真・恋姫†無双 糜芳伝外伝 -恋姫時代の政治について-   作:蛍石

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活動報告にて宣言していたとおり、備忘録を兼ねて書いた内容を投稿します。
一応小説の体を取っているので、利用規約には引っかからないはず……!

あらすじにも書きましたが、本編とは直接の関係が無い事を改めて宣言させて頂きます。徐州牧劉備なんてなかったんや!


序章

 突然ですが、私は今非常に危険な状態にいます。虎の口に飲み込まれる直前と言おうか、龍の顎に砕かれる寸前と言おうか。

 

「大袈裟だね、玄徳殿。 それよりも、さっさと部屋に戻って書類の決裁を進めて欲しいんだけど」

「大袈裟じゃないです! これができないと、朱里ちゃん達に怒られちゃうんですよ!?」

 

 窮した私は、糜芳さんの執務室を訪れています。

 私の危地、それは朱里ちゃんの課題の期限が明日なのに、終わっていない事にあります。

 忙しい朱里ちゃんと雛里ちゃんに時間を作ってもらって教えを受けているので、できればそれは避けたいところです。だから、別の人に相談をしたいんだけど。

 

「もう諦めて謝ってしまうのが手っ取り早くない?」

「そ、そんな事言わないで助けてよ!?」

 

 私の目の前で書類に目を通しながら声を出しているのは、巷で麒麟の子とか、化身とか噂をされている糜芳さん。

 初対面の時にその事を言うと、『可哀想な私、麒麟にされてるのか』と遠い目をしながら呟かれました。い、良い噂だと思うんだけど、本人は不本意なのかな?

 

 董卓さん達から洛陽を解放した後、私は朝廷から徐州牧に任命されました。前任の陶謙さんが年齢を理由に官位を返上したため、空いたその席に私が座る事に。その陶謙さんが、別駕従事史(州官吏の次席、州牧の右腕に当たります)として用いた方が良い、と推薦してくれた人物が糜芳さんです。

 本当は今まで私と一緒に戦ってきてくれた仲間達の誰かを就けたかったのですが、陶謙様と私の仲間である二人の軍師に止められてしまいました。州牧の腹心である従事史達は、赴任した土地出身の人を登用するのが慣例らしいです。土地の事を良く知っているから政治に関して的確な助言を得られるし、州に住む人々の協力を得やすくなるそうです。これは朱里ちゃん達からの受け売りですので、間違いはないと思います。

 以前糜芳さんは莒県の県長をしていて、そこに住むみんなが安心して暮らせるようにと心を砕いて政をしてきた人です。この国に住む人達を幸せにしたいと考えている私にとっては、色々と話を聞いて、教えを乞いたいと思っている人です。……人なんですが。

 

「とは言っても、朱里から出された課題は明日期限なのでは? もう間に合わないでしょうよ」

「そ、それを今から何とかするんだよ! そこで、色々と物知りな子方さんに話を聞きたいな、って!」

 

 どうも、私は糜芳さんと仲良くする事が出来ずにいます。いえ、無視されているわけではないですし、会話も成り立っています。けど、他の人と話す時と比べて少し素っ気なくされてる気がします。他の人と話す時にはもう少し柔らかい表情をするんですが、私に対しては澄ました顔を崩そうとしませんし。真名の交換も、まだ初対面でそこまで親しいわけじゃない、と断られてしまいましたし。

 折角一緒に仕事をするんだから、私はできれば仲良くしたいと思っているんですが。

 

「確かに私は仕事が詰まってはいませんが、玄徳様はどうなんで?」

「うっ……。 確かに少し書類が溜まっていますけど」

「では、そちらを優先しないと駄目でしょ。 いつも言っているように、官吏の一日の仕事の遅れが民達の明日の飢えを作るんだよ。 民達を幸せにするというのが玄徳様の目的なら、万事において遅延は許されないはずだけど」

「うう……」

 

 糜芳さんは基本的に穏やかな人ですが、仕事の納期と質の事になると非常に厳しい人です。とは言っても、一度の失敗ですぐに罰したりはせず、何度も同じ失敗を繰り返したら初めて処罰をするらしいです。致命的な間違いでない限り、失敗からも学ばせようという方針を取ると本人が説明していました。

 逆に良い仕事をした人は身分を問わず登用し、報奨を与える人でもあります。

 飴と鞭を使い分け、人にやる気を出させるのが上手な人、というのは朱里ちゃんが糜芳さんを指した言葉です。人に厳しくするのが苦手な私からすれば、それだけで見習いたいと思えます。

 

「というか、何で私なの? 単なる課題であるなら、それこそ自分の腹心とかに聞けば良いでしょうに」

「もう聞いてはいるんです。 けど、その話をまとめた内容で出したら朱里ちゃん達に不可を出されちゃって」

「ふうん?」

 

 そこでようやく糜芳さんは書類から目を離し、顔を上げて私の顔を見ました。こ、これはようやく興味を持ってくれたのでしょうか!?この好機を逸する訳にはいきません!

 勢い込んで私は言葉を発しました。

 

「そうなんですよ! 一体何が原因か分からなくて」

「答えも教えて貰えていない、と。 なら、合格点に達している内容になっていないというよりも、そもそも内容の方向性が間違えているんだろうね」

「方向性?」

 

 糜芳さんは私の質問に答えず、机に広げていた竹簡をまとめて、脇に置いてあったお茶碗を口許に運びました。

 

「はい、これでおしまい。 で、何に関する課題なんで?」

 

 その言葉に衝撃が走ります……! 私よりもずっと多くの書類を処理しながら、何で私がするよりも早く仕事が終わるんですか!

 うう、自分の要領の悪さを再認識させられてしまいました。

 

「玄徳殿?」

「あ、すみません。 ええと、『宦官と外戚について』です」

 

 訝しげに声を出した糜芳さんに謝罪した後、私は質問に答えました。落ち込む気持ちは、頭を振って追い出します。

 

「なるほど。 『どっちも天子様を困らせる悪い人達だからこらしめられて当然です!』とでも書いた?」

「え、と? 朱里ちゃんに聞いたんですか?」

 

 驚きました。まさに私が最初に書いた課題の答えそのままです。

 糜芳さんは小さく溜め息を一つ吐いて、言葉を続けました。

 

「あのさ、玄徳殿は皇叔、つまり皇族の一人だと朝廷から認められたんだよね?」

「はい! 私の家は中山靖王の末裔だと伝わっていたんですけど、落ちぶれて剣しか証拠が残っていなかったんです。 だから、朝廷にそう認められたのが嬉しくて」

 

 ちなみに、私はその剣『靖王伝家』を無くした事があります。取り戻す旅に出た時、愛紗ちゃん達と知り合いました。その後義姉妹となって、ずっと一緒に行動しています。

 

「じゃあ聞くけどさ、何で歴代の帝達はそういう人達をわざわざ腹心に引き立てたんだと思う?」

「それは力を持っていた宦官や外戚が天子様を脅す事で役職を独占したからだと思います」

「じゃあ、彼らがどうやって力をつけたのかも説明してくれる?」

「それは……最初から持っていたんじゃないですか」

「歯切れが悪くなってきたね。 じゃあ、出身が屠殺業だった何遂高(何進)殿も最初から力を持っていたと思う?」

「……」

 

 私は思わず答えに窮してしまいました。屠殺業として働いていた何進さんが最初から力を持っていたわけでないのは明白だからです。

 私から視線を外し、手元のお茶碗を弄りながら糜芳さんは言葉を続けました。

 

「因果関係が逆なんだ。 『力を持っていたから帝の腹心になった』のではなく、『帝の腹心になったから力をつけた』っていうのが正解なんだよ」

「けど、それって結局のところは同じ事なんじゃないですか?」

「違う。 腹心にしても朝臣には違いないんだから、任命するのは帝だよ。 起因になるのは、必ず帝が腹心として用い始めてからなんだ。 まあ任命された後は、自分達の一族の栄達がずっと続くように振る舞うのは確かだけどね」

 

 糜芳さんはそう言うと、手元のお茶碗に口をつけて中身を飲み干しました。その後、糜芳さんは少し首を傾げながら私に話しかけてきました。

 

「その様子だと、朱里達が何で玄徳殿にそういう課題を出したのか、意図が理解できていないよね。 単なる感想を聞きたいだけなんだったら、朱里は課題に出したりしないで直接聞くと思うよ」

「うぅ。 でもでも、それ以外に書ける事なんてないですよぅ」

「朱里達の意図は、『皇族になったんだから、外戚と宦官について知っておいてください』って事なんだろうね? 例えば、玄徳殿が御遣い殿以外の誰かに嫁いだとして……」

「わ、私! ご主人様以外とは結婚しませんよ!?」

 

 予想外の事を言われて動揺した私は、思わず大声を出してしまいました。

 糜芳さんは煩そうに顔をしかめて、手をひらひらと振りました。

 

「だから、例えばだって。 玄徳殿が誰と結婚するかなんて、私の知った事ではないし、興味もないよ」

「そ、それはそれで酷いと思うんですけど」

「じゃあ、凄く心配。 いやー、玄徳殿が甲斐性が有りすぎる御遣い殿に嫁いだ後、問題なく家庭を作れるのか、超絶心配だわー」

「そうですよね! ご主人様、頼りがいがあって素敵ですよね!」

「……拾うのそこかよ。 天然面倒くさっ」

「今、何か言いましたか?」

 

 ご主人様への褒め言葉に反応した私へ、糜芳さんがぼそっと何か言ったようですが聞き取る事ができませんでした。

 心底面倒くさくなった、と言わんばかりの口調で糜芳さんは言葉を続けました。急に投げやりな口調になったけど、何か悪い事したかなぁ。

 

「どうでも良い事だから気にしないでいいよ。 話を戻すけど、仮に玄徳殿や陛下が婚礼を執り行って、相手の親兄弟が存命だった場合にはその人達が外戚となるのは理解している?」

「うーん、私はご主人様と結婚しますから、出来ませんけど天子様が結婚した場合には確かにそうなりますよね」

「……まあ、いいんだけどさ。 その外戚も、玄徳殿と親族になるっていうのは分かってる? そういう相手の事を、何も知らないっていうのはまずいんじゃない? ついでに言えば、今の帝は女性だから後宮を作る可能性は薄いと思うけど、皇子が生まれてそのまま次の帝になったら、後宮ができる可能性は十分にあるでしょうが。 そうなった場合、後宮を管理するために宦官が用いられる可能性は十分にありえるんじゃない?」

「あ!」

 

 確かに、言われてみればそのとおりです。私が皇叔であり続ける以上、今後そういった立場の人達と関わる可能性は十分にありえます。

 

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず。 腹立たしい相手だと思うのは自由だけど、何も知らないのだったら敵対した時に対応策が何も取れないじゃない」

「そ、それは」

「だから、宦官と外戚をどう思うかっていう感想を聞きたいんじゃなくて、どういう存在で、どういう理由で力を持っていて、どういう風に相手取るべきなのかを理解して欲しくて、そういう課題を出したんじゃない?」

「うぅ。 それならそれで最初から言ってくれれば」

「あれでも一応私塾で成績は優秀だったわけだから。 人に言われるままにする学問ほど身につかない物は無いって知ってるんだろうね」

 

 姿を見ただけじゃまったくそうは見えないけどね、と肩を竦めながら呟いた後、糜芳さんは言葉を続けました。

 

「おそらく朱里達を除くと、玄徳殿の周りでそこまで宮廷政治に詳しい人はいないだろうね。 朝廷内の派閥や力関係はなかなか複雑だし。 一介の県令くらいじゃそんな知識もなかなか必要にはならないしね」

「うう、それだと大人しく怒られるしかないんでしょうか」

 

 思わずしょんぼりした声を出した私へ、糜芳さんは言葉をかけてきました。

 

「ま、そういう事情なら講義をしてあげるのもやぶさかじゃないよ。 だから、さっさと仕事終わらせよう。 私も手伝うから、自分の部屋から書簡をこの部屋に持ってきて」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」

 

 思わず近づいて感謝の印に手を握ろうとした私でしたが、糜芳さんの突き出した平手が私のおでこを押さえて、近づく事ができなくなりました。ぴしゃり、と良い音がして、私は思わず額を押さえてその場にうずくまってしまいます。

 

「うう、痛いですよぅ」

「……玄徳殿はもう少し物事を考えてから行動した方が良いと思う」

 

 大きな溜め息と共にそう告げた糜芳さんから、再度書類を持ってくるように言われ、私は片手でおでこをさすりながら、自分の部屋へと向かうのでした。




最後までお読み頂きありがとうございます。

・語り手
適度に物を知らなく、適度に学習意欲があり、適度に話を理解しようと努力するキャラクターとして、桃香を選びました。
感想欄が荒れない事を祈るのみ。

・可哀想な私~
元ネタは、ローマ皇帝ウェスパシアヌス帝の病気になった時の台詞。
「可哀想な俺。神になっちゃうんだろうな」

・桃香と麟の仲
何とか仲良くなろうと頑張る桃香と、薄く壁を作って接している麟と言ったところです。何で壁を作ろうとしているのかはおそらく次回に語ります。

・どっちも天子様を~
身内に宦官が居る華琳との違いです。桃香達は宦官や外戚が権勢を振るうに至った経緯を詳しく調べたりはしていないと考えています。
現代日本の知識を持つ一刀でさえ、三国志よりも前の時代から繋がる内容は詳しく知らないでしょう。

・剣を無くした話
アニメ準拠。アニメの内容そのままではなく、愛紗と鈴々に助けてもらいながら剣を取り戻した設定です。アニメそのままだと、登場人物ほぼ全員と顔見知りになっているはずなのでw

・天然面倒くさっ
当然、皮肉として甲斐性が有りすぎると言っています。「ちんこもげろ」とか「爆発しろ」とかではなく、「女遊びが原因で、徐州内で刃傷沙汰を起こすんじゃねーぞ、こら」と思っています。

・宦官
袁紹による大粛清の後も、中華では宦官は存在し続けました。麟はそれを踏まえて後宮管理に用いられるだろうと口にしています。

・朱里達を除くと~
蜀陣営で、誰か宮廷政治に詳しいと言うのですか!
強いて言うなら月と詠なんでしょうけど……。

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