真・恋姫†無双 糜芳伝外伝 -恋姫時代の政治について-   作:蛍石

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序章二の投稿です。
さて、政治関連の話が始まりませんよ?


序章二

 糜芳さんの協力もあり、無事に書類の決裁を終える事ができました。

 隣で仕事をするのを見ていましたが、やはり糜芳さんの方が私よりもずっと早く処理していきます。私も同じくらい早く決裁をできるように頑張らなくては駄目でしょうか。うぅ、自信が無いです。

 

「それじゃ、天気が良いから外で講義をしようか」

 

 木簡をすべてそれぞれの宛先に届けるように指示を出した後、私の返事を待たずに糜芳さんは扉から出て行きました。私もその後を急いで追います。

 隣を歩く糜芳さんは、やはり無言です。うぅ、やはり少し壁を感じます。他の人と歩く時には、もっと色々と会話をしてるのに。

 ……ううん、仲良くなるためにはこちらから歩み寄る必要もあるはずです。私はそう考え、勇気を出して糜芳さんへ話しかけました。

 

「あ、あの子方さん」

「あー、ごめん。 ちょっと待って。 多分そろそろすれ違うから」

「え? すれ違う?」

 

 糜芳さんの言葉に思わず不思議そうな表情をしてしまいます。しばらくそうやって歩いていると、木簡を両手でたくさん抱えた短髪の女の子が歩いて来ました。その子はこちらに気づくと、にこやかに笑いながら糜芳さんへ声をかけました。

 

「師父。 それから劉皇叔様も。 もうお仕事は終わったのですか?」

(杜畿)。 後ろ向いて」

 

 糜芳さんはその女の子、杜畿さんの言葉には答えず、そう声をかけました。

 

「は? はあ、一体何でしょうか?」

「ほい、捕獲完了。 それじゃ中庭へ行こう」

「は、はあ!?」

 

 糜芳さんは素直に後ろを向いた杜畿さんの背中を手で押し始めました。当然、それに従って杜畿さんも私達と同じ方向へ進む事になります。

 すれ違うって言ってたのは杜畿さんの事だったんだなー、とか、何で杜畿さんも連れて行くんだろー、とか考えてしまいます。

 ……本当に、何で杜畿さんも連れて行くんでしょう?

 

「いや、師父!? 突然何なのですか!?」

「これから玄徳殿へ講義する必要があるんでな。 悪いが同席してくれ」

「はい?  これから届いた手紙に返事を書こうと思ってたんですけど!?」

「同席してくれてれば、寝てようが本読んでくれようが構わないよ。 講義内容は宮廷政治に関してだから恵は興味無いだろうし」

「……まあ、それならそこで返事を書いていますが」

 

 私が良く分かっていないうちに、杜畿さんも同席する事に決まったようです。うぅ、そんなに私と二人で居るの嫌なのかな。

 

「すまんね。 連環計への対策だ。 そろそろ面倒になってきたけど」

「あー……。 師父も苦労しますね」

「税みたいな物と思って諦める事にしたよ。 それにそろそろ片付くだろうし」

 

 そう、私にはよく分からない事を口にしている二人の会話に入る事ができません。非常に疎外感を感じてしまいました。

 途中の別れ道で、子方さんは私達と別れて厨房に向かいました。喋り通しになるだろうから、お菓子とお茶を持ってくるとの事でした。……最近太ももにお肉が付いたのが気になるけど、折角なのでご馳走になる事にします。ご主人様もきっと、少しくらい肉付きがよくなっても気にしないはずです。これは徐州府で出されるお菓子が美味しい事は特に影響していません。私の食い意地が張っているわけでも無い事を明言しておきます。

 

「それじゃ皇叔様。 向かいましょうか」

 

 にこやかな表情を浮かべた杜畿さんに促されて、私達は中庭へ向かいます。

 杜畿さんは糜芳さんのお弟子さんです。とは言っても、『官吏としては太守くらいまでは全面的に信任できるほどに完成されている』と糜芳さんは評価しています。それだけの能力を持ちながら、いまだに自分の部下をしているのを糜芳さんは少し歯がゆく思っていると朱里ちゃんから聞きました。

 徐州の人達は本当に優秀な人ばかりなんだなーと思うし、こういう人達が私達に協力してくれるのならもっと早く目的を達成する事が出来るのではないかと期待してしまいます。

『まずは義兄さんから協力を引き出してください。 他の人に関してはその後でもどうにでもなります』というのは朱里ちゃんの言葉ですが、徐州での糜芳さんの名声は計り知れない物があり、徐州で才能のある人は軒並み糜芳さんと交流があるそうです。なので、糜芳さんを味方に引き入れる事が出来れば、芋づる式にたくさん優秀な人を味方につける事が出来るそうです。

 だけど……。

 

「やっぱり嫌われているのかな」

 

 溜め息と共に言葉をこぼしてしまいます。二人きりになるのが嫌で、わざわざ杜畿さんに同席する事を頼んだのなら、少し……ううん、だいぶ落ち込みます。本当に何か悪い事をしたんでしょうか。

 

「師父の事ですよね? 別段嫌ってはいませんよ」

「え?」

「本気で嫌っているなら別駕従事史に就任せずに、故郷に戻って畑を耕していると思いますよ。 師父はお人よしではありますが、わざわざ嫌っている人間と一緒に仕事をし続けようとするほど官吏である事に執着していませんし」

 

 独り言として呟いた言葉に、杜畿さんがあっけらかんとそう返してきました。返事が来るとも思っていなかったので、一瞬何を言われたのかを理解する事が出来ませんでした。

 

「でもでも! 何か素っ気無いし、壁を感じるんですよ!」

「それは仕方が無いかと。 ……皇叔様、最近街の一部で流れてる噂はご存知ですか?」

「噂ですか?」

 

 杜畿さんは声を少し低くして、そう問いかけてきました。何の事か分からないので、私は鸚鵡(おうむ)返しにそう聞き返しました。

 

「曰く、『劉皇叔は糜大人(たーれん)に懸想している』、曰く『劉皇叔は懸想した相手の言いなりになっている暗愚である』、曰く『糜大人は劉皇叔を傀儡にし、州政を欲しいままにしようとしている』、曰く『糜大人は劉皇叔と婚礼を行う事で外戚になり、国政を欲しいままにしようとしている』、曰く……」

「ちょ、ちょっと待ってください!? 何なんですかその噂は!?」

 

 まだまだ続きそうな噂を思わず大きな声を出して遮ってしまいました。私は糜芳さんにも言ったとおり、その……ご、ご主人様一筋です。そんな噂、流されても困ります!

 動揺する私を横目に見た後、両手に木簡を抱えたまま器用に肩を竦めて、杜畿さんは言葉を続けました。

 

「もちろん信じていませんよ。 随分具体的ですし、誰かが意図的に流しているんでしょうね。 師父が皇叔様につれない態度を取っているので、現実味がないただの噂の域は出ていませんが。 ただ、二人きりでいる時間が多いのならば民達は『ああ、噂は本当だった』と信じるでしょうね。 お二人の失脚を望むのなら、有効な策かと思いますが」

「えっと、糜芳さんはそれが分かっているから私にああいう態度を取っているんですか?」

「そうですね。 皇叔様が赴任すると話を聞いた時から、そんな噂が流れるだろうから揉み消しを手伝って欲しいと私達配下には言っていましたし。 ああ。 おそらく皇叔様の臣下のうち、軍師のお二方はおそらく既に掴んでいるかと思います。 そろそろ対応策を練り始める頃かと」

「あの、何でもない事の様に言っていますが、噂話を集めるのが早すぎませんか?」

「師父にあらかじめ忠告されていましたから。 無作為に噂を掻き集めるよりはずっと楽ですよ。 私だけで集めてるわけでもありませんし」

 

 私達の中には誰もそういう噂が流されると想像している人はいませんでした。それに対して、糜芳さんは私達が来る前からそれに気づいていた事になります。年齢も対して違いはないのに、この差は何でしょう。

 

「師父は色々な事に手をつけて目立つので、敵も味方も多いんです。 その上で、最悪の事態を考えながら動くのが習い性の様になっていますからね」

「ええと、官吏でなくなる事が最悪の事なんですか?」

「先ほども言った様に、師父は官吏で無くなるくらいならばあまり気にしないと思いますよ。 むしろ、離間計と借刀殺人計まで発展してしまうのが最悪の部類でしょうね。 このまま噂を放置して皇叔様の配下の耳に入った時、『皇叔様が師父に接近しようとしているのが事実ならば、挙兵時から付き従っている我らよりも、新たに配下に加わった徐州勢を贔屓しようとしている』と判断する方が出てくるでしょうし、それに激昂した粗忽者が師父を害そうとするかもしれません」

「そ、それは」

「逆に、徐州からも皇叔様達へ危害を加えようとする場合も考えられたから、先手を打って私達にそういう可能性がある事を打ち明けたのでしょうね。 おかげで噂に振り回されずに済みました」

 

 そこで杜畿さんは一旦言葉を切って、少し逡巡した後に言葉を続けました。

 

「ついでに言えば、その成否に関わらず徐州は内乱状態に陥るはずです。 師父に危害を加えた時に兵を動かす方は割と多そうですし」

 

 あれで、なかなか人には好かれているんですよ、と杜畿さんは少し誇らしげに口にしました。その口調から、彼女もまた糜芳さんを慕っている一人である事が伝わってきます。

 

「それに対抗するために皇叔様達も動くならば、徐州を外から守る兵達は非常に少なくなるでしょう。 領土を削り取るのが簡単になるでしょうね。 徐州の安定を大事に思っている師父にとっては、最悪の一言につきるかと」

 

 一気に色々と情報が入ってきて頭が痛くなってきました。

 私達の知らないところでそんなに色々と動きがあるなんて、思いもしませんでした。そんな私を気遣うように、杜畿さんは言葉を続けました。

 

「皇叔様達の配下で、こういった謀略への備えはおそらく二人の軍師達の役割になるかと思います。 しかし、今は二人とも(まつりごと)に手一杯になっていますから。 どうしても脇が甘くなってしまっているんでしょうね。 出来れば、それ専門の人材を雇う方が良いかと思いますよ」

「うん、そうだね。 ……けど、こういった事が出来る人って、何処で見つけるんだろう?」

「軍師達の私塾を当たってみれば良いのでは? こういう事への対応方法も教えているかと思いますので、そういうのが得意な人材も居るかと思いますよ」

 

 今度朱里ちゃん達に相談してみる事に決めました。それと同時に、以前ご主人様が言った様に、自分が出来ない事を出来る仲間をどんどん増やしていく必要がある事を痛感しました。

 そんな私を気にも留めず、杜畿さんは言葉を続けます。

 

「今回の一件に関しては噂の出所まで突き止めているので、すぐに立ち消えるはずです。 その後は、いつもどおりの師父に戻って接してくれるようになるかと思います」

「それならそれで言ってくれれば良いのに。 私、本当に嫌われているって悩んでいたんだから」

「師父曰く、『腹芸が出来ない玄徳殿に伝えたら、すぐに噂の出所に感づかれる』そうですよ。 劉皇叔様、まったく顔に出さずに師父と交流できる自信があります?」

「……無理だと思う」

 

 あまり交流が無いにも関わらず、何だかんだで私の性格を読まれているのがとても悔しく感じます。

 

「あと、これは私の推測なのですが、皇叔様を気遣ったのもあるのではないかと思います」

「え?」

「思い人が既にいるにも関わらず、他の男と浮名を流されるというのはなかなかに心労が募るのではないでしょうか? それでわざわざ皇叔様の耳に入れて気を煩わせる事は無いだろう、と考えたのではないかと。ま、私が勝手に思ってるだけですけどね」

 

 私が言ってしまったので、師父の思惑ぶち壊していますけど。

 そう呟いた後、杜畿さんは黙ってしまいました。

 何と言うか、その……。しばらく時間をかけて言葉を選んだ後、私は口を開きました。

 

「物凄く不器用な気の遣い方だね、それ」

「私の考えが正しければ、ですけどね。 まあ、仰るとおり師父は不器用な気性をしているかと」

「だけど、人の心を汲むことの出来る、凄く優しい人なんだね」

「……私の自慢の師匠ですから」

 

 照れくさそうにしながらも、満面の笑みを浮かべて杜畿さんはそう誇らしげに口にしました。

 うん。これだけ弟子に慕われる人なんだから、私も頑張って仲良くなってみよう。多分、私ともきっと仲良くしてくれるはずだ。

 そう固く心に決めました。

 その後、私達は無言で中庭を目指すのでした。




最後までお読み頂きありがとうございました。

最初は連環計の一言で片付けるつもりだったのに、長々と杜畿が説明を始めてしまいました。キャラが勝手に動き出すって怖くね?

>連環計
王允の美女連環に近いかな、と思っています。内容は本文で語ったとおり。最終的には二虎競食計も追加される辺り、結構えぐい。

>最近太ももにお肉が
髀肉之嘆のインスパイア。アニメ版でもダイエット話に使われたし、多少はね。

>ご主人様もきっと
大丈夫、一刀はきっと受け入れる。少しくらい肉付きよくても気にはしないだろうなぁ。

>糜芳の協力を引き出せば
麟の周りに居る人
家族枠:糜竺、孫乾、羊祜、諸葛瑾
友人枠:徐盛、臧覇、陳登、王朗
親族枠:歩騭、錬師
抜擢、推挙枠:陳羣、魯粛、張昭、張紘、太史慈、臧洪
etc...
パッと挙げただけで、一州くらいは余裕で牛耳れそうな面子だ

>大人
使いやすい敬称。今後も出るかもしれない。死亡確認は特にしない。

>噂話
偉い人の色恋沙汰(下世話な物含む)は民衆には何よりの興味の的。英国王室や天皇家への報道姿勢を見ると、現代でも民衆は変わっていないのがよく分かる。

ご意見・感想等ございましたら記載をお願い致します。
ただ、感想に目を通してはいるのですが、下手に返すと先の展開についてぺらぺらと喋っちゃいそうな内容もご記載頂いていますので、外伝が終わるまで感想返しはできないかもしれません。どうぞご了承いただきます様よろしくお願い致します。
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