気まぐれに書き進めるつもりなので、楽しんで頂けますと幸いです。
試験デュエルの翌日、早くもプロライセンスとインストラクター資格の証明書が送られてきた。それと時を同じくして届いたポストに押し込まれた、大量の書類の束……思わず溜め息が出る。
「……仕事が早いのは良い事だけど、加減ってもんがあるでしょ」
両手にずっしりとした重さを感じる書類はデュエルの申し込み……要するに『挑戦状』と教員としてのスカウトの打診だ。
「こんな無茶苦茶な数、簡単に日程調整出来るか!!」
教員スカウトはその日程調整にかなり無理が出るのでほぼ全て断るつもりだが、挑戦状の方はデュエルを受ければしっかりファイトマネーが振り込まれるので無碍に断るのは勿体ない。
「あー……誰か代わりに受けてくれないかな? でなきゃ分裂できないかな?」
原作ストーリー的に割とシャレにならない愚痴をこぼしながら、TVをつける。ハードな試験の翌日だし、以降選挙応援だのステージイベントだのの打ち合わせが詰まっているので、今日は貴重な休日だ。
1日寝て過ごすのも良いけど、スイーツ巡りも捨てがたい……そんな事を考えていると、TVにはストロング石島と遊矢のデュエルが映し出されていた。
「あ〜……来ちゃったか」
これこそ本編開始の合図。このデュエルで遊矢はこの次元で初めて『ペンデュラム召喚』を行い、注目の的となる。これを皮切りに、物語は大きく動き出す事になる。
(放っておいても、そのうち巻き込まれるよねえ……)
物語最初期においてペンデュラムのカードを持つのは遊矢のみ……そのカードを入手する為に、社長から愚弟に話が行くのだから。
「一足先に、私が話つけてみるか……」
放置して原作通り進んだ場合、柚子と遊勝塾の子供達も巻き込まれる事になる……無視を決め込むのは少々気が引ける。
あくまでも、レオ・コーポレーション……というか赤馬社長の狙いはペンデュラムのカード。それもデータ取りが目的なのだから期限を設ける等して早々に貸してしまった方が話が早い。
「ペンデュラムカードが無いと遊矢のデッキはかなり弱体化するけど……
それに、遊矢が使う【
TVに再び視線を向けると、ちょうど初めてのペンデュラム召喚に会場が湧くところだった。
(確かこれ、遊矢は感覚的にやっただけで遊勝塾に人が殺到した時にはまだペンデュラム召喚をきちんと実践して説明する事が出来なかったんだよね……)
と、そこである事を思いついた。うまくいけば、挑戦状の山を効率的に処理する事ができる。そうと決まれば、善は急げだ。各方面に電話連絡を取る。
『マネージャー、レオ・コーポレーションの赤馬社長にアポ取れる?』
『はあ!? リベンジマッチなら無理ですよ、デュエルを差し込む余裕なんてありません!』
『デュエルはしなくていい、ちょっと面会の時間取れればそれでいいから』
『それなら、何とか掛け合ってみます』
『お願い。あと、打ち合わせの終了予定をもう一度確認したいんだけど……』
明日の予定を確認し、次は遊勝塾。
『はい、遊勝塾ですけど……』
『柚子ちゃん? 沢渡です、ごめんね大変な時に』
『遊花さん!? どうしたんですか?』
『TV観たよ。多分明日にはペンデュラム召喚を知りたいって人がいっぺんに来ると思うんだけど、あれの仕組み分かったから夕方からでよければ私が説明に行ってあげる。インストラクター合格したから、初仕事って事で』
『本当ですか!? 助かります!!』
『言っておくけど、仕事だからタダじゃないからね? 講義の代金はおまけしてあげるけど、その代わり遊矢と塾のみんなにお願いしたい事があってさ。ちょっと手を貸して欲しいんだよね』
『任せて下さい! できる範囲で協力します!!』
『ありがと、じゃあ詳しくは明日話すから』
準備を終え、翌日の夕方――遊勝塾を訪れるとやはりというか大勢の入塾希望者、ペンデュラム召喚を見たいという人々であふれかえっていた。
「うわ……思った以上だなぁ。すみません、これからペンデュラム召喚の説明するんで、通してください」
「沢渡遊花だ! 本当に授業してくれるんだ!!」
「授業って言うか、概要の説明くらいかなー」
アイドルの登場に驚く人々をかき分け、初めてのペンデュラム召喚で一躍時の人となった遊矢の前まで歩を進める。
「遊矢、一応確認するけど自分でペンデュラムの実践と説明まで、出来る?」
「え? えーっと……」
やはりというか、目を逸らす遊矢……これは分かってないな。
「そんな事だろうと思ったから、来たんだよ。じゃ、遊矢のデッキ貸して」
「良いけど、どうして?」
「私はペンデュラムのカード持ってないんだから、当たり前でしょ」
デッキの内容を確認しながら、先に告げる。
「あー、まず言いますけど『自分のデッキでペンデュラム召喚を使いたい』って人は諦めて下さい」
「はあ!?」
「一体どうして!!」
「今のところ、ペンデュラムのカードがあるテーマが遊矢のデッキにあるカードだけだからですよ。後々増えてきたら話は変わりますけど、たとえペンデュラムが入った
それを聞いただけで、何割かの人々が背を向ける。自分のデッキで簡単にできるなら取り入れたいのは分かる……実際ちゃんと使えれば強いからね。
「じゃ、エキシビジョンって事で実際にペンデュラム召喚をやってみます。あくまでもやり方の説明だけね。ペンデュラムゾーンに、スケール2の《EMラクダウン》とスケール5の《EMシルバー・クロウ》をセッティング! これで、レベル3から4のモンスターがペンデュラム召喚可能! 《EMディスカバー・ヒッポ》と《EMウィップ・バイパー》をペンデュラム召喚!」
これだけで、歓声が上がる。やはり新たな召喚法はそれだけで注目の的だ。
「ペンデュラムモンスターは、魔法とモンスター両方の性質を持ちます。ペンデュラム召喚は、左右の『ペンデュラムゾーン』にペンデュラムモンスターをセットして、そのスケールの間にあるレベルのモンスターを手札から特殊召喚できる。ペンデュラムゾーンにあるカードは魔法カード扱いで、魔法カードとしての『ペンデュラム効果』が使える。扱いとしては、フィールド魔法や永続魔法と同じかな」
「ふむふむ……」
「これが大きいのは、通常召喚を行わずに使える事。よって、こういう事が可能になる。ディスカバー・ヒッポとウィップ・バイパーをリリースしてアドバンス召喚、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」
あっさり通常召喚で出て来る最上級モンスターに、続けて声が上がる。
「すっげえ簡単に最上級モンスターをアドバンス召喚した!」
「ペンデュラム、めちゃくちゃ強いじゃん!」
「うん、強い。でも明確な弱点もある。ペンデュラムはペンデュラムゾーンに2枚のカードがある限り1ターンに1度、毎ターン使える。でも、そこがネックでもある」
デッキから2枚のカードを取り出して、見せる。
「こんな風に、同じスケール2枚だとペンデュラム召喚は出来ない。ちゃんと左右に『高スケール』と『低スケール』を揃える必要がある。左右どちらかを破壊されてもアウト……だから、ペンデュラムは魔法・罠の除去、特に毎ターン使えたり複数枚をまとめて破壊するような除去には弱い」
実際は、ペンデュラムモンスターは『フィールドで破壊されるとEXデッキに表側で置かれ、ペンデュラム召喚の際にそのEXからも特殊召喚出来る』という特性があり、何度倒してもペンデュラムゾーンさえ無事ならまた出て来るゾンビ戦術が出来るので先に触れた弱点があってもお釣りが来るレベルで強いのだが『TVとカードから得られる範囲の情報』にはこの点は含まれないので伏せておく。どうせ後々レオ・コーポレーションがペンデュラムカードの作成に取り掛かれば出て来る情報なので変に詳細を明かして怪しまれるような事をする必要も無い。
「なるほど……では、プロとして、インストラクターとしてペンデュラムカードをどう見ます?」
記者みたいな質問をしてくる男に、少し考えて返答する。
「何せカードが少なすぎて情報が足りないんで何とも言えませんね。ただ、今後カードが増えてもっと性質がわかってきたら、環境を変える可能性はあると思いますよ」
このくらいならば、変な言葉尻を取られる事もないだろう。こうして、おおよその説明を終えると満足したようで、ほぼ全ての人が帰って行った。
「……みんな帰っちゃった」
「そりゃそうでしょ。少なくとも『現状を大きく変える事はない』ってわかったんだから。ペンデュラムのカードが増えるまでは『自分達がペンデュラム召喚を取り入れる』事は難しい。逆に『ペンデュラム召喚を使われる』事を想定したら当然知りたいのは『弱点』だけど、それもわかった。デッキ構築を工夫するかどうかはそれぞれの判断だけど、欲しかっただろう情報は全部出したはず……ん?」
全員帰ったと思ったら、一人入塾希望の少年が残っていた。ペンデュラムに惹かれた、と言うわけではなく純粋に遊矢のデュエルを見て魅力を感じた山城タツヤ少年だ。
「私はたまに来るくらいだから、正式な入塾手続きは塾長に話してね。それじゃ修造さんお願いします」
「おう! さ、タツヤ君だったな! こっちだ!」
こうして、今いるのは柚子と遊矢、そして私。
「それじゃ、本題に入ろうか。単刀直入に言うけど……遊矢、レオ・コーポレーションの赤馬社長にデッキを貸してもらえないかな?」
「ええっ!?」
「レオ・コーポレーションがカードのデザイン、製作を手掛けてるのは知ってるでしょ? レオ・コーポレーションはこれからペンデュラムカードを作るうえで遊矢が持ってるペンデュラムカードを欲しがっているはず。沢渡家はレオ・コーポレーションに出資してるし、知っての通りプロ採用試験で私は社長に面識がある。で、知っての通りこの塾の経営は厳しい」
「うぐ……」
柚子がその現実に唸ったところに、更に追い打ちをかける。
「この町の実質的な支配者と言っても良いほどの大企業・レオ・コーポレーションの事だからいざとなればペンデュラムカードのためだけに塾の買収に動いてもおかしくない。それくらい、今ペンデュラムのカードは貴重……で、そうなる前に私が仲介してあげようって話よ」
「それで遊花さんにどんなメリットがあるんですか?」
「私もペンデュラムカード、使ってみたいからね。強引な手段に出る前に穏便に話を進める手助けをすれば、試作品を優先的に回してもらうための交渉ができる。これは、乗っかるだけで全員得できる可能性がある提案よ」
「……具体的には?」
名目上の塾長は修造さんだが、実質財布を握っている柚子ちゃんに話を持っていって正解だ。中学生とは思えないほど、しっかりビジネスの話ができる。
「レオ・コーポレーションは遊矢のカードのデータを基に新しいペンデュラムカードを製造、販売できる。その試作品を回してもらう事で、私はいち早くペンデュラムのカードを手にして使い、プロとしての注目度を高める事でより多くのファイトマネーがもらえるようになる。遊矢はお父さんの塾の買収を防げる」
貴重なペンデュラムカードを持つ当事者である遊矢も、決して頭が良い方ではないがこの話に疑問を持ったようで怪訝な顔をする。そしてそこによりはっきりとした答えに至った柚子が反論してくる。
「待って! それ、レオ・コーポレーションと遊花さんが得してるだけじゃないですか! 買収を防げるはメリットになってない!」
「そこで、更に提案があるの。遊矢がデッキを貸している間、私が汎用枠のカードと、必要ならデッキも貸してあげる。融合、シンクロ、エクシーズ……一通り教えてあるでしょ。EXデッキを使いこなせるだけで、並の決闘者なら問題なく勝てるはずよ。で、そうして私がカードを貸している間のピンチヒッターとして、遊勝塾を指名する」
「? 確かに、遊花さんからカードを借りれば公式戦を戦う事は出来るだろうけどそれに何の意味が有るんだ?」
「はい、良い質問です遊矢君。プロのピンチヒッターとして戦うという事は必然、プロと同じ扱いをする必要があるんです。つまり、勝っても負けてもファイトマネーが入ります。もっとわかりやすく言えば『私が弱体化したように見せる』事で遊勝塾にお金がもらえる試合を斡旋してあげよう、と言う話よ」
「!!」
その話で目が金になった柚子ちゃん。この意味がよーくわかっているようで何より。
「流石にジュニアやジュニアユースの子にプロをぶつけるなんて無法はしてこないだろうから、相手も同じように塾の生徒をぶつける形になるだろうし、その分報酬は下がるけどそれでもそこそこの額は入るはず。生徒に実戦経験を積ませつつ、たんまりお金も入る。これで、遊勝塾にとってもかなり美味しい話になるはずじゃない?」
「もしかして、電話で言っていた手を貸して欲しい事って……」
「正解。実は昨日合格通知が来たばっかりだって言うのにとんでもない量の試合の申し込みがあって、他の仕事までやってたら手が回らないから代わりに戦ってきて欲しいんだよね」
「自分に送られてきた試合の挑戦状を俺達に受けさせるって、ちょっと調子良すぎない?」
呆れた声を上げる遊矢に意地の悪い笑みを返す。
「はっはっは、神経図太くなきゃ何年もあの成金親父の養子やってないよ。この話、乗っかるかどうか決めたら連絡してね」
こうして、全てを丸く収めるため考えた私の提案を遊勝塾は受け、赤馬社長と会議の日程を詰める事になるのだった。
少々強引感があるのは認めつつ、遊勝塾の面々をデュエルに引っ張り出す理由付けをしてみました。
これでEXデッキの使い方を覚えた年少組も引っ張り出すつもりです。
また、試作品と言う名目で色々なテーマを遊花に握らせるためのフラグでもあったりします。
次は誰のデュエルが見たい?
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遊矢
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柚子
-
アユ
-
フトシ
-
タツヤ
-
遊花