聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
その微笑の裏に潜むものは――ただのシスコンか、それとも邪神の目覚めか!?
次回、『セインティア翔編 ~明けの明星~』
「恋する姉か、邪神の器か!? 迫り来る彗星の予兆‼」
世界と家庭、どちらが先に崩壊するのか!?
君は翔子の涙を見る――‼
(翔子視点)
私は、大学生活の傍ら、お姉ちゃん――響子――の調査と観察を続けていた。
目的はもちろん、邪神復活の手がかりを掴むこと。アッシュ君から託された任務でもあるし、アイオロス君も隣でずっと心配してくれている。
けれど、実際に私の目の前に広がるのは、変わらず平和でズレた姉の日常だ。
――まずは、仕事面だ。
お姉ちゃんは、グラード財団の系列会社で働いている。財団といえば、武器開発とか極秘研究とか、物騒なイメージしかなかった私にとって、彼女が何をしているか知ったときは驚愕した。
なんと、大手菓子メーカーとの共同企画「世界に届け!恋するチョコレート♡プロジェクト」なるものを立ち上げていたのだ。
会議室の一角で、ヤン(かつての亡霊聖闘士、今はスーツ姿の地味なサラリーマン)が、彼女に頭を下げている。
「ヤン、この新商品のコンセプトは『初めてのキスより甘い、禁断の味』よ!もっと神々しいほどの愛を表現できるパッケージじゃないとダメ!」
「は、はい!承知いたしました!」
このやり取りを初めて見たとき、私は心の底から混乱した。
邪神の関係者どころか、ただの凄腕のプロジェクトマネージャーじゃないか。
彼女の指示で生み出されたパッケージ案は、確かに乙女心を刺激するような完成度で、試作品のチョコは実際にバカ売れしていたらしい。
――思想面においても、彼女の言動は理解に苦しむ。
家に帰ると、リビングでワイン片手に語り出すのが日課だ。
「翔子、世界はもっと愛に満ち溢れているべきよ!人が人を疑い、争うなんて愚かしいこと。愛こそがすべてを救うの!」
もし、アッシュ君がここにいたら、メモを取りながら「はい、これが争いの女神の思想…?」と首をひねったに違いない。
争いの女神の影など一片も見えない。ただ、重すぎるくらいに愛を信仰しているだけだ。
――しかし、問題は私生活だ。
ここにこそ、私の疑念が最大に膨らむ余地がある。
お姉ちゃんは、私とアイオロス君の生活に、これでもかと干渉してくるのだ。
「アイオロス君、ちょうどお風呂が沸いたところよ。一緒に入らない?」
「えっ!?い、いや、俺はシャワーで十分ですから!」
真っ赤になって断るアイオロス君を見て、私は心臓が止まりそうになる。
なのにお姉ちゃんは、耳元でこう囁くのだ。
「翔子、どうなのよ?そろそろベッドでの感想を聞かせなさい。お姉ちゃん、心配だわ」
私は即座に真っ赤になり、絶叫するしかない。
「な、何を言ってるの!?何もないから!何もしてないから!」
お姉ちゃんは涼しい顔で「ふーん?」と頷く。
それがまた疑わしい。
――ここで、私は考えてしまう。
この人は、本当に邪神の関係者なのだろうか。
それともただの、愛が重すぎる変態なのだろうか。
彼女の一挙手一投足を記録してみても、世界を争乱に導くような兆候は一切見つからない。むしろ、職場では人望が厚く、家では突飛な発言こそ多いが、誰よりも家族思いで優しい。
エリスが言っていた「争いの本質」とは、到底結びつかない。
それでも、私はアッシュ君に報告を上げる義務がある。
だが、どう言えばいい?
「姉の思想は愛に偏重しすぎており、現段階では争いの女神との関連性は見えません。ただ、妹の彼氏にちょっかいをかける習性があります」なんて、真面目な報告になるはずがない。
私はノートを閉じ、ため息をついた。
「……お姉ちゃんが邪神だなんて、ありえない。いや、でも、この平和さこそが逆に怪しいのかも?」
疑念と困惑の狭間で、私は揺れていた。
そしてその夜も、隣の部屋からはお姉ちゃんの声が響いてきた。
「アイオロス君~、寝る前に子守唄でも歌って差し上げましょうかぁ~?」
「い、いえ!結構です!」
「じゃあ翔子、代わりにお姉ちゃんが一緒に寝てあげるわ!」
……やっぱり、この人は邪神というより、ただの愛の暴走機関車だ。
それが一番危険なのかもしれない、と私は布団を被りながら震えるのだった。
◆
世界は、明らかにおかしくなっていた。
グラード財団の通信室では、毎日のように「原因不明の暴動」や「突発的な紛争」の報告が入ってくる。最初は遠い国の出来事だと、どこか他人事のように感じていたけれど、報告件数が日ごとに増え、地図上に赤く点滅する警告エリアが広がっていくのを目の当たりにすれば、さすがに笑っていられなかった。
アイオロス君は、そのたびに険しい顔で報告を読み上げる。
「まただ…!中東で大規模な衝突が発生した。しかも、事前の兆候は一切なかったと…」
「今度は南米で、軍隊同士の小競り合いが…」
彼の低い声が、次々と暗いニュースを告げていく。
「くっ…!まただ!彗星レパルスの影響が、世界中に広がっているというのか…!」
その背中を見ていると、心臓が強く締め付けられるようだった。黄金聖闘士としての矜持を持つ彼は、世界を守ろうと必死だ。けれど、その重責を共に背負うべき私には、まだ覚悟が足りないように思えてならない。
「翔子、のんびりしている暇はない。俺たちも、本格的に動かなければ…!」
真剣な目でそう告げられ、私は何も言えずに頷くしかなかった。
けれど――そんな私たちの隣で、あまりにも平和すぎる光景が繰り広げられていた。
「アイオロス君~。今日の夕食は何が食べたい?やっぱりギリシャ風サラダ?それとも、愛のこもった日本の肉じゃがかしら?」
お姉ちゃんだ。響子は、まるで世界の異変など存在しないかのように、家の中で私たちに恋バナを振りまいている。
アイオロス君が険しい顔で報告を読む横で、「二人はどこまで進んだの?手をつないだ?キスは?ねえねえ!」と私をつついてくる姉の姿は、悪い冗談にしか思えなかった。
私は思わず叫びたくなる。
(どうして、こんなに差があるの!?世界は崩壊に向かっているのに、お姉ちゃんは私の恋の進展しか気にしていないなんて!)
だが、本当に恐ろしいのは、この異常なギャップそのものだった。
もし、世界の混乱と、お姉ちゃんの帰国が偶然ではなく繋がっているのだとしたら…。
もし、この「平和すぎる日常」が、何かを覆い隠すための仮面だったのだとしたら…。
私は夜、布団の中で一人、何度もその可能性を考えてしまう。
お姉ちゃんは本当にただの人間なのか?それとも――。
エリスの声が、精神世界の奥から囁いた。
「ショーコよ。疑うなら、徹底的に監視せよ。愛に狂った女ほど、恐ろしいものはないぞ」
私は枕を強く抱きしめながら、心の中で否定する。
「お姉ちゃんは…そんな人じゃない。そんなはず、ない…」
けれども、否定すればするほど、胸の奥に冷たい不安が広がっていった。
そして私は、姉の無邪気な笑顔を見るたびに、その奥に潜むかもしれない「何か」から、目を逸らせなくなっていた。
◆
聖域からの援軍が来ると聞いたとき、私は少しだけ安心した。世界中で続く不和の連鎖に、日本を震源とする不吉な小宇宙の波。アイオロス君と二人きりで対処するには、あまりにも荷が重すぎると感じていたからだ。
到着したその人物――ドルバルと名乗った男は、私の予想を超える「大人物」だった。
「アイオロス殿、翔子殿。お初にお目にかかる」
彼は、落ち着いた声音で深々と頭を下げた。壮年の紳士らしい風格、白い髪、そして背筋の通った立ち姿。その一挙手一投足に、長く人を導いてきた威厳が漂っていた。
「アッシュ参謀長より、皆様の助けとなるよう命じられて参った。このドルバル、微力ながら、お力添えいたそう」
その物腰の柔らかさに、私は思わず胸をなでおろした。
(聖域には、こういう穏やかで頼もしい人もいるんだ…。アッシュ君やエレナさんみたいに冷徹な計算だけじゃなくて、こういう人格者がいるのなら…)
アイオロス君も同じ思いだったのだろう。安堵の笑みを浮かべて、しっかりと握手を交わしていた。
――が、その感動はほんの一瞬で終わる。
「…ふん。騙されてはいけませんわ、お二人とも」
私たちが言葉を交わしている背後で、あからさまに不満そうな声がした。振り返ると、赤毛の少女――ドルバルの随行者だと紹介されたフレアが、頬をぷくっと膨らませて立っていた。
「この人、ただの俗物で、腹黒い野心家ですから」
「…………へ?」
私とアイオロス君は、同時に間の抜けた声を漏らした。
「え、ちょ、フレア!?」とドルバルが慌てているが、彼女は一切構わない。むしろ「今だ」と言わんばかりに畳みかけてきた。
「大体、アッシュ様がこんな奴の世話役で私を日本に行かせるなんて!アッシュ様は、私の愛がなければ仕事もままならないというのに!なのに、なのにっ…!」
私は唖然として固まった。
(いやいやいや…!ちょっと待って!?さっきの大人物然とした自己紹介は何だったの!?この子、初対面の私たちにいきなり上司を売るとか、正気なの!?)
横でアイオロス君も目を白黒させていた。聖域からの助っ人と聞いて、あの冷徹なアッシュ君が選んだのだから、きっと抜群に優秀なのだろうと信じていたのに…。
「フレア!黙りなさい!」
ドルバルは声を荒らげ、額に汗を浮かべていた。普段は絶対に崩さないであろう人格者の仮面が、わずか数秒で剥がれかけている。
しかしフレアは聞かない。むしろ畳みかけるように、私とアイオロス君へ顔を寄せてきた。
「二人とも、油断してはいけませんわ。この人、絶対裏で何か企んでますから!だって、アッシュ様もいつも苦笑いしながら『狸親父』って呼んでますもの!」
「ちょっとおおお!!!」
ドルバルが絶叫した。
私はもう、どう反応していいのかわからなかった。
聖域からの助っ人が、到着早々に最速で「部下の口から正体をバラされる」なんて聞いたことがない。しかも、それを言っているのが本気で怒っているわけではなく、単なるヤキモチからだというのだから始末に負えない。
「アッシュ様は、私がいないとダメなんです!だから私は絶対に帰る!こんな人のお守りをさせられるくらいなら、アッシュ様の机の下で一日中書類整理してた方がマシです!」
…いや、なんというか。
(アッシュ君の机の下って、それ完全に秘書官の仕事じゃなくて、ただの愛人アピールでは…?)
アイオロス君が困ったように私に視線を投げてきた。
「翔子…これ、どうすればいいんだ?」
「知らないよ!?私に振らないで!」
そんな中、ドルバルは必死に取り繕おうとしていた。
「い、いや、その、だな…!フレアは少々思い込みが激しいところがあるが、能力は確かで…」
「能力ならエレナさんの方が百倍優秀です!」
「やめんかあああ!」
◆
フレアの爆弾発言に、ドルバルの笑顔がピシリと固まった瞬間、私は確信した。
(あ、これもう完全に内部崩壊してるやつだ)
額に浮かぶ冷や汗。ぎこちなく笑みを繕おうとするけれど、横から次々と飛んでくるフレアの「上司暴露ビーム」で、その仮面は見る間に剥がれ落ちていった。
「ドルバル様は俗物でーす!」
「腹黒でーす!」
「アッシュ様がいないと何もできませーん!」
それを聞くたびに、ドルバルは「やめろおおお!」と叫び、両手を振り回す。もう威厳ゼロ。さっきまでの人格者オーラはどこへ行ったのやら。
隣のアイオロス君も、さすがに困惑を隠せないらしく、眉間に皺を寄せながら私に小声で聞いてきた。
「翔子…これ、本当に聖域からの助っ人で間違いないのか?」
「知らないよ!こっちが聞きたいわよ!」
だってそうでしょう。世界中で不和と戦争の火種が撒かれ、彗星レパルスの影響が広がっている。そんな重大な局面で送り込まれてきたのが――腹黒狸オヤジと、その上司を初対面で全力告発する秘書官。どう考えても人選ミスだ。
(助っ人…だよね?なんか余計に面倒なことになってない…?)
頭を抱えたくなるけれど、現実は待ってくれない。邪神の影は迫っているし、姉はアイオロス君を狙って日々「お風呂一緒に入らない?」と爆弾を投下してくるし、今はフレアの嫉妬が爆発している。私の胃はもう限界突破しそうだった。
それにしても、このメンバーの顔ぶれを改めて見渡してみると、本当にひどい。
愛が重すぎる姉。
腹黒狸の元教主。
その狸を売るために派遣されたのかと疑う秘書官。
そして、私の中に住みついて好き勝手言う駄女神。
(…いやもう、まとまる気配ゼロじゃん!)
世界を救うどころか、次の瞬間にこのチーム自体が空中分解しても全然おかしくない。私の脳裏には「邪神より先に仲間割れで全滅」の未来図が鮮明に浮かんでいた。
…いや、笑い事じゃない。本当に、これからどうするの?
私は深いため息をつきながら、心の中でぼやいた。
(神よ…いや、アテナでもエリスでも誰でもいいから、このカオスを何とかしてくれ…!)
翔子「……こうなったら仕方ないね。まずは私たちで調査するしかない」
オルフェウス「承知いたしました、翔子様。どのような危険が待ち構えようと、私の竪琴は常に貴女のために奏でましょう」
ヤン「翔子様、御身の安全は必ずこのヤンが守り抜きます。エリス様の御意志であろうと、翔子様の選択が最優先です」
翔子「ありがとう、二人とも。……でも、エリスの気配は確実に広がってる。なら、向かうべき場所は一つしかないよ」
エリス「フフ……ようやく腹を決めたか、ショーコ。我が神殿に足を踏み入れるとは、愚かで愛おしい選択よ」
翔子「愚かでいいよ。だって、答えを知らなきゃ前に進めない。……エリス、あんたが導くにしろ、私が自分で選ぶにしろ――行くべきは同じ」
オルフェウス「エリス様の神殿……古代より禁忌とされる地。そこに眠る真実は、必ずや世界を揺るがすでしょう」
ヤン「承知いたしました。翔子様、そしてエリス様。ならば我らは迷わず従いましょう。調査の先に何が待とうとも」
エリス「よい、実に良いぞ。ならば我が器よ、我が伴侶よ――その足で確かめるがいい。愛と争いの果てに何を掴むのかをな」
翔子「……うん。じゃあ決まり。行こう、エリス神殿へ」
エリスの新たな戦士の名前はどうしましょう?
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亡霊聖闘士のまま
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邪霊士(セインティア翔リスペクト)
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オリジナル(ぜひコメントにて候補を)