さすがに毎日ダンジョンに行くのも疲れるため、一日休むことにした。
ダンジョンワームの魔石でお金もそこそこあるのと、サイトでも自分の作ったものがそこそこの値段で売れそうだからだ。
朝食をとり、今日一日何をして過ごそうかと考えていると、電話が鳴り響いた。
急いで、確認してみると昨日助けたあかりちゃんからだった。
「もしもし、米田です。どうされましたか?」
「はい!黒璃さん!今日買い物に行きませんか!」
「いきなりですね……。まあいいですよ」
急な申し出に戸惑うが暇なのでいいかと了承する。
待ち合わせ場所はショッピングセンターの前とのことなので、急いで着替えをする。
着替えと言ってもファッションにはあまり興味がないため、服屋さんでセールしていた服を適当に着るだけなのだが……。
「よし、こんなものかな」
そうして黒璃が選んだのは黒いワンピースだった。春だが少し肌寒いため長袖のものを選んでみた。今日はダンジョンではないため狐の面は付けない。
いつもはパーカーかTシャツなのだが、あかりちゃんとのお出かけなので少し背伸びしてみる。
着替え終わり、いつも使っているバッグに財布などを入れると家を出る。
ショッピングセンターまでは徒歩で20分ほどかかるそうなので、バスを使って近くまで移動した。
バスから降りて数分歩くと、待ち合わせ場所まで到着するがまだあかりちゃんは来ていない。
そのため、しばらく待ってみるといつの間にか隣にあかりちゃんが来ていた。
「おはようございます黒璃さん!」
「あっ……。うんそうだね……」
あかりちゃんが元気よく挨拶してくれるが、気配もなく現れたことの恐怖で声が震えてしまった。
「じゃあ中に入りましょうか!」
あかりちゃんはそう言うと、私の手を掴んで店内に入る。
(うおっ……!手がすべすべしてて気持ちいいよぉ……)
あかりちゃんの手の感触にわずかに興奮しながら私は引っ張られる。
「まずはここにしましょう!」
あかりちゃんに連れてこられたのは若者向けの服屋『シャイニー』であった。
「あかりちゃん!ここ高いお店ですよ……!」
「そこまで高い店じゃないですよ!」
あかりちゃんに意見してみるが、瞬時に否定されて中に連れ込まれた。
「これ黒璃さんに似合いそうですね!試着してみてください!」
中に入るとあかりちゃんは私に似合いそうな服を選んでくれる。
(あかりちゃんは私の服装が気に入らないのかな?だから服を選んでるんだよね……。ごめんねあかりちゃん……)
心の中で泣きながら、あかりちゃんの選んだ服を試着室で着てみる。
白めの清楚な感じのする服と黒いズボンとしか私の知識では言うことのできないものだが、鏡で見てみると確かに似合っているかもしれない。
試着室のドアを開けて、あかりちゃんに見せてみる。
「…………」
「あかりちゃん?」
「……ええ!はい!とても似合っていますよ!」
見せた瞬間にあかりちゃんの目つきが何か変わったが、声をかけたら元に戻った。
その目つきは高校時代に私を見る男子の目に似ていた気もするが、たぶん気のせいだろう。
似合っていると言ってくれたのだからこれを購入することに決め、黒いワンピースに着替えなおしてレジに行く。
「2点で29700円です」
「えっ……!」
いいところの服なので、私がいつも買う服とは値段の桁が1つ違った。
だが、レジまで来て止めるなんて言えないので払おうと財布からお金を出そうとしたときだった。
「これで払います」
「!!!!!」
あかりちゃんが何かカードを店員に渡した瞬間、店員が驚きだした。
そして急いでカードをスキャンすると、あかりちゃんに丁重にカードを返したのだった。
「もしかして……お金払ってくれたの?」
「黒璃さん!私が連れてきたんですから!」
震える声であかりちゃんに尋ねてみると、明るい声で奢ってくれたことを言ってくれる。
「悪いよ……!返すからね!」
声は明るいが、何か下心もありそうな気がするのですぐに財布から3万円あかりちゃんに渡そうと出す。
「私が勝手に払ったんですけど……返してくれるんですか?」
「うん!お金の問題って面倒くさいから!」
「………なるほど!なら貰いますね!とても
私が出したお金を見た瞬間に、あかりちゃんの声が冷たい雰囲気に変わる。
しかし、私が理由を説明するとすぐに元の明るい声に戻る。
そして私の3万円を財布に入れると、嬉しそうに私の手を握ってきた。
「じゃあ次はどこに行きます?映画館とかもありますよ!」
「えっと……。なら書店に行きたいかな?」
「行きましょう!」
どこに行きたいか聞かれたので書店と答える。
あかりちゃんに任せると何か危ない予感がしたためだ。
すぐに、書店へと2人で行く。
中に入ってお目当ての本を探していく。
「どんな本が黒璃さんは好きなんですか!」
「ライトノベルとか?……オタク趣味でごめんね!」
ふと好きな本のジャンルを聞かれたので正直に答えてしまう。
気持ち悪がられると思い謝るが、あかりちゃんは微笑んでいる。
「ライトノベルですか……!どんなのを読むんですか?」
それどころかなぜか食いついてきた。これがオタクに優しい陽キャとかいうものなのかもしれない。
「えっと……最近読んでいるのは『思い愛』っていうやつだよ。主人公が後輩の愛の重さで苦しんでいくって内容なんだけど、しっかりと主人公も後輩を愛しているのがいいんだよね!」
「へぇ……そうなんですか!あたしも読んでみたいです!」
あかりちゃんに乗せられて語ってしまったが、あかりちゃんは気持ち悪がることもなく嬉しそうにしている。
それどころか棚から『思い愛』を全巻レジに持って行ってしまった。10巻あるので税込みで10000円近くはするのだが、あかりちゃんは気にしていないようだ。
私もすぐにレジに本を持っていき、会計を済ませた。
「荷物が出来ちゃいましたね!残念ですけど食事して解散にしますか?」
「うん……そうしようか。」
あかりちゃんと食事に行って解散することに決める。
色々2人で悩んで決めた場所は、カフェだった。ここなら軽食も食べられるし、ドリンクも美味しいだろうと思ったためだ。
「黒璃さんは何にしますか!あたしはこの玉子サンドとコーラフロートにします!」
「えっと……。じゃあ私はBLTサンドとアイスティーにしようかな?サンドイッチ1切交換して食べよ!」
「……!はいっ!」
少し調子に乗ってあかりちゃんとサンドイッチの交換を提案してみると、とても嬉しそうに了解してくれる。
「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「はい!」
店員さんはあかりちゃんが対応してくれて、サンドイッチを1切ずつ交換して食べ始めた。
あかりちゃんはおいしそうに食べているが、それ以上に何か楽しそうだ。
「何か楽しそうだけど……どうしたの?」
「はい!黒璃さんが買い物の途中から親し気に話すようになってくれたからです!」
あかりちゃんに言われて、いつの間にか私の口調が丁寧口調でなくなっているのに気がついた。
それと同時にあかりちゃんへの恐怖が薄れていることにも気がついた。こんなかわいい子を恐れるなんてどうかしていたのかもしれない。
「嫌だったかな?嫌だったら戻すけど!」
「嫌じゃないですよ!親しくしてくれる証拠ですもん!」
気分を害したか気になったが、そうではなくて安心だ。
2人で仲良く、食事をしながら世間話に花を咲かせるのは思いのほか楽しく、いつの間にか食事は終わっていた。
「じゃあさようなら!あかりちゃん」
「さよならです!黒璃さん!」
食事代は年上の意地で奢らせてもらい、その場で別れた。
高校ではこんな楽しい経験はなかったので、充実した1日であったと言えるだろう。
私はバスに乗って、家まで心を軽やかに帰っていった。
6話
家に帰った私はオークションの結果を見るために取引サイトにアクセスした。
取引が完了した場合、お金が出品者に振り込まれる。そして商品は落札者のところに転移する仕組みになっている。
サイトで確認を行うと、どの商品も売れていた。
特に迷宮蟻の防具は高値で取引されており、1つ10万円の値になっていた。
黒璃は知らなかったことだが、防具が取引サイトに出品されることは少ない。
防具はダンジョン局でも高値で売れることと、実際に会って取引されることが多いためだ。
また、下級の探索者は防具を疎かにするために高レベルダンジョンの防具しか売れず、低レベルダンジョンの素材で防具が作られることはないというのも高値が付いた理由である。
約30万円が振り込まれているのを確認し、サイトを閉じる。
まだある出品物がどんな価格で取引されるかも気になるが、今日はあかりちゃんとのお出かけで疲れているので早く寝ることにした。
次の日、私はダンジョン局に呼ばれていた。
なんでも、私にお礼を言いたい人がいるらしい。
いつもの狐面を付けた状態で受付に行き、私を待つ人がいる部屋に案内される。
「失礼します!」
少し緊張しながら中に入ると、そこにいたのは数日前に一緒に冒険して武器をあげた太郎さんだった。
「黒璃さん座ってほしい」
「はい!」
太郎さんに促されるまま、私は席に着いた。
太郎さんと私の間にあるテーブルにはあの日渡した『迷宮鼠の片手剣』がひび割れた状態で置かれている。
「お礼ってどういうことですか?」
「ああ……そうだった!」
私が聞いてみると太郎さんはテーブルの剣を触り、話を始めた。
「俺にくれたこの剣のおかげで『始まりの洞窟』を進むことが出来てな……」
「それはよかったですね!」
「ああ……。実は俺たちはあの日、武器の購入資金を貯めるためにダンジョンに潜っていたんだ。初心者用の武器ではダンジョンワームを倒すことも難しいのもあってな……。その時に黒璃さんがこの片手剣をくれてとても助かったんだ。使ってみると今まで使っていた武器よりも切れ味も良かったしな……。だからそのお礼を言いたかったんだよ」
「こちらこそありがとうございます!でもダンジョンで言ってくださればよかったのに……」
太郎さんが本当にありがたそうに私に言ってくるが、ダンジョンでも言えることなのでなぜダンジョン局の部屋で言うのかが不思議だ。
「この部屋じゃないといけない理由ってのがあってな……」
私の疑問に太郎さんは頬を搔きながら答えてくれる。
「新しい武器が欲しくて……購入するのにダンジョン内だと危ないだろ?」
「なるほど!でも今は武器は自分用のしか持っていないので、もう少し待ってくださいますか?」
「そうか……。急に言ったことだし無くても仕方がないよな……」
武器の購入がしたいようだが、私が売るものを持っていないと言うと肩を落として残念そうにしている。
「でも、これからダンジョンで素材を集めてくるので……そうしたら作れますよ?」
「本当か!じゃあ頼む!」
私の提案に嬉しそうな顔になり、話は終わったのでお互いに立ち上がる。
そして部屋を出ると私はダンジョンの方に行き、太郎さんは仲間達に武器の新調の再相談をすることにした。
いつの間にかレベルが13にまで上がっているので新しく『荒れ果て町』というところにも行くことが出来るようだが、もう少し『ざわめきの森』を探索したい。
(そういえば……『錬金』スキルって道具の生成もできたような?)
ふとそこら辺の草を見て、私は『錬金』スキルは道具も作れることを思い出した。
試しに、そこら辺の草を抜いて魔力を流してみる。
わずかに草が輝くと、そこには試験管に入った緑の液体があった。
自分が作ったものなので効果の確認をしてみる。
『回復ポーション
効果:傷口に垂らすとその部分の傷を癒す。
ダンジョン内の薬草で作られる傷を癒す初歩のポーション。
回復効果はそこそこで、骨折まで行くと痛みの緩和しかできないので過信は禁物。
更なる回復効果を求めるなら、よりよい素材で作る必要がある。』
普通に回復ポーションが作れたので驚きだが、説明にあるさらに上の回復ポーションについては知らない。
そんな情報はネットにもない。もしかしたら見つかる数が少ないか、上級冒険者が拾ってもダンジョン局に提出していないのかもしれない。
そんなことを考えながら、回復ポーションをたくさん作る。売れるかもしれないし、困っている人を助けられるかもしれないからだ。
大量に回復ポーションを作った私は、本題である素材集めのために森を進む。
やはり『ダンジョンアント』と『ビッグスパイダー』の数は多いが、それ以外にもこのダンジョンには昆虫系の魔物が出てくるはずだ。
そうして歩いていると、キラキラと粉が頭上から降ってきた。
私はそれに気づくと瞬時に鱗粉の雨から脱出し、上空を見る。
そこにいたのは1体の巨大な蝶だった。その魔物の名は『ダンジョンバタフライ』。鱗粉に幻覚作用を持ち、吸った者は自らこの魔物に命を捧げるという。
ギリギリのところで吸わずに済んだが、こちらにダンジョンバタフライは近づいてくる。獲物を逃がす気はないようだ。
「ウィンドエッジ」
そのため、私は風の刃を急いで飛ばしてダンジョンバタフライを切り刻む。
この魔物はなぜかドロップアイテムを落とさない。完全に嫌がらせとしか思えない魔物である。
しかし、このダンジョンバタフライは1日に3体しか出現しない。ダンジョンの雀の涙ほどの優しさだ。
(この魔物が出たということはあれが来る!)
私は周囲を警戒する。ダンジョンバタフライの近くにはある魔物がいるからだ。
私が警戒していると、前方から赤い蟷螂が歩いてきた。『レッドマンティス』だ。
巨大な切れ味鋭い鎌を持つ、このダンジョン最強の魔物として有名で、この魔物を倒したら一人前と言われている。
私は相手が動き出す前に腰から『赤蟷螂の刀』を抜刀して高速で接近する。
レッドマンティスも私に気づき、鎌を振り上げるが遅すぎた。
鎌が振り落とされる前に、私がレッドマンティスを切断した。
左右に分かれた体は消滅し、『赤蟷螂の大鎌』だけを残す。
「この刀は切れるなぁ……」
私は刀の切れ味に驚きながら、ドロップアイテムを拾う。
「この素材で太郎さんの武器を作ろうかな……?」
そう呟きながら、ダンジョンの入り口に戻る。
ダンジョンから出た私は、物陰で『赤蟷螂の大鎌』で片手剣を作成してみる。
『赤蟷螂の片手剣
特殊効果:敵を切断時、切れ味上昇(重ねがけ不可・1分)
赤蟷螂の大鎌で作られた真っ赤な片手剣。
継戦能力に優れており、長時間の乱戦に向いている。
しかし、効果中は切れ味がありすぎるため注意が必要。」
真っ赤な片手剣が2本できたため、1本は取引サイトに売ってもいいだろう。
私は太郎さんを待つ間に、回復ポーションを売ってみる。
「これっていくらで売れますか?」
「えーと……これなら1本20万くらいですね……」
回復ポーションに困惑されるが、すぐに値段を伝えてくれる。
「ところで『調合』スキルか何かお持ちですか?回復ポーションをもってくるってことは」
「いいえ……。その……『錬金』の方です」
「なるほどそっちですか……。レアスキルなので他の探索者には言わない方がいいですよ。適当に『調合』とでも言っておいたほうがトラブルにならないですからね……」
私が正直に言うと、ため息をついてアドバイスをしてくれた。優しい人なのだろう。
「確かに回復ポーションを頂きました。ではこれがお金です」
私が頷くと、買取員は回復ポーションをそっと受付台に隠しお金を渡してくれた。
そうしてしばらく待っていると、太郎さんがダンジョン局に入ってきた。
私はすぐに立ち上がって太郎さんに近づく。
「武器が出来ました。見てみてください」
私は太郎さんに『赤蟷螂の片手剣』を見せてみる。
その剣を見た瞬間に、太郎さんの目が大きく見開いた。
「これってあの魔物で作ったやつだよね……!」
「多分……想像通りのやつです」
太郎さんは剣をじっくりと見て、悩み始める。
財布から通帳を取り出すと、何度も確認して私に剣を返却した。
「ごめんけどその剣を買うお金はないなぁ……。それは買いに出したら100万は最低でもする剣だしね……」
「そうですか……ならこっちにしますか?」
断られた私が次に太郎さんに見せたのは『迷宮蟻の片手剣』だった。
黒く輝く剣が男心をくすぐる一品だ。
「これなら買えそうだけど……。いくらくらい払えばいい?」
「えーと……3万円?」
「買った!安いくらいだよこの品質なら!じゃあこれね」
「はい。ありがとうございます!」
太郎さんは即決し、『迷宮蟻の片手剣』とお金を交換する。
「いいものを購入できたよ、ありがとう」
「こちらこそありがとうございます……」
太郎さんと別れると、周りに探索者が集まっていた。
今にも私に話かけたそうだが、さすがにあの『赤蟷螂の片手剣』を買うお金はないらしい。
私は視線にビクビクしながらダンジョン局を出て逃げた。