ここまでで触れた通り、我らが遊花さんは新たな生まれでも底辺だった故になりふり構わない思考にはなっていますが同時に転生前カジュアルプレイヤーだったこともあり、自分の限界も見えています。
(……さて、どうしたものかな)
タイラー姉妹の返還を条件に対談を取り付けたのは、単純な『逃げ』の面も大きかった。
何せ、数と統率力が違う。確かに当初の目的は果たし、この方法なら確実に相手の拠点も分かる……だが、実のところその先の展望は全く見えていなかった。こちらも策を講じられる、と言ったのも自分に言い聞かせていたようなものだ。
(効果のほどはわからないけど、それなりに現実的な手段としては斬首作戦くらいかな)
つまり、対談でデュエルに持ち込みトップであるエドの身柄を押さえる。後はトップを失った連中の混乱に乗じて帰還、体制を立て直す前に数を揃えて攻める……完全にゲリラの手口だが、他に有効そうな手も思い浮かばない。
(挑発することでプレイングも崩せるかも。ただ、正論で殴りつけるだけでどこまで効くやら……本当に、本っ当にやりたくないけどタイラー姉妹を使って動揺を誘う?)
ハニートラップの類が効く人間ではなさそうだし二人は確保したとはいえ手懐けたわけではない。よって暴力的な手段でボロボロにするか、カード化した姿を見せるといった方法になるがやはり倫理観の面で気が引ける。
碌でもない選択肢しかない……と頭を抱えていたところに刃が駆け込んできて、思わず最悪のパターンを想定して聞いてしまった。つまり、カイトによって身内がカード化され更に選択肢が無くなるパターンだ。
だが、蓋を開けてみればシンクロ次元組がこちらに来た、というある意味真逆の状況。こうなると本当に思考が追いつかず、整理に時間を貰うことになった。
そうして事情を聞き、情報を整理するうちにすっかり忘れていた重大な事実を思い出した……それは、この世界においては、デュエルはただのエンタメではなく、もっと重要な意味を持つということだ。
ソリッドビジョンが質量を持つ故にダメージがある、というだけではない。互いをより理解するコミュニケーションツールであり、更には重要な事柄でもデュエルを通し、勝利することで自身の正しさを主張できる。場合によっては結果をもって『我を通す』ことすら可能となる。
(私としてはこういう『デュエル脳』は否定したいんだけど今の状況でこれ以上有効な手も存在しない、か)
デュエルに持ち込むこと自体のハードルもグンと下がった。エドは榊遊勝に負けたことで価値観に揺らぎを感じ、アカデミアの教えが正しいと証明することに躍起になっている……遊矢となら、すんなりデュエルを受けるだろう。
(つまり、大事なのはそこで何を主張するか。勿論勝つに越したことはないけれど、確実に勝てる保証はない)
単純に『デュエルは笑顔をもたらすもの』では足りない。そもそも『デュエルは楽しむもの』なんてのは本来ならば原則であり、肯定できるものではないがアカデミアも『狩りとして』楽しんでいた側面はあるのだ。
故に『デュエルは楽しみ、楽しませる』は前提。問題はそれを一歩進めて『どうやって楽しませるか』という話になる。
やり方は人それぞれだろう。よって『楽しませる』だけなら極端に難しい話ではない。ここで、エドと対戦する遊矢のデュエルスタイルを改めて考える。基本はペンデュラム召喚とアクションデュエルだ……これは父親のデュエルを再現しようとしている故に『アクションカードのランダム性』と『ペンデュラム召喚の華やかさ』で演出をカバーしている面も大きいのだと思う。事実、少なくとも表面上それは成功している……一方でこれは悪く言えば『技術』ではなく『見た目』で引きつけている上っ面だけの二番煎じだ。
(これでも上手くいけば十分エドに響くとは思う……でも、将来的に遊矢のためにならないし、この手の演出は受けなかった時がキツい)
受けなかった時、見た目で引きつける演出はただの滑稽な芝居になってしまう。その滑稽さで笑いを取る、というのも出来なくはないがそういうのは罵倒上等のメンタルがあってこそ成立するもので、振れ幅が大きい振り子メンタルの遊矢には向かない。
(参考事例はあるし、私なりにエンタメの方向性は提案してみようか)
それでうまくいくか、どう取り入れていくかは遊矢次第だが少なくとも努力の傾向が見えれば人によっては好意的に見てくれるものだ。
そして、重要な『楽しませた先』だが流石に『反旗を翻して赤馬零王と敵対しろ』と言うのは無茶だ。だが、ここで『敵対』の定義をずらせばどうだろう? つまり面と向かってアカデミアで争うのではなく『降りる』という選択だ。これ以上の侵攻を停止し、残った住民や街の復興に手を貸す。これは『命令違反』かもしれないが既にごく一部の人間を除けばまともな抵抗力は残っていないため『制圧完了』と言っても嘘ではない。最終目標は『エクシーズ次元全ての人間のカード化』だとしても現実としてあとはひたすらかくれんぼ状態なのだ……非効率にもほどがある。
よって、ここで手打ちにしたとしても融合次元側にデメリットというほどのデメリットはなくむしろ資源と人員の浪費を避けるというメリットになるくらいだ。これを提案する。
(それに……良くはないけど『時間稼ぎ』の代案なら考えられなくもない)
そもそも人間をカード化する理由だが、これは『アークエリア・プロジェクト』において世界を統合するためのエネルギー……すなわち『燃料』とするのが目的だ。
アークエリア・プロジェクトそのものを否定する立場としては当然これもやる意味はなく今すぐ止めろと言いたいが、それこそ無理筋と言うものだ。
(少なくともハゲを殴って止めるまでには少し時間がかかる。その間に関しては表向きだけでも『順調である』と思わせておく必要がある)
つまり、その間ある程度人間をカード化する事は許容しなければならない……ついため息が出る。
(とはいっても、私の頭じゃこれが限界。本当は榊遊勝も交えて、ハゲを会談の場に引きずり出せれば平和的解決も見えてくるんだけどその手段が思い浮かばない)
結論、ある程度準備に時間がかかることそれ自体は諦めて殴り込みをかけ、力ずくで止めるしかない。
「転生者がアイドルだプロだ先生だと言ってこの程度……情けないなぁ」
物語を知る者であり、OCGの制圧を是とするプレイスタイルが染みついている事で並みいる半端なプレイヤーを圧倒し、恵まれた容姿に加えて土台が底辺だからこそなりふり構わない行動を選択肢として思考に入れておける……ここまで条件が揃っていても、結局平和的な解決を望めずゴリ押し。しかもそのゴリ押しが通るかもデュエル脳頼みだ。
「ここまでやって、これか……本当、私って弱いな」
だが、出来る限りのことはやったつもりだ。あとはエドと話す時の方針をまとめて、その先はまた流れ次第で考えるしかない。
「少なくとも肉体的にも精神的にも年上だからね、出来る範囲でお姉さんやっておかないと」
弱音を零してしまった自分の頬を張り、方針を簡単に整理する。
・侵攻目的『アークエリア・プロジェクト』の情報を共有する
・そのうえでエドには遊矢とデュエルしてもらい、勝敗はともかくデュエルの前提としての『楽しさ』を主張する。
・主張を伝えたところで『楽しむもの』を侵略手段として扱うことを否定。反逆しないまでも『おおよその作戦目的は終了している』ことを指摘して『侵攻の停止』を呼びかける。
ここまでだ。赤馬零王を説得する事、彼に戦いを挑む事まではしなくても良い。ただやるべきことはやったのだからもういいだろう、と伝えこれを妥協点として伝える。
(これでダメなら本当に全面戦争。手始めにタイラー姉妹とエドからカード化して指揮系統が乱れた相手と潰し合いかな。やらせたくはないけど、最後の選択肢はこうなる……覚悟だけはしておこう)
実はお姉さんしている裏でいっぱいいっぱいでした。
本当は