聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
(アルデバラン視点)
吹雪の中を俺は歩いていた。
黄金聖衣を纏い、雪道を踏みしめるたびに、大地がわずかに震えるのを感じる。さすがにアスガルドの寒気は骨の髄まで凍らせようとするが、黄金聖衣を纏った俺の身体に、それは通じない。だが急がねばならない。聖域への報告を怠れば、戦局の判断を誤らせることになる。
その時だった。
「ヒュンッ!」
風を切り裂く鋭い音。反射的に首を傾け、腕を振る。二つの巨大な影が視界を横切った。金属の唸りが耳を劈き、俺の首を狙っていた凶器が弾き飛ばされる。
「グレートホーン!」
俺の必殺の一撃を迎撃に用いる。飛来したのは、刃のついた巨大なブーメラン。衝撃で雪煙が舞い、はじき返されたそれは、持ち主の元へと戻っていった。
「ほう……」
声が響いた。現れたのは、髭をたくわえた巨漢。筋骨隆々とした体躯に、北欧特有の獣皮をあしらった鎧を纏っている。その両手には、戻ってきた二つのブーメラン――いや、あれは武器というより、巨人が振るう神槌を模したものか。
「俺のミョルニルハンマーを、こうも容易く弾き返すとは。貴様が牡牛座のアルデバランか」
「いかにも」
俺は短く答えた。目の前の男から放たれる小宇宙は、確かに強大だ。アスガルドの神闘士、ゴッドウォーリア。その一人に間違いない。
「だが悪いがな、急いでいるんだ。お前さんの相手をしている暇はない」
「そうはいかん!」
巨漢は笑い、ブーメランを構え直した。
「このルング、アスガルド最強の巨人戦士!通りたければ、この俺を倒していけ!」
戦意は固い。交渉の余地はない。ならば仕方ない。
「いいだろう」
俺は大地に拳を構えた。
「だが後悔するなよ。俺の道を塞ぐなら、容赦はせん!」
雷鳴のような咆哮が吹雪に響き渡り、俺とルングの間で火花が散った。
ルングが先に動いた。大地を蹴り、巨体に似合わぬ速度で迫る。両腕のブーメランが閃き、交差するように振り下ろされる。
「ミョルニル・クラッシュ!!」
空気が裂け、大地が抉れる。俺は両腕をクロスし、その一撃を正面から受け止めた。衝撃で足元の雪が爆ぜ、地面が軋む。
「ぬうっ……!」
「ほう!耐えるか!」
ルングの笑い声が耳を打つ。力比べなら望むところだ。俺は雄牛の如き力で押し返し、拳を突き出した。
「グレートホーン!!」
黄金の閃光が放たれ、ルングの胸を撃ち抜く。しかし、巨漢はわずかに後退しただけで、まだ立っている。
「効いたぞ、アルデバラン!」
血を吐きながらも、奴は笑っていた。
「だが、これしきで倒れる俺ではない!」
再びブーメランが宙を舞う。今度は弧を描き、背後からも襲いかかってきた。俺は瞬時に体をひねり、足を軸にして回転。背中で受ける代わりに、肘で弾き飛ばした。
「甘い!」
振り返ったルングがすぐさま肉弾戦を仕掛けてくる。拳と拳が衝突し、氷原に轟音が響く。
「ガハハ!いいぞ、アルデバラン!これほど力強い相手は久しい!」
「俺は遊んでる暇はない。退け!」
「嫌だ!戦士の誇りにかけて、逃げはせん!」
俺は歯を食いしばる。この巨人、ただの暴れ者ではない。純粋な戦士だ。だからこそ厄介だ。力を込めれば込めるほど、奴の戦意は燃え上がる。
だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「……ならば全力で叩き伏せるまで!」
俺は胸の奥から小宇宙をさらに燃やし上げた。黄金の光が雪原を照らし、雷鳴のような唸りを上げる。
◆
「上等だ、黄金聖闘士!」
俺とルングは同時に駆けだした。巨体同士の激突――だが、それは誰もが想像するような鈍重なぶつかり合いではなかった。
互いに光速を超える速度で拳を繰り出し、蹴りを放つ。氷原を蹴り砕く音が轟き、衝撃波が空間を裂く。雪煙が爆ぜ、氷壁が次々と粉砕される。
「はあああっ!」
「おおおっ!」
拳と拳がすれ違い、軌跡だけが閃光となって残る。目で追うことなど到底できぬ。肉眼で見れば、ただ雪原のあちこちが爆ぜているようにしか見えまい。
そして、互いの拳が、正面からぶつかった。
「ぬうっ!!」
「ふんぬぅぅぅっ!」
骨が軋み、大地が震えた。俺とルングはそのまま一歩も退かず、拳を押し合った。続いて額と額をぶつけ合う。氷原に雷鳴のような轟音が響いた。
俺の小宇宙が灼熱の奔流となって燃え上がり、ルングのオーラが氷原を揺るがす。二つの力がぶつかり合い、雪が一瞬で蒸発し、白い霧となって視界を覆った。
「ふんぬぅぅぅぅ…!なかなかやるじゃないか、髭もじゃ!」
「ぬぅぅぅぅぅん…!お前こそ、牛のくせに大したパワーだ!」
顔の距離はわずか数センチ。互いの荒い息がぶつかり合い、熱気となって吹雪を追い払う。俺の頬に奴の汗が飛び、奴の腕には俺の血が散る。
これが、戦士同士の力比べだ。
「アルデバラン!その拳……ただの力ではないな」
「当たり前だ!黄金聖闘士の拳は、命を懸けた覚悟そのものだ!」
「ならば俺も、北欧の戦士として応えねばなるまい!」
ルングが吼え、背後の氷壁を砕きながら拳を振り下ろす。その一撃を、俺は正面から受け止め、弾き返す。拳と拳が衝突し、天地を揺るがす。
「くそっ、やるな!」
「同じことを言うぜ!」
次の瞬間、俺たちは再び雪原を駆け巡った。超高速の攻防。氷原の大地が爆ぜるたび、氷塊が宙を舞い、吹雪に紛れて矢のように飛んでいく。
ルングのブーメランが放たれる。
「ミョルニル・クラッシュ!!」
空気を切り裂く軌跡。俺は身を翻し、黄金の腕で打ち払う。火花が散り、金属音が耳を裂く。
「チッ、避けたか!」
「避けただけじゃねえ、撃ち返してやる!」
俺が弾いたブーメランは逆軌道でルングの背後に迫った。しかし、奴は振り返りもせず、もう一つの武器で叩き落とす。
「甘いぞ、アルデバラン!」
「ほう、やるじゃねえか!」
拳と武器がぶつかり合い、雪原はまるで地獄の戦場だった。
やがて、再び俺たちの拳が正面から激突した。衝撃で大地が割れ、氷が砕け散る。俺とルングは額を押し付け、互いに一歩も譲らぬ力比べに突入した。
「ふんぬぅぅぅぅ……!!」
「ぐぬぬぅぅぅぅん……!!」
俺の背後に灼熱のオーラが燃え盛る。黄金聖闘士としての小宇宙が、炎のように吹き上がる。対するルングは氷原そのもののような冷気を纏い、俺の灼熱に拮抗する。
「暑苦しいぞ、アルデバラン!」
「寒苦しいよりマシだろ!」
「ガハハ!いい答えだ!」
互いに笑いながらも、拳は一寸たりとも揺らがない。俺の筋肉が悲鳴を上げ、ルングの腕も震えている。それでも力を抜かぬ。これは意地と意地のぶつかり合い。
「お前、いい戦士だな……」
「お前もだ、ルング!」
周囲の氷壁は粉々に砕け散り、雪原には蜘蛛の巣のような亀裂が走っている。
これぞ、戦士同士の力比べ。引けば死、退けば敗北。
「ふんぬぅぅぅぅ……!!」
「ぬぅぅぅぅん……!!」
俺たちは額を押し付け合い、拳を軋ませながら、互いの力をさらに押し込んでいた。
汗と雪が混じり合い、蒸気となって吹き上がる。寒さなどもう感じない。ただ、筋肉が悲鳴を上げる音と、血管が破裂しそうな圧力だけが耳の奥で響いていた。
「アルデバラン!お前の拳は重い!黄金聖闘士の名は伊達じゃねえな!」
「お前こそだルング!その剛腕、牛の俺に引けを取らねえ!」
互いに讃え合いながらも、力を抜くつもりは一切ない。
戦士の誇りとは、正面からぶつかり合うことでしか示せないものだからだ。
だが――その時。
雪に覆われた氷原の一部が、陽光に照らされてわずかに緩んでいたのだろう。
俺の右足が、ほんのわずか、ぬかるみに取られた。
「――っ!」
体勢が崩れる。額を押し付け合っていた俺たちは、ほんの少しだけバランスを失った。
そして。
ちゅ。
……。
吹雪の轟音さえも、一瞬で凍りついたような静寂。
何が起きたのか理解するまで、数秒の沈黙が流れた。
視界の端で、ルングの眼が大きく見開かれている。
俺の眼も同じだろう。
なぜなら――俺たちの唇が、ぴったりと重なっていたからだ。
「…………」
「…………」
戦士同士の戦いの最中、不慮の事故。だが、事実は事実だ。
俺の脳裏で、牛が轟くように叫んでいた。
(な、なんだこの柔らかい感触はァァァァァ!!!???)
慌てて離れようとするが、なぜか一瞬動きが固まった。
その間にも、互いの髭がチクチクと突き刺さり、信じられないほど気持ち悪い感触が唇を刺激する。
「「うわああああああああああああああああ!!!」」
俺とルングは同時に絶叫し、バチン!と電撃的に飛び退いた。
雪が爆ぜ、氷壁が揺れるほどの勢いで距離を取った。
俺はゴシゴシと唇を拭った。
「き、気持ち悪い……!髭が……!髭の感触が残ってる……!!」
ルングも慌てて腕で唇を拭き取り、顔を真っ赤にして叫んだ。
「お、おのれアルデバラン!俺のファーストキス(かもしれない)を……!奪いやがったなァ!!」
「待て!違う!事故だ!ただの事故だァァ!!」
「言い訳するなァァァ!!」
「したいんだよォォォ!!」
先ほどまでの熱い死闘は完全に吹き飛んでいた。
残ったのは、ただただ気まずさと、生理的な嫌悪感だけ。
俺は心の底から震えていた。
(よりによって、こんな男と……!女神よ、俺は何の罰を受けているんだ!?)
ルングは頭を抱え、雪に突っ伏して呻いた。
「う、うがいだ……!俺は氷河の水で口を濯いでくる……!でないと心が死ぬ……!」
「お、おう……俺もだ……!早く町に行って、薬局でうがい薬を……!」
互いに顔を合わせることもできず、背を向けて歩き出す。
数分前まで、命を懸けた戦士同士の戦いだったはずだ。
だが、今や俺たちはただの被害者同士。
吹雪の中、俺は己の胸に手を当てて誓った。
(絶対に忘れる……絶対に無かったことにする……!)
一方、背後でルングが吠えていた。
「アルデバラン!次に会った時は、今度こそ決着をつける!だが今日は!今日はもう無理だァァァ!!!」
「同感だァァァ!!!」
俺は町を目指し、ルングは氷河へと走り去る。
残された氷原には、戦いの跡と――互いに二度と思い出したくない記憶だけが残った。
アルデバラン「……アッシュ様。この度は、このような無様な戦いをお見せして……まことに申し訳ありません」
アッシュ「ぷっ……くくくっ……あはははははっ!!!」
アルデバラン「な、なぜ笑うのです!? 私は真剣に——」
アッシュ「いやいやいや! 真剣勝負の果てに“ちゅ”って! しかも相手が髭面の巨人!? くっ……腹が……いたい……!!」
アルデバラン「ううっ……どうかお許しを……!」
アッシュ「許すも何も! お前、そのうち“聖域最大の被害者”って称号もらえるぞ! あっははは!」
アルデバラン「女神よ……私は何を背負わされているのだ……」
十二宮編の最後は誰と誰の対決に?
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アッシュと星矢
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サガとアイオロス
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