むき出しの地面が露出した現場には今日も耳が痛い程の音が溢れている。
重機が軋む音、金属を叩きつける音、資材を削る音
その全てがヒトよりもよく聞こえてしまうウマ娘にとって現場仕事はストレスの塊だ。
それ以外にもミ耳や尾は自在の間に挟まったりして事故の原因になりやすい。そのため隠す用のヘルメットや服、ストッパーを着なければならず固定された際のストレスは想像にかたくない。
たが現代においてウマ娘を工事現場で見かけることは少なくない。彼女たちの肉体をもってすれば木材をわざわざ重機で運ぶ手間が省けるのだ。
だから業者はウマ娘を集めるために少し高い賃金を出すし、生活に困るウマ娘達は騒音くらいならと志願する。
そんな現場にミカヅキオーガスタはヘルメットを被り尾を服の中に隠して作業に参加していた。しかしどう見ても中学生以下な背丈、薄い体で大人顔負けの作業をこなしていく。
いくら身体能力が人より優れているといっても労働基準法の原則はウマ娘、ヒト両者とも原則15歳からである。
彼女だけでは無い、他にも多くのまだ少女と言ってもいいウマ娘達がこの現場では働いていた。
彼女たちは同じ孤児院に預けられている孤児だ。この孤児院では預かったウマ娘達を貸し出し利益を得ていた。繋がっている建築会社は人件費を削りながらウマ娘の労力を使うことができ、孤児院は本来得るはずのない利益を得ることが出来る。
ウマ娘への法整備が整っている現代においてこんなことは滅多にない。だから不運だったと言う他ないだろう。悪人はいる所にはいるのだ。
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「今日もおつかれさん」
オルガが水を片手に声をかけてくる。ミカヅキとオルガは孤児院に入った頃からの仲間だ。
水をミカヅキに渡してドカッと隣に腰を降ろしたオルガは水を勢いよく喉に落とし込んでいく。ミカヅキもそれに習う。
夕暮れを見つめながら互いを労うこれは2人にとって日常だった。
「最近は一段と忙しい、とうとう平日の昼から俺たちを使いだした。いつかやるとは思っていたが、まさか本当にやるとはな」
ここ最近孤児たちの生活は悪化の一途を辿っている。これまでは土日の何もない日だけだった現場仕事が学校終わりの放課後もやるハメになり、ついに学校に行かさずに現場に来ることになった。
睡眠時間の不足と日々の肉体労働で孤児たちの体には慢性的な疲れが出始めていた。
2対の目が赤い空を見上げる。真っ赤に染まる空を写した瞳には疲れが滲んでいる。
「オルガは平気なの?」
「いや、平気じゃないさ。腕を動かす度に痛みが走りやがる。」
「そう。……まだアレはやらないの?」
「あぁ、そろそろだ。今回の件で証拠は集まった。アイツらを完全にぶっ潰せるやつをな。」
疲れが滲んでもなお前を向き続ける2人の瞳は危うくも美しい。
「よっし、一息ついたし走って帰るか」
「今日も俺が1番になるよ」
「ぬかせ」
劣悪な環境でも走ることはウマ娘にとって一番楽しみな事だった。現場から家に帰るまでの1本、それが彼女たちに許された唯一のコース。
その日の現場によってルートが違っても、でこぼこの荒れた道でも走ることは彼女たちの生きがいだ。
2人は走り出す。重い作業着も足を止める理由にはならない。ただひたすらに前へ進むのだ。
2人に続いて他のウマ娘達も走り出す。列になって、あるいは1つの群れとなって一緒に駆け出していく。
着順賞金もセンターで踊る訳でもない。己のプライドの為に仲間と競うそんな純粋なレース。
何も無い彼らが持つ唯一の宝物。