提督の執務室。
そこで、舞鶴鎮守府の提督である
彼の左頬にはひどい火傷痕が刻まれていた。
彼は仕事をしているうちに、未だに違和感が残る頬に意識を集中させてしまった。
この傷が原因で、学校に通っていたころは他の生徒に避けられていたものだ。
いや、今は書類に集中しよう、と海北提督は思い直す。
ウイィーン
執務室には書き物をする音の他に、掃除機の音が響いていた。
シェフィールドだ。
彼女は秘書官でもないのに、連日執務室に押しかけては海北提督の世話を焼いていた。
「シェフィールド!君がそんなことをする必要はない!君はメイドじゃなくて戦艦なんだ!」
「違うわ。私は
「~~~!」
海北提督は、心の中で地団駄を踏む。
彼がいかに優秀な提督であると言っても、生活能力は10代後半の少年の物に過ぎない。
実際、彼女が生活全般のサポートをしてくれることは、とてもありがたかった。
「由良、この書類を押印する前に誤字脱字が無いかチェックしてくれないか?」
「……」
「由~良~!」
「そんなの、可愛いシェフィールドちゃんに頼めばいいじゃないですか」
ただ、おかげで秘書官とシェフィールドとのトラブルも多くなってしまっている。
海北提督は、シェフィールドが自分の世話を焼き始めるきっかけになった日を思い出した。
トントン
「ダーリン!今日はダーリンにプレゼントがあるの!」
海北提督が一人、執務室で書類仕事をしている最中。
扉をノックする音の後、こちらの回答も聞かずにドタドタと入ってくる艦娘の姿があった。
ジャーヴィスだ。
後から、付き添いであろう、シェフィールドも無表情のまま遅れて歩いてくる。
「そうか、プレゼントか。ありがとう、ジャーヴィス。でも、執務室に入るときはノックをしてな」
「ごめんなさい、ダーリン。でも、ダーリンに少しでも早くプレゼントをしたかったの」
少し申し訳なさそうな顔をして謝るジャーヴィス。
しかし、すぐに太陽が咲いたかのような笑顔になり、今まで後ろ手で隠していたものを差し出して来た。
「はい、これ!手作りパイよ!ダーリンのために作って来たの!」
「そうか。ありが……と……う」
それは、料理とはとても言えない物だった。
工場産と思われる、バターの入っていないだろうマドレーヌの外縁に、煮干しが外を向いて等間隔に刺さっている。
ジャーヴィスは満面の笑みをこちらに向けている。
人から笑顔を向けられる経験が少なかった海北星夜には、その太陽を曇らせられるわけが無かった。
「どうしたの、ダーリン。食べてくれないの?」
「……ありがとう、ジャーヴィス!いただくよ!」
半ばやけになってかぶりつく。
工場産のマドレーヌのパサパサした感覚が構内に広がる。
わざとらしい化学的な甘みと、煮干しの苦みが絶望的なまでに不協和音を奏でていた。
マドレーヌから飛び出た煮干しが、口内に突き刺さる。
「とてもおいしいよ!ジャーヴィス!」
「良かった!ダーリンのためを思って作った甲斐があったわ!」
無理やりジャーヴィスが作ってくれた”料理”を咀嚼し、飲み込んでいった。
「じゃあ、またねダーリン!また何か作ってくるからね!」
ジャーヴィスが部屋を出ていく。
残されたシェフィールドが、痛ましそうな物を見る目で海北提督を見つめていた。
視線に気付いた提督は英語で言った。
「俺はパイを食べたんじゃない。彼女の親切心を食べたんだ」
シェフィールドは、何か感銘を受けたかのように何度か頷いた後、ジャーヴィスを追って執務室を去って行った。
「はい、これ。君、さっきカップラーメン食べていたでしょ。健康に悪いよ」
シェフィールドが差し出して来た、木のかごに入ったサンドイッチに言われるまま手を伸ばす。
BLTサンドだった。
こちらの健康を気遣ったのだろう、野菜が多めに入っていた。
「ありがとう、いただくよ。……シェフィールドはやっぱり料理が上手だね。塩と胡椒の加減がちょうどいいよ。野菜が多めだけど、パンが水っぽくなってないし」
「そう?ありがとう」
海北提督の感想に、シェフィールドが素っ気なく答える。
それを由良は、横目でじっと見つめていた。
「お弁当、私も作ってこようかな」
「ん?由良、何か言ったか?」
「何でもないです。……提督さんって、難聴系男子なんだ」
自分が作ったサンドイッチを夢中になって食べる提督を、シェフィールドは無表情に、しかしどこか満足げに眺めていた。
妄想供養用。
筆者はゲームを落伍した、丁提督未満の何かです。
完結は目指さない予定です。