新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

12 / 41
2-3 綾波レイ 排気

 

 

 

 そんなこんなで徐々に相互理解を始めた3人だったが、問題が発生した。

 

「え、お肉嫌いなの?」

 

 レイの退院日。お祝いということで食事に行こうとしたのだが、ご馳走と言えば肉だろうと考える男子中学生に待ったがかかったのだ。

 こういったセッティングに慣れていないのもあって、事前に相手の好みを確認するのを(おこた)った結果である。

 

「だったら、選択肢の多いファミレスにするか」

 

 マイトが手元の端末で調べた結果、大手チェーン店が第三新東京市にも出店しており、幸いなことに先の使徒戦での被害も無く営業していることが分かった。

 ということで行き先変更である。

 

「……思ったより、肉の無いモノは少ないな」

「だねー」

 

 普段あまり意識していなかったが、改めて見てみればメニューには肉料理があふれている。ならばサイドメニューの数でごまかすかと注文を済ませ、一息つく。そうなれば自然、何故レイは肉が嫌いなのかという話題になる。味なのか匂いなのか食感なのか。そう思っていた2人に対し、レイからは意外な回答を得られた。

 

 曰く、共食いしているようで嫌だ、というのだ。

 

「言われてみれば、確かに共食いだな」

「チキンブロスみたいに、そもそも消化できないとかじゃ無いんだよね?」

「ええ」

 

 光学異性体では無いようだ。

 まあそれを言ったらシンジたちも似たようなモノなので、彼らが普通に肉を食べている時点で今更の話なのだが。

 

「この場合、がんもどきはどうなのかな?」

「材料的にはセーフだが、(がん)に似せてるからアウトか?」

「…………(がん)もどき?」

 

 そんな話をしていると、注文した料理が運ばれてきた。さすがはファミレス、仕事が早い。

 シンジとマイトの前にはハンバーグとステーキ、レイの前にはきつねうどんが置かれる。

 

「はんぶんこしよ、はんぶんこ」

「最初からセットのモノより、単品の方が美味(うま)そうなのは何でなんだろうな」

「……………………」

 

 シンジが目の前のハンバーグを切り分け、マイトのステーキの半分と交換する。

 その様子をジッと見つめていたレイは、自分のきつねうどんを見る。アゲを分けることはできるが、もらうことができない。

 

「綾波先輩がトンカツで、もう1人唐揚げの人が居たら完璧だったのにね」

「さすがに4分の1ずつだと物足りない気がするな」

 

 そこまで行くならバイキング形式の店の方が良いだろう。

 

「………………」

 

 楽しそうに盛り上がる2人に対して、何とも言えずに目線だけを送るレイ。仕方なく麺を(くち)に運ぶ。

 

 そんなレイの様子をコッソリと観察していたマイトは、1つの実験を行うことにした。ここ数日の付き合いの中で、彼女は見た目と違って割と単純な性格なのではと予想しているのだが果たして。

 

「綾波先輩は共食いみたいだから肉を食べられないと言ったが、この星のすべての生命の起源が同じである以上、植物でも共食いになるのでは?」

「………………確かに」

 

 レイは目の前のきつねうどんを見つめる。大豆と小麦。どちらも元をたどれば同じものである。

 

「それに加えて、この星の生命はすべて、この星の他の生命を食べて生きている。つまり共食いが基本だ」

「…………確かに」

 

 植物であっても、土壌から吸い上げる栄養素の元をたどれば他の生命である。直接食べているアグレッシブなヤツも居るが。

 

 結論としては。

 

「だったら綾波先輩も、共食いするのが自然の流れでは?」

「……確かに」

 

 共食いすることによって生きるような存在を生み出したのは誰だ、ということである。

 ぜひその責任を取っていただきたい。

 

 マイトはハンバーグを切り分け、レイに差し出す。

 

「はい、あーん」

 

 差し出されたフォークとマイトとの間で視線を往復させたレイだが、意を決してハンバーグを(くち)にする。

 

「…………おいしい」

「それは良かった」

 

 しばらくモグモグしていたレイから、そんな言葉が返ってきた。

 

(あれ、もしかして食わず嫌いだったの?)

(精神的なモノが原因だった場合、何かの切っ掛けであっさり変わることもあるらしいぞ)

 

 今回は事前に理屈の上で納得しており、加えて同類であるシンジとマイトが目の前で肉を食べているという事実も合わさり、受け入れやすい状況になっていたのもあるだろう。実に簡単に変わってしまった。

 

 どれもう1回、とマイトが差し出したハンバーグに、今度は躊躇(ためら)わずに食い付いてくる。

 

「唐揚げでも追加する?」

「原形を留めたモノよりも、加工肉からの方が良いかもな」

「………………」

 

 綾波レイの退院祝いを口実とした食事会にて、親睦を深める3人。

 世界を守るために使徒と戦う彼らは、こうして平和なひと時を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で終われば綺麗だったのだが。

 

「全然平和じゃなかったね」

「ちょっとコレはな……」

「………………?」

 

 デザートまで満喫した後に、レイを自宅へと送り届ける流れになったのだが。

 案内されて辿(たど)り着いたのは、廃墟寸前といった建物。15階前後のやけに厚みのない集合住宅が数十棟も並んでおり、将来の新首都として開発された第三新東京市というよりもスラム街の一角である。

 室内の方も殺風景で、まあさすがに『その出血量は傷口開いてね? 本当に退院できたの?』と心配になるほど真っ赤に染まった枕なんかは見当たらないが、とても中学生の女の子の部屋とは思えない惨状である。

 

 これはアカン、ということでそのまま荷物をまとめさせて自宅に連れ帰ったのだ。

 シンジたちはファミリー向けの中でも大きめの社宅を与えられているため、部屋数に余裕がある。マヤが泊まるときのために予備を含めて客用布団も何セットか購入してある。それ以外の家具は無いが、部屋はすぐにでも使える状態なのだ。

 

(これは、どこまでだろ?)

(少なくとも責任者はクロだな)

 

 パイロットであるレイに直接関わる部署の長、葛城ミサトと赤木リツコはこの現状を知った上で放置している可能性が非常に高い。世界に2人しか居ない貴重なパイロットに対する扱いではない。というか人に対する扱いではない。

 

(綾波先輩は疑問に思わなかったのかな?)

(彼女にとっては、これが当たり前だったんだろ。典型的な虐待の被害者だな)

 

 第三新東京市に堂々と居を構える国連直属の非公開組織であり、未成年を徴兵まがいに雇用して戦場の最前線に送り込むという、どう考えても悪役なNERV(ネルフ)御一行様。ガワを取り繕うことすらできない杜撰(ずさん)な彼らに、世界の命運を託しても良いのだろうか。

 

(ボクたちも、危ないかもしれないね。いつでも逃げられるようにしておかないと)

(入社から1ヶ月もしないうちに夜逃げの算段とはな)

 

 収入の面では満足しているのだが、命あっての物種(ものだね)である。

 パイロットとして命がけで戦っているからというのではなく、味方から刺されること、もしくは社会的に死ぬことの方を理由に退くのは、ロボットもの作品としてどうなのだろうか。

 

 まあたとえ相手が巨大な組織であろうと不思議パワー(ATフィールド)を駆使して問題なく逃げ切れるだろう。

 しかし、今回は自分たちだけの話ではない。

 

(でもその場合、綾波先輩は……)

(難しいな。虐待された子供は、それでも親を求めることが多いからな)

 

 今のままであれば、綾波レイは置いていくことになる。

 

 自分が虐待されていることを理解していない、もしくは理解していても親を信じている。

 そんな場合には助けることが難しく、下手をすればその過程で助ける側が恨みを買う可能性すらある。いや、恨まれたとしても助けられたのなら運が良い方で、最悪の場合は精神を病んでしまう恐れすらある。

 

(綾波先輩自身がNERV(ネルフ)から離れる決断をできればいいんだが)

 

 それにはまず『今の状況はおかしい』と認識するところからである。

 自分の状態と世間一般との差異を正しく理解し、それに対して立ち向かうのか、それとも逃げ出すのか。何をするにしても、まずは疑問を持つことから始まるのだ。

 

 

 

 そんなことを考えつつ、2人はレイの様子を(うかが)う。

 

(というか綾波先輩の服、中学校の制服だったんだね)

(休日も制服で過ごすとは、生徒の鑑だな)

 

 指導する側の休日の服装に説得力が無いため、基本的に無視される校則である。

 そんな校則を律義に守ったのか、それとも他に服が無いのか、制服に身を包んだレイは緑茶の入った湯呑を手にシンジたちの様子を(うかが)っている。あぶく銭で購入したお高いソファーに座っているため、それに合わせてコーヒーを煎れたほうがよかったのだが、そこは中学生。苦いから嫌だという理由でコーヒーは用意していないのだ。

 

 実にミスマッチな絵面になっているレイだが、本人は特に気にしていない。シンジたちが出したものだからと、何の疑問も持たずに受け取ったのだ。

 この家に連れてこられたのも同様である。前の住居でも問題なかったのだが、2人に言われたから引っ越しただけである。

 少なくとも、レイ本人はそう思っている。

 

「…………………………………………」

 

 今はそれよりも気になっている存在がある。

 

「ニャー」

 

 ソファーに座る自分の横に居る白い毛玉。実際に見るのは初めてだが、おそらくネコの幼体であろう。手のひらよりも少し大きいくらいか。

 

「……………………………………」

「ニャー」

 

 白い子ネコはこちらを見上げながら鳴いている。

 なんというか、まるで生き別れた本人に会ったかのような、愛しさとも切なさとも心強さとも言えない不思議な感情が込み上げてくる。

 

「………………………………」

「ニャー」

 

 何かを催促するかのように、膝の少し上に前足を置いてくる。

 

「…………………………」

「ニャー」

 

 どうすればいいのだろうか。

 

「……………………」

「ニャー」

 

 目の前の2人は、何も応えてくれない。

 

「………………」

「ニャー」

 

 子ネコの催促は続く。

 どうすれば……

 

「…………」

「ニャー」

 

 

 

 

 

「にゃ、にゃあ」

「ニャー」

 

 鳴き声を真似て返事をしてみたが、どうやら正解だったようだ。子ネコは満足したかのように鳴くと、離れて行った。

 

「この子はね、シロちゃんっていうんだよ」

「地下に居た巨人とか綾波先輩の抜け殻みたいなのから魂の欠片的なモノが採れたから、1つにまとめてみたら小動物1匹分になってね」

 

 ………………何かとんでもないことを言われた気がする。

 

 

 

 

 

 

 そんな心温まる交流を続ける3人であったが、終わりはやってくる。

 

「あ、もうこんな時間」

 

 良い子は寝る時間である。

 寝る子は育つということで、パジャマに着替えて寝室へと向かう。ちなみにレイにも予備のパジャマを渡しているので、3人でお揃いの格好である。

 

「じゃ、綾波先輩おやすみー」

「おやすみ」

「ニャー」

 

 2人と1匹は同じ部屋に入っていった。

 

「…………………………………………え?」

 

 レイは自分に(あて)がわれた部屋の前で立ち尽くしている。

 

「……………………………………」

 

 今の状況はおかしい。

 なぜ自分だけ別なのか。

 

「………………………………」

 

 どの平行宇宙を観測しても、ここまで来たらもっとこう。

 

「……………………むぅ」

 

 

 

 

 

 ─────今思えば、あれがすべての始まりだったのかもしれない。

 

              綾波レイ著『我が生涯』序説第三章より抜粋

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。