世界観の脇を固めるものなので、ちょっと箸休めに楽しんでいただければ幸いです。
黒咲とユートの二人を伴ってきたのは、まずショッピングモール。本当はすぐ目的の場所に連れて行きたいのだが、相応の準備が必要なのだから仕方ない。
「はいこれ」
「? 何だ?」
「見りゃわかるでしょ、お金。これで着替えとか歯ブラシとか、あんた達の生活用品買ってきなさい。とりあえず数日分の間に合わせで良いから」
「……この金を持って俺達が逃げるとは考えないのか?」
黒咲の当然の疑問に、ため息をついて答える。
「無いでしょ。現状、あんた達にとって私を通すのは唯一赤馬社長に穏便に接触できる手段なんだから。私が手を切ったらまた辻斬りみたいな真似するしかなくなるよ」
「むぅ……」
「それに、その様子じゃロクなもの食べてないでしょ? 晩ご飯も食べさせてあげる。分かったらサッサと行く! その間に私は食材買っておくから。言っておくけど、あんた達の食事なんだから荷物は持ってよ」
困惑した様子ながらもちゃんと買い物に行ってくれたので、その間にスマホを取り出し、電話。
「お母さん? 私、遊花。これからちょっと訳ありっぽいのを2人連れて行くから、お風呂の準備しておいて。あとベッドは……3つ。この時間だから、泊まっていく……うん、お願い」
買い物を終え、再び3人で歩き、ある場所にやって来た。
「遊花お姉ちゃんだ!」
「横の2人、誰?」
「遊花お姉ちゃん、デュエル教えて!」
駆け寄って来る子供達を一度制止する。
「はいはい、お姉ちゃんこれからこのお兄さん達のご飯作るから話もデュエルも後でゆっくりね」
「……ここは?」
「舞網ロッジ。私が育った孤児院だよ」
そこで、背が高く恰幅の良い女性がこちらに歩いてきた。
「待っていたよ、遊花。そっちが訳ありの子達だね? お風呂準備出来てるから、早く入りな」
「ありがとう、お母さん。本当に助かるよ」
「なあに、アイドルになっても、プロ決闘者になっても、あんたは私の可愛い娘だよ。娘の頼みを無碍に断ったりしないさ」
「あの……」
「アタシは花代。本多花代。このロッジの院長で、みんなの母親さ」
2人が風呂に入る間に、ロッジの子供達に手伝って貰って2人の服の洗濯と、料理を進めていく。到着時間の都合で、作るのは私と黒咲、ユートの分だけだ。子供達の分まで作ると結構な大仕事なので、ある意味都合が良いと言える。
「2人とも、中々イケメンじゃないか。どっちか彼氏かい?」
「冗談はやめてよ、成り行きで助けただけ」
「そんな事だろうと思った。どちらにせよ、助けるならちゃんと責任持って最後まで助けてやりな」
「……そうだね」
台所を借りて立花母さんに茶化されながら作るのは、豚汁とおにぎり。おにぎりはシンプルな具材なしの塩むすびだ。
風呂ですっかり身綺麗になった黒咲とユートが、困惑した様子で食事を進めていく。
「あんまり、食が進まないみたいだね? 口に合わなかった?」
「いや……美味しいよ。何故、君は俺達にここまでしてくれるんだ?」
「ただのワガママ」
「何?」
黒咲は、ユートの問いに対する私の答えが納得いかないようで怪訝な目を向けてきた。
「私は礼儀知らずとか筋が通らない事が嫌いなの。デュエルの前にちゃんと赤馬社長に口利きするって言った以上、約束は守る。この街の外から来たあんた達は知らないかもしれないけど、レオ・コーポレーションはこの街の中心、押しも押されもしない大企業……そこの社長に面会するんだから、身だしなみは当然でしょ」
「…………」
「で、当然だけど社長も忙しい人だからいくら私が口利きするって言っても、面会まで数日はかかる……その間の拠点と生活くらい、フォローしておかないと面会の準備が台無しになるじゃない。それだけの事、だから『やるならキチンとしたい』ってだけの私のワガママ」
「……そうか」
「わかった、そういう事なら好意に甘えさせて貰う」
納得してもらえたようで何より。やはりというか、黒咲よりもユートの方が物分かりが良さそうだ。
私なりの筋を通したところで、重要なのはここからだ。
「とりあえず、そんなわけだから面会の時間を取るまではここにいたら良いよ。明日連絡してみるけど、何か伝えておく事はある?」
その言葉に、ユートが神妙な面持ちで答える。
「……融合次元、それからプロフェッサー……
直球で来たね。
「お母さん、ちょっと込み入った話になるかも……」
「わかった、奥の部屋を使いな」
場所を変えて、改めて話に入る。
「赤馬零王って確か、レオ・コーポレーションの先代社長だね。その名前を出せって事は、関係者?」
「関係者、どころの話じゃない! あの男のせいで俺達は……!」
「穏やかじゃないね。赤馬社長に話を通すうえで、なるべく詳しく事情を聞きたかったんだけど」
「すまない、あまり詳しく話すと巻き込んでしまう……」
「今更だね。既に思いっ切りケンカ売られて、面会の手筈を整えてる。ここで放り出す方が不義理だよ」
「……ユート、話した方が良さそうだ。コイツは、途中で投げ出すのは性に合わんらしい」
「わかってるじゃん。それだけじゃなく、あんた達の様子から明らかに不穏な気配がする……降りかかる火の粉は払うのが当然でしょ。今のうちに備えられるなら備えておきたいんだよ」
「……まずは、にわかには信じられない前提から話そう」
こうして、原作知識の復習的な話を聞いていく。
この世界は融合、シンクロ、エクシーズ、スタンダードの4つの次元があり、彼らはエクシーズ次元からこのスタンダード次元にやって来た事。エクシーズ次元は突如として融合次元の『アカデミア』に襲撃された事、その『アカデミア』の首魁が『プロフェッサー』……赤馬零王である事。そして、隼の妹『瑠璃』が『アカデミア』に攫われた事。
「まあ、普通に聞いたら確かに頭を疑うよね」
「…………」
「でも、これでスルーしていざ何かありましたじゃ笑えないからね。とりあえず信じる」
実際、知識として知っているし。
「じゃ、後は社長に会ってからって事で。情報共有はするけど、詰めた話をするのはそれからでも遅くない」
「それで良いのか? これからどうするつもりだ?」
「面談して、話を通して、それからじゃないと対策なんて打てないからね……今日はもうシャワー浴びて寝る。明日は早起きして家にカバン取りに行ってから登校しなきゃいけないから。変な事考えないでよ? のぞいたりしたらぶっ飛ばすからね」
まあ、言わなくても黒咲は重度のシスコンだしユートはここまでのやり取りで思った以上に真面目で誠実なようなのでやらないだろうが冗談の一つも飛ばさなければやっていられない……それくらい、2人の表情は沈痛なものだった。
時系列こそ原作知識に準拠しているとはいえ、比較的早めに、穏便に接触できた事で得られた情報的なアドバンテージは大きい。ここからが、本番だ。
そんなわけで、5D'sのマーサ的な立ち位置のキャラを出してみたりしました。
豚汁とおにぎりなのは何となく。カレーとかシチューみたいな案もありましたが、庶民感ある&和食派と考えるとこんなところかなと。
エクシーズ次元からスタンダードに渡ってきて別次元の通貨とかどうするの? 拠点どうしていたんだろう? と言う疑問点があったものを、本作ではロッジを拠点に、遊花が(無駄に)ため込んでいる資金で生活費フォローと言う形にしてみました。
次は面談フェイズエクシーズ次元編です。
タツヤのデッキ、何が良さそう?
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