真・恋姫†無双 糜芳伝外伝 -恋姫時代の政治について- 作:蛍石
長くなりそうなので、分割して投稿します。
後、あらすじに参考文献を追加しました。
「さて、それじゃようやく外戚の超大物、梁冀の説明をしようと思う」
ここまで長かったなー、何て呟きながら、糜芳さんは少し楽しそうに笑みを浮かべました。
というよりですね……。
「師父、自重しましょう。 梁冀は話す時にそんなにワクワクしちゃならない人物だと思います」
「そうですよ。 天子様達を苦しめた悪人ですよ」
「そりゃそうなんだけどさ。 ここまで問題行動ばかり起こしていると、逆に清々しいと思うんだよ。 こいつ死ぬ時に『おれは!!! おれが想うまま、おれが望むまま!!!! 邪悪であったぞ!!!!!!!!』とか断末魔で叫んでそうな感じしない?」
「確かにしそうですけど。 そんなに力説しなくても良いのでは」
「人に偽る事なく邪悪であり続けるって、結構大変な事だと思うけどね。 人に悪く思われようと自分を貫くっていうのは、間違いなく素質の一つだよ。 もちろんこいつのやった事は最悪だし、何一つ擁護する事はできんが」
人に悪く思われても気にしない、っていうのは確かに凄い事だと思うけど、その強さをもうちょっと別の方向に持っていけば良かったのにと思わずにいられません。
そんな私の複雑な内心に気が付くはずもなく、糜芳さんは梁冀について説明を始めました。
「まずは梁冀がやらかした事から挙げていこうか」
そういって糜芳さんは筆を取り、紙に向けて手を動かしました。
一 地方長官の取りなし
二 帝擁立時の集議の私物化
三 質帝の暗殺(疑惑)
四 梁姓では無い女を偽装して後宮に入れる
「大きなところではこんな感じ。 それ以外にも、帝を擁立する時に二回とも意見が異なった李固を太尉から罷免した上で誅殺したり、嫁さんと張り合って豪邸を建てるのを競いあったりしてる。 後者は、外戚どころかその配偶者まで権勢を誇っていたって事だね」
「……改めて見ると凄まじいですね」
「そうでもなければ跋扈将軍なんて呼ばれ方はしないでしょ」
「この地方長官の取りなしって何ですか?」
「監察官が地方長官の不正を報告したら、梁冀が不問にしたらしい。 おそらく賄賂だろうけど、地方にまで梁冀の名が鳴り響いていた事がわかるよね。 十常侍達も同じような事をしてたんじゃなかったっけかな」
「なるほど。 それでは集議の私物化というのは?」
「次の帝を擁立する際に自分が推す候補に対して反対意見を述べられると、強制的に閉会をした上で桓帝の擁立を独断で行っているんだわ。 まあその前にも三公を恫喝したり、やりたい放題自分の意見を押し通していたんだけどね」
まずは杜畿さんが気になるところについて聞き、糜芳さんはあっさりとそれに答えてくれました。
しかし、それよりも何よりも気になるのは。
「暗殺って何ですか、暗殺って!?」
思わず声を大にして聞いてしまいました。隣で寝ている
そんな私と対照的に糜芳さんは飄々と答えます。
「元々質帝を帝位に推したのは、いつもどおり幼年で操りやすいからって理由だったんだけど、質帝が想像以上に聡明で御しづらそうだと判断したかららしいね。 まあ、そう言われているけど実際にはどうだったかは分からんよ。 ……まあ黒なんだろうけど」
「だ、だからと言って天子様を弑するなんて!」
「跋扈将軍の面目躍如といったところかね。 お近づきになりたい人柄じゃないよね」
「跋扈将軍の面目って何なんですかね……?」
糜芳さんのあまりにも拘りを持たない返答に思わず脱力してしまいます。
うう、劉姓じゃない一般の人の感覚ってこんな感じなのかな。
「話を進めようか。 次に、桓帝より梁冀に許された待遇について」
(一) 下記の臣礼の免除
・入朝不趨(入朝事に小走りしなくてはいけない)
・剣履上殿(剣と履き物を身に付けないで昇殿する)
・謁讚不名(皇帝に拝謁する際に
(二) 封地の加増
(三) 金銭、豪邸の賜与
(四) 三公との席次の区別(おそらく、自らを三公よりも上位とした)
(五) 平尚書事(尚書台が上奏文を皇帝に伝達する前に、被閲する事ができる権利)
内心頭を抱えている私を気にも留めずに、紙に文字を書き終えた糜芳さんは筆を置き、口を開きました。
「言うまでもなく分かってると思うけど、許された、と言っても当然取り巻きから帝に上奏させて手に入れた待遇だからね。 梁冀が望んだから与えられたと言い換えても差し支えないよ」
「はい、それは分かっています」
鈍いと言われる私でも、流石にそれくらいの機微は分かるつもりです。糜芳さんはそんな私を見た後、満足そうに頷き説明を始めました。
「それじゃ順番に解説していこう。 (一)は高祖の功臣、
「不遜極まりないですよね……。 そう言った意味では(四)もでしょうか」
「いえ、確か大将軍に関しては竇憲が就任した際に三公より上位にあると定義していたはずです。 それは現在も続いていたと記憶しています。 そういった意味では、自身の権力を朝廷内に再認識させたかったという意味合いが強そうです」
私の問いかけに答えてくれたのは杜畿さんでした。宮廷内の序列なんて気にせず『とにかく偉い人』くらいにしか覚えられていない私と比べて、しっかりと覚えているのは凄いと思います。
……もう少ししっかりと勉強をしようと思います。
「太尉の李固に思いきり反発されてるから、改めて自分の立場を明らかにする必要があったんだろうね。 いちいち反発されるのも面白くなかっただろうし」
むう。天子様を蔑ろにするだけではなく、まるで自分が朝廷の支配者であるように振る舞うとは。許す事などできるはずがありません。
「(二)と(三)に関しては、説明は不要だね。 さらに富を我が手中に、と望んだ結果だから。 さて、この中でも特筆すべきなのが(五)の平尚書事」
「けど、上奏文を閲覧するだけなんですよね? そこまで大きい意味はあるんですか?」
平尚書事の有効性について、私は疑問を投げ掛けました。
上奏された文書を改竄する事まで出来るなら意味は大きいと思うんですが、閲覧だけだとあまり大きな意味は無さそうに思うんですが。
そう考えていると、額に手を当てた糜芳さんが凄く複雑そうな顔を作り、杜畿さんが思ってもみない事を言われたと言いたげに目をしばたたかせていました。
「皇叔様。 これって物凄く強力ですよ?」
「そうですか? ただ見るだけなんだったらそこまででは無さそうなんですけど……」
「それじゃ、例え話をしようか」
私の言葉に被せるように、糜芳さんはそう声を上げて筆を再び手に取りました。
そして、興味を覚えて言葉を止めた私達二人を尻目に、手元の紙にさらさらと文字を書いていきました。
書き終えて筆を再び置いた後、糜芳さんはその紙を二つに折り、私に渡してきました。
「私が御遣い殿にこういう上奏文を上げようとしていて、玄徳殿が事前にこれを閲覧する事が出来る場合、何もしないまま御遣い殿の手に渡るに任せる?」
糜芳さんはそう言った後、やりきったと言わんばかりの清々しい笑顔を浮かべました。
それを見ながら、私は紙を開き。
「な、何ですか! これは!?」
文章を読んだ瞬間、思わず大きな声を出してしまいました。
書かれた文面が気になったのか、杜畿さんが私の手から紙を抜き取りました。
「『天の御遣い殿。 貴方を慕っていながら声をかける事ができない健気な娘さんが居るので、是非紹介したく。 こっそり抜け出して以下の期日に酒家にお出で頂けないでしょうか』 こ、これは酷い!」
その文面を見て杜畿さんは、あははははと笑い声を上げました。
しかし私にとっては笑い事ではありません!もし本当だったら、今すぐにでも飛んでいかなくてはいけない内容です!
糜芳さんは手のひらをまあまあ、と言わんばかりに上下に動かした後、笑みを浮かべたまま口を開きました。
「それは例え話だけど、玄徳殿が事前にそういう話を知ったら御遣い殿が酒家に行くのを妨害しようする?」
「当たり前です! 何としても行かせないようにするに決まってるじゃないですか!」
「ほら、役に立った。 あらかじめこれを読む事ができなかったら、御遣い殿の逢い引きを妨害するなんてできなかったでしょう?」
「あ……」
なるほど。つまりは自分にとって不利な上奏が行われそうになった時に、あらかじめそれを知る事で対応策を巡らせる事が出来るようになる、という事なんでしょう。
それは分かったのですが。
「……本当に例え話なんですよね? ご主人様にこれを渡す必要はないんですよね」
「うん。 本気でこういう手紙を出すなら、子竜殿と共謀してその場に雲長殿を呼び出しておくだろうし」
「物凄く騒ぎが大きくなりますよね、それ!?」
「そういう困難を乗り越えるからこそ、男女の結び付きっていうのは強くなるんだよ」
しみじみとそう言う糜芳さんの言葉に思わず納得してしまいました。
私や仲間達の結び付きは間違いなく幾多の戦いを越えてきたから強くなりました。なるほど。恋もそれと同じと考えるならば、確かにそういう困難を乗り越えれば今より関係を一歩進める事ができるかもしれません。何かしら一緒にご主人様と困難に挑む事を考えるべきでしょうか。
杜畿さんは机に突っ伏して痙攣するように笑っていますが、今は気にせずにご主人様と深い関係になる事を考えるべきでしょう。
「まあ、話を戻すけど」
「はい! ご主人様ともっと仲良くなるための方法についてですね!」
「……うん。 それについて話すなら、この講義終わりにするけど良いよね?」
「良くありません!?」
そうでした。今は大事な講義の途中です。ご主人様については二の次……いえ、ご主人様は私にとって常に一番の存在ですが!
ですが今は講義に集中しなくてはなりません。遺憾ですが。本当に遺憾な事ですが!
「……はぁ、まあ良いけどね。 事前に上奏の中身を確認する事が出来る強みは分かったと思う。 特に、自分にとって不利になる事柄―弾劾や誹謗、讒訴―については、それを知っておく事で対応策を取る事が出来るようになる。 それと同時に、自分に不利な上奏が上げられる事を抑制する事も出来るしね」
「抑制、ですか?」
「そう。 仮に玄徳殿が誰かの陰口をするとして、確実にその人に伝わる事が分かっているのに気にせずに話す事が出来る?」
「確かに無理ですね……」
基本的に誰かの陰口は口外しないように気をつけていますが、この間の連合の時にされた袁紹さんからの扱いについては、気心の知れた仲間達には不満を漏らしていました。袁紹さんの配下の誰かが側にいる時ならば、絶対に口にはしなかったでしょう。
「事実として、梁冀は当時の宮廷の第一人者だったからね。 それに面と向かって逆らうのは難しかったと思うよ。 それだけの気骨を備えている人間が多かったなら、間違いなく専横なんて起きなかっただろうし」
「一部の官吏を除いて、ほとんどの人がそれに追従する事で保身を図った訳ですか」
気持ちは分からないでもないですが、もうちょっと、こう、何とかならなかったでしょうか。物凄く複雑な気持ちです。
「かくして梁冀は三公より上位の大将軍の権力を持った上に、平尚書事の特権を活かす事で朝廷に跋扈将軍として君臨する事が出来たわけだ。 その上、就任したばかりの時に一度断った録尚書事(官吏の統率、国政の総覧を担う権利)も後年付与されている。 梁冀を中心に朝廷が動いていた、そう表現するしかないような支配体制を作り上げる事に成功した。 そしてこれは、桓帝が宦官単超らと共謀して梁冀の排除に乗り出すまで続く事になる。 それじゃ、ここからは課題に必要になりそうな部分について、細かく話していこうか」
そう言うと、糜芳さんは小さく笑い、筆を取って文字を書き始めました。
【後漢の帝、皇后一覧(梁冀までの追記済)】
光武帝 陰皇后 ○
明帝 馬皇后 ○
章帝 竇皇后(外:竇憲)
和帝(宦:鄭衆) 鄧皇后(外:鄧隲)
殤帝 なし
安帝(宦:李閏) 閻皇后(外:閻顯)
少帝(懿) なし
順帝(宦:孫程) 梁皇后(外:梁商・梁冀)
冲帝 なし
質帝 なし
桓帝 竇皇后
霊帝 何皇后
少帝(弁) なし
今上帝(協) (現時点では)なし
最後までお読み頂きありがとうございます。
前回同様、一覧はここに書いておきます。
・作者の梁冀のイメージ
狂皇子ルカ・ブライト。
実際には遊び歩いていたドラ息子に過ぎなかったみたいですけどね。
・尚書事
明日の朝までに上げておく予定の活動報告をご覧ください。長くなりそうなため、そちらにまとめさせていただきます。
・上奏文の改竄
出した張本人にばれるため、実はあまり有効ではない。出来る人間が限られるなら犯人も特定しやすいし。
・御遣い殿への上奏文
多分ホイホイ来てしまうんだろうなぁ。(遠い目)
・星との共謀
星がこういう事をする場合には単に一刀をからかうだけではなくて、愛紗を利用して制裁をしようとしているようなイメージがあります。素直に嫉妬を前面に押し出すような娘さんではありませんしね。
ですので、麟からの要請は渡りに舟でしょう。
・袁紹への愚痴
原作では割りとはっきりと言っていたような記憶があります。
まあ良い様にこき使われていたしね。
ご意見・感想等ございましたら記載をお願い致します。
以前から記載していますが、本作は感想返しを自重しています。
とは申しましても、皆様にご記載頂きました感想自体は全部目を通し、創作の糧ややる気へと還元させて頂いております。本当にいつもありがとうございます。
少なくとも完結までは、返答できないという不義理を働くかと思いますが、どうぞご了承ください。