「アメリカ艦隊、無事に帰投した!」
「アメリカ艦隊の無事の帰還を確認した。……みんな、一人も欠ける事無くよくやってくれた」
旗艦を務めたネヴァダの報告に、海北提督はアメリカ艦隊を労う言葉を口にした。
ここは、午後の提督の執務室。
海北提督は彼女たちへの褒賞として高級な板チョコレートを配ると、アメリカ寮への帰宅の許可を出した。
「ネヴァダは、俺が相談したいことがあるから残るように」
「残るのはアタシだけでいいんだね?いいよ!」
他のアメリカ艦娘が執務室から出て行ったのを確認してから、海北提督はアメリカ寮の副寮長でもあるネヴァダに、次の作戦の相談をした。
「この海域の海戦について、過去の事例を漁ったんだがよくわからなくて」
「その海戦かい?あれは大変だったな。まず……」
ネヴァダは海北提督の問いかけに的確な回答をハキハキと答える。
15分間の問答で、海北提督は自らの疑問を解消できた。
「相談に乗ってくれてありがとう。お礼にアップルティーを淹れるよ」
「アップルティーなんて子供っぽいから止めてくれ。それならアタシがコーヒーを淹れるよ」
言った傍からネヴァダはコンロに向かうと、少し戸惑いながらもお湯を沸かす。
その後ろ姿を見ながら、海北提督はさらに感謝の言葉を重ねた。
「ネヴァダ、君がいて本当に助かるよ。君は費用対効果が高い上に、経験豊富だ。いつも助けてもらっている」
「そう言ってくれると嬉しいねぇ。そんなに言うんなら作戦会議に参加してやってもいいんだよ」
「……それは、慎重に検討を重ねてから、回答する」
「冗談だよ。君もこれ以上アメリカ艦が影響力を拡大したら、困るんだろ?」
その通りだった。
舞鶴鎮守府内での勢力伸長が著しいアメリカ寮の発言権を、これ以上増やすわけにはいかなかった。
海北提督個人としては、ネヴァダの知見をもっと引き出したかったが。
ネヴァダがコーヒーを持ってきてくれた。
海北提督も、お茶請けにと来客用のクッキー缶を持ってきて、二人で雑談しながらコーヒーを楽しんだ。
しばらくしてから後、海北提督は執務室のドアを出てまで、アメリカ寮に帰るネヴァダを見送った。
「ヘイ、アドミラール!なんで私を使わないの?この作戦領域は私の火力で一発なのに!」
「……この作戦は火力があるに越したことは無いが、リーダー艦の姫級空母の耐久力自体は高くはない。だから、ここはコストパフォーマンスに優れるイタリア艦隊を採用した」
次の日の作戦会議の後、アイオワが海北提督に陽気な声をかけながら、冗談のように言ってくる。
それに対して、海北提督は少し考えた後、丁寧に作戦決定の経緯を説明した。
「なづほどね!Youの考えはわかったわ!……今回は見送るけど、……ぜひ次回は私の火力を使って欲しいわ……」
明るい雰囲気で言葉を繋いでいたアイオワだったが、だんだんとその空気が萎んでいく。
まっすぐに海北提督を見つめていた視線も、床へと落ちていく。
「ねぇ、アドミラール。私ってここにいていいのかな?Youはいつも他の子ばかり作戦に投入してる……。アドミラールにとって、私は資源を浪費するだけのDeadwood(無用の長物)なの?」
そうなのだ。
アイオワはいつもクイーンビーのごとく明るく振舞っていはいるが、根がナードなのだ。
いつもは気丈に振舞ってはいるが、海北提督と2人の時は、彼女はこらえきれずその本性を顕わしてしまう。
海北星夜は、同身長くらいのアイオワの肩に手を添えてアイオワの姿勢を正すと、まっすぐ彼女の目を見つめて話す。
「いいかアイオワ。君は大和型に次ぐ火力を誇る艦娘だ。君の突破力はいつか絶対にこの舞鶴に必要になる時が来る。今はその時ではないというだけだ。君はアメリカ艦隊の象徴であり最新鋭だ」
「本当?本当にYouはそう思っているのかい?私はここにいていいのかい?」
「ああ。頼りにしている」
不安そうなアイオワに対して、一言一言を言い聞かせるように告げる海北提督。
アイオワの表情にも明るさがだんだんと戻って来る。
「……HAHAHA!みっとも無いところをみせちゃったね!でももう大丈夫!でも、今度こそ私の見せ場も作ってよ!腕がなまっちゃう!」
「ああ、頼りにしているぞ、アメリカ寮長にして、舞鶴火力No.1!」
やがて、どこか名残惜しそうに執務室を後にしていくアイオワ。
海北提督はVIPを扱うかのごとく、彼女が出て行くまで彼女の方向に姿勢を向けていた。
さて、と机の上に溜まった書類仕事との格闘を開始しようとしたところ。
「『君はアメリカ艦隊の象徴であり最新鋭』か……。相変わらず見事だね。女を転がすのはお手の物ってワケか」
「……ネヴァダか」
ネヴァダが少し呆れたように言いながら執務室に入って来る。
どうやらアイオワが出て行ったときには、扉の裏にいた状態だったらしく、アイオワは気付かなかったようだ。
海北提督はその不意打ちの来訪に少し驚いた。
「悪いね、盗み聞きするつもりはなかったんだが。……アタシがいくら頑張っても、やっぱり君はアイオワの火力を重視するのかい?アタシは君の中で、都合の良い露払いにしか使われないって事?」
「誰もそんな事は言ってないだろう。すべての作戦でアイオワのようなエース……火力の高い艦娘を使うわけにはいかない。費用対効果の高い君はオンリーワンだ」
「今アタシを傷つけないように言葉を選んだね?なるほど、日本の艦娘と君のお気に入りシェフィールドとの間でトラブルがあったらしいが、そこから学んだというわけだ。失敗を次に生かす提督の鑑だね」
言い聞かそうとする海北提督に、ネヴァダはなおも不機嫌そうに言葉を連ねる。
が、やがて表情を戻すと、冗談のように言う。
「不機嫌になって悪かったよ。まあ、君は各メンバーのやる気を引き出すタイプの方法を取ろうってしてるだけだよね。でも、女の子ばっかりの職場で、今のやり方は考え直した方がいいかもしれないよ。……君、いつか刺されるよ?」
「……」
少し冷気をまとった最後の言葉に、海北提督は心当たりがあるのか、苦虫を噛んだような顔をした。
その表情の変化を見て自己効力感を得たのか、満足したようにネヴァダは提督室を後にした。
「……さて、書類を片付けるか」
今の海北星夜に出来る事は他に何もない。
積み上がった紙片の重なりに少しだけ沸き上がった嫌気を押し殺しながら、彼は椅子に座って書類の確認から始めたのだった。