聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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氷原に吹き荒れる吹雪の中、
ついに相まみえた蠍座の黄金聖闘士・ミロと、
神闘士ミッドガルドと化した親友カミュ!

友情か、宿命か――
胸を灼く真紅の小宇宙は、
果たして氷の鎖を打ち破れるのか!?

次回「友情か、宿命か!氷原に散る蠍の真紅‼」

親友にして最大の敵――
蠍座のミロ、魂の一撃を見届けろ‼


友情か、宿命か!氷原に散る蠍の真紅‼

(ミロ視点)

 

 

 

吹雪の音がうるさいほどに響く中で、俺は膝をついていた。右腕は氷漬けで動かせない。肩口まで感覚がなくなり、力を入れようとすればするほど痛みが走る。息も荒く、血が口の端を伝って落ちた。

 

目の前に立つのは仮面を外した神闘士――いや、水瓶座のカミュだ。

だが、その瞳には俺の知っている親友の温もりは一欠片も残っていなかった。

 

「消えろ、ミロ!」

 

冷気を纏った拳が唸りを上げ、俺の腹に叩き込まれた。肺の中の空気が一気に押し出され、喉から嗚咽が漏れる。続けざまに蹴りが飛び、俺の身体は雪原を転がっていった。

 

「ぐっ……!カミュ、やめろ!俺は、お前とは戦いたくない!」

 

必死に叫んだが、拳は止まらない。雪を蹴り上げるように冷気のラッシュが襲いかかり、俺の黄金聖衣は瞬く間に白く凍りついていく。聖衣ごと砕けそうな衝撃が次々と身体に走る。

 

「……なぜだ、カミュ!お前ほどの男が、なぜアテナを裏切る!」

 

俺は血を吐きながら問いかけた。答えを聞かずにはいられなかった。

 

カミュは冷たい瞳で俺を見下ろし、まるで氷塊そのものが言葉を発するかのように言い放った。

 

「アスガルドに来て、私は真の神を知った。一度も姿を見せぬアテナなどよりも、この地を厳しくも正しくおさめるオーディーンこそが、我らが仕えるべき最高の神であると。神闘士こそ、最高の神に仕える、最高の勇士なのだ!」

 

その言葉に俺の心臓が軋んだ。信じられなかった。あのカミュが、自分の意志でそんなことを言うなんて。

 

「……洗脳されているのか、カミュ……!」

 

声を振り絞ると、あいつは首を横に振った。

 

「いいや、私は自らの意志で選んだのだ。そして、その障害となるのなら……ミロ、お前を殺す!」

 

その瞬間、容赦ない冷気が再び迸った。俺は必死にかわそうとするが、凍った右腕がバランスを崩させ、思うように動けない。肩口に冷気が掠めるだけで皮膚が裂け、血が飛び散った。

 

「ぐあっ……!」

 

雪に膝をつき、視界が揺れる。凍気が骨にまで染み込んでいくようで、全身が痺れて動かない。だが、心だけは折れなかった。

 

「カミュ……お前が本当にそう思っているなら……俺は……!」

 

言葉が途切れた。目の前に立つのは親友か、敵か。答えは出ない。ただ一つ分かるのは、俺の心がまだカミュを信じていることだ。氷に閉ざされた彼の心を、どうにか取り戻したい。それだけが俺を立たせる力になっていた。

 

「俺は……まだ、お前を……諦めねえ!」

 

左腕に残る力を振り絞り、小宇宙を燃やす。黄金聖衣が赤く輝き、凍りついた身体にわずかな熱を戻してくれる。だが、それでも右腕は動かない。

 

「……フッ、往生際が悪いな」

 

カミュが指を弾くように構え、冷気がさらに強まった。絶対零度の波が俺を包み込み、肺の中の空気すら凍りつきそうになる。

 

「ミロ、お前はここで終わる」

 

その冷酷な宣告に、俺は奥歯を噛み締めて立ち向かった。

 

「違う……!終わらせねえ!俺は蠍座の黄金聖闘士……アテナに仕える聖闘士だ!そして、カミュ、お前の親友だ!そのどっちも捨てられねえ!」

 

声を張り上げながらも、次の一撃を受ければ本当に立てなくなるかもしれないと分かっていた。それでも――俺は一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪は弱まらない。右腕は肘から先がまだ白く、氷の鎖みたいに重い。握ろうとしても、指は自分のものじゃない感覚だ。目の前のカミュ——いや、今のあいつは神闘士ミッドガルド。あの瞳に、俺の知っている色は一片も残っていない。

 

(そうか……お前の目が覚めないのなら……俺が、この手でお前を止めるしか、道はないのか)

 

胸の奥がきしむ。情を捨てる覚悟じゃない。救い出すために、殴る覚悟だ。俺は左手だけで構えを取り、右肩をわずかに落として重心を前に送る。凍った右腕が振れないなら、別の道で届かせる。

 

カミュが動いた。氷の息吹を吸い込む。

「無駄だ、ミロ。その腕で、私に何ができる」

 

次の瞬間、白い閃光が奔った。ダイヤモンドダスト。絶対零度の粒子が風の刃になって迫る。視界が一面の白で塗り潰され、皮膚が針のように痛む。身体ごと持っていかれる圧だ。

 

(速い……けど、見えている)

 

俺は一歩も退かない。左足で雪を踏み砕き、肺を絞って吐息を細くする。心臓の鼓動に意識を合わせ、間合いの内側で「何もしない」構えをつくる。カミュの冷気が胸を通過した刹那、俺はわずかに首を傾けただけだった。

 

やり過ごした直後、カミュの口元に勝ち誇った影が差す。俺が倒れる未来を、あいつは疑っていない。けれど——俺は立っていた。膝もついていない。

 

「……バカな」

 

カミュの胸元に、細い傷が浮かぶ。神闘衣の上に、真紅の点がひとつ、ふたつ——やがて十四。蠍座の星の並びを、寸分違わずなぞるように。

 

「いつの間に……?」

 

俺は口角を上げる。

「お前のダイヤモンドダストと、俺のスカーレットニードル。どちらが速いか、試してみたくなってな」

 

ダストが肌を撫でた一瞬。雪風の視界に紛れて、左足の踏み出しと同時に肩を落とし、凍った右腕を『いつも通りに』刺した。胸の拍動と背中の捻りで指先だけを前に押し出す。届いたのは、目に見えない真紅の十四針。

 

カミュの表情がわずかに歪む。そこから、遅れて激痛が走ったのだろう。だがそれで終わりじゃない。胸の傷口から、冷え切った肉体の内側に、逆流するような熱が広がり始めるはずだ。

 

「……これは、何だ」

 

「教えてやるよ。俺の右腕は凍ってた。外側からは、な。けど凍らない場所がひとつだけある」

俺は自分の左拳で胸を軽く叩く。

「ここだ。心臓だよ」

 

喉の奥で笑いそうになる。痛みを誤魔化す悪い癖だ。肺が焼けるようで、笑うどころじゃないのに。

 

(師範の言葉、忘れてねえぞ)

 

——いいかミロ。小宇宙を熱に変換して、心臓をコアとして貯蔵、点で放出する。理論上、超新星爆発に匹敵する熱量を、針先の一点に込められる。外側を凍らされても、内側から溶かせ。

 

「小宇宙を燃やすんじゃない。焦がすんだ」

 

囁くように言いながら、俺は背骨で熱を汲み上げるイメージを描く。耳の奥がキンと鳴って、視界の外縁が赤く滲む。心臓が一拍ごとに火花を散らし、その火花が血流に乗って右腕の氷に触れる。チリ……チリ……と、内側から蒸気が立っていく感覚。

 

バキ、と音がした。右腕を包んでいた氷が、内爆するように割れた。皮膚が焼ける。熱は俺自身も容赦なく焼く。心筋が痙攣して、膝が笑いそうになる。だが、踏ん張る。

 

カミュが目を細めた。「小手先の熱で、この氷が溶けるとでも?」

 

「小手先じゃねえよ」

俺は右手の指を一本ずつ、ゆっくりと開いた。まだ感覚は鈍い。けれど、動く。十分だ。

「お前の絶対零度が届かない場所から、溶かしてんだ」

 

十四の針痕から、カミュの体内に熱が走る。絶対零度の均衡は、内側から崩すのが一番早い。凍り付いた湖面の下に焚き火を押し込むみたいに。

 

カミュが息を呑む。胸に手を当て、眉根を寄せる。

「……身体が……燃える……?」

 

「そうだ。お前の心がいま、燃えてる」

俺は息を荒げながら笑う。「氷に閉ざされたままじゃ、そこには辿り着けないところだ」

 

カミュの足取りがわずかに乱れた。そこに、俺は賭ける。痛みで膝をつきかけた自分の足を、もう一度踏み締める。

 

「カミュ……これで目覚めてくれ。俺はお前を殴るためにここに来たんじゃねえ。引き戻すために来たんだ」

 

応える代わりに、カミュは眉一つ動かさず冷気を立ち上らせる。

「情に訴えるだけか、ミロ。ならば、凍てつけ」

 

雪の粒が尖り、空気自体が刃になる。まだ終わっていない。あいつは氷の理で、自分自身を守り続けている。十四の針だけじゃ、届かない。なら——落とす。

 

「覚悟を決めろ、蠍座の聖闘士」

 

自分に言い聞かせるみたいに呟き、俺は心臓をさらに焚く。胸の内側で、爆ぜる。視界が白から赤に反転し、世界の輪郭が震える。

 

(ここから先は、俺の身体が先に壊れるかもしれねえ。それでもいい。届くなら、それでいい)

 

右手の指先に、太陽みたいな白熱が灯る。小宇宙の熱を一点に圧縮し、さらに圧縮する。針先ひとつに、心臓ひとつ分の鼓動を押し込むイメージ。

 

俺はカミュを見据え、低く名を呼ぶ。「カミュ」

 

「あの時の教え、返すぜ。冷たさじゃなく、熱でな。……お前の凍てついた心を、溶かせるもんがあるとするなら——」

 

指先で空を切る。蠍の星々をなぞる動きの、さらに奥。十四針の上位。凍結の理に逆らう、灼熱の一撃。

 

「これしかねえだろうが!」

 

胸が締め付けられる。痛みで視界が滲む。けれど、その瞬間だけ、俺は笑っていた。

 

「くれてやるぜ……俺のこの心臓〈いのち〉の、一番熱いところをなァ!!」

 

「スカーレットニードル・カタケオ!!」

 

指先が、音もなく世界を焦がした。風が止み、吹雪が一瞬だけ退く。針は見えない。だが、確かに刺さる。十四の星を繋ぐ見えない線の、その中心へ。

 

カミュの身体が強張り、息を飲む音が聞こえた。氷の理が軋む。凍り付いた城壁に、内側から火薬を仕掛けたみたいに、静かで派手な崩れ方をする——はずだ。

 

「……目を、覚ませ」

俺は祈るみたいに呟く。

 

届いてくれ。届かなきゃ、次で終わらせる。

 

衝撃の余波で俺の膝もついた。脈が乱れ、胸の奥が痺れる。やり過ぎれば心臓そのものが焼き切れる——分かっていて踏み込んだ。世界が遠のきかけるのを、歯を軋ませて引き戻す。

 

カミュの肩がわずかに揺れた。白い息が崩れ、額に紅が差す。氷の男が、熱で顔色を変えた。俺の十四針とカタケオは、確かに届いた。だが、まだだ。氷は厚い。

 

「……くだらん、幻惑だ」

カミュは自分に言い聞かせるみたいに吐き捨て、両腕を交差させた。空が鳴る。周囲の冷気が渦を巻き、雪片が逆流する。見慣れた構え——オーロラエクスキューション。

 

「やめろ、カミュ!」

思わず叫ぶ。あれを正面から受けたら、いまの俺は粉になる。だが彼は止まらない。瞳の奥で揺れていたものが、また固く凍りついていく。

 

(踏み込め。迷った瞬間に、全部終わる)

 

俺は前へ出た。足裏の感覚がない。右腕はまだ焼け付くように痛い。けれど、前に出る。十四針の熱が、あいつの胸の奥に残している“隙”を信じて。

 

「ミロ。迷いは死を呼ぶ」

カミュが低く言う。その言葉に、胸の奥の古い記憶が疼く。修行場で何度も叩き込まれた台詞だ。

「だからこそ、俺は迷わない」

 

俺は返す。声が震えているのは寒さのせいだと、自分に嘘をつく。

「お前を救い出すって、決めたからな」

 

オーロラの渦が収束する。白い極光が指先に集まり、空間がビリビリと軋む。直撃すれば終わり。ならば直撃させない。俺は身体を低く折り、蠍の姿勢で滑り込む。氷に靴底が噛まない。だが、滑りもまた推進になる。

 

至近。カミュの睫毛の白さが見えた。十四の針痕が、胸の奥で赤く脈打つ。そこに、さらに熱を加える。俺は心臓に合図を送り、鼓動をひとつ飛ばす。次の拍で倍の熱を叩きつける。脇腹の内側で何かが破裂し、吐き気をこらえた。

 

「はぁぁっ!」

右指先で、触れるか触れないかの距離をなぞる。針は見えない。だが、確かに“星座”を繋いでいく。

 

カミュの動きが、ほんの一瞬だけ鈍った。構えが解けるほどじゃない。だが、その一瞬の遅れが命を分ける。彼の吐息が乱れ、極光の収束がわずかにぶれる。

 

「カミュ、聞こえるか!」

俺は叫ぶ。耳元で風が吠え、声は千々に割れる。

「お前はアテナの黄金だ!オーディーンでも、ドルバルでもねえ!氷の理を教えてくれたのは誰だ!迷うなって叱ってくれたのは誰だ!親友のお前だろうが!」

 

視線が、ぶつかった。氷の向こうで、わずかに揺れる光を見る。そこに賭ける。

 

「俺は今でも信じてる。お前の冷たさが、弱さを切り捨てるためじゃなく、仲間を守るための刃だってことを!」

 

極光がうねった。カミュの腕がわずかに下がり、次の瞬間にはまた持ち直される。その迷いは、確かにあった。だが、洗脳の鎖は重い。俺の言葉だけじゃ、切れない。

 

(なら、俺の“針”で切るしかねえ)

 

心臓が悲鳴を上げる。視界の端で黒い斑点が踊る。息が続かない。けれど、止めない。ここで止めたら、あいつは戻ってこない。

 

「……ミロ。私は——」

カミュの唇がかすかに震える。そこに言葉が生まれる前に、吹雪が割り込む。ロキの笑い声が遠くで風に乗った気がした。時間がない。俺は決める。

 

「覚悟を決めろ」

自分自身に告げる。蠍座の聖闘士として。親友として。

 

右手の指が熱で痺れ、皮膚が裂けて血が滲む。だが、熱は血をも蒸す。痛みは境界だ。生きている印だ。

 

「スカーレットニードル・カタケオ——第二波だ」

低く、誰にも聞こえない声で宣言する。針は声を必要としない。必要なのは意志だけだ。

 

俺は針先で、見えない扉の蝶番をひとつずつ外すつもりで、十四の点をもう一巡なぞった。熱は制御の限界に近い。少しでも狂えば、自分の心臓が先に焼け落ちる。だが止めない。

 

カミュの膝が、一瞬だけ折れた。極光は完全には消えていない。だが、彼の瞳の氷に、細い亀裂が走るのが見えた気がした。

 

「……ミロ」

名を呼ぶ声が、ほんの少しだけ、昔の温度に近づく。俺は息を飲む。届いたか? いや、甘い。まだ最奥までは溶けていない。

 

「戻ってこい、カミュ」

短く言った。これ以上、長い言葉はいらない。身体が保たない。

 

彼は目を伏せ、次いで顔を上げる。そこに宿ったのは、再びの冷徹。

「情は、凍てつく」

 

吹雪が吠え、極光が牙を剥く。彼は戻っていない。いや、戻れない。鎖が絡みついている。

 

俺は小さく頷いた。胸の奥で、最後の選択肢が燻る。アンタレス——十五針目。救いにも、死にも通じる、蠍の心臓。

 

「……そうか」

吐息が白く千切れる。足元の雪が鳴る。

 

アンタレス——戦の星に抗う名を持つ、最後の毒針。友を殺すためじゃない。友を連れ戻すための最終手段だ。外せば、取り返しがつかない。だが、撃たなければ、取り返す機会すら永遠に失われる。

 

俺は右足を半歩引き、雪を噛ませる。肩を落として、心臓の拍動を数える。——一、二、三。打つたびに熱が集まる。指先の震えが止まり、世界の雑音が遠のく。吹雪の壁の向こうで、仲間の小宇宙が微かに揺れた気がした。待っていろ。ここで終わらせる。

 

「カミュ」

もう一度だけ、名を呼ぶ。返事はない。なら、俺が答える番だ。

 

「これで目覚めてくれないなら——アンタレスを撃つしかない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪が割れた。

俺とカミュ、二人の小宇宙が天を震わせるほどに燃え上がり、氷原の空が裂ける。

 

カミュの腕が交差し、極光を纏う。

「——オーロラ・エクスキューション!」

 

白銀の奔流が直線に伸び、空間を凍てつかせながら迫ってくる。世界そのものが氷の彫像になるような絶対零度の光。

 

俺も、もう迷わなかった。

「——スカーレットニードル・カタケオ・アンタレス!!」

 

右手の指先に凝縮した、命そのものの熱。十四針を超えた蠍の十五の毒針。心臓を焼き尽くしてでも放つ、最後の真紅の一撃。

 

氷と炎。極光と灼熱。

二つの技が、氷原のただ中で真正面から激突した。

 

——轟音。

——閃光。

 

空が砕けたような爆発。吹雪が一瞬で消し飛び、夜の空に炎の渦と氷の破片が散る。

熱と冷気が互いを押し潰し合い、世界の温度が狂ったように跳ねる。頬を焼く熱と、肺を刺す冷気が同時に襲ってきて、立っているのもやっとだ。

 

「カミュぅぅぅっ!!!」

「ミロぉぉぉぉっ!!!」

 

互いの名を叫びながら、最後の力を振り絞る。

一瞬、爆心の中心で、俺とカミュの視線が交錯した。あいつの瞳に、ほんのわずかに揺らぎが見えた気がした。

 

だが、次の瞬間——。

 

全てが弾け飛んだ。

 

身体が宙に浮き、雪原に叩きつけられる。視界がぐるりと回り、上下も分からない。肺の空気がすべて絞り出され、血の味が口いっぱいに広がる。

 

俺は雪に沈み、荒い呼吸を繰り返した。身体が動かない。右腕も、左腕も、鉛のように重い。それでも、かろうじて首だけを動かして前を見た。

 

そこには、同じように倒れ伏すカミュの姿があった。黄金聖衣はひび割れ、仮面も砕け、彼もまた動けずに荒い息を吐いている。

 

「……カミュ……」

声にならない声が、喉から漏れる。

 

あいつはまだ生きていた。

目を閉じてはいない。血の滲んだ唇が、何かを呟こうとしている。

でも、俺にはもうそれを聞き取る余力がなかった。

 

極光も、真紅の針も、互いを打ち砕いて拮抗し、その果てに、俺たち二人を同時に沈めた。

 

勝者はいない。

敗者もいない。

 

残ったのは、凍てついた友情と、命を削ってまでぶつけ合った想いの残滓だけだった。

 

俺は目を閉じる直前、雪を越えて夜空を仰いだ。

暗い空の彼方、蠍座の赤い星——アンタレスが瞬いていた。

その光だけを確かめながら、俺は意識を手放した。

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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