キヴォトスの何処か。
トリニティやゲヘナには遠く及ばない、しかしそれなりの規模を誇る学園。その自治区。都市部からは離れた辺境だが生徒たちは笑い合いながら暮らせる穏やかな場所だった。
だが今はヘルメット団によって占拠されていた。
襲撃は突然だった。
迫撃砲による飽和爆撃。
時刻は正午を回ろうかと言った時間帯。
真っ昼間の襲撃など想定していなかった、その学校の最上位組織である生徒会は完全に意表を突かれた。
それだけではない。
そのヘルメット団は異様と形容できるほどの充実した装備を持っていた。最新型の戦車、ヘリ、銃火器。最初の攻撃に使われた迫撃砲も数が多すぎる。平時の襲撃の規模からは隔絶したものがあった。
先手を打たれ、混乱しながらも学校側は反撃した。しかし先述の装備に加え、ヘルメット団元来の兵力の多さの前には無力だった。学校は抵抗虚しく制圧されたのだった。
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
そして翌日。
ヘルメット団のものとなった学校の校門には二人のヘルメット団員が見張りとして立っていた。
空が白み始めた方向を眺めながらヘルメット団員はつぶやいた。
「感慨深いよなぁ……」
「何がよ?」
相方から差し出されたブロック状のレーションを口に含みながら答える。
「学校から追い出されて行くあてもなく毎日段ボールに包まれてたあたしらがだぜ?こうしてその学校を制圧出来るようになったんだからなぁ……」
「そうだなぁ。橋の下で身を寄せ合ってた頃からは想像できないよな」
「あの企業様々だよな。なんて言ったっけ、カイ……」
「おいバカ!」
慌てたヘルメット団員がもう片方の口を塞ぐ。
「その名前は口に出すなって言われてただろーが!」
「あっそうだった……悪い」
「まったくしっかりしてくれよ」
ため息をつきながら元の立ち位置に戻ったヘルメット団員だったが……しばらくもせず何かの音に気づいた。
「おいなんか聞こえないか」
「あ?」
耳を澄ませる。気のせいではない、確かに何かの音がする。しかも徐々に大きくなっている。
バラバラという、何かが高速で回転するような音。
──これは。
──ヘリのローター音!!
「てっ……敵襲!!」
ヘルメット団員が叫ぶと同時にそれは現れた。
全身が真っ黒に塗装されたヘリコプター。機種名はUH-60 ブラックホーク。
まあヘリの名前などそのヘルメット団員は知らなかったし、知る必要もないし、なにより知る余裕もない。
無人のドアガンの照準がこちらに向くのを見た二人のヘルメット団員は呼吸を忘れた。一人は逃げようとした。一人は勇敢にも銃を構えて応戦しようとした。
そのどちらにも等しく弾丸の雨が浴びせられた。
全身を叩く衝撃。
キヴォトス人は頑丈極まりないので弾丸を浴びても死ぬことはない。とはいえある程度のダメージが蓄積すると気絶する生き物だ。そのヘリに搭載されていたGAU-17 ミニガンの斉射を浴びれば、一瞬で気絶という名の穏やかな睡眠が横っ面をぶん殴りにコンニチワしてくる。
無力化した門番。しかしミニガンの斉射によって発生する爆音は、惰眠を貪っていた他のヘルメット団を叩き起こすには十分すぎるほどの目覚まし時計になった。
占拠していた校舎から慌てて飛び出してくるヘルメット団。寝ぼけ眼の者、歯磨き粉を口から溢れさせている者、食パンを咥えた者。そのいずれもがしっかり自身の銃を携行していたのは褒めるべきか。
しかしここはすでに戦場である。
状況も把握出来ていないヘルメット団に向けて、スタブウィングに取り付けられたGAU-19/B、ガトリングガンが火を吹いた。
─
───
─────
「何が起きた!?」
校舎内。この学校を襲撃したヘルメット団のリーダー格が作戦室に飛び込んできた。
「て、敵襲です!武装したヘリが1機!」
「ヘリ?対空レーダー係は何してたんだよ!」
「ず、ずっと見てましたがレーダーには何の反応も……」
直後、轟音。激しく揺れる校舎。
振動で思わず倒れたリーダー格は思考を巡らせた。
(どうなってんだ……カイザー製の対空レーダーがヘリを見逃すはずがねえ。まさか不良品を?いやあいつらに限ってまさか……)
そこでハッと何かに気づいたリーダー格が校舎に取り付けられた監視カメラの映像を見る。件のヘリは、飛行している
そしてリーダー格は知る由もなかったが、門番のヘルメット団員達は最後までヘリの存在に気づけなかった。あのヘリが
「低空飛行か……!!」
対空レーダーはその性質上、高度の低い場所を飛んでいる物体を見逃すことがある。とはいえ、ここはそれなりの規模の学校、その自治区である。周囲は中サイズのビルや住宅街で囲われている。
その合間を縫って、低空で飛んできたのだ、あのヘリは。
パイロットはとんでもない手練れだ。
少なくともこんな辺境の片田舎にいるような逸材ではない。
となると──何処かから派遣されてきた?
ビルと住宅街の合間を縫って、対空レーダーを掻い潜るほどのアクロバティックじみた飛行が出来るパイロット。そんなものを有する組織となるとトリニティかゲヘナか。もしくはそれに準ずる大きさの組織であることは間違いない。
「もう嗅ぎつけられたってのかよ!?」
「リーダー!!」
「今度はなんだよ!?」
「降下してくる奴らが!!」
モニターを見る。そこにはヘリからロープ降下してくる、漆黒の戦闘服に身を包んだ兵士達の姿があった。その数──、
「5人だけだと……?」
─
───
─────
「おーおーアイツら派手にやったな」
ヘルメット団の攻撃によって半壊した学校を見て、スナイパーライフルを担いだ少女が言った。
「この規模の襲撃はヘルメット団だけじゃ無理やな。バックに誰かいると見て間違いないんちゃうか?」
「大方カイザーだろう」
ショットガンの動作を確認しながらヘルメット団のバックにいる存在を仄めかす少女。
それに短く答えたのは一団の中で一際長身の少女。その背中にあるのは謎の長方形の物体。
「んー、ジャミングをかけるのが遅かったかな。ごめんエーテル。救難信号がもう送られちゃったみたい」
奇抜なデザインのヘルメットを被った少女が耳元を押さえながら言った。
「気にすんな。どうせ殲滅するつもりで来たからな。向こうから来てくれるなら願ったりだ」
そして一団の中央に佇む少女。その背中にあるのは長い筒状の物。
それぞれが違った獲物を背中に背負っている。
が、異なる点はそこだけ。
全員が黒づくめの戦闘服に身を包み、ホルスターにはハンドガンM92Fを、手にはアサルトライフルHK416を下げていた。
エーテルと呼ばれたリーダー格らしき少女は獰猛に笑う。
「さーてと──おっ始めるとしようか」
─
───
─────
「全員配置についたか!?」
「はい!!」
作戦室にてリーダー格のヘルメット団は指示を飛ばした。
『外に出るな。窓際につけ。絶対に見られるな』
あの謎の5人は校門から少し入った広場の、ど真ん中にいた。
あの武装ヘリによる攻撃でこちらが壊滅したと油断しているのだろう。
──舐めるなよ。
──こっちはヘルメット団だ。仲間はまだまだいる。窓からの一斉射撃でぶっ潰してやる。
都合の良いことにあの武装ヘリは後退した。あれだけ弾をばら撒いたのだ。もう弾丸など残ってはいまい。
『総員攻撃準備!!』
校内のアナウンスを利用してリーダー格は開戦の口火を切ろうとした。
「……」
窓枠に張り付いたヘルメット団は謎の5人に狙いをつける。舐められたら殺す。それが流儀である。引き金に添えた指を強く意識した。
『攻撃開始!!』
指示を聞いたヘルメット団達は引き金を引こうとし──、
直後強烈な光に網膜を焼かれた。
「クソが!!」
一向に始まらない射撃を不審に思ったリーダー格は、モニターを見て自身の過失を悟った。テーブルに両拳を叩きつける。
「夜明けか!!」
日が昇る。
─
───
─────
散発的に始まる射撃。だが太陽を背にしたエーテル達にロクに狙いをつけられるはずもない。事実、放たれた弾丸は全て見当違いの地面に突き刺さっていた。
それを尻目にエーテルはARを腰に吊るした。背中に手を回し筒状の物体──カールグスタフ無反動砲を構える。
「“We stand between── 」
無造作に狙いをつける。
「the sky and the fall.”」
引き金を引いた。
ブルアカのSS書きてえな……(ちょっとだけ)書くか