ある日の休日の昼下がり、溜まっていた書類仕事の合間を縫って、海北提督は執務室に備え付けられたテレビでワイドショーを観ていた。
液晶画面の中では、コメンテーターが無責任な口調で、得意げに日本の対深海棲艦への国防について論じていた。
『やっぱり、横須賀の東野提督ですよね』
『そうですね。舞鶴の野獣提督は、見ていて不安になりますものね』
プツンッ
海北提督は心底つまらなそうな表情をしながら、テレビの電源をリモコンで切った。
本当は、この後に別のコメンテーターが『しかし、舞鶴の海北提督も素晴らしい資質の持ち主だ』と彼を擁護しているのだが、テレビ画面を消した海北提督には知る由もない。
横須賀鎮守府を率いる
片や、純血の大和男児と、混血の天才少年。
片や、黄金比を備える完全な美丈夫と、顔に火傷痕の残る左右非対称。
日本に、いや世界に二人しかいない最高の甲種適性を持つ提督たちは、その功績がいまや拮抗している事もあって、やれどちらが好ましいだの、やれどちらが優れているだの、連日メディアに載せられない日は無かった。
ただ、やはり八割程は、純血の日本人であり容姿も優れている東野提督を推す声が強かった。
しかし、世の中は十割の支持を集めるというのは難しいものである。
ひねくれ者や、日本の中で自分は非主流派だと感じている者たちは、舞鶴の海北提督を支持した。
もっとも、常に比較され続けた海北提督は、横須賀の東野提督に完全に劣等感を抱いてしまい、少数ながらも自分を推す声に気付いていなかったが。
「お邪魔するわ、アドマイラル。サンドイッチを持って来た」
「ああ、つまらない!もう今日は仕事は止めだ!休む!」
海北提督が椅子から立ち上がって大声を出したのと同時に、シェフィールドが入室して来た。
海北提督は、頭に血が上っていてノックに気付かなかった自分の迂闊さを呪った。
「ああ、ようこそシェフィールド。みっともない姿を見せて悪かったな」
「ううん、気にしてないわ。……またテレビで何か言われたの?」
「まあ、な」
シェフィールドは海北提督に近づくと、気遣うような視線を彼に送る。
ずばり言い当てられた提督は、気まずさから彼女から視線を逸らした。
「……あまり自分で自分を誰かと比べないで。うまく言えないけど、君は今の君のままで十分に素敵な男の子よ」
「シェフィールド……」
二人は、執務室に陽射しが差し込む中、至近距離で見つめ合った。
無意識に海北提督の右手が、シェフィールドの頬に添えられる。
その時だった。
「ねえ、提督!次の作戦について質問があるんだけど!」
アメリカ寮の副寮長を務めるネヴァダが、赤毛を揺らして執務室のドアを音を立てて開けた。
瞬間、海北提督とシェフィールド、ネヴァダは固まった。
「……どうやらお取込み中のようだね。悪かった、また出直すことにするよ」
「待て待て待て!おい、ネヴァダ話を聴け!」
廊下へと引き返すネヴァダを、海北提督が呼び止めながら追いかける。
執務室に一人残されたシェフィールドは、自分の胸がドキドキと鳴るのを感じていた。
自分で自分の感情が理解できていなかった。
ちなみに、海北提督は、ネヴァダの誤解を解くため、というよりは一連の出来事を口止めするために、オーストリア産の高級板チョコレート八枚を支払う羽目になった。