聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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平和を装う日常の裏で囁かれる「闇のエデン」の名…
そして、翔子の前に現れるは、お姉さまと呼び慕う謎の女!
甘美なる罠か、禁断の真実か!?
揺れる心に突きつけられる、逃れられぬ宿命――‼

次回、聖闘士星矢 異伝 セインティア翔編 ~明けの明星~
『愛か邪神か!? 暴かれる姉の素顔と闇のエデン‼』

少女の拳は、果たして何を切り裂くのか――‼


愛か邪神か!?暴かれる姉の素顔と闇のエデン‼

(アイオロス視点)

 

 

俺は、信じられないものを見ていた。

城戸邸の応接室。そこに座るのは、ギリシャにまでその色ボケと奇行の噂が轟いていた日本の実業家にして俺の義父・城戸光政。そして、その隣に、アスガルドを統べた元教主にして、今や聖域の総大主教・ドルバル。

 

……が、二人の雰囲気はどうだ。酒でも酌み交わした親友のように、肩を叩き合いながら笑い合っている。

 

「うむ、ドルバル殿!やはり日本にも、聖域やアスガルドに匹敵する闘士養成所を作らねばなりませんな!」

光政の目は、完全にギラギラしている。いや、もしかして俺の見間違いかもしれないが、「養成所」って単語のところだけ、「合コン会場」とか「お見合い斡旋所」と言い換えても成立しそうな怪しい光を帯びていた。

 

ドルバルはというと、あの狸親父らしい穏やかな微笑みを浮かべながら頷いた。

「ええ、まったくです、光政殿。ですが――」

と、ここでいきなり、神官らしい良心めいたことを言い出した。

「その生徒をすべて、あなたの息子にするのは…いささか非人道的でしょう。素養なき少年を修羅の道に放り込むのは残酷です」

 

……ん?おい待て、ドルバル。お前、俺はてっきり「光政殿、それは素晴らしい!ぜひ100人全員を訓練に!」と悪ノリすると思っていたぞ?

 

しかし光政は全く気にせず、むしろ得意げに笑っていた。

「いやいやいや!私の100人の息子たちなら、きっと乗り越えられますよ!なにせ私は彼ら全員の母親違いの父ですからな!ハーレムの帝王にして、愛の権化!そのDNAが、弱いはずがない!」

 

俺は頭を抱えた。

(この人、本当に聖域と地上の未来を案じているのか?それともただの子沢山自慢の合コン王なのか?)

 

対してドルバルは、聖人のような顔をしながら、しれっと腹黒いことを言う。

「いえ、光政殿。ここはむしろ、一般の少年少女も含め、文武両道を極める教育機関にするべきです。日本の未来を担う、最高のエリート校を。そうすれば、聖域にも劣らぬ人材が育ちます」

 

……はぁ。なんというか。

光政=人道を無視した色ボケ爺。

ドルバル=人道を盾にしつつ、結局は「支配力を広げたい」だけの腹黒神官。

 

どっちがマシかと問われれば……いや、待て。俺は今、本気で「ドルバルの方が常識的だ」と思いかけたぞ!?ヤバい。俺の感覚が麻痺してきてる!

 

光政は「ふむ、では理事長は私で、副理事長はドルバル殿!」と勝手に役職を決め、ドルバルも「ええ、異論はありません」としたり顔で受け入れている。二人で握手なんかしちゃって、完全にタッグを組む気満々だ。

 

俺は壁際に立ってその光景を見ながら、ため息をついた。

(義父上よ……どうしてお前は、俺が心から敬意を抱ける人物でいてくれないんだ。せめて「日本の未来」と言いながら、息子100人のハーレム教育計画はやめてくれ)

 

そしてドルバル。お前はお前で、その狸顔の裏に、聖域もアスガルドもまとめて手駒にしてやろうって野心が見え見えだ。

……でも、妙なことに。今この瞬間だけは、俺の心の天秤が、「義父よりもドルバルの方がマトモ」って傾いてしまっているんだよな。

 

俺は頭を抱えつつ、心の中で祈った。

(アッシュ……お前だけが頼りだ。この二人を同じ部屋に放り込んだままにしておくのは、爆弾を抱えているようなもんだぞ)

 

そして、ふと気づく。

――そうか。だからアッシュは、わざとこの二人を引き合わせたのかもしれない。爆弾と爆弾を一か所にまとめて、監視しやすくするために。

そう考えた瞬間、俺はゾッとした。

(アッシュ、恐ろしい男だな……)

 

俺はもう一度深くため息をついた。

聖域の未来のために戦ってるつもりが、気づけば「色ボケ老人と腹黒神官の奇妙な友情物語」に巻き込まれている俺。

……どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

(翔子視点)

 

私たちは、数か月前にエリスが降臨した神殿跡に立っていた。冷たい風が吹き抜け、苔むした石柱が、過去の戦いの痕跡を今も残している。

オルフェウスが竪琴を背から外し、静かに音を鳴らした。彼の旋律は、邪悪な気配を探り当てるためのものだった。けれど、どこまで耳を澄ませても、何も響いてはこなかった。

 

「…やっぱり、邪悪な小宇宙は感じないね」

私はそう口にして、風で髪を抑えながら、崩れかけた祭壇を見つめた。

 

精神世界で、エリスが応じる。

「うむ。だが、このままにしておくのも無用心だ。敵に利用されぬ保証はないからな」

 

そう言う彼女の声に、私は小さく頷いた。確かに、遺跡のまま放置すれば、いつか悪意を持つ誰かが、この場を拠点にしてしまうかもしれない。

 

――その時だった。

エリスは、ふと何かを思いついたように、声を弾ませた。

 

「ショーコよ!ここを、我らの新たな拠点とする!我の強大な小宇宙を放てば、レパルスを利用するネズミどもが、面白いように食いついてくるやもしれんぞ!」

 

その響きには、ただの思いつき以上の確信があった。挑発的な作戦――確かに、敵を炙り出すには有効だ。私は、胸の中で「正気か」とも思ったが、同時に「それしかない」とも感じていた。

「分かった。やろう」

短く答えると、エリスが満足そうに笑うのを感じた。

 

私の身体から、青と紫の二重螺旋の小宇宙が立ち昇っていった。空気そのものが震え、廃墟と化していた神殿は、みるみるうちに姿を取り戻していく。崩れた石柱は元の姿に戻り、祭壇はまばゆい光で修復され、長らく沈黙していた神域が、息を吹き返した。

 

しかし――そこから先は、私の想像を超えていた。

完成した神殿は、確かに神殿ではあったけれど、その中身は、どう考えても「古代の神殿」ではなかった。

 

玉座の間の横には、防音設備の整ったカラオケルームが併設されていた。厚い扉の向こうからは、試しに流されたらしい最新のアニソンが小さく漏れて聞こえてくる。

壁際には、巨大なスクリーンと最新鋭のプロジェクター。どう見ても「祭壇用」ではなく、映画やライブ配信用だ。

さらに極めつけは、神殿全体のネット環境。どうやらエリスが私のカードで勝手にサブスク登録を済ませ、各種動画配信サービスにフルアクセス可能にしているらしい。

 

(ちょっと待って。…なんで、神殿が推し活の拠点になってるの!?)

 

私は頭を抱えた。けれど、オルフェウスもヤンも、なぜか神妙な顔をして「これも女神の御心…」みたいな雰囲気で頷いている。いやいやいや、違うでしょ!?

 

「エリス…これ、本当に拠点なの?」

「当然だ!我が魂の安寧のためには、推し活も必要であろう!戦士に休息がいるように、神にも癒やしがいるのだ!」

 

精神世界で胸を張って言い切るエリスに、私はもう何も言えなかった。彼女なりに、この神殿を「守る」ために作り替えたのは確かだ。外から見れば荘厳な神殿でも、中に足を踏み入れれば、完全にエリス仕様のエンタメ空間。

それでも、この場から放たれる小宇宙は、確かに邪神の気配を引き寄せる強さを持っていた。

 

「…まあいい。敵が釣れるなら」

そう呟いて、私は深く息を吐いた。

聖闘士としての私と、エリスの趣味全開の神殿。二つが融合してしまったこの場が、今後どんな意味を持つのか――。不安は拭えないけれど、もう後戻りはできない。

 

そして私は思った。

(いつかお姉ちゃんがここを見たら、どういう反応をするんだろう…。)

考えただけで、頭痛がしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再構築された神殿の静けさは、長くは続かなかった。

いや、最初から予感はしていた。こんな派手な小宇宙を放てば、必ず何かが引き寄せられる。案の定、空気がざわりと震え、周囲の森の影のあちこちに、不穏な小宇宙が芽吹くのを私は感じ取った。

 

オルフェウスが低く呟く。

「この甘い花の香り…!アフロディーテと戦った時の、それに似ている…。いや、もっと禍々しい。翔子様、お気をつけください!」

 

彼の警告が終わるより早く、ふわりと背後に熱い吐息がかかった。反射的に振り返る。そこにいたのは、一人の女。濃い紫のドレスのような衣をまとい、艶めかしい笑みを浮かべている。その顔立ちは美しく整っているのに、眼差しに潜む狂気がすべてを台無しにしていた。

 

「み~つけた」

 

ねっとりと囁く声と共に、女は私の首筋を舌で舐め上げた。全身が総毛立った。

 

「なっ…!何すんだよ、この変態!!」

 

私は反射的に叫び、力任せに距離を取った。だがその瞬間、地面から植物の根のようなものが伸び、私の腕や足を絡め取ろうと襲いかかってきた。

「くっ…!」

 

抵抗したが、数が多すぎて一瞬捕らえられる。身体を締めつける圧迫感に息が詰まる。だが私は、自分の中の小宇宙を一気に燃やし上げた。青と紫が混じり合う二重螺旋の光が炸裂し、絡みつく根を吹き飛ばした。

 

同時に飛び込んできた二つの影。オルフェウスの弦が鋭い音を奏で、しなるように伸びた根を次々と断ち切る。その隣でヤンが、復活した神盾を構えて突撃し、盾の縁で残りを切り裂いた。

 

「翔子様から退けぇ!」

彼の咆哮は、以前のただのサラリーマンの声ではなく、戦士のものだった。あの神盾が戻っている――その事実に、一瞬胸が熱くなった。

 

だがその感傷を、エリスの怒声が吹き飛ばす。

「遅いッ!襲われる前に動けぬとは、何のための護衛だ、この役立たずどもが!」

 

私は思わずむせ返るほどの圧を受けた。オルフェウスとヤンは同時に膝をつき、深く頭を垂れた。

「申し訳ありません!」

 

その姿は滑稽にすら思えるほど従順で、逆に胸が痛んだ。二人は確かに、平和な日常で少し鈍っていたのかもしれない。でも、ここまで自分を責めなくてもいいのに。

 

女はそんな私たちを眺め、さらに恍惚とした表情を浮かべた。

「ふふ…やはり、あなたですね。逃げられませんわよ、お姉さま」

 

「お姉さま…?」

私は眉をひそめた。意味が分からない。だが女は、狂気じみた笑みを浮かべ、続けた。

 

「我が母にして、真の女神たるエリス様が、貴女をお待ちです。さあ、ご一緒に、母の待つ『闇のエデン』へ参りましょう」

 

その言葉に、胸が冷たくなった。闇のエデン――聞いたこともない名だ。でもその響きには、ぞっとするような力が宿っていた。

 

エリスの声が頭の中で怒鳴る。

「馬鹿な!我を母と呼ぶだと!?この痴れ者め、何者だ!」

 

私は混乱しながらも、必死に構え直した。オルフェウスとヤンも、私の両脇に立って剣と弦を構える。三人の呼吸が揃う。もう、油断はない。

 

相手の名はまだ名乗られていない。だがその小宇宙の質感からして、間違いなく「敵」だ。甘い香りに隠された毒のような小宇宙。絡みつくように心を縛ろうとする圧力。これまで感じたことのない種類の悪意だった。

 

私は息を整え、胸の奥から小宇宙を燃やし直した。

(今は混乱している場合じゃない。ここで退いたら、絶対に取り返しがつかなくなる)

 

女はゆっくりと、花弁のような蔓を広げ、私を見据えていた。

「さあ、お姉さま。闇の楽園で、永遠に共に過ごしましょう」

 

ぞっとする。だけど、怖気づいてなんかいられない。

私は歯を食いしばり、オルフェウスとヤンに短く言った。

「二人とも…行くよ!」

 

嵐のような戦いの幕が、今まさに開こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お姉さま」とか、「母が待っている」とか、意味のわからないことばかり。私はすぐに精神世界でエリスを問い詰めた。

 

「ねえエリス。あんたの復活のために、私の身体を使うんだってさ。あんた、子供いたの?」

 

 返ってきた答えは、想像以上に冷淡で他人事だった。

 

「であれば、丁重に帰ってもらうしかあるまい。というか、目的は既に達成しておるではないか。全く、話の分からん娘だ」

 

 私は呆れて、額を押さえた。ほんとにこの女神、いつも他人事みたいに話す。自分の「娘」だって言われてるんだよ?

 

 

「で、『闇のエデン』って何? 根暗なエリスのお庭?」

 

 その瞬間、精神世界でエリスが烈火の如く怒鳴り散らす。

 

「誰が根暗だ、このおっぴろげ娘が! だいたい、『闇のエデン』とは、我がかつて支配した、争いと不和に満ちた、美しき闘争の地のこと…らしい」

 

「らしいって何よ?」と私は即座に突っ込む。

 

「我が封印されてから、勝手にそんな伝承ができたらしいのだ! 知らん! テヘペロ!」

 

 本当にどうしようもない。女神のくせに、自分の伝承すら知らないなんて。会話が成立している気がしない。

 

 でも、敵が目の前にいる以上、現実逃避している暇はなかった。女の小宇宙は、不気味に揺らぎながら、私を絡め取ろうとする。まるで母親に腕を掴まれているような圧力だった。

 

 私は深く息を吸い、小宇宙を全開に燃やす。

「エクレウス流星拳!!」

 

 拳が閃光となって走る。マッハを超える無数の拳撃が、女の身体を捉えた。彼女は抵抗もできぬまま光の中に呑まれ、跡形もなく消滅する。

 

 ――けれど、私は気を緩めなかった。というより、緩められなかった。背筋に嫌な感触が残っていた。

 

「フン、あれは分身だな。本体は、まだ近くにいるぞ」

 

 精神世界のエリスが、冷静に断言する。私は拳を握り直した。やっぱりそうだ。あんなにあっさり消えるはずがない。

 

 オルフェウスが弦を張り直し、周囲に耳を澄ます。ヤンも神盾を構え直し、盾面に淡い光を宿していた。彼の目は冴えていて、完全に戦士の顔に戻っていた。二人とも、もう油断はしていない。

 

 私は心臓の鼓動を感じながら、視線を巡らせる。森の影、崩れかけた柱の裏、神殿の天井…。どこからでも奴は現れ得る。

 

 それでも、不思議なことに恐怖はなかった。むしろ、ここで倒さなければという強い意志だけが胸に燃えていた。姉の帰国から続く嫌な予感。世界に広がる不穏な出来事。そして、この「闇のエデン」という存在。全部が一本の線で繋がりつつある。

 

 エリスが再び言葉を投げかける。

「ショーコ、油断するな。奴の本体は、黄金聖闘士に匹敵するほどの強さを持つぞ。だが、我とお前が融合している限り、決して遅れは取らぬ」

 

 私は小さく息を吐き、答える。

「分かってる。今さら逃げる気なんてない」

 

 私の背後で、オルフェウスが静かに弦を鳴らす。ヤンの神盾が鈍い音を立てて地面を打つ。緊張が張り詰める。

 

 そして、聞こえた。甘ったるい花の香りと共に、女の囁き声が、空気を震わせる。

 

「お姉さま…。まだ終わりではありませんわ。闇のエデンは、必ず開かれるのです」

 

 私は拳を握り締め、唇を噛んだ。

――逃げられない。だけど、それでいい。

ここからが、本当の戦いだ。




「はぁ……危なかった。でも、なんとか押し返せたね」
「うむ。今の一撃、我の小宇宙操作とお前の肉体制御が重なってこそ、最大の力となった」

「つまり、体を動かすのは私、小宇宙を操るのはエリスって役割分担?」
「当然だ。我が体を動かそうとすれば、筋肉が攣って歩くことすらできん。だが小宇宙の流れを読むのは、我が得意よ」

「うわ、それ想像しただけで絶望的。じゃあやっぱり、私は肉体労働担当ってことかぁ」
「嘆くなショーコ。お前の肉体あってこそ、我が小宇宙は意味を成す。人馬一体とはこのことだな」

「……人馬一体って、私の聖衣にかけて言ってるでしょ。ほんと調子いいんだから」
「フハハハ!調子が良いのは褒め言葉だ。我とお前が揃えば、神をも凌ぐ小宇宙となろう!」

「はいはい。じゃあ、これからも私が体を動かすから、エリスはちゃんとフォローしてよね」
「任せておけ。我らはすでに一つの存在――逃げ場はないぞ!」

「それ、全然安心できないんだけど……」

エリスの新たな戦士の名前はどうしましょう?

  • 亡霊聖闘士のまま
  • 邪霊士(セインティア翔リスペクト)
  • オリジナル(ぜひコメントにて候補を)
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