新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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2-2 綾波レイ 燃焼

 

 

 

 そして翌々日、彼らは再びやって来た。第3新東京ばな奈とともにやって来た。

 

「ちなみに飲み物はバナナオレにしてみました」

「ばな奈とバナナで、さっちゃんが来ても安心だな」

 

 自衛は大事である。花子さんは、()()()助けてくれる存在なのだ。

 

「………………」

 

 お見舞いの品を受けとったレイは、前回の訪問時よりも巻かれている包帯が減っていた。完治した右目を覆う必要が無くなったので頭部の布面積も最小限になっており、より顔の造形が分かるようになった。

 

「こうして見ると、シンジと綾波先輩って血がつながってる感があるな」

「え、そうかな?」

 

 シンジからしてみれば過去の記憶にある自分、もしくはマイトとレイの比較になるため、性別による違いのせいで今一つなところがある。しかしマイトからしてみれば女になったシンジとの比較になるため分かりやすいのだ。

 

 ちなみにシンジとマイトの2人には、母親の記憶がない。正確には思い出せないくらいに印象が薄く、しかもそれで何も困らないからそのままにしているという感じのため、碇ユイと綾波レイの比較はできていない。というかする気がそもそも無い。

 

「写真で見比べれば分かりやすいか?」

 

 ということでレイが身動きを取れないことを良いことに、左右から彼女を(はさ)む形で記念撮影を行う。今回使用するネルフから連絡用にと支給されている端末は無駄に高性能で、もちろん搭載されているカメラも無駄に高画質な撮影が可能である。それをマイトが自撮りするように掲げ、3人の顔が並ぶようにフレームに収める。

 

「Say, cheese!」

「なんで英語なの?」

 

 まあそれはともかく、撮れた画像を覗き込む。そこには期待通り3人の顔が並んでいるのだが。

 

「シンジ、もう少し綾波先輩に表情を寄せてくれ」

 

 満面の笑みを浮かべるシンジと、状況についていけずに表情が固まっているレイ。これでは比較が難しい。

 

 というわけで再度の撮影を行う。

 

「Spaghetti!」

「ドイツのお作法だっけ?」

 

 今度は表情が近づいた分、比較が容易になった。やはりシンジとレイには共通点が多く、姉妹というほど近くは無いが血縁関係があることを想像させる。対してレイとマイトのほうではそこまでではなく、似てなくもないが言われないと気付かないという程度である。

 

「じゃあ次は並びを変えて……」

 

 レイ、シンジ、マイトの順で撮影を行う。そうするとレイと似ているシンジ、シンジと似ているマイトと3人に繋がりが生まれる。シンジとマイトが兄妹なら、レイは異父(いふ)もしくは異母妹(いぼまい)といったところか。

 

「え、綾波先輩ってどっちかというと叔母(おば)さ」

「ストップ」

 

 シンジは(くち)(ふさ)がれてしまう。

 とはいえ確かに『母親とほぼ同一の遺伝子を持った存在』となると、叔母(おば)が妥当なところだが。同年代の少女にその呼び方は可哀想なので、せめて従姉妹(いとこ)くらいにしてあげて欲しいものである。

 

「……………………」

 

 幸いなことに当事者であるレイは写真の方に気を取られており、先ほどの発言は聞いていなかったようである。

 

(あ、そうだ。綾波先輩に写真送ったら?)

(ついでに連絡先を交換できるな)

 

 というわけで。初日に果たせなかった名刺交換もとい連絡先を入手した2人は、面会時間の終わりと共に退室するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「今日もあんまり進展しなかったね」

「まあまだ2回目だしな」

 

 病院からの帰り道。

 繋いだ手をブンブンと振り回して歩いているシンジから溜息が漏れる。

 

「それに、場合によっては敵になる存在だからな。そう簡単には仲良くなれないのかもな」

 

 使徒戦直後のパワーアップと、その後の暇に飽かせた散歩中の発見。そんなちょっとした不可抗力で知ってしまった情報(ネタバレ)により、NERV(ネルフ)上層部が世界征服を企んでいることを知ってしまったマイトは、綾波レイがどういった立場にあるのかも知っている。

 

 彼女は文字通りの意味で()()である。

 誰が、どのタイミングで、どのように爆発させるか。

 それによって人類がどう滅びるかが決まるのだ。

 

 

 

 ……ただし、その爆弾は既に信管が外され、中の火薬はすべて取り除いてあったりするのだが。

 とはいえ爆発しないからと言って、彼女と敵対しなくなるわけでもない。

 

「綾波先輩が男だったら、拳で語り合って和解する流れもあったのにね」

「今はシンジも女なんだから、同性としての友情ルートはあるんじゃないか?」

「…………偏見かもしれないけど、女の子の友情ってあっさり裏切られそうだよね」

「友情という概念自体が、男とは違う気はするな」

 

 愛情もまた(しか)りである。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 綾波レイは、襲撃者(シンジたち)が去った後も静かだった。

 

 彼女は普段から物静かな性格なのだが、今回は少しばかり様子が違った。手元の端末で先ほどの写真をじっと見つめている。

 

「………………」

 

 2人の男女と自分。これまでこのような写真を撮る機会などなかったために、何の反応も返すことができなかったのだが。こうして独りになるといろいろと思うところが出てくる。

 

「………………」

 

 しかし、それを言葉にする事ができず、ただただフラストレーションが溜まるだけである。そして今までにこういった経験は無く、どうすればいいかを相談する相手もいない。

 

 だからこういう時、どうしたらいいのか分からないのだ。

 

「………………」

 

 それでも彼女は写真を見つめ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

(あれ? 綾波先輩に警戒されてる?)

(おかしいな。ここ数日で友好度は稼げたと思ったんだが)

 

 三度(みたび)の訪問にて。病室へと足を踏み入れた2人は、これまでと空気が違うことに気付く。無表情に2人の発言を聞き流していた綾波レイが、今日は何故だがハッキリと視線を向けてくるのだ。

 それは警戒という防御的なモノというよりは、敵意とまでは行かないが攻撃的な圧力を伴っていた。

 

(……もしかして腕を治しちゃったせいで、ギプスに寄せ書きできなくなったことを怒ってるとか?)

(なるほど。あり得るな)

 

 そんなはずはない。

 

 

 

 今回のお見舞いの品である第3新東京たまごをサイドテーブルに置き、シンジとレイは向かい合う。

 

「……………………」

「……………………」

 

 お互いに視線を交わし、出方を待つ。

 シンジはこれまでとは違うレイの雰囲気に警戒心を抱き、レイはこれまでのシンジの行動に警戒心を抱いている。

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 病室に緊張が走る。

 今日は何が起こるのかと、不安にもなる。

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

「2人してこっちを見るんじゃない」

 

 一向に相手が動きをみせないため、どうしたらいいのかとマイトに助けを求める2人。面白いのでしばらく眺めていようかとも思ったが、話を進めるために仲を取り持つことにした。

 

 まずシンジの方は単純である。単に普段と様子の異なるレイの姿に警戒していただけなので、このままでいいだろう。

 問題はレイの方である。

 

「もしかして綾波先輩は、何か言いたいことがあるとか?」

「……………………」

 

 まあ分かっていたことだが、何の反応も返さない。

 とはいえこれはマイトの言葉を無視したとかではなく、本人が考えをまとめ切れていないことによるものである。彼女の視線の動きからそれを察っしたマイトは、苦労の末に初めての発言を引き出すことに成功する。

 

「…………あなたたちは、何者なの?」

「え、何者って……」

 

 引き出したはいいが、何とも抽象的な質問が飛んできた。

 自分が何者なのか。その質問に答えられる人間が、この世の中にどれくらい居るのだろうか。というかそもそも、人生で一度でもそんな質問をされる人間がどれくらい居るのだろうか。ペルソナとか使えそうである。

 

 少し悩んだ末に、シンジは言葉を返す。

 

「ボクはエヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです」

「そういう事ではないと思うんだが」

 

 少々フライングしてしまったセリフを脇に置いて、マイトが引き継ぐ。レイが聞きたい事の予想はできている。

 

「以前にも少し話したが、俺たちは人間じゃなくなった」

「……………………」

 

 レイにとってこの質問は、とても重要な意味を持つ。自分は人間ではないという事実が周囲との壁を作り、さらに一部の人間にとってはそれが都合の良いことだったため、彼女は常に孤独の中に居た。

 それがここに来て、自分と同じかもしれない存在が現れたのだ。もしかしたら彼女は生まれて初めて、他者との繋がりを得られるかもしれないのだ。

 

 そんな大事なシーンなので、横で『え、ボクたち人間じゃないの!?』と驚愕の表情を浮かべているシンジは放置する。

 

「先の使徒戦でエヴァンゲリオンと一体化した碇シンジは、人としての肉体を失った。今ここにあるのは両親から生まれた自然な存在ではなく、作り物だ」

「……………………」

 

 放置された抗議としてじゃれついてくるシンジを抑え込み、頬をムニムニしながらマイトは続ける。

 

「魂に関しては、まあ綾波先輩なら分かると思うが、そもそもそれほど差はない。つまり分類上は俺たちと綾波先輩は同じ区分だと言ってもいい」

「……………………」

 

 厳密に判断すればレイとシンジたちは異なる存在である。しかしその差は個性と呼べる範疇(はんちゅう)であり、現状ではこの3人だけで1つのカテゴリーを形成しているようなものである。

 ただし、温度差は(ひど)い。

 

(どゆこと?)

(海外に留学してホームシックになってた感じかな。現地の人には優しくされてたが上手く馴染めずにいたところ、久しぶりに同郷の人間に会ったような)

(あー、縁もゆかりも無いのに親近感が湧いてるって感じ?)

 

 レイにとっては自分の存在理由(レゾンデートル)にも関わる大問題なのだが、シンジたちにとってはこの程度である。

 

(……あれ、もしかして、物語後半で真実の愛に目覚めた綾波先輩が覚醒するフラグ?)

(俺たちとの(いつわ)りの関係を捨ててってのは構わんが、変な断罪はされたくないな)

 

 燃える展開ではあるが、当て馬にされるほうとしては(たま)ったものではない。

 しかしその覚醒イベントが無いと使徒に勝てないかもしれないと考えると、できるだけ穏便に済ませられる関係性を築きたいところである。

 

「……………………」

 

(さっきから(すが)るような視線が……)

(うーん、どうしたものか)

 

 どうやら2人がそんなアホな会話を続けている間に、レイの方に心境の変化があったようだ。

 無表情の割にはというか、むしろ無表情だからこそと言うべきか。彼女からの視線には感情が込められている。

 ただしこういった場合によくある『捨てられた子犬のような』などというレベルではなく、もっと深刻なモノであったが。

 

(ボクたちが主役級の登場人物だったら、ここでカッコいいセリフが出てくるのかな?)

(その場合は綾波先輩が依存する危険があるから、本人のためにもやめた方が良い気がするな)

 

 目の前の女の子を見捨てて保身に走るほど、大人ではない。

 これを機に彼女を自分のモノにしてしまおうと思うほど、大人でもない。

 ただの子供(チルドレン)である。

 

 だから、自分たちのやり方で、自分たちなりの関係性を築いていけばいい。

 

「綾波先輩は……」

 

 ようやく、お互いに言葉を交わせる状態になったのだ。

 言葉によって理解を深めて行けばいい。

 

 

 自分たちは言葉によってコミュニケーションを取る、人間(ヒト)なのだから。

 

 

 

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