聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
立ちはだかるは神闘士ウル!
外交の仮面を脱ぎ捨てた祭壇星座・エレナが、
秘書官としてではなく、聖闘士として立ち上がる‼
唸る大剣か、冥界の裁きか――
積尸気冥界波が雪原を覆い尽くすとき、
ひとりの戦士は己の魂を賭して散る!
次回――「積尸気冥界波!戦士ウル、魂の果てに散る‼」
女神の使徒は冷徹なる裁きの炎を纏い、
道を切り開く!
吹雪の中を駆け抜ける。ヴァルハラ宮殿はもう目の前。参謀長が命を賭して教主と対峙しているかもしれない。胸の奥に冷たい焦燥が広がる。私の務めは、常にあの人の傍に在り、彼の道を妨げるものを取り除くこと。だからこそ、一秒たりとも遅れてはいけない。
けれど、私の前に立ちはだかったのは、凄まじい剣閃だった。
空気を裂く轟音と共に、雪の大地がまるで紙のように断ち割られる。地面が縦に走る裂け目を作り、私の行く手を阻む。その切っ先の先に、大剣を構えた屈強な男。神闘士の一人、ウル。
私は乱れた前髪をそっと耳にかけ、呼吸を整えた。動揺を見せれば、相手の思う壺。外交官として、そして秘書官としての矜持を忘れてはいけない。
「…なんの真似ですか?アスガルドの賓客に、いきなり剣を向けるとは」
できるだけ平静を装い、言葉を投げかける。だが、ウルは野獣のような笑みを浮かべた。
「祭壇星座のエレナか。貴様が、我が主ドルバル教主の計画を嗅ぎまわる聖域の鼠だと聞いている。この俺の相手になれるかな?」
「ふむ…これは由々しき事態ですね。教皇の親書を携えた使者に刃を向けるなど、聖域に対する明確な敵対行為と見なしますが、それでよろしいのですか?外交問題になりますよ」
私は最後の警告を投げた。これで引くのなら話は早い。だが、答えは予想通りだった。
「知ったことか!問答無用!我が剣のサビにしてくれるわ!」
ウルの大剣が振り下ろされる。瞬間、空気が震え、地鳴りが走る。大地が割れ、崖が崩れるほどの一撃。私は後方へ跳び、辛うじて直撃を避けた。だが、そこまでが奴の計算だった。
「——がはっ!」
体勢を整えた瞬間、奴の蹴りが私の腹を抉る。呼吸が喉で止まり、視界が白く弾ける。私は雪煙を上げて後方に吹き飛ばされ、地面に転がった。
「きゃあっ!」
あえて悲鳴をあげる。もちろん、すべて計算済みだ。外交官の仮面を被り続ける私では、この男を倒せない。必要なのは、秘書官ではなく、聖闘士としての私。
「フン…所詮は女よ。アテナの聖闘士も、大したことはないな」
ウルが勝利を確信し、背を向けようとした。私はその瞬間を待っていた。雪煙の中で、私は既に聖衣を召喚している。
「…お返しです」
冷たい声を投げ、背後に立つ。振り返るより早く、私は奴の背に掌底を叩き込んだ。
「ぐおおっ!?」
巨体が吹き飛び、雪壁に叩きつけられる。よろめきながら振り向いたウルの瞳に、驚愕が宿った。
私の身には、荘厳なる祭壇星座の聖衣。あの一瞬で装着を完了させた。悲鳴も、吹き飛ぶ姿も、すべては演技。時間を稼ぐための欺瞞だったのだ。
「な…いつの間に…」
「蹴りで吹き飛ばされた一瞬を利用させていただきました。外交官としての私には力はなくとも、聖闘士としての私には牙があります」
私は雪を踏みしめ、積尸気を燃やす。冷徹な光が体を覆う。
ウルの目が輝いた。
「面白い!面白いぞ、アルターのエレナ!それでこそ、我が剣を向けるにふさわしい!」
「私の主君、アッシュ様の計画を邪魔する者は、たとえ神であろうと排除します。それが、首席秘書官の務めですので」
——ここからは戦士同士の闘いだ。
ウルが咆哮と共に大剣を振るう。斬撃が空を裂き、氷原を崩す。私は踏み込み、切っ先を紙一重で避ける。その度に髪が切り裂かれ、冷気が頬を裂く。巨剣はただ振るうだけで暴風となる。
「速いな!だが、避けているだけでは俺は倒せんぞ!」
「避けるだけではありません」
私は左掌を突き出し、積尸気を集中させる。蒼い光が雪を弾き飛ばし、ウルの剣と衝突した。爆音が走り、氷片が舞い散る。
「っ…!」
重い。やはり力は規格外だ。だが、こちらも秘書官であり聖闘士。護るべきもののために退くわけにはいかない。
「これで終わりだぁぁっ!!」
ウルが渾身の突きを放つ。その瞬間、私は体をひねり、切っ先をすり抜けて奴の懐へ飛び込む。
「——積尸気・断罪の掌!」
掌底が奴の胸に突き刺さる。積尸気が爆ぜ、氷原に衝撃波が走った。ウルの巨体が宙を舞い、雪を巻き上げて転がる。
だが、奴は立ち上がった。血を吐きながらも、狂気の笑みを浮かべて。
「これだ…これだ!やっと見せたな、聖域の牙を!」
「ウル。ここであなたを止めます」
「止められるものならな!」
再び剣と掌がぶつかり、氷原に轟音が響く。互いの小宇宙が爆ぜ、雪山を震わせる。
◆
雪原に立つ私と、巨体の神闘士ウル。吹き荒れる吹雪さえも、私たちの燃え立つ小宇宙に圧倒されるかのように、流れを変えて渦を巻いていた。
彼の剣筋は荒々しくも鋭い。大剣が振るわれるたび、空気が裂け、雪が爆ぜ、大地に新たな亀裂が走る。常人なら、その衝撃波だけで立っていられないだろう。
だが私は、逃げない。かわす。捌く。最小限の動きで。彼の動きの先を読み、髪の毛一筋をかすめるだけで、死の一撃をすり抜ける。
「小賢しい!ネズミのように逃げ回るだけか、アルターのエレナ!」
ウルの怒号が雪山に響く。私は軽く息を吐き、冷静に返した。
「…今の斬撃。明らかに殺害を企図したものでしたね。外交辞令では誤魔化せない。聖域の使者である私に、そこまでの敵意を向けるとは」
足を止めた。わざとだ。彼の眼を正面から射抜く。外交官の顔は捨てた。今の私は、首席秘書官であり、聖闘士。目の前の敵を裁く冷徹な処刑人だ。
「これでは、もう言い訳は通りませんよ。たとえ、あなたがここで殺されても」
その一言で、ウルの表情が変わった。侮りではなく、純粋な闘争心。野獣のように唸り、大剣を構え直す。
「ならばやってみろ!俺を殺せるものならな!」
一瞬で間合いが消えた。大剣が振り下ろされ、私は右足を軸に身をひねる。刃が髪をかすめると同時に、掌底を打ち込む。衝撃が走り、ウルの巨体が半歩よろめいた。
「っ…やるな!」
「まだです」
踏み込み、左の蹴りを放つ。しかし、奴の脚が素早く反応し、私の脛を蹴り返して衝撃を相殺する。
「女だからと侮っていたが…貴様、まさしく戦士だな!」
「今ごろ気づいたのですか?」
互いに距離を取る。息が白く濃い。小宇宙の圧力が衝突し、雪原が鳴動する。
「だがな、俺の剣は氷河を砕く!聖衣ごと両断されるがいい!」
奴が大剣を構えた瞬間、周囲の吹雪が吸い込まれるように静止した。空気が張り詰め、雪片すら凍りつくような緊張が走る。次の一撃は決定的だ。
「来いっ!」
私は積尸気を燃やし、全身を蒼い光で包む。脈打つ鼓動が耳に響く。アッシュ様の言葉が脳裏をよぎった。
——恐怖を制せ。感情を飲み込み、ただ刃となれ。
「行きます!」
ウルの大剣が閃光となって振り下ろされる。私は前へ出る。避けない。正面から受ける。両掌で刃を受け止めると同時に、小宇宙を爆発させた。
「断罪の掌!」
衝撃が走る。大剣の刃が砕け散り、衝撃波が雪山を吹き飛ばす。ウルの体が弾き飛び、雪煙に埋もれた。
「……っ!」
私の両掌には血が滲んでいた。受け止めきれたとはいえ、剛力は常軌を逸している。腕が痺れて感覚がない。それでも、私は姿勢を崩さなかった。
雪煙を割り、ウルが立ち上がる。胸甲は砕け、息は荒い。それでも、その眼はまだ死んでいない。
「面白い…面白いぞ!まだ、倒れん!」
彼は残った剣の断片を握りしめ、突進してくる。私は最後の小宇宙を練り上げた。
「積尸気・葬送の連撃!」
掌打が連続して炸裂する。光速の打撃が、ウルの全身に針のように突き刺さり、聖衣を粉砕する。
「がっ…はぁっ!」
巨体がよろめき、膝をついた。
「……まだだ。俺は……神闘士だ……」
「十分です。あなたは立派に戦いました。ですがこれ以上は、外交の妨害でしかない」
◆
吹雪の音が止んだかのように、世界が静まり返った。私の小宇宙が変質した瞬間、空気の密度そのものが変わったのだ。私の身体から立ち昇るのは、禍々しくも蒼白い炎。光でありながら影でもあるその輝きに、神闘士ウルは思わず目を見開いていた。
「な……なんだ、その気は……!?」
恐怖が声に混じっていた。私は彼の反応に、冷ややかに口を開く。
「ご存知ですか、神闘士ウル。蟹座の散開星団プレセペは……古来、中国では『積尸気』と呼ばれています。積尸気とは、積み上げられた死体の山から昇る鬼火の燐気。そう、つまりプレセペは、この地上の霊魂があの世へと天に昇るための『穴』なのです」
講義するように淡々と語りながら、小宇宙をさらに高める。空間が歪み、まるで次元の壁が裂けるかのように、私の周囲にいくつもの冥界への口が開いた。そこから伸びるのは無数の亡霊の手。呻き声、泣き声、恨みの声が雪原に反響する。
「ぐっ……!」
ウルは一歩後ずさった。神闘士として幾多の戦場を潜ってきたであろう戦士が、恐怖を隠せないでいる。理屈ではない、本能が私の積尸気を“死”だと認識しているからだ。
「逃げ場はありません。あなたの魂は、ここで終わります」
私が指を突きつけた瞬間、亡者の群れが彼に迫った。
「小賢しい妖術を!」
ウルは自らの恐怖をかき消すように咆哮し、大剣を高々と振り上げた。剣身が白く輝き、吹雪を切り裂きながら振り下ろされる。
「我が剣は大地すら斬る!魂の波など、両断してくれるわ!」
確かに、彼の剣は凄まじかった。斬撃の衝撃波が亡者の群れを切り裂き、一瞬だけ魂の奔流と拮抗した。雪原が震え、裂け、氷柱が砕け散る。人の意地と武の極致が、冥界の理に抗っていた。
だが。
「無駄です」
私は静かに言葉を落とす。
「さあ、お行きなさい。この積尸気を通って、あの世へと!積尸気冥界波!」
冥界の穴が一斉に開き、今度は奔流ではなく津波となって押し寄せた。無数の魂が絡み合い、引き裂き、押し潰しながら、彼の大剣に襲いかかる。
「ぐおおおおっ!」
彼の剣が悲鳴を上げた。次の瞬間——バキン!と甲高い音を立てて、剣は半ばから折れた。
「な……!」
武器を失った戦士の叫びは、亡者の咆哮にかき消される。折れた剣を握りしめたまま、彼の巨体は魂の津波に呑み込まれていった。必死に抗おうとしたが、冥界の引力は彼の抵抗を嘲笑うかのように強く、もはやどうしようもなかった。
「ぐ、ぐわあああああっ!!!」
その絶叫が雪原に反響する。私は、逃げることなくその声を真正面から受け止めていた。冥界の穴は次々と口を開け、魂を絡め取り、ずるずると引きずり込んでいく。
「無駄です」
私は、静かにそう告げた。
「私の冥界波は、ただ魂を運ぶだけのデスマスクのものとは違う。魂に直接作用する、物理的な破壊力を伴っているのですから。抵抗すればするほど、あなたの魂は細かく裂かれていく……」
言葉は氷の刃のように冷たく、彼の心に突き刺さる。だが、返答はもうなかった。
ウルの瞳から光が失われ、彼の巨体は冥界の穴へと引きずられていった。折れた剣を最後まで離さなかったその姿は、戦士としての矜持の証だったのかもしれない。
「……もう、聞こえてはいない、ですか」
私は小さくため息をついた。ほんの一瞬、彼の背に見えた孤独な影が脳裏に残っていた。勝者であるはずの私の胸に、苦いものだけが沈殿する。
積尸気の穴は音もなく閉じ、雪原は再び吹雪と静寂に包まれた。亡者の呻き声も、戦士の叫びも、今や何一つ残ってはいない。ただ、足元に残された折れた剣だけが、この戦いが現実だったことを示していた。
私はその剣を見下ろし、しばし黙った。氷に覆われた刃には、幾多の戦場で血を吸ったであろう痕跡が刻まれている。戦士ウルは、この剣と共に生き、この剣と共に散ったのだ。
「せめて……」
私は剣を拾い上げ、雪の上に突き立てた。それが彼への弔いになるとは思わない。だが、せめて地に放り捨てられたままよりは、幾分ましだろう。
「安らかに眠れ、神闘士」
心の奥でそう呟いた瞬間、私は首を振った。感傷に浸っている場合ではない。私がここにいるのは、アッシュ様を支えるため。任務を果たすため。そのために、私は敵を排除したのだ。
「……アッシュ様」
名前を口にすると、胸の奥に熱いものが広がる。あの方は今、ドルバル教主と相対しているはず。危険は常に彼の周囲にある。私が立ち止まっているわけにはいかない。
吹雪の中、私は歩き出した。雪が頬に当たっても、寒さは感じない。まだ小宇宙が燃え続けているからだ。
(参謀長。私は必ず貴方様の傍に戻ります。誰が敵であろうと、道を切り開いてみせます)
その誓いを胸に刻みながら、一歩、また一歩と足を進めた。
背後では、折れた剣が吹雪に埋もれていく。戦士ウルの存在を、雪はすぐに覆い隠すだろう。だが、彼が最後まで示した戦士の意地だけは、私の心に刻まれて消えることはない。
「言葉は届かなかった。それでも……」
私は唇を引き結び、吹雪を睨んだ。
「届かぬ言葉の先にあるのは、行動だけ。私は戦い続ける。アッシュ様のために」
雪原を切り裂く風の音の中で、私の決意だけが静かに燃えていた。
デスマスク「はっ、俺様の積尸気冥界波こそ本家本元よ!魂を冥界に叩き落とす、蟹座の絶対奥義だ!」
エレナ「ふーん?でもあんたの冥界波って、ただ魂を送るだけでしょ?私のは魂そのものを砕けるんだよ」
デスマスク「なにィ!?魂を砕くだと!?てめぇ、それじゃあもう冥界に行く暇すらねえじゃねえか!」
エレナ「だって効率いいじゃん。無駄に“送る”とか、甘い甘い。こっちは処刑人なんだから」
デスマスク「ぬぐぐ……てめぇ同じ候補生のくせに生意気言いやがって!俺の冥界波の恐ろしさ、知らねぇだろ!」
エレナ「知ってるって。いつも訓練場で『ぎゃああ!』とか叫びながら空振ってるじゃん」
デスマスク「なっ!?あれは小宇宙の制御を試してただけだ!失敗じゃねぇ!」
エレナ「へぇ〜、言い訳の積尸気だね。今度比べっこする?」
デスマスク「上等だ!次の模擬戦で決着つけてやる!俺の冥界波で灰も残さん!」
エレナ「ふふん、私の冥界波で先に魂ごと消してあげるよ」
十二宮編の最後は誰と誰の対決に?
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アッシュと星矢
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サガとアイオロス
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アッシュとアイオロス
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サガと星矢