「3週間ぶりだな」
「ああ、間違いない。使徒だ」
ゲンドウは発進準備を進めるエヴァンゲリオンをモニタ越しに見やりながら
「冬月。あれは何だ、いったい」
「何だと言っても、あれはルイ……フォースチルドレンだな」
「そいつはわかっている。なぜあいつまで初号機に乗りこんでいるんだ」
「むろんシンジ君がいるからだろう、立派な護衛役だな」
前回の使徒戦直後にマイトが
ちなみに彼らは前回の使徒が初号機に瞬殺されたために余分な仕事が発生せず、かなり暇である。なんなら将棋を指す余裕すらある。
そんな彼らの空気が伝染したわけではないが、職員の中にも緩い空気の者がちらほら居る。彼らは特等席で戦闘を観戦しようと、発令所のメインモニタが見れる位置に陣取っている。
そこに映し出されている使徒の姿は……
(空飛ぶ紫イカ?)
(毒持ってそうだな)
赤紫で
どこかゆるキャラチックな感じを受けるが、れっきとした使徒、つまりは人類の敵である。
それを迎え撃つエヴァンゲリオンのパイロットたちは、既に乗機へと乗りこんでいる。レイはまだ零号機が動かせないためお留守番であるが。
(主人公の綾波先輩が動かないということは、まだ前日譚の扱いなのかな?)
(おそらく俺たちが負けたら本編スタートだな)
自分たちのピンチに
今回は零号機がまったく動かせない状況のため、まだ負ける場面ではないであろうと予想している。あとちょっとで完成、なんてときに使徒が来たら危ないのだろう。
(というわけで、余裕があるうちにシンジがメインでやってみるか)
(うん、がんばる)
マイトが自身の肉体を手に入れた以上、こうして2人で初号機に乗り込む必要はない。複座型ではないので、どうしても1人は手持ち無沙汰になってしまうのだ。であればそれぞれが独立した機体に乗った方が良い。
そこでネックになるのが、荒事に慣れていないシンジである。
身に危険が迫っているときに硬直してしまう、というのは慣れで何とかなるだろう。しかし彼の性格では、ある程度の大きさの生物に対して攻撃することが強いストレスとなってしまうのだ。
ではどうすればいいのか。
『シンジ君。出撃、いいわね?』
「はい、大丈夫です」
準備が終わったのか、ミサトから通信が入る。
そして同じく横で準備を進めていたリツコからも通信が入る。
『パレットの一斉射。練習通り、大丈夫ね?』
素手で出撃した前回とは違い、なんと今回は武器が支給されている。パレットライフル、もしくはパレットガンと呼ばれる、エヴァンゲリオンが扱うサイズのアサルトライフルのような銃。火薬ではなく電磁気力で劣化ウラン弾を発射する、威力はあるが環境に優しくない兵器である。
劣化ウラン弾は一昔前のアンチ・ヘイト物によく見られたアレで、ここからタングステンにつなげるのが様式美なのだ。
まあ市街地でこんなものを使用するなというのはもっともな話である。もしかしたら監督的に
攻撃によるストレスは距離に比例すると言われている。直接相手に手を触れる場合が最も強く、近接武器、遠距離武器と距離が離れるにつれて弱くなっていく。
なので銃を使用するのはストレス面から考えても、また素人でも安定した威力を出せるという面でも有効だと思われるのだが。
「た、たぶん、大丈夫だと思います……」
シンジからは何とも言えない言葉が返ってくる。
もちろん彼は銃を撃った経験など無い。最近の訓練で扱ったとはいえ、いろいろと問題がある銃のためシミュレータ上でしかない。そのため上手くやれる自信はないのだ。
(まあ俺が殴った方が威力があるから、全弾外しても問題ないさ)
(それだと必殺技が『
威力もなくて環境にも優しくない、不吉を届けに来る兵器だったようだ。オリハルコン製ではないため、鈍器アタックの攻撃力は低そうである。
『発進!』
そんなことを考えていると射出されてしまった。相変わらず強烈な加速だが、既にエヴァンゲリオンと一体化している彼らには些細なものである。
(あ、また使徒のこと聞いてない)
(それほど情報は無さそうだから、諦めたほうがいいのか?)
銃を撃つという作戦は聞いたが、使徒に関する情報は特にもらえていないことに気付いた2人。今回は事前に外見を見ることができただけマシだろうか。
ちなみにそのころ使徒は『直立して
そんな使徒の正面に、警報を鳴らす直方体の建物がある。なんとこれ、今回の射出口だったりする。しかもご丁寧にランプで進捗具合が示されている。
(なんでこんな、目と鼻の先に出すんだろ?)
(シンジの銃の腕を考慮してくれたんだろ)
もし相手がその気なら、固定具を解除して射出口の外に出るまでの間に何度攻撃を受けることになるのやら。幸いにも今回の使徒にその気はないようだが。
(これ絶対、いつか攻撃されるよね)
(ここまでお膳立てされてると確実に攻撃される回があるな)
まあそれはともかく、今は目の前の使徒に集中しよう。目の前というか、射出口を挟んで真後ろに居るが。
そこから映画なんかでよくある、反転しつつ飛び出して正面から銃撃、が今回の作戦である。
戦闘インストラクターに『なぜ教えた通りに、バリケードの右側から撃つ時は、左手に銃を持ちかえない!!』と怒られそうである。状況に応じて左右どちらの手でも拳銃が撃てる、これがアメリカの市警察の警官が必ずマスターすべき、防御射撃法だ……!!
(じゃ、行くよ!)
シンジは練習の通りに射出口から飛び出し、使徒を正面に捉えて銃を構え、そして引き金を引く。
「あれ?」
しかし、弾は発射されない。カチカチと引き金の音だけが虚しく響く。
(おかしいな、詰まったかな?)
(お約束で安全装置を外してないとか?)
詰まりを確認するために銃口を覗き込み、何度か引き金を引いてみる。
筒の中は真っ暗で、特に何も見えない。
「んー?」
銃に関しては素人の2人が見ても、分かるハズはないのだが。
それでも諦めずに引き金を引き続けていると手応えがあり、弾丸が発射された。
「わっ?!」
それは見事に初号機の額を捉え、着弾と同時に微粉末化して燃焼する。そして黒煙となって顔の周囲に漂うことになった。
『バカ! 爆煙で敵が見えない!』
『そうじゃないでしょミサト!』
使徒の卑劣な罠によって視界を奪われた初号機に、更なる追撃が襲う。
その触手は根本が固定されているため、振るって遠心力を乗せるのではなく、刺突のように真っ直ぐに初号機へと襲い掛かる。
『ダメ! 避けて!!』
ミサトから指示とも悲鳴とも付かない声が上がるが、それでどうにかなるものでもなく、初号機は腹部を貫かれる………………はずだった。
(あ、できた)
(生身でやるのと同じ感覚だな)
しかしその触手は、初号機の手前でオレンジ色に光り輝く八角形のバリアに阻まれる。初号機とほぼ同じ大きさに展開されたそれは、使徒の触手の進行を完全に抑えている。
『ATフィールド!?』
『相転移空間を肉眼で確認できるほど、強力なものが展開されています!』
リツコとマヤの技術開発部コンビから歓声のような報告が上がる。エヴァンゲリオンを使用した実験ではなく、実戦での運用は今回が初である。ありったけの観測機器を動員し、データ取得に余念がない。
ココを逃すとまた技術開発部の仕事が無くなってしまう可能性もあるので、その危機感も後押ししている。
『やったわ、ATフィールドがある限り』
『初号機には接触できない!』
ミサトとリツコが喜んでいるが、そこにマヤからの不吉な報告が入る。
『使徒もATフィールドを展開……位相空間を中和していきます!』
見ればATフィールドに接触している触手が、徐々に内部へと押し込まれていく。
『いいえ、侵蝕しているのよ……』
『あのATフィールドをいとも簡単に……』
それは中和と呼べるような生易しいモノではなく、リツコが表現する通り浸食と呼ぶにふさわしい速度でATフィールドを突き破る。
二転三転する状況のせいでミサトの浮き沈みが忙しい。
そんな彼女たちの期待に応えてか、ついに使徒は差し込んだ触手を起点にATフィールドを左右へと引き裂いてしまう。
「パレットライフルキ~ック!」
ドゴォォォ
腹部に強烈な前蹴りを受けた使徒の身体がくの字に折れる。パレットライフルを両手で持つことで身体のバランスを取ることができ、より強力なキックとなったようだ。
(作戦通りだね!)
(まさか、こうまで上手く行くとは……)
左右の触手を使って、ATフィールドを左右に引き裂く。当然、中央は無防備になる。そこにタイミングを合わせて蹴りを放ったのだ。
そもそも先の使徒や地下のアレを取り込んだシンジたちのATフィールドは、もはや単なる使徒では揺るがすことすらできないレベルなのだ。中和されるという事象を体験してみたくてわざと弱めに展開し、ついでに次の
(でもまさか、敵の眼前で両手を広げるだなんて……)
(液体金属とか吸血鬼みたいに、強者の余裕だったのかもしれん)
もしくは単に
さて強烈な蹴りを受けた使徒だが、まだ戦意を失ってはいないようだ。左右の触手は元気にウネウネしている。
まあ今回はシンジが操縦に習熟することが目的なので、そもそもダメージになるような攻撃をまだするつもりはないのだが。つまり早くに決着してしまうとむしろ困るのだ。
そんなわけで、再び触手を振るって攻撃してきてくれたのはありがたいのだが。
(背中のコード、思ったよりジャマだね)
(いつか踏んで足を滑らすだろうな)
エヴァンゲリオンは外部動力に頼っており、アンビリカルケーブルと呼ばれる背中につないだ電線によって電力の供給を受けている。これがまた厄介なのだ。
当たり前の話だが、人間にはこれに該当する器官は存在しない。そのためよく意識の外に行ってしまうのだが、このケーブルはある程度の太さと強度があるため、結構な頻度で自己主張してくるのだ。
(気が付いたら背後でビル壊してたりするよね)
(そもそも巨大ロボットで市街戦というのが間違ってると思う)
大通りで戦うようにしているとはいえ、動くたびにケーブルの経路上のどこかで土煙が上がるのはどうしようもない。
建造物に被害の出ないよう郊外に移動しようにも、そちらでは電力供給を受けられずに戦えないという事情もある。
(できるだけ動かずに戦う?)
(仁王立ちして
その昔、グレートタイタンという巨大ロボットが……
まあ映像としての見栄えを気にしても仕方がないのだが、せめてもの抵抗として初回のような全身を覆うサイズのバリアではなく、手のひらを中心にそれよりも少し大きい程度に留めておく。こうすれば多少は腕の動きや
(スペシャル・ファイアー・サンダー・ヨコシマ・サイキック・ソーサー!!)
(あれ六角形だし、色が違うな)
名前はともかく、使徒の触手をさばけているので問題ないだろう。絵面としては地味だが。
ちなみに操縦している本人としてはリズムゲームのような感覚で楽しんでいたりする。
そうやってしばらく遊んでいると、使徒からの攻撃が止む。疲労するとは思えないので、攻めあぐねていることを理解して作戦でも練っているのだろうか。
(あれ? サイキック・ソーサーなら、投げれる?)
(ほほう?)
こちらも疲労とは無縁な生命体だが、使徒と異なっている点がある。
それは、思い付きをノリと勢いで実行してしまう落ち着きの無さだ。
「えいっ」
ということでシンジは手を振るう。フリスビーをサイドアームで投げる感じである。
(横向きだとほとんど見えないね)
(こんなに極薄なのにあれだけ頑丈だったんか)
2人が感心しながらフリスビーの行方を見守っていると、それは何の抵抗もなく使徒に突き刺さった。
というか通り過ぎた。
「……え?」
そして
どうみても致命傷である。
(………………どうしよ?)
(とりあえず
こうしてチルドレンたちは激闘を制したのだった。
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【鳴らない、電話】
第4使徒シャムシエルがあらわれた
アスカ「アタシにまかせて!」
レイ 「こら」
レイ 「イカには釣竿を使うのが、海の生き物に対する礼儀というもの」
レイ 「そーッとね」
アスカ「刺されてるじゃない」
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