分の声が震えているのが分かった。恐怖じゃない。焦燥だ。
フレアの顔が頭に浮かぶ。彼女だけは巻き込みたくない。だから俺が今、ここで止めなければ。
だが玉座の上の男は、相変わらず柔らかい微笑みを浮かべたままだった。
「フレイよ、落ち着きなさい。ロキがそのような大それたことを考えているとは、私には思えんが…」
「いいえ!私には確信があります!どうか、奴の暴走をお止めください!」
声が裏返るほどに叫んでいた。けれど、ドルバルはただ静かに俺を見つめていた。
長い沈黙のあと、ようやくその口が動いた。
「…分かった、フレイ。君の忠誠心、しかと受け取った。ロキのことは、私からよく言い聞かせておこう。もう下がって良い」
「……はい」
胸を撫で下ろし、立ち上がる。良かった。聞き入れてくれたのだ。これでロキの暴走は止まる。そう信じて、俺は背を向けた。
だが次の瞬間、背筋が凍りついた。
理由は分からない。ただ、得体の知れぬ寒気が、背中に突き刺さったのだ。
(これは…殺気…?まさか、教主が俺に…?)
振り返ろうとした瞬間——
コン、コン。
扉を叩く音が響いた。
ドルバルの殺気が、すっと消える。
「…誰かな?」
その声色は、先ほどと同じ穏やかさに戻っていた。
だが、俺は背中に張り付いた悪寒を忘れられなかった。
(——今、俺は死にかけた…のか?)
背中に冷たい汗を流したまま、俺は部屋を後にした。
(アッシュ視点)
扉の向こうから返ってきた声は、驚くほど落ち着いていた。
「…誰かな?」
俺は深く息を吐き、声を整えた。
「夜分に失礼いたします、教主。聖域のアッシュと申します。ぜひ、貴方様と二人きりで、お話がしたい儀がありまして」
ドアが音もなく開かれる。玉座の間に入ると、そこには先ほどフレイが見たのと同じ、慈悲深げな笑みを浮かべるドルバルがいた。
「これは、聖域の参謀長殿。こんな夜更けに、どのようなご用件かな?」
俺は一歩進み、深く頭を下げた。外交の礼儀は大事だ。だが、その裏で、聖衣のセンサーは全力稼働だ。ほんの数秒前まで、この部屋の小宇宙が異様に膨れ上がっていたのを俺は捉えていた。
まるで誰かを殺そうとした直後のような、鋭い針のような波動を。
(フレイ…お前、危なかったな。間一髪で助かったかもしれんぞ)
心の中で呟きながら、俺は笑顔を保った。
「突然で恐縮ですが、いくつか確認させていただきたいことがございます。カミュ殿の消息についてです」
「カミュ殿の件か…。我らも心を痛めておるのだ」
ドルバルは眉を下げ、まるで慈父のように語る。だが俺は一切信じていなかった。
だって俺は知っている。この男がすべての黒幕だと。原作映画と状況は違うが、その本質は変わらないはずだ。
「彼が最後にここを訪れた後、氷原へ向かわれたと伺いました。捜索隊はどこまで展開されているのでしょう?」
「すでに最精鋭の神闘士を派遣した。必ずや見つけ出そう」
「なるほど」
表情を変えずに頷く。
だが、胸の奥では警報が鳴りっぱなしだ。
(ロキたちを野放しにしておいて、よく言うよな。完全にグルじゃないか。いや、下手すりゃ主犯格だろ)
彼の言葉の一つ一つを脳内で反転させる。
「必ず見つけ出す」→「二度と表に出させない」。
「心を痛めている」→「処理に手間取っている」。
そう解釈すれば、全て腑に落ちる。
「フレイ。お前も疲れておろう。今宵はお休みなさい」
「ええ。お心遣い、痛み入ります」
一歩下がり、礼を取る。
それだけを言って、彼は去っていった。
◆
フレイが去った扉が閉まる音が、やけに重く響いた気がする。残されたのは俺とドルバル、ただ二人。照明に照らされた玉座の男は、相変わらず慈悲深げな笑みを浮かべていた。だが俺の目には、それは仮面にしか見えなかった。
俺は杯座の聖衣を纏ったまま、迷彩を解いて正面に立つ。
「…随分と、乱暴な人事をなさるのですね、教主」
「ほう?何のことかな、アッシュ殿」
ドルバルは笑顔のまま言う。その口調は実に穏やかだ。だがその裏で、つい先ほどまでフレイを殺そうとした小宇宙が渦巻いていたのを、俺は確かに感じ取っていた。
「フレイの忠誠心に、感心していたところだよ」
「そうですか」
俺は目を細めて言った。
少しの間を置いてから、俺は切り込んだ。
「ところで教主、貴方様にとって『支配』とは、一体何ですかな?」
唐突な問いだったのだろう。ドルバルは眉をひそめた。
「…何の話か分かりませんな。私はオーディーン神に仕える、ただの代行者にすぎません」
「そうでしょうか?」
俺は一歩前へ踏み出す。
「支配とは、ただ命令して従わせることではない。恐怖で縛りつけることでもない。俺にとっての支配とは、人の心を握り潰し、逆らう気力すら奪うことです。そういう意味で言えば、貴方は実に巧みに人を支配している」
ドルバルの目が細くなった。わずかに笑みを崩したのを、俺は見逃さなかった。
「……随分と大きな口を叩く」
「聖域の参謀長ですからね。舌戦くらいは仕事のうちです」
俺は肩をすくめてみせた。だが心臓の鼓動は速くなっていた。目の前の男は神の代行者。力だけなら、黄金聖闘士に匹敵するどころか、それ以上の存在だ。真正面から戦えば無傷では済まない。だからこそ、言葉で揺さぶる。
「支配とは…秩序を守ることだ」
ドルバルは低い声で言った。
「人は弱い。群れをなせば必ず争いを起こす。だからこそ、強き者が導かねばならぬ。それが我の務めだ。フレイも、フレアも、ロキも、すべてはオーディーンの御心のもとにある」
「秩序、ですか」
俺は鼻で笑った。
「ならば、なぜカミュ殿は姿を消したのです?秩序を守る貴方の地で。なぜロキのような野心家を放置しているのです?オーディーンの御心を盾にして、実際には自分の思うままに操っているのではないですか」
ドルバルの瞳が鋭さを帯びた。
「……探りを入れに来たのか」
「ええ。聖域の参謀長は、そういう役割ですから」
俺は淡々と答える。
しばしの沈黙。玉座の間を冷たい風が抜けたような気がした。
ドルバルは、やがて薄く笑った。
「アッシュ殿。貴殿の目はよく見えている。だが、見えているからといって、それを口にすれば身を滅ぼすぞ」
「忠告感謝します」
俺も笑った。
「ですが、俺は参謀長ですから。危険を見て見ぬふりをすれば、それこそ役立たずです」
「……なるほど。口だけではないか」
「オーディーンの地上代行者…確かに、アスガルドにおいては、それは絶対的な地位でしょう」
俺は一呼吸置いてから言った。
ドルバルの口元には、いつも通りの穏やかな笑みがある。その微笑は信徒を安心させるためのものだろうが、俺にはただの仮面にしか見えなかった。
俺は一歩前に出て、玉座に近づく。
「ですが、世界全体から見れば、それは所詮、一つの地方における、宗教的権威に過ぎない。…違いますか?」
その瞬間、空気が変わった。
俺の言葉は、相手の急所を突いたらしい。ドルバルの穏やかな顔がわずかに歪む。ああ、効いている。
「……私を愚弄しに、わざわざここまで来たのですかな?アテナの聖闘士よ」
低く唸るような声。
次の瞬間、凍てつくような小宇宙が玉座の間を覆った。冷気が走り、床石に白い霜が広がる。ドルバルの小宇宙は、まるでアスガルドの大地そのものが怒りを示しているかのようだった。
だが俺は動じなかった。いや、動じるわけにはいかなかった。
もし怯んだ素振りを見せれば、それはすなわち「屈した」と宣言するようなものになる。
俺は手を軽く上げ、静かに言った。
「お待ちいただきたい。先ほども申し上げたはずです。私は今日、貴方様と話をしに来たのだと」
ドルバルの動きが止まる。その瞳に、俺を計りかねる色が宿った。
そうだ、俺は攻撃の構えすら見せていない。挑発はしたが、ここで戦いを望んでいるわけではない。それが逆に、奴の警戒心を揺らがせる。
「……大した胆力だな」
ドルバルの声がわずかに低くなる。
「お褒めにあずかり光栄です」
俺は微笑んで返す。表面上は余裕を崩さない。だが背中には冷や汗が伝っていた。
沈黙が訪れる。
この場で必要なのは力ではない。小宇宙をぶつけ合う戦いではなく、言葉と心理の戦いだ。
「教主」俺は言葉を続ける。
「支配というものを、貴方はどうお考えですか?」
「またその話か」ドルバルは目を細めた。
「ええ。支配とは、恐怖で縛ることか。信頼で繋ぐことか。アスガルドの現状を見れば、どうやら前者のように思えて仕方がない」
「ほう…」
ドルバルの口元に、今度は笑みではなく冷たい線が刻まれた。
「アスガルドの民は厳しい自然と常に戦っている。秩序なくして生き残れるはずがない。だからこそ、強き者が導くのだ。私の役目はそれだけだ」
「導くために、民の自由を奪うと?」
「奪うのではない。守るのだ。民は望んでいる。自ら考え、自ら責任を負う苦痛から解放されることを。私のもとで祈りを捧げ、生き延びることだけを願う。それで十分なのだ」
俺は息を吸い、静かに吐き出した。
「それは、貴方がそう思わせているだけでは?」
ドルバルの目がギラリと光る。
「……言葉に気をつけろ」
「ご忠告感謝します」俺は肩をすくめて見せた。
俺は軽く息を吐き、相手を見据えた。
「……教主。支配とは、より大きな権威に必ず負けるものだ。だからこそ、人は、より大きな権威を、より大きな権力を欲するものだ」
言葉を切り、玉座に座る男へ問いを突き刺す。
「教主は……そう思わないか?」
ドルバルの瞳に、一瞬だけ炎のような野心が揺らめいたのを、俺は確かに見逃さなかった。
アルデバラン「……ふぅ。やっぱり肉は正義だな。氷原でも変わらん」
(骨付き肉を丸かじり)
ミロ「おいおい、そんなに食って大丈夫か? 今ごろ参謀長は教主と頭脳戦やってるってのに、お前は一人で“胃袋の戦い”かよ」
(パンをちぎりながらワインをぐびり)
アルデバラン「アッシュ殿は小賢しいことを考えるのが仕事だろう? 俺は食うのが仕事だ」
ミロ「仕事って……お前、それ黄金聖闘士の務め違うだろ」
アルデバラン「大地を守るには、まず大地の恵みを食わねばな」
(満面の笑みで、テーブルに肉を追加)
ミロ「ははっ、理屈めちゃくちゃだな。でもまあ……悪くない」
(骨をしゃぶりつつ、ちらりと窓の外を見る)
「……氷原の風、冷てぇな。カミュ……お前、どこで凍えてんだ」
一瞬だけ空気が凍る。だがすぐにアルデバランが大声で笑った。
アルデバラン「心配するな、ミロ。あの氷使いが、そう簡単に凍るもんか」
ミロ「……だな」
(ワインを一気にあおり、口元に笑みを浮かべる)
「よし、食ったらすぐ寝るぞ。明日も吹雪だ。胃袋だけは凍らせねぇようにな」
アルデバラン「おう! 聖闘士に必要なのは、拳と胃袋だ!」
二人の笑い声が、暖炉の火に混じって食堂に響く。
その裏で、アッシュとドルバルの静かな論戦が続いていることなど、二人はまだ知らなかった。
十二宮編の最後は誰と誰の対決に?
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アッシュと星矢
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サガとアイオロス
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アッシュとアイオロス
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サガと星矢