次の日、米田黒璃は悩んでいた。
初心者用のダンジョンを攻略したこともあり、これからは駆け出し探索者の仲間入りだ。
そのため、ダンジョン以外でもお金を稼ぎたい。
自分にあるスキル的には素材を錬金しながら探索していくことになるだろうが、どう売ればよいのか分からない。
換金所にたくさん持ち込むと一本当たりの値段は下がるだろうが、その他の場所での売り方など知らない。
「分からないし、ネットで調べよ……」
考えた末に、ネットに頼ることにした。嘘も多いがまあまあ頼りにはなるだろう。
調べてみるとすぐに答えが出てきた。探索者用の取引サイトがあったのだ。
そのサイトの運営元も信用できる場所で、ダンジョン局と提携しているようだ。
出品者登録も結構簡単で、探索者カードのIDを入れるだけでダンジョン局のデータと照合されて登録できる。
販売額の5%を運営に取られるのは痛いが、個人で販売するのも難しいため生産スキルを持ってる人からすればありがたい場所なのだ。
黒璃は登録するために自分のIDを入れる。
照合時間があるためもう少し時間はかかる。そのため、ダンジョンで素材集めを行うことにした。
今回行くのはレベル5以上で行くことのできる『ざわめきの森』だ。
このダンジョンは広大な森があり、昆虫系の魔物が多く出る場所である。
1階層しかないのに加え、ボスもいないため駆け出しの探索者もよくいく場所らしい。
ダンジョンに行くとすぐに、ゲート付近で人がたむろしている。
「一人?一緒に行かない?」
「すみません!」
近くにいた青年に誘われるが、断って森の方に駆け出す。
いきなり話しかけられたので驚いてしまったのだ。
森に入り、息を整えると腰のレイピアを抜く。
かすかだが、魔物の気配を感知したのだ。
その魔物は黒璃の前方から現れた。
灰色の大きな体を持つ蟻『ダンジョンアント』だ。
顎による嚙みつきと集団での攻撃により駆け出し探索者を絶望させる魔物である。
黒璃はすぐにレイピアを構え、突進する。
レイピアはダンジョンアントの甲殻にぶつかり、甲殻にひびを入れる。
さすがに今のレベルでは甲殻を貫通する程の威力は出なかったようだ。
ダンジョンアントは素早く黒璃に噛みつこうとするが、黒璃はそれをギリギリで回避する。
蟻ということで動きが結構素早いため、注意が必要だ。
そのため、黒璃は物理ではなく魔法で攻めることに決めた。
「ウィンドエッジ」
風の刃を生成し、ダンジョンアントに飛ばす。
傷をつけることはできないが、風圧でよろけさせることはできる。
「フレイムアロー」
その隙に炎の矢を放ち、ダンジョンアントを焼き殺した。
この魔物はドロップアイテムとして『迷宮蟻の顎』と『迷宮蟻の甲殻』を落とす。
黒璃はそれを拾いながら、周囲を警戒する。
すると、すぐに新たなダンジョンアントが現れた。
群れで行動するため、今度は数体のダンジョンアントが黒璃に襲いかかる。
「あっ!マントが!」
転がるように噛みつきを回避するが、回避しきれずにマントが噛み千切られる。
ダンジョンアントはマントの切れ端を捨てるが、隙が出来ている。
その隙をついて、黒璃はダンジョンアントの首と体の接続部に風の刃を叩き込んで切断する。
他のダンジョンアントは仲間を殺した風の刃を警戒し、仲間呼びのフェロモンを放とうとする。
「エアロジャベリン」
黒璃はそれを阻止するために、威力が高そうな魔法を選択する。
魔法を発動した瞬間、黒璃の周りに風の手槍が数本現れる。
黒璃が手をダンジョンアントに向けた瞬間に、その風の手槍は放たれた。
風の手槍は軽々と甲殻を貫通し、ドロップアイテムだけをその場に残した。
ドロップアイテムを回収した黒璃は、ダンジョンから素早い動きで逃走した。
また仲間が出るのも嫌だし、パーティーの誘いをされるのも嫌だったのだ。
家に帰るとすぐにダンジョンアントの素材を加工する。
その結果、『迷宮蟻の顎』からは、灰色の短剣と槍が作られた。
『迷宮蟻のダガー
特殊効果:集団戦闘時、切れ味がわずかに上昇
ダンジョンアントの持つ強靭な顎から作られるダガー。
切れ味は作りて次第だが、耐久性に優れているため駆け出し冒険者からはそこそこ人気。』
『迷宮蟻の槍
特殊効果:集団戦闘時、突きの威力上昇
迷宮蟻の顎から作られる槍。
素材の手軽さと耐久性から異世界の兵士にも人気がある。』
「中々よさそうだけど、数があった方がいいよねこの効果だと」
そう思い、黒璃はまた『ざわめきの森』に行くときにはダンジョンアントを狩ると決めた。
そして『迷宮蟻の甲殻』からは、黒い防具一式が作られた。
効果としては武器と同じで集団戦に効果があるようだ。
そうして一息ついたとき、携帯に取引サイトから登録完了のメールが届いた。
すぐにサイトに接続して、ダンジョンアントの装備を1つ5000円ぐらいで出品してみる。
出品ボタンを押した瞬間に、装備が消滅する。無在庫での販売を警戒してのことだろう。
このサイトでは値段は最初に出品者が決めるのだが、その後に24時間のオークションによりどんどん吊り上がっていく。
実際に、黒璃が出したダンジョンアント装備も緩やかながら値段が上がっている。
一度サイトを見るのを止めて、黒璃はダンジョンに再度潜ってみることにする。
新たな出品物を作るための素材探しのためだ。
『ざわめきの森』に入ると、すぐに探索者の群れから抜けて森に入る。
ダンジョンアント以外の魔物も見てみたいため、数度の戦闘で対処法が分かったダンジョンアントを倒しながら先に進んでいく。
進んでから20分ほどしたとき、黒璃の体に糸が巻き付き、いきなり宙に浮かび上がった。
瞬時に、風の刃で切り裂いて周囲を見回す。
すると、糸の先に巨大な蜘蛛がいた。
巨大な茶色の蜘蛛『ビッグスパイダー』だ。
糸を飛ばして獲物を絡めとり、麻痺毒を流し込んでから捕食する魔物である。
急いで黒璃は炎の矢を放ち、撃ち落とす。
ビッグスパイダーはあまり耐久は高くないため、糸にさえ気を付ければ楽な相手だ。
落ちてすぐに、ビッグスパイダーは消えて、『大蜘蛛の白糸』を落とした。
強靭な糸のため、探索者の服などにも使われている糸であり、買取価格は1000円もする。
周囲には大量のビッグスパイダーが黒璃を見つめているが、隙を見せない限りは襲ってこないだろう。
そう思っていると、後ろから悲鳴が聞こえた。
すぐに安全のために観察していたビッグスパイダーを全滅させると、悲鳴の方へ移動する。
そこには糸に絡めとられている少女がいた。
藻掻いているが、糸が頑丈すぎて糸がちぎれないのだろう。
哀れに思った黒璃は少女に伸びている糸を風の刃で切る。
少女は落ちてくるが、探索者の身体能力を活かして下で受け止めた。
「……大丈夫ですか?」
「はい!ありがとうございます!」
一応確認してみると、少女は元気そうに返してきた。
「よかったです。では私はこれで」
「待ってください!」
話すのは苦手なため、さっさと離れようとするが少女が肩を掴んできた。
じっくりとその少女を見るが、とても顔がいい。見ているだけで自分との違いに心に傷を負うレベルに顔が違いすぎる。
手を払うのも失礼なため、振り返る。
「お礼がしたいんですけど!何がいいですか!」
黒璃は少女の言葉に困惑しながら、話が長引かないようにお礼の内容を考える。
(正直お礼とかいらないけど……。押し問答になりそうだしもらっておこうかな……。何がいいかな……?)
少し、考えて黒璃はあることに気づいた。
「ここは危険ですからゲートの近くまで戻りましょう」
ここだと魔物が襲ってくる可能性があるのだ。
少女の手を引いて、ゲート前まで移動する。
少女は武器をビッグスパイダーに捕まった時に落としたらしく、道中の魔物は全て黒璃が倒した。
「強いんですね!」
少女は元気いっぱいで近くにいるだけで疲れてくる。
「お礼ですけど!何がいいですか!」
「じゃあ……。ドロップアイテムをください」
ゲート前まで戻ってきた少女は黒璃にお礼の話をしようとしてくるが、黒璃は疲れているのでさっさと終わらせたい。
そのため、ドロップアイテムを渡すように言う。
「はい!じゃあこの『赤蟷螂の大鎌』でいいですか!」
(えぇ……。強いじゃんこの子)
少女が渡してきた素材に黒璃はドン引きした。
『赤蟷螂の大鎌』はこのダンジョン最強の魔物『レッドマンティス』からドロップする素材である。
そんな魔物を倒せるのにビッグスパイダーに負けたのが謎だ。
「いいですよ……。では私は用事があるので……」
黒璃は『赤蟷螂の大鎌』を受け取った。
そして、さっさと家に帰ろうとゲートを通ろうとするが少女がまた肩を掴んでくる。
「名前をお聞きしたいなって思いまして!私の名前は
「あかりさんですね。わたしは米田黒璃です」
自己紹介をお互いし、少し話して別れた。なぜか名前どころか連絡先まで交換していて怖い。
急いで黒璃は家に帰った。あかりが苦手なタイプ過ぎて怖かったのだ。
「大丈夫大丈夫……」
大丈夫と唱えて精神の安定をすると、拾っていた素材で新たな装備を作り始める。
まずは『赤蟷螂の大鎌』で自分が使う武器を作りたい。
そうして出来上がったのは、真っ赤な二本の刀だった。
『赤蟷螂の刀
特殊効果:血液のある生物に対し、切れ味超上昇
レッドマンティスの鎌より作られた血に飢えた刀。
血を浴びることを待ち続け、刀身は赤く輝いて血を求める。
昔、異世界の人斬りが愛用していた刀とされる。』
「怖いよぉ」
黒璃は説明文の完全な殺すことしか考えていない刀に怖くなってきた。
素材を笑いながら渡してきたあかりへの警戒度が急上昇する。
ビクビクしながら、他の素材も錬金して装備を作る。
その作った装備は、『赤蟷螂の刀』以外はオークションサイトに出品した。
「えっ!なんか高くなってる!」
その時に、ちらっと見えた黒璃が出した装備の価格が1万円を超えているのに驚いた。
さすがに限界のようでそれから値は動かないが、終わる寸前になったら動くかもしれない。
ドキドキしながら、黒璃は食事と風呂を済ませて眠りについた。