方向性が決まれば、後は詰めるだけだ。遊花は逃亡防止のためにやむを得ず拘束しているカイトの前にやって来た。
「グッドイブニ〜ン。気分はどう?」
「これで良いわけが無いだろう」
「それはごもっとも。でも、アンタ放っておいたらまた飛び出してアカデミアの連中を狩り始めるでしょ」
「当たり前だ!」
「連中の本拠地に行く、って言ったら付いてくる気はある?」
「何だと!?」
「事情はサヤカちゃんから聞いた。許せないのは当然……でもさ、どこかで止めなきゃいけないんだよ」
「……続けろ」
「このまま行ったら……いや、もうほとんど全面戦争状態か。でも、このまま続けたら互いに一人残らずカードにするまで戦うことになる」
「それがどうした、俺はそのつもりだ」
「それじゃ、エスカレートして誰も止められなくなるって言ってるの。それで悪いんだけど、折れてくれない?」
「ふざけるな!!」
当然だが激昂するカイト。彼はアカデミアに家族を、仲間をカードにされている。その怒りと復讐心は妥当なものだ。
「勿論、意味も無く言っているわけじゃない。今、スタンダード次元ではカード化された人の復元を研究している。いつになるかはわからないけど、その成果は必ずエクシーズ次元復興に役立てるよう進言する。だから、それまで一度足を止めて欲しい」
「何故、スタンダード次元の研究のために融合次元の奴らを狩る足を止める必要がある?」
「残念ながら、融合次元の技術って私達より進んでるんだよ。カード化研究にせよ、次元移動研究にせよ、あいつらは私達より優れている。だから、その技術が欲しい……殲滅したら技術の奪取どころじゃないでしょ」
「ならば、どうして奴らの本拠地に同行を呼びかける?」
「こちらとしては、情報収集と意見の主張をして、見返りに捕虜返還、で平和的に終わりたいんだけど……多分結果はどうあれ一部は仕掛けてくると思う」
「……だろうな。奴らはそういう連中だ」
「そいつらを黙らせたい。こちらからは平和的解決を求めて話し合いとデュエルの提案をするのに仕掛けてくる、っていうのは差し出した手を払いのけるってこと。それなら容赦はいらない」
「……俺がお前達に仕掛けるとは思わないのか?」
「頭が働くなら無いね。こちらは未完成とはいえカード化の復活技術を提供できる以上、敵対する理由が無い。強いて言えば『敵の敵は味方』くらいの考え方はできるでしょ」
「……良いだろう。だが、馴れ合うつもりはない。いざアカデミアが仕掛けてきたら俺は勝手にやらせてもらう」
「同士討ちにならなきゃそれで十分だよ。じゃ、お礼に拘束は解くから。本拠地同行なら、逃げる理由もないもんね?」
「……食えないのか警戒心が無いのか分からん奴だ」
「私も自分でわかってない。でも、信用はしてる……ユートはもちろん、エクシーズ次元の皆が信じてる相手ならそれは信用に値するよ」
勿論、戦力はこれだけでは足りない。とはいえ、全員で殴り込みも無しだ。手薄になったレジスタンス拠点を襲撃されるのが一番マズい。
そこで、ユート、黒咲、日影、刃、真澄ちゃんを置いていく。エクシーズ次元組を置いていくのは同郷の仲間と話す時間にも限りがある可能性を考えたのと、直接デュエルしなければ大丈夫だとは思うが念のため遊矢とユートを引き離しておきたかったためだ。
ミエルちゃんを同行させるのは、ここまで占いによって行動指針決定を補助してくれたことに対するちょっとしたご褒美。シンゴ、権現坂のシンクロ次元移動組に同行を頼むのは、これまでカイトを警戒しアカデミア兵撃退ついでに巡回していた分私達エクシーズ次元移動組を休ませる意味。彼らはこう言ってはなんだが、現在のエクシーズ次元の過酷な状況にいる時間が短い分心身に余力がある。
そうしてメンバー選出を終え、シンゴのデッキを見せてもらう。
「うん、良いデッキだね。ここまでアンタのデッキは色々見てきたけど、この【魔界劇団】は特に似合ってると思う」
「何だよ、急にベタ褒めして」
「急でもないと思うよ。正直言えば、アンタの技量そのものは義姉としてもインストラクターとしても認めていた。ただ、ピッタリハマるデッキになかなか出会えていないなと思っていただけ……いや、調子に乗りやすいのは良くないんだけどそういうのは性分もあるし決闘者本人の味みたいな部分だからどうこう言うものでもないよ」
「随分しおらしいこった。あの冷徹な『エンタメの破壊者』とは思えねえな」
「やめてよね……私はずっと一杯一杯だから加減ができないだけだよ。今もひたすら無い知恵絞ってこんなくだらない争いを止めようとしているだけ。身内だから言うけど、私個人はもう実力的な限界が近い……素質はアンタの方が上だよ。だから遊花先生から言えばもうアンタは卒業、教えられることはもう無い」
「そりゃどうも。それじゃ、この騒動が収まったらどうするんだよ?」
「とりあえず、高校卒業まではプロ決闘者を続けて少しでもコネを作っておく。で、卒業後は教師に的を絞ってジュニアの子達にデュエルを教えるよ」
「その頃には入れ替わりで俺様がプロデビューしてるぜ、高過ぎる目標に折れないように生徒をフォローしてやりな」
「そういうところが調子に乗ってるって言ってるんだよ……でも助かる」
「あん?」
「アンタが変わらないおかげで少し肩の力が抜けた。じゃ、次は遊矢と権現坂君のデッキを見てあげるかな」
そうして今回鍵になる遊矢のデッキを見せてもらった。
「これはまた、思い切ったね」
「ダメかな……?」
「いいや、大分父親の面影が消えて遊矢らしいデッキになったと思う。ちょっとロマン砲っぽい部分もあるけど、それも含めて個性だよ。後は……」
遊矢の後ろに回り、思い切りひっぱたく。
「そのへっぴり腰を直しな!」
「いってえ!!」
「シンゴみたいになれとは言わないけど、アンタの最大の問題はメンタル! あの父親が目標だから仕方ないかもしれないけど、すぐ弱気になるんだから。それでもあの洋子さんの息子かっつーの!」
当時を知るわけではないが、遊矢の母・榊洋子さんは昔レディースとして派手に暴れていたらしい。私も花代さん……孤児達のお母さんがそこに混じってヤンチャしていたと聞かされた時は開いた口がふさがらなかった。そんな人が孤児院で孤児達の肝っ玉母さんやっているのだから、変われば変わるものというところか。
「母さん、か……」
「わかったら明日は気合を入れて頑張りな。ヤバい時は誰かしらフォローしてくれるからさ」
「…………誰かが、フォローを?」
「そこが榊遊勝……あのクソ親父と違うところでもある。事情は知らないけどアイツは1人で突っ走った挙句あちこち迷惑かけっぱなしでしょうが! アンタは1人で抱えないこと!」
「……ああ、わかった!」
「あ、私を過剰に頼るのはやめてよね。ただでさえ忙しくて仕方ないからそこまで面倒見てられない」
「自分で頼れって言っておいてそれはないんじゃ……」
「私以外にも頼る先はいるでしょ。周りをよく見なよ、私がいなくても、赤馬零児がいなくても、シンクロ次元で一緒に戦った仲間がいるでしょうが」
とりあえずフォローとしてはこんなところか……と、そこで思わぬ言葉が返ってきた。
「遊花さん、大丈夫か?」
「え?」
「何か、上手く言えないんだけど……今遊花さんがすごく小さく、弱弱しく見えたんだ」
「…………やるじゃん、ちゃんと見えてるね。実はさ、今めちゃくちゃ落ち込んでる。頭で理解していたつもりでも、現実を見ちゃうとちょっときつくてさ」
「現実……」
「私はどこまで行っても凡人だって事だよ。私が今までプロだとか指揮官だとかやってこれたのって、単純になりふり構わず立ち回ってきたからなんだよ。それでも限界はある……純粋なセンス・技量・運命力。こういうのはランサーズのみんなが私以上のものを持っていて、どんどん追い上げてきている。こっちは成長限界だから、もう追い越されるのを待つだけなんだよ……加えて知恵を絞っても対処しきれなくて相手依存の提案をするしか状況の打開手段がない。こうなるとつくづく自分の小ささを見せつけられて、それがこたえちゃって」
「だったらさ、一旦立ち止まればいいじゃん」
「……立ち止まって悩んでいたくせによく言うよ」
「そうじゃなくてさ、遊花さん言っていただろ? 『デュエルモンスターズはカードゲームなんだから、楽しみ方は人それぞれだ』って。だったら、無理に最前線で戦い続けなくても笑顔でデュエルを楽しむ方法はあるんじゃないか?」
弟子に教わるとはこのことだ。いや、シンゴに言った通り理解はしている。ただ感情が追い付かないだけだ。
「わかってるじゃん。私もそうしようと思ってるんだけど、気持ちの整理がつかないんだよ。だから、踏ん切りをつける意味でもせいぜい全力でやらせてもらうよ」
成長限界一般人の限界ってやつを、この世界にもう少しだけ見せてやるとしますか。まずは明日、肝心のエドとの交渉が勝負だ。
遊花さんは転生前カジュアルプレイヤーなので、どうしても限界はあります。運命力補正などで無双しているように見えて実はレベルキャップだったので単にレベル差で押しまくっていただけでした。そのレベル差が埋まればどうしてもメインキャラ補正には勝てないのです。