執務室の作戦会議にて。
その声は、海北提督が日本語と英語を交えて今回の作戦を説明しているときに起こった。
『発言をよろしくて、提督?英語を理解できない彼女たちが作戦会議に出席すると、いちいち会議が止まって非効率ではなくて?』
リシュリューだ。
彼女は由良と霞を指さしながら、英語でそう言った。
『リシュリュー、君の意見は確かに一理ある。だが、深海棲艦の懐に飛び込める水雷戦隊を組織できるのは、日本艦隊だけなんだ。フランス寮が水雷戦隊を組織できるというのなら、君の意見を採用しよう』
『……これは失礼を。発言を撤回いたします』
リシュリューは頭を下げて、引き下がった。
しかし、今度はそれに納得できない艦娘がいた。
血の気が多い霞だ。
「ちょっと、何よ!私に何か文句があるの!?」
「霞!控えろ!もう終わった話だ!」
「何が終わった話よ!ねえ、私今何言われたの!?」
「控えろと言っているだろう!これ以上君が発言したらこの場からの退出を命ずる事になる。……金剛も教えなくていいぞ」
「Oh……。わかったネー」
海北提督は厳しい表情で霞に注意した。
霞はまだ納得してない顔をしていた。
「あんたも偉くなったものよね!ふん!」
その後の作戦会議は、重い雰囲気のまま、ただ海北提督が一方的に情報を通達するように進んだ。
「提督ぅー。コンニチハー!」
それから1週間した後の執務室に、金剛が訪れた。
ノックで海北提督から入室の許可を得た後、彼女は元気よく扉を開いた。
「よく来てくれた、金剛。でも、オフの時は君にはしっかりと休んで欲しい。舞鶴鎮守府で唯一の日本戦艦なんだからな」
「そう言って貰えると嬉しいデース。でも、今回は相談があって来ましたネー。……霞の事ネー」
金剛はそう言うと、深刻そうな顔で話を続ける。
「夜遅くまで英語の勉強に励んでるネー。ちょっと無理してそうだから、提督からも何か彼女に言ってあげて欲しいデース」
「……秘書官の一人である霞が、体調を崩すまで勉学に熱中すると、確かに艦隊運営に支障をきたすな。わかった。霞には俺からも言っておこう」
「ありがとうございマース」
やがて、その場に居合わせたシェフィールドが淹れてくれたアールグレイを、三人で囲んで飲むと、金剛が執務室を出ていく。
彼女は帰り際、振り返って言った。
「確かに舞鶴は国際艦隊になりましター。でも、昔と変わらずに私たち日本艦隊を頼って欲しいネー」
「わかった。当てにしておこう」
金剛は一度海北提督に屈託のない笑顔を向けると、今度こそ執務室を去って行った。
その日の深夜の図書室。
霞は図書室に取り付けられた自習机の席に着き、英語を勉強していた。
「I have never seen such a beautiful sight......何よ、この完了形って。普通に現在形と過去形だけでいいじゃない」
トントン
海北提督がノックをしてから、静かに図書室に入った。
「霞、英語の勉強か。精が出るな」
「何よ。私は今見ての通り忙しいの。急な用事でなかったら後にして」
「霞」
「Destroyers,light cruisers,heavy cruisers......」
「霞!」
海北提督は霞の肩を掴み、無理やり霞を自分に向けさせると、彼女の目を見て言った。
「君には本当に感謝している。俺がここまでやって来れたのは、あの大戦を戦い抜いた君の知見によっていると思う」
「で、私はもう用済みってわけ?あんたは今や、あの横須賀の提督と並ぶ日本の双璧の一人だもんね」
「そんな事は言ってないだろう」
海北提督は一度言葉を切ると、再び言葉を続ける。
「君が向学心を持って勉強に励むのは偉いと思う。でも、そういうのは俺の領分だ。俺を信頼して、任せてくれないかな」
「……あんたも随分立派になった事。昔はモニター越しに深海棲艦を見ただけで、トイレに駆け込んで吐いていた癖に」
「おいおい、それは言わないでくれよ」
霞はテキパキと自習机に広げていた英語学習の教材を片付けると、図書室を出て行く。
去り際に海北提督に声をかけた。
「やっぱりあんたはまだまだ子供よ。木村少将の足元にも及ばないわ。……ま、日本の水雷戦隊があんたの面倒を見てあげるから、感謝しなさい」
霞は与えられた個室に戻るために、スタスタと廊下を歩いて行った。