聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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氷原を切り裂く吹雪の中、甦るは熱き友情!
蠍座の黄金聖闘士・ミロの心臓を繋いだのは、
かつての親友、水瓶座のカミュの凍てつく小宇宙だった!

だが、友情の裏に潜むは疑念の影。
揺らぐ信仰、揺らぐ真実――
果たして彼らは、再び黄金聖闘士として肩を並べられるのか!?

次回!「氷原に甦る友情!親友を繋ぐ熱き心臓‼」
友情か、疑念か――運命の針が今、氷を砕く!


氷原に甦る友情!親友を繋ぐ熱き心臓‼

(ミロ視点)

 

 

意識が戻った時、最初に感じたのは、肺の奥まで凍り付くような冷気だった。アスガルドの大地に横たわっていた俺の身体は、氷の棺にでも入れられたみたいに冷たく、指先の感覚すらほとんど残っていなかった。

だが、不思議なことに胸の奥は穏やかだった。あの時、命を削って放った「カタケオ」の灼熱が、まだ燃え残って俺を焼き尽くしていてもおかしくないのに、それは嘘みたいに消えていた。まるで、誰かが熱を鎮めてくれているように。

 

ぼやけた視界に映ったのは、一人の男の顔だった。

その瞬間、胸の奥から熱がこみ上げた。

俺が、死に物狂いで探し続けていた親友――水瓶座の黄金聖闘士、カミュ。

 

「…カミュ…? 俺は…一体……」

 

かすれた声でそう問いかけた。すると、カミュは静かに俺の胸へ手を置いた。ひやりとする凍気が掌から伝わり、灼熱に暴れ回っていた心臓が穏やかに脈を打つのを感じた。

 

「動くな、ミロ。お前の心臓の熱は、私がこの凍気で抑えておいた。……無茶をしおって」

 

その声は、昔と同じ、師のようで、友のようで、そして誰よりも冷静な黄金聖闘士の声だった。

胸の奥で何かが緩むのを感じた。

 

「…お前の洗脳は……解けたのか……?」

 

恐る恐る尋ねると、カミュは短く頷き、そして珍しく、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ああ。お前の熱……その心臓の叫びは、確かに俺の凍てついた魂にまで届いたぞ、ミロ」

 

その言葉に、胸の奥で張り詰めていた糸が、ぷつりと切れるような安堵が広がった。

俺はゆっくりと身を起こし、目の前に立つカミュの姿を確かめる。冷たい瞳の奥に、あの氷原で出会った冷酷な神闘士の影はもうなかった。

 

だが、すぐに目についたのは、カミュの胸元に刻まれた赤黒い痕だった。

それは俺が放った最後の一撃――アンタレスの痕跡だった。

 

「……お前の傷は……」

 

声が震えた。自分の手で、親友を殺しかけたという事実が、重くのしかかる。

 

カミュはその胸に軽く触れ、苦笑を浮かべる。

 

「アンタレスは、生命点からわずかに外れていた。それがなければ、今頃ここには、愚かな聖闘士の死体が二つ、仲良く並んでいただろうな」

 

その冗談めいた言葉に、胸が締め付けられる。冗談じゃない。あの時、ほんの少し狙いが違っていたら、俺は……。

 

「カミュ……俺は……!」

 

言葉が詰まる。謝罪なのか、言い訳なのか、自分でもわからない。

だが、カミュは首を振った。

 

「言うな。お前は俺を救おうとした。それだけで十分だ」

 

静かな声だった。氷のように冷たいのに、不思議とあたたかい。

俺は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、それ以上言葉を続けられなかった。

 

しばし、二人の間に沈黙が流れる。吹雪が遠くで唸りをあげる音だけが響く。

だが、この沈黙は苦しくなかった。かつて修行を共にした頃のように、言葉などなくても、互いの心が通じていると確信できる沈黙だった。

 

「……なあ、カミュ」

 

やっとの思いで声を出した。

 

「もし、俺があの時……お前を殺してたら……俺は、どうしてたと思う?」

 

愚問だとわかっていた。答えを聞くのが怖かった。

だが、カミュは迷わず答えた。

 

「お前なら、自分を責め続けただろう。だが同時に、俺の意志を継いで、歩み続けただろうな。そういう男だ、お前は」

 

胸が熱くなった。

こいつは、俺のすべてを知っている。弱さも、愚かさも、全部知った上で、それでもなお信じてくれている。

 

「……あいかわらず、よく見てやがるな」

 

絞り出すように笑った。

すると、カミュもまた小さく笑った。

 

「お互い様だろう。お前の熱が、俺をここまで引き戻したのだからな」

 

その言葉が、胸に深く染み渡った。

 

俺はこの瞬間、確信した。

どんな戦場であろうと、どんな敵が待っていようと、この友情だけは揺るがない。

凍てついた魂をも溶かす熱がある限り、俺たちは何度でも立ち上がれる。

 

「カミュ……生きててくれて、ありがとう」

 

それだけで十分だった。涙がこみ上げそうになるのを必死に堪え、俺は親友の肩を強く握りしめた。

そして、二人で立ち上がった。氷原の向こうに待つ戦いに向けて。

 

俺たちの友情は、確かに生きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……確かに、私の失態だ」

 

その一言に、胸の奥がざわついた。カミュの失態?そんな言葉、これまで一度も聞いたことがない。俺にとってのカミュは、常に完璧だった。冷静で、決して揺らがない氷の聖人。そのカミュが、自らを「失態」と呼ぶ――それだけで十分に衝撃だった。

 

「アスガルドに来て、私は深く絶望した」

 

カミュは淡々と語りながらも、その声の奥底には、凍てつくほどの孤独と苦悩が混ざっていた。

 

「アテナは、地上に降臨されたと聞きながら、未だ我らの前に一度もその姿を見せない。聖域は、指導者を失ったも同然だった」

 

……そうか。

こいつもまた、不安だったのだ。

俺が能天気に「アッシュがいる、シオン様がいる」と思っていた間も、カミュは、目に見えない不在を前にして、誰よりも重い責任を背負い込んでいた。

 

「だというのに、世界の危機は待ってはくれない」

 

カミュの声は静かで、でもその静けさが痛いほど胸に響いた。

 

「ならば、このアスガルドを、そして地上を、確かに統治しているオーディーンのような、力ある神に頼るしかないではないか……とな」

 

その言葉には、あのカミュらしからぬ迷いがにじんでいた。

 

「……そこを、ロキに付け込まれたのだ。『お前ほどの男が、主不在の聖域で朽ち果てるのは惜しい』と」

 

ロキの言葉を思い浮かべ、奥歯を噛み締める。あの野心に満ちた神闘士の顔が脳裏にちらつき、怒りが湧き上がる。

だが、それ以上に――目の前で、自分の弱さを初めて吐露するカミュの姿が、俺の胸を締め付けていた。

 

こいつは、ただ人間らしく迷っただけだ。聖域を思うが故に、誤っただけだ。

それを責めることなんて、俺にはできない。

 

「……カミュ」

 

思わず名を呼ぶ。だがそれ以上、すぐには言葉が出てこなかった。喉の奥で熱いものが渦を巻き、言葉を塞ぐ。

だが、黙っているわけにもいかない。だから俺は、拳を握りしめて、腹の底から声を絞り出した。

 

「バカ野郎!」

 

俺の声は、吹雪の中でも響き渡った。

 

「お前らしくもねえな!俺の知ってるカミュは、そんな弱音を吐く男じゃねえ!」

 

カミュは、俺をじっと見つめていた。その瞳は氷のように冷たいのに、どこか揺らいでいる。

 

「聖域には、俺たちの師範であるアッシュがいる!」

 

俺の声は震えていた。けれど、それは迷いからじゃない。胸の奥にある熱を、そのままぶつけていた。

 

「それに、あのシオン様だっているんだぞ!アテナがお育ち遊ばすまでは、あの人たちがいる限り、聖域は大丈夫さ!」

 

そうだ。俺たちには仲間がいる。師がいる。未来を信じさせてくれる存在がいる。

俺はそれを疑ったことはなかった。だが、カミュは――俺の知らないところで、その不在に苦しんでいたのだ。

 

「お前一人が背負う必要なんてないんだよ、カミュ!」

 

声が裏返った。

でも構わなかった。カミュに届けばそれでいい。

 

沈黙。

 

カミュは、俺を見つめたまま黙っていた。いつもの無表情にも見えるが、俺には分かる。あの瞳の奥で、何かがわずかに揺れている。

 

「……ミロ」

 

やっと名前を呼ばれた。

その一言で、胸の奥に溜まっていたものが、すべて溶けていくようだった。

 

「お前の言う通りだ。……俺は、迷っていたのだな」

 

その認め方が、あまりにも不器用で、カミュらしくて、思わず笑ってしまいそうになった。

 

「だったら、もう迷うなよ」

 

俺は拳を突き出した。

カミュは少し驚いたようにそれを見つめ、そしてゆっくりと、その拳に自分の拳を合わせてきた。

 

「……ありがとう、ミロ」

 

短い言葉。でも、その中に、すべてが込められていた。

 

ああ、こいつはやっぱり俺の親友だ。

冷たい氷の仮面の奥に隠れているだけで、こいつはずっと熱い心を持っている。

 

ならば、もう二度と迷わせはしない。俺が、こいつを支えてみせる。

そう、心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(カミュ視点)

 

 

ミロの言葉は、いつだって真っ直ぐだ。

裏もなく、飾りもなく、熱そのものをぶつけてくる。だからこそ、俺はこいつの言葉を、時に鬱陶しいと思いながらも、決して嫌いになれなかった。

だが、今だけは違った。

 

「聖域には、俺たちの師範であるアッシュがいる!それに、あのシオン様だっているんだぞ!」

 

その名を聞いた瞬間、胸の奥がひどく冷えた。俺の顔に、曇りが差すのを自覚した。

ミロは気づいたかもしれない。いや、あいつのことだ、きっと気づいている。

 

シオン様。

 

かつて俺が、この身を賭して仕えるべきと信じた偉大なる教皇。黄金聖闘士を束ねる存在。誰もが敬愛し、揺るぎない信頼を寄せる聖域の象徴。

その名を聞いて、本来なら俺の心は安堵に満たされるはずだ。だが現実は違う。胸に渦巻くのは、不協和音。疑念と違和感。

 

――あれは、本当にシオン様なのか?

 

俺は見てしまった。いや、感じてしまった。

教皇の間に漂う小宇宙。それは、間違いなく「双子座」の気配を帯びていた。冷徹で、狡猾で、秩序を欲するあの気。俺が知る限り、この世でその小宇宙を纏う者は一人しかいない。

 

サガ。

 

だが、そんなことがあり得るのか?サガがシオン様に成り代わる?馬鹿げている。シオン様は大賢者だ。百年以上を生き、聖域を導いてきた至高の存在だ。その御方が、簡単に人に取って代わられるなど……。

だが、俺の小宇宙は嘘をつかない。感じた違和感は消えない。

 

そして、そこに浮かぶさらなる疑問。

もしも、本当に教皇の座にサガが座しているのだとしたら。

――なぜ、アッシュ師範はそれを知らぬ顔で受け入れているのか。

 

いや、あり得ない。師範ほどの男が気づかぬはずがない。むしろ、彼こそがその舞台裏に関わっていると考える方が自然だ。

サガが表の支配者、アッシュがその影を操る参謀長。そう考えれば、この不可解な状況も説明がつく。

 

「……ミロ、お前は、気づいて……」

 

思わず言いかけた。だが、言葉は喉で止まった。

あの無垢な瞳を曇らせる必要はない。

真実を語れば、ミロは迷う。疑うことを知らない、真っ直ぐな心だからこそ、真実を受け止めきれず、揺らぐ。

俺の役目は、そんな愚直な友を惑わすことではない。

 

「ん?何だよ、カミュ」

 

振り向くミロの顔は、いつものように真剣で、真っ直ぐで、そして眩しい。

俺は小さく首を振った。

 

「……いや、そうだな」

 

疑念を振り払うように、口にする。

「ミロの言う通りだ。アッシュ師範がいれば、問題ない」

 

それは、嘘ではない。少なくとも俺にとって、アッシュは唯一無二の存在だ。

俺が迷い、ロキに付け込まれた時も、心の底に残っていたのは、師範への信頼だった。彼の言葉があれば、俺は何度でも立ち直れる。俺はそう信じている。

 

「……あの人は、信じられる」

 

口にした瞬間、心の奥にあった靄が、わずかに晴れていくのを感じた。

たとえ教皇が誰であろうと、サガであろうと、シオン様であろうと、あるいはそのどちらでもなかろうと――俺が信じるべきは師範だ。それで十分だ。

 

「カミュ?」

 

ミロが、不安そうに俺を覗き込んでくる。

俺は小さく笑った。自嘲のような、安堵のような笑み。

 

「……何でもない。お前の熱さに、少し当てられただけだ」

 

「はあ?なんだよそれ!」

 

ミロは怒ったように返す。だが、その顔はどこか嬉しそうで、俺は少しだけ救われた気がした。

 

胸の奥にある疑念は、完全には消えていない。

だが、今はそれでいい。俺がすべきは、この友を守ること。そして師範を信じること。それだけだ。

 

――シオン様。いや、サガ。いや、師範。

真実がどうであろうと、俺はまだ戦える。迷いを氷に閉ざし、友の熱を胸に抱いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミロの言葉に、俺は一瞬、返すべき言葉を探してしまった。

「だろ?なら、話は終わりだ!」――何て単純な、そして力強い断定だろう。あいつはいつだってそうだ。考えすぎて立ち止まる俺の前で、迷いを吹き飛ばすかのように直線的に進んでいく。

 

「とりあえず帰るぞ!エレナにどやされるところまでは、俺がしっかり世話を焼いてやるからな!カミュ!」

 

その顔には、血に汚れ、傷を負いながらも、確かな笑みが浮かんでいた。

俺は肩をすくめ、いつもの調子で返す。

 

「…それは怖いな。帰ったら、師範の影にでも隠れるとしよう。クールに、な」

 

ミロは、俺の返答に大笑いした。氷の大地に、まるで春を告げるような温かさが響いた気がした。

 

――ああ、この馬鹿。

 

その笑い声を聞きながら、胸の奥でふと、懐かしい安堵が広がっていくのを感じた。長い間、氷の殻に閉じ込められていた俺の心が、少しずつ溶け出していく。

 

だが同時に、その奥に沈殿する違和感は、決して消えてはいなかった。

俺はミロに悟られぬように、視線を少し逸らす。

 

聖域には影がある。教皇の座に座る者は、果たして本当にシオン様なのか。あの小宇宙の正体を知るのは、俺だけではないはずだ。アッシュ師範もまた、それを感じているだろう。だが、師範は動じることなく、あの座を肯定している。

 

――ならば、俺が疑う必要はない。

 

そう言い聞かせる。ミロと肩を並べ、歩き出しながら。

 

「カミュ!」

 

ミロが笑顔で俺を振り返った。

「俺たちが二人そろえば、大丈夫だ!師範も、エレナも、アルデバランも待ってる。こんなところで立ち止まってる暇なんかねえ!」

 

あいつは本気でそう信じている。その眼差しに一点の曇りもない。

俺は一拍置いてから、静かに頷いた。

 

「…ああ、そうだな。帰ろう、ミロ」

 

それ以上の言葉はいらなかった。

 

氷原を渡る風は、相変わらず冷たく厳しい。だが今は、不思議とそれが心地よい。ミロの隣を歩くことで、その冷気すら和らぐような気がした。

 

歩きながら、ふと考える。

俺は弱さを見せた。絶望に囚われ、ロキに付け込まれた。それは聖闘士として、決して許される過ちだった。だが、ミロはそんな俺を責めない。ただ「帰ろう」と言った。それだけだ。

 

――救われた。

 

俺は、この友情に。

そして、まだ信じられる師範に。

 

ヴァルハラ宮殿の灯りが遠くに見えてきた。あの中には、まだ数多の策謀と危機が潜んでいるだろう。だが今だけは、肩を並べる友と共に歩くこの時間を、静かに噛み締めたかった。

 

「クールに行こうぜ、カミュ!」

 

ミロの声が、凍てつく風を切り裂く。

俺は答えず、ただ小さく笑った。

 

――友よ。共に帰ろう。

そこにどんな影が待っていようと、今はただ、この道を並んで歩いていればいい。




エレナ「――カミュ!」

カミュ「……な、なんだ」

エレナ「なんだ、ではありません! あの無茶は一体何ですか! 心臓まで凍らせるような真似をして、もしミロ様が間に合わなかったらどうするおつもりだったのですか!」

カミュ「……すまん」

エレナ「謝って済む問題ではありません!」

カミュ「……(横目でアッシュを見て)……」

アッシュ「やめろ、俺を見るな」

カミュ「アッシュ師範、助けてくれ」

アッシュ「お前、自分の失敗を俺の影に隠す気か?」

カミュ「……クールに、だ」

エレナ「クールじゃありません!!」

アッシュ「(肩をすくめて)……まぁ、怒るのも当然だな」

カミュ「裏切り者め……!」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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