聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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動き出す総大主教ドルバル!
狡猾なる微笑の裏に隠された真意とは――!?
そして明かされる妹フレアの秘めたる力!
日本へ飛翔する二つの影は、果たして救いの光か、混乱の炎か!?

次回――
「動き出す総大主教!ドルバル、日本へ飛翔す‼」
聖域を揺るがす陰謀の波濤が、ついに東の空を覆う!!


動き出す総大主教!ドルバル、日本へ飛翔す‼

(アッシュ視点)

 

 

日本からの通信が切れ、執務室に静寂が戻った。

世界地図のホログラムは依然として赤く点滅し続け、日本列島のその一点が、やけに目障りに揺らめいて見える。

 

「……やれやれだ」

 

思わず口に出して、深く椅子に沈み込む。エレナは黙って端末を操作しながらも、ちらとこちらを窺っていた。その視線に「どうするおつもりですか」と書いてあるのは明白だった。

 

俺だって、どうにかしたいさ。けれど状況は最悪だ。

ここ数日で日本における小宇宙異常値は、もはや隠しようのないレベルにまで膨れ上がっている。テロや暴動に偽装された事件が多発し、民間の衛星観測網ですら異常データを拾い始めている。これ以上「観測機器の故障」などと誤魔化せる段階は過ぎていた。

 

 

問題は、アイオロスと翔子の存在だ。

彼らは日本で平穏な生活を送っている。アテナがまだ「目覚めていない」以上、表立った保護は不要だと俺は判断していた。だが、日本でこれほどの異変が続けば、聖域の兵を派遣するのは時間の問題だ。もしそこでアイオロスを発見されたら? もし翔子の内に宿るエリスの魂が露見したら?

…サガは、ためらいなく処断するだろう。

 

俺自身が行くわけにはいかない。参謀長が直接動けば、聖域内外に「それほどまでの重大事なのか」と警戒心を植えつける。エレナを行かせるのも不自然だ。彼女は俺の首席秘書官であり、いまや聖域の全政治を取り仕切っている。留守を晒せば、他の派閥に突かれる口実を与えるだけだ。

 

戦力の面でも問題がある。

南米にはデスマスクとアフロディーテを派遣中だ。外交と調査を兼ねた任務だが、あの二人はこう見えて優秀だ。すぐには呼び戻せない。

シュラはヨーロッパで候補生の査察中。彼に日本行きを命じれば、確かに堅実に任務を遂行するだろうが、あの性格だ。何かあればアイオロスや翔子を庇って戻らない可能性もある。

ミロとカミュは負傷からの回復が済んだばかりで、日本に送るには時期尚早。

アルデバランは……論外だ。あの巨体では目立ちすぎる。

 

「……詰んでいるな」

 

口に出すと、妙に現実感を帯びた。

日本での異変は、教皇命令という形で正式に「調査対象」となった。つまり近いうちに、誰かを必ず派遣しなければならない。

選べるのは、せいぜい「派遣される人員」と「その人間が知る真実の量」だけだ。

 

エレナが端末から顔を上げて、真剣な声で言う。

「アッシュ様。猊下の勅命を無視するわけには参りません。誰を送るにせよ、時間を稼ぐのはもう不可能です」

 

「ああ、分かっている」

 

俺は地図を睨みながら考えた。

日本に送れるのは、信頼できる者、かつ「真実を知らない方がいい者」。その条件を両立させるのは難しい。

 

ここで最悪なのは、派遣された聖闘士が翔子やアイオロスを発見し、サガに報告してしまうことだ。

だから、選ぶべきは「ある程度の実力を持ちながらも、俺の指示を鵜呑みにする人間」。彼らには「日本での小規模な異変調査」という名目だけを与え、真実には触れさせない。

そうすれば、調査が空振りに終わっても不自然ではない。

 

(問題は…その役に適う人間が、果たしているかどうか、だ)

 

頭の中で聖域の戦力一覧をめくる。

候補生たちは論外だ。経験も信頼性も不足している。

白銀聖闘士たちも、一部は使えるが、サガに近しい者が多い。俺が密かに握っている秘密に触れさせれば、すぐに教皇へ報告が行くだろう。

 

「…………」

 

自分でも、声が震えたのが分かった。

あまりにも薄氷の上を歩いている。いや、氷ですらない。糸一本にぶら下がっているようなものだ。

 

エレナが一歩近づき、静かに言った。

「…参謀長。もし適任者が見つからなければ、いっそ私が行きましょう。聖域の政務は、フレアがいれば回せます」

 

「馬鹿を言うな」

 

思わず声を荒げてしまった。エレナが目を瞬く。

「君がいなければ、聖域の政務は一週間も保たん。俺がどれだけの量の書類を片付けているのか、君が一番知っているだろう」

 

「……それは、否定できませんが」

 

彼女は苦笑しつつも引き下がった。

 

「大丈夫だ。まだ手はある」

自分に言い聞かせるようにそう呟く。

 

要は「誰を派遣するか」ではなく「派遣したように見せる」ことができればいい。

たとえば、日本で暗躍する異変の痕跡を、こちらで操作し、調査が進んでいるように偽装する。あるいは、実力はそこそこだが忠実な白銀聖闘士を送り込み、現地ではアイオロスに保護させる。そうすれば、表向きは任務を果たし、実質的には監視対象の確保が可能だ。

 

問題は、それをどこまでサガに悟らせずにやれるか、だ。

奴は、常に俺の一手先を狙っている。善の顔をしながら、心の奥底では常に全てを掌握しようとする。そんな男に、下手な誤魔化しは通じない。

 

「……」

 

俺は深呼吸をして、決意を固めた。

ここで躊躇している暇はない。日本での異変がさらに拡大すれば、サガは直接、聖域の精鋭を率いて乗り込むだろう。そうなれば、全てが終わる。

 

俺は立ち上がり、エレナに言った。

「人選は俺が決める。君はすぐに教皇へ返答の草案を用意してくれ。『調査隊を派遣する』ということだけを伝えればいい。詳細は伏せろ」

 

「かしこまりました」

 

エレナは頷き、端末に向かう。その手は迷いなく、迅速に動いていた。彼女の存在が、どれほど俺の負担を軽くしているか。こういう時、心底ありがたいと思う。

 

「……さて」

 

俺は赤く点滅する日本列島を見据えた。

この異変の真相が何であれ、俺は絶対にアイオロスと翔子を守らねばならない。彼らは、俺にとって唯一無二の「計画の要」であり、同時に――親友であり、大切な仲間だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

聖域の執務室に、重い扉が軋んで開いた。

俺は思考の迷路に囚われていたところだったから、声を掛けられた瞬間、心臓がわずかに跳ねた。

 

「参謀長殿、お悩みのご様子。少し、耳を貸していただけるかな?」

 

現れたのはドルバル。元アスガルドの教主にして、今や総大主教という肩書を持つ男だ。いつも通り、人の良さそうな微笑みを浮かべているが、その奥に腹黒さと狡猾さを隠しているのを、俺は知っている。

 

「…ドルバル殿。何の御用ですかな?」

 

できる限り淡々と返す。だが、胸の内では警戒心が鋭く研ぎ澄まされていた。

 

彼は肩をすくめて見せた。

「いやなに、聖域に来てからというもの、こうもデスクワークばかりでは、身体が鈍ってしまってな。もし、何か人手が必要なのであれば、この私が、ついでにお前に貢献してやろう、と思ってな」

 

……ドルバルが、自分から現場へ出ると言い出すとは。

普通なら「危険すぎる」と一蹴すべきだろう。だが、俺の頭は瞬時にメリットとデメリットを弾き出し始めていた。

 

対神の専門知識――敵が神格である以上、かつて神の代行者を自称したこの男の知見は、確かに有効だ。

聖域外の人間――彼ならば、アイオロスや翔子と接触しても、聖域内の権力図に致命的な影響は出にくい。

監視――むしろ聖域で燻らせておくより、日本でアイオロスの監視下に置いた方がコントロールしやすい。

そして何より、この男はすでに「真実」をほぼ全て知っている。ごまかす必要がない分、扱いやすい。

 

結論は、一瞬で出た。

ドルバルは危険だが、今の状況において最適任者だ。

 

「…感謝いたします、ドルバル殿。では、お言葉に甘えさせていただこう」

 

口に出すと、彼は満足げに笑った。内心では、間違いなく小躍りしているだろう。面倒な聖域の儀式や山積みの電子書類仕事から解放される口実ができたのだから。

 

ドルバルは早速、オーディーンサファイアを埋め込んだ神闘衣を準備に取り掛かった。その姿を見送りながら、俺は「これで少しは日本の火種を管理できる」と胸の内で安堵した。

 

……だが、問題はそこで終わらなかった。

 

「私は残ります、アッシュ様!」

 

唐突に背後から抱きついてきたのは、フレアだった。

まるで子供が親から引き離されまいとするかのように、俺の背中に腕を回し、顔を埋めてくる。

 

「なぜ君が?」

 

問いかける間もなく、彼女は必死の表情で叫んだ。

「だって!アッシュ様と離れたくありません!聖域を離れないと言うなら、私は絶対に残ります!」

 

俺は一瞬、頭を抱えそうになった。ドルバルが出るだけでも面倒なのに、ここでフレアまで加わるとは。

だが、その混乱を切り裂くように、エレナが冷たい声を放った。

 

「……とっとと行け」

 

次の瞬間、エレナは自らの神闘衣を容赦なくフレアの胸へと叩きつけた。轟音が響き、フレアは弾かれるように後方へ飛ばされる。だが、倒れ込む代わりに、彼女の全身を覆ったのは――輝く神闘衣。

 

俺は思わず息を呑んだ。

「……フレア、お前も神闘士なのか」

 

聖域に来て最も驚いた事実だった。まさかフレイの妹が、兄に匹敵する戦士だったとは。しかも、その小宇宙の質と強度――おそらく、エレナと互角。少なくとも白銀聖闘士や下位の黄金を凌駕している。

 

フレアは、涙目で俺を見つめながらも、神闘衣を纏った姿勢は凛としていた。

「…アッシュ様のそばにいるためなら、私はどこへでも行きます」

 

エレナは苛立ちを隠さず吐き捨てた。

「その執念深さ、間違いなく兄妹ね。ドルバルと一緒に日本へ行きなさい。ここに残るよりは、まだマシよ」

 

俺は、目の前の光景に複雑な思いを抱いた。

フレアの忠誠心はありがたい。だが、それが俺個人に向けられすぎているのは、危うい。彼女を制御するのは簡単ではないだろう。

ただし、ドルバルの随行という形であれば、逆に「彼女の力」を利用できる。

 

俺は深く息を吐き、最終決定を下した。

「……分かった。フレア、君も同行しろ。日本は危険な地だ。君の力は、確かに役に立つ」

 

その言葉に、フレアは顔を輝かせて頷いた。エレナは額に手を当てて呆れたが、もう決まったことだ。

 

こうして、日本へ向かう一行は確定した。

総大主教ドルバル――政治の老獪さを持つ男。

神闘士フレア――兄譲りの戦闘力を秘めた、危険なまでの執念を持つ女。

 

二人を送り出しながら、俺は心中で冷ややかに呟いた。

「これで、しばらくは持つだろうな。だが――この二人が揃えば、日本はさらに混乱する。まあ、それもまた計算のうちだ」

 

何がどれほど動こうと、最終的に世界の主導権を握るのは、聖域――そして俺なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

教皇の間に立つ俺は、いつも通りの無表情で報告を終えた。

 

「――というわけで、今回の件は、ドルバル総大主教に一任したいと存じます」

 

玉座の上、黄金の仮面を戴いた教皇は、しばし黙した後、低く頷いた。

 

「うむ。ドルバル殿か。確かに、彼ならば適任だろう。アッシュよ、お前の判断に間違いはない。信じているぞ」

 

それは、サガ(善)の声音だった。疑念のかけらもなく、俺を信じ切っている。

俺は一礼し、粛々と退出した。

 

――だが、扉が閉じられた後。

仮面の下で、サガの口元が、わずかに歪んだ。

 

「……フッ」

 

善なるサガとは別の顔、悪のサガが、冷ややかに嗤っていた。

アッシュが何かを隠していることも、その裏でドルバルを利用しようとしていることも、全てお見通し。

それでも彼は動じなかった。むしろ、アッシュの知略を誰よりも信じ、世界を動かす「同胞」として容認していたのだ。

 

「好きに踊れ、アッシュ……。貴様の駒が、どこへ至るか、見届けてやろう」

 

その独白は、誰の耳にも届かず、教皇の間に沈む闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

一方その頃。

日本へ向かう航空機の豪奢なVIP席に腰を下ろしたドルバルは、赤ワインのグラスを傾けながら、流れる雲を見ていた。

 

「……面白いことになったわ」

 

彼は内心で愉快そうに笑った。

 

「小僧(アッシュ)は、俺を試すつもりだろうが……おかげで、俺は自由な手駒を得たようなものだ」

 

聖域の監視下から離れ、日本という遠い地へ。

もはや彼を縛るものはない。むしろ、己の腹の内を隠したまま、好きに立ち回れる。

 

やがて彼の興味は、事件そのものへ移った。

 

「エリス……。話に聞く限りでは、翔子とかいう小娘の中に宿っているらしいが、どうにも人間臭すぎる。すぐに激昂し、恋にうつつを抜かし、嫉妬に狂う……。それが神か?」

 

彼は長い神官としての経験から、ある結論に辿り着く。

 

「……神格というものは、ときに二面性を持つ。信仰や人の想念によって、別の側面を顕すこともある。もし、小娘の中にいるのが、エリスの『人間的側面』だとすれば……」

 

グラスを置き、彼は窓外の暗い雲を眺めた。

 

「……今、日本で暗躍しているのは、神としての『本質』……すなわち、純粋な『争い』そのもの、か?」

 

声に出すと、自らの推測がさらに現実味を帯びて響く。

 

「フフ……これは、ただの邪神復活では済まぬな」

 

ドルバルの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。

この派遣が、聖域とアスガルド、そして神々と人間の運命を揺るがす引き金になることを、彼は直感していたのだ。




フレア「アッシュ様にふさわしいのは、この私!幼いころから兄フレイと共に鍛えられ、神闘衣すら纏う私ならば、参謀長を守り抜ける!」

エレナ「笑わせないで。机上も戦場も、すべてを背負い彼を支えてきたのはこの私よ。あなたの執念は感情だけ。参謀長の隣に立てるのは、冷徹な理を持つ者!」

フレア「冷徹な理?いいえ、そんなものは心無き石像!アッシュ様が求めているのは、命を投げ出してでも寄り添う心!」

エレナ「……なら、力で証明してみせなさい。誰が彼にふさわしいか!」

(轟音と共に小宇宙が弾け、二人の激突!)

フレア「はぁっ!!」

エレナ「くっ……まだ終わらない!」

(互いに傷だらけ、衣は破れ、呼吸は荒い。それでも瞳の炎だけは消えない)

フレア「……これで、決まると思ったけれど」

エレナ「互角……だなんて、皮肉ね」

(沈黙の後、二人は同時に崩れ落ち、床に倒れ込む)

フレア「……でも、譲らない。アッシュ様は、絶対に私のもの」

エレナ「ええ……譲る気なんてないわ。死んでも」

エリスの新たな戦士の名前はどうしましょう?

  • 亡霊聖闘士のまま
  • 邪霊士(セインティア翔リスペクト)
  • オリジナル(ぜひコメントにて候補を)
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