新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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第参話 らな、電話
第四話 雨、逃げ出し
第伍話 レイ、心のむこうに

・レイをナデポして満足したのか、そこで連載が止まる作品が多い気がする。
・二次創作にあたってあらためてTV版を見直してみると、思ったよりも情報が少ないことに気付く。
 なんなら「綾波レイ」に関する情報も少なすぎて、キャラクターがまったく掴めない。
 どうしたものか……


2 - 鳴いたレイ
2-1 綾波レイ 圧縮


 

 

 

 碇シンジはサードチルドレンである。彼がサードという事は当然、ファーストとセカンドが居る。

 

 ではなぜ先の使徒戦に2人が出てこなかったかというと、それなりの理由がある。

 ……世界に2人しかチルドレンがおらず、使徒が向かう場所が特定できており、しかもそこに辿り着くと人類滅亡だというのだから、必ずどちらかが稼働できる状態にしておくべきだろうと思うのだが。NERV(ネルフ)とはまあ、そういう組織である。

 

「あ、ここだ」

「さすがにVIP待遇の個室だな」

 

 地下空洞(ジオフロント)にあるNERV(ネルフ)直営の病院へとやってきたシンジとマイト。ここにファーストチルドレンが出てこれなかった理由がある。

 

「失礼しまーす」

 

 ノックをして返事を待たずに入室する。というのもこの部屋の主(ファーストチルドレン)は独特の感性を持っているようで、返事を待っていると話が進まないから多少強引に行けとアドバイスを受けているのだ。

 

 病室のベッドには少女が独り。リクライニング機能を使って上体を起こしているが、見えるだけでも頭部と右目、両手に包帯を巻いており、特に右手は重症らしくギプスで固定されているという有様である。

 

(見た目が間違いなく主役級だね。ファーストだし)

(俺たちは彼女が戦線復帰するまでの繋ぎ役、ってとこかな?)

 

 2人がそう思うのも無理はない。彼らに目を向けた少女は水色の髪に赤い瞳という、キャラが立ちすぎてどう考えても重要人物である。平凡な日本人的容姿のシンジたちとは格が違うのだ。

 

「……誰?」

 

 彼女の名前は綾波レイ。数日前の実験で大怪我を負い、入院中のファーストチルドレンである。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 突然の来客、しかもNERV(ネルフ)の制服に身を包んだ2人組に驚いたレイだったが、彼らの名乗りを聞いて納得した。同じパイロットとしてサードチルドレンが着任することは事前に聞いていたのだ。

 ……ただ、事前に聞いていた性別とは異なるのと、似たようなのが増えていることについてはよく分からなかったのだが。

 

「……………………」

 

 そしてその疑問を(くち)にしてくれればいいのだが、諸事情により彼女は表情にすら出さないのだ。竜破斬(ドラグ・スレイブ)の詠唱はスラスラと出てくるくせに。

 実にコミュニケーションの難易度が高い難敵である。

 

 ではそういう相手にどうすればいいのか。

 

「今日はお見舞いと、ご挨拶にと思って……」

 

 反応が返ってくるまで、勝手にしゃべり続ければいいのだ。

 シンジはゴソゴソと手荷物をあさり、小さな箱を取り出す。

 

「これ、つまらないものですが」

 

 第3新東京まんじゅう。地元の人は食べたことがないだろうというチョイスである。

 

「…………………え?」

「あ、そうか。その手じゃ食べられないか」

 

 右手は先端までギプスと包帯で覆われており、片腕だけでは饅頭(まんじゅう)の包装を剥がすのは大変だろうし、お茶との二刀流もできない。

 

「じゃあ右手と、ついでに目も治してしまうか」

 

 マイトはそう言って緑茶のペットボトルをサイドテーブルに置くと、不思議パワー(ATフィールド)でレイの治療を行う。

 

(全部治さないの?)

(そうしたら退院してしまうだろ? ある程度の交流が済むまで、逃げられたくないしな)

 

 縦も横も繋がりの薄いNERV(ネルフ)である。自分たちパイロットだけでもどうにかしないと、この先の使徒戦を乗り越えられる気がしない。

 そのため重症かつ入院期間に影響しないであろう箇所のみ治療することにしたのだ。

 

「………………え?」

「これ、お医者さんに何か言われないかな?」

「若いから治りが早かったんだろ」

 

 マイトはテキトーなことを言いながら右目を覆っていたガーゼを取り、右手のギプスを外す。埋め込まれていた固定具もいつの間にか抜き取っており、手術跡もキレイに消えている。

 残りは退院後にまとめて治せば問題ないだろう。

 

「あ、ついでに遺伝疾患みたいなのも治しておいたから」

「……………え?」

 

 治療中に不思議パワー(ATフィールド)でいろいろと読み取ってしまったので、そのお()びというか何というか。

 正確には遺伝子が原因でもないし病気でもないのだが。魂が関係する病気といえば離魂(りこん)病しか知らないマイトはこのような表現になり、そのせいでシンジに余計な不安を与えてしまう。

 

「聞いていいのか分からないけど、何かあったの?」

「ああ、俺たちと似たような感じで肉体を構成したは良いが、他人の身体が主体になったせいかガタが来てたみたいでな」

「…………え?」

 

 今から10年以上前に、シンジの母親である碇ユイはエヴァンゲリオン初号機とのシンクロ実験を行った。その際に先のシンジと同じく肉体ごと初号機に取り込まれたのだが、彼とは違い帰還することはなく、肉体のみが何故か幼い子供の姿で取り出されることになった。そこにこれまた何故か別の所から持ってきた魂を入れてできたのが綾波レイである。

 反魂のように古来よりのお約束であるが、不完全かつ他人の肉体に魂を宿したらどうなるか。レイは徐々に弱っていく身体を薬によって保っていたのだ。

 

「魂に合わせて肉体を調整したから、もう薬は必要ないよ」

「だって。良かったね綾波先輩」

「………え?」

 

 ついでにシンジが違和感なく女の身体になったことにも説明が付いた。初号機の中に自分と良く似た母親の肉体情報が残っていたため、女としての碇シンジを構成することができたのだ。

 

「それにしてもまさか、ボクの母親がTFPの実験で……」

「シンジは破壊魔なのか?」

 

『平行宇宙に存在する、喪失した自己の欠片。その意識を統合できるとすれば、人類は新たな進化を遂げるだろう』

 

 そんな考えのもとで作り出された Time Fragmentation Project もしくは Time Fragments Project とはまあ、簡単に言えば平行宇宙をなんやかんやする装置である。平行宇宙を創り出したり、複数の平行宇宙を観測して疑似的な未来予知を行ったり、別の平行宇宙を経由することで場所・時間を移動したりと、幅広い運用ができる。

 

 エヴァンゲリオンのシンクロ実験とは何の関係もない。たぶん。

 

「ということは、使徒って人間が変質した姿だったり?」

「使徒を倒しても、黒幕である母親をどうにかしないと解決にならなかったりしてな」

「……え?」

 

 あっはっはーと2人が笑っている。さすがにそんなことはあり得ないはずだ。

 平行宇宙が関わってくるとか母親が黒幕とか、母親が同年代になって恋愛対象になるとか、まさかまさかそんなそんな。

 

 

 

 ひとしきり勝手に騒いだ2人であるが、ふと時計を見ると面会時間がそろそろ終わりであることに気付く。

 レイは重症患者というのもあるが世界に2人しか居ないチルドレンである。すぐに4人になるとはいえ最重要人物なので、面会時間が制限されているのだ。

 

「じゃ、また明日……は検査だからダメなんだっけ。じゃあ明後日だね」

「次は第3新東京ばな奈を買ってくるからね」

「…え?」

 

 そう言い残し、2人は退室した。

 後に残されたのは、サイドテーブルに置かれた第3新東京まんじゅうとペットボトルに包帯とギプス、そして静寂のみである。

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「で、どうだった? 綾波先輩とは仲良くやれそうか?」

 

 病院からの帰り道。

 繋いだ手をブンブンと振り回して歩いているシンジに問いかける。

 

「んー、よく分かんない」

 

 前評判の通り、綾波レイは何も反応を返してくれなかった。これでは今後どういった関係を築いていくかを決めることができない。

 

「次は何か話してくれるといいんだけど……」

「焦らずゆっくり、時間をかけてやればいいさ」

 

 次の使徒がいつ来るにせよ、彼女の乗機は前回の実験で暴走して使い物にならない状態らしい。そもそもが実験機のため戦闘に耐えられるよう改修が必要だというのに、それ以前の段階のようだ。彼女が戦闘に出てくるまでに意思疎通に問題が無いレベルになればいいので、まだまだ時間的な猶予はある。

 

 そんな話をしていると、ふとマイトは気付いてしまう。

 

「あ、そういえば連絡先の交換してなかったな」

「まあ初対面だったし……仕事の場合は初対面でも聞いて良かったのかな?」

 

 社会人経験のない2人で、しかもNERV(ネルフ)職員としての名刺も発行されない立場(パイロット)である。そのためお作法的な流れを作ることができず、本当にただの挨拶だけで終わってしまった。

 

「お仕事って、難しいね」

「だからお金を貰えるんだろうな」

 

 そんな反省会をしつつ、2人は家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 綾波レイは、襲撃者(シンジたち)が去った後も放心状態だった。

 

 彼女は誤解されがちだが、無表情なだけで感情が無いわけでも、何も考えていないわけでもない。ただ感情を表現する(すべ)を知らないだけなのだ。

 

「………………」

 

 ゆえに、好き勝手に騒いでいた2人に対して何の反応も返すことができなかったのだが。こうして独りになるといろいろと思うところが出てくる。

 

「………………」

 

 しかし、それをぶつける相手は既に無く、ただただフラストレーションが溜まるだけである。そして今までにこういった経験は無く、どうすればいいかを相談する相手もいない。

 

 だからこういう時、どんな顔をすればいいのか分からないのだ。

 

「………………」

 

 そんなわけで彼女は人生で初めて、ふて寝した。

 

 

 

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