聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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ヴァルハラ宮殿を包む冷気の中、ついに暴かれる参謀長の真実!
女神をも欺く策略か、それとも秘書官への純粋な想いか!?
勝負下着に身を固めたエレナの運命は――陰謀の渦か、恋の奈落か!?
次回、「参謀長の告白!それは愛か、陰謀か‼」
星々が照らすのは、誓いか裏切りか――!


参謀長の告白!それは愛か、陰謀か‼

ヴァルハラ宮殿の石造りの回廊に、雪の気配を纏った冷気が流れ込む。

その扉を押し開き、祭壇星座(アルター)の聖衣を纏ったままのエレナが駆け込んできた。普段は冷徹で隙を見せぬ秘書官の姿はそこになく、ただ主君の安否だけを気にかける、一人の戦士としての焦燥がその顔に浮かんでいた。

 

ちょうど外へ出ようとしていた神闘士フレイが、その姿を目にして驚きの声をあげる。

「…!アルターのエレナ殿。その聖衣姿…息を切らしてどうされた。…いや、それもまた、息を呑むほどに美しいが」

 

「戯言は結構です!」

エレナは切羽詰まった声で遮る。視線はただ一点、宮殿の奥を貫くように。

「参謀長は!?アッシュ様はご無事なのですか!?」

 

その必死さは、いつもの冷ややかな彼女からは到底想像できぬものだった。フレイは一瞬面食らったが、すぐに軽口を捨て、戦士らしい真摯な眼差しに切り替える。

「…失礼した。アッシュ殿は、先ほどまでドルバル教主の私室におられた。至急の要件とあらば、私が話を通そう。ついてきてくれ」

 

その誠実さに、エレナは少しだけ驚き、わずかに目を見開いた。

「…!恩に着ます」

 

二人は早足で回廊を進む。石床に靴音が重なり、緊張が空気をさらに引き締めた。

やがて向こうから、黒衣を翻しながら歩いてくる一人の姿が現れる。

 

「アッシュ様!」

エレナは思わず声を張った。

「ご無事でしたか!」

 

その声に、アッシュは足を止める。冷静な顔に、ほんの少し驚きと安堵が混ざった色が差した。

「エレナか。ああ、問題ない」

 

彼の視線が、彼女の纏う聖衣に移る。

「それより、君こそどうしたんだ?その聖衣…誰かと戦ったのか?」

 

エレナは短く息を整え、冷静さを取り戻そうとしながらも、簡潔に事実を告げた。

「…神闘士ウルに襲撃を受けました。しかし、既に排除済みです」

 

報告を聞いたフレイの眉が険しく寄る。

「そうか…ウルが、君に無礼を…。すまない、それはウルが全面的に悪い。君の行動は、正当防衛だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

 

俺はフレイの頭が下がるのを見て、内心で静かに息をついた。

(…よし、これでいい。完璧だ)

 

表情はいつも通りの冷静さを保ちつつ、言葉を選んで続ける。

 

「フレイ殿、気に病むことはない。君があの場にいたからこそ、俺も教主も判断を誤らずに済んだ。君の忠義がなければ、ロキの暴走はもっと多くの血を招いていただろう」

 

フレイは拳を握りしめ、胸を張った。

「…アッシュ殿。私はこれまで、聖域からの使者をどこか信用しきれずにいた。だが今は違う。あなたこそ、言葉と行動でアスガルドの友であることを示してくれた。感謝する」

 

その真っ直ぐな眼差しに、ほんの一瞬だけ胸が痛んだ。俺が彼に投げたのは、真実のかけらに、緻密に編み込んだ虚構だ。

(騙すつもりはなかった…と言えば嘘になるな。だが、この嘘がなければ、彼はドルバルに裏切られ、無惨に殺されていた。生かすための嘘だ。ならば、これは正義だ)

 

俺は僅かに口元を緩め、静かに頷いた。

「我々は共に、この不穏な時代を乗り越える仲間です。君の忠誠心は、必ずアスガルドを強くする。俺も、それを支えたい」

 

フレイの瞳に、感情の光が宿る。

「…アッシュ殿!貴殿のような人物が聖域にいることを誇りに思う。どうか、これからも私に力を貸してほしい」

 

(……すまんな、フレイ。本当のところ、俺はただの参謀だ。誰よりも冷酷に、盤上の駒を並べ替える仕事しかできない。だが今は、この誠実な戦士の心を、欺ききらねばならない)

 

「もちろんです、フレイ殿」

俺はその手を取り、強く握り返した。

 

 

 

「おお、聖域の皆様。この度は、我が配下の者が大変失礼をした。この詫びは、いずれ必ず。アスガルドは、聖域のため、何でも力を貸そう」

 

満面の笑みでそう言うドルバル。

 

ドルバルが登場した瞬間、俺は心の中で全力で舌打ちした。

(出たな…狸オヤジ。人畜無害そうな笑顔で全てを誤魔化す、北欧の政治狐…いや狸。いや、狐狸混じったハイブリッド怪人か?)

 

(どの口が言うか…!てめえの差し金でロキが暴走したのは百も承知だぞ。まあ、表向きは『ありがたいお言葉』で済ますのが外交儀礼ってやつだがな)

 

俺は、ポーカーフェイスを崩さずに、完璧な演技を返す。

「…いえ、教主のお力添え、感謝いたします。アスガルドと聖域の友好のため、共に尽力できれば幸いです」

 

腹の底を探り合う狸と参謀。

一見、にこやかな握手だが、心の中では互いに「この野郎」「いつかぶっ殺す」と殺意を交換している。

(外交ってのは、笑顔の皮を被った暗殺合戦だ。エレナ、よく見ておけ。これが本当の政治ってやつだ)

 

…と思ったら、隣のエレナがオロオロしている。

「えっ、えっ…ドルバル教主様って、すごく良い人じゃないんですか?アッシュ様も笑顔で…あの、これって仲直りってことですよね?ね?」

 

違う!違うんだエレナ!

(お前はなぜそういう素直すぎる反応をする!?狸オヤジに「良い人そう」とか言ったら、マジで騙されて一晩で国が滅ぶぞ!)

 

俺はため息をつきつつ、彼女の肩をそっと抱いた。外交芝居の最中に秘書を抱き寄せる参謀ってどうなのかと思ったが、背に腹は代えられん。

 

そして耳元で囁いた。

「エレナ…君に、二人きりで打ち明けたいことがある。後で、私の部屋に来てくれ…」

 

これで少し落ち着いてくれれば…と思ったが、逆だった。

 

「え?え?今なんて?二人きりで?打ち明けたい?キャーーーー!!!」

 

顔が真っ赤になり、ブンブンと首を縦に振るエレナ。

(いやいやいや!何を想像してる!?俺が言ったのは政治的な重要機密の相談だぞ!?色恋の打ち明け話じゃねえ!!)

 

ドルバルは狸笑顔のまま「ほうほう」と観察しているし、フレイに至っては人の良い顔で「おやおや、これは私の負けかもしれないな」とか言ってる。

 

負けってなんだ!何勝負だよフレイ!

(お前は氷原の聖騎士だろ!?なぜ俺と秘書の色恋沙汰みたいな勝負で勝ち負けを決めてる!?)

 

しかもエレナは完全に勘違いしたまま、胸に手を当てて息を荒げている。

(おちつけ!おちつけエレナ!呼吸困難で倒れるなよ!?俺が医療班を呼んだら、「二人きりで打ち明けたいこと」=「夜の営み」だと完全に誤解されるだろ!)

 

フレイは真面目な顔で俺に握手を求めてきた。

「アッシュ殿…どうか彼女を幸せにしてやってほしい」

 

いや待て!話が飛躍してる!

俺は外交の場で、ただ秘書の肩を抱いただけだぞ!?なぜそれが「結婚前提」みたいな流れになってるんだ!?

 

ドルバルも「フフフ、若いって良いな」と狸笑顔で頷いてるし!

(うるせえ狸!お前のニヤついた顔が一番信用ならんわ!)

 

俺は心の中で絶叫した。

(違う!これは誤解だ!俺はまだ誰とも結婚するつもりはない!参謀長として孤高を貫くつもりだったのに…!!)

 

だが、そんな俺の心の声など、周囲の誰一人聞いてはくれなかった。

外交の場は、狸オヤジの芝居と、秘書の暴走妄想に飲み込まれ、俺の「完璧な参謀の立場」は崩壊していったのだった。

 

 

 

 

 

(エレナ視点)

 

 

私はその夜、全力だった。

いやもう「勝負下着」という言葉の意味を、人類史で一番真剣に考え抜いた自信がある。

 

昼間のアッシュ様の「後で二人きりで話したい」という一言。

あれはつまり…そういうこと!

聖域参謀長と首席秘書官、今宵ついに公私の境界線を突破する時!

 

だから私は準備した。下着は当然のこと、肌は温泉で磨き、髪は三時間かけて整え、香水もほんのり。服は「着脱五秒」を合言葉に、ボタンも全部緩め仕様。

(これでもう、いつでもどこでもどうぞ!状態!)

 

ドキドキしながら扉を叩き、部屋に入った私を待っていたのは――

 

机の上で両肘を組み、真顔で座るアッシュ様。

部屋のど真ん中、姿勢も顔も一分の隙もなく、真剣モード。

 

…え?

(いやいやいや!ちょっと待って!この雰囲気…全然夜這いじゃない!?むしろ尋問!?)

 

「エレナ。君に、全てを話す時が来たようだ」

 

その第一声に、私は一瞬息が止まった。

え?いきなりプロポーズ!?それとも「本当は俺、人妻が好みなんだ」とかそういう秘密告白!?

 

…甘かった。

彼が語り始めたのは、愛の言葉なんかじゃなく、聖域の暗黒の機密情報オンパレード。

 

「教皇シオンはすでに死んでいる」

「今の教皇は双子座のサガが成り代わっている」

「クーデターは俺の計画だった」

「ドルバルと密約を結び、世界宗教を統合する」

「神との決別が我々の目的だ」

「女神アテナは日本で生きている」

「アイオロスも日本で生きている」

 

……。

 

(……いやいやいやいや!ちょっと待って!なんで夜這いのために勝負下着着けてきた私が、今ここで「地上支配計画」の全容聞かされてんの!?)

 

私の脳内イメージでは、

→「エレナ…君が欲しい」

→「アッシュ様…!」

→ベッドイン!

の流れだったのに!

 

現実は、

→「エレナ、教皇は偽物だ」

→「え、は?」

→「ドルバルを総大主教に迎える」

→「あの、パンツが勝負仕様なんですけど」

の流れ。

 

テンションが迷子。

 

しかも最後の一言がトドメだった。

 

「俺には、俺の背中を完全に預けられる、絶対的な腹心が必要だ。エレナ、君に、その役目を託したい」

 

……。

 

……。

 

(はぁぁぁぁ!?!?!?!?!?)

 

いや確かに嬉しい!確かに一番近くで頼られる腹心ポジション!すごい!かっこいい!痺れる!

でもさ!でもさぁ!!

 

「夜這いに来ました♡」モード全開で突入した私に「君は俺の共犯者」って言われるこのギャップ!!

心の準備の方向性が180度違うんですけど!?

 

私は頭を抱えたくなった。

でも、アッシュ様がこの話を私にだけ打ち明けてくれたという事実。

(あ…これは…恋人超えてる…!もう結婚とかそういうレベルじゃなくて、一蓮托生の共犯関係…!)

 

心が震えた。

「恋人」とかいう甘っちょろい関係じゃない。

「運命共同体」!「キングメーカー」!「王佐」!!

 

ああもう!勝負下着とか関係ねえ!

こっちの方が百倍甘美だわ!!

 

私は、気づいたら涙ぐみながら頷いていた。

「アッシュ様…はい。私は、貴方様の全てを支えます」

 

…でも内心では。

(下着、完全に空振りだったけどな!!!)

 

それでもいい。

この夜、私は確かに、ただの秘書官から「参謀長の唯一無二の腹心」へと進化したのだから。

 

……次の夜こそは、下着も無駄にしない方向で頑張ろう。




アッシュ「……エレナ。さっきのことは誤解させてしまったな」

エレナ「いいえ。むしろ、あの夜に私を選んで打ち明けてくださったこと……とても光栄です」

アッシュ「俺は誰にも背中を預けないと決めていた。参謀長という役は、孤独を前提としたものだからな」

エレナ「……それでも、私を必要としてくれた」

アッシュ「ああ。君が居なければ、この計画は形にならない。君の眼と耳と、そして心が、俺を人間に留めてくれる」

エレナ「……責任は重いですね」

アッシュ「それでも、俺は託す。信じているからだ」

エレナ「……はい。必ず応えます。私の全てを懸けて」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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