使徒との激戦を繰り広げたパイロットたち。本日は自宅待機という名の休息タイムである。
しかし
そんな部署の1つである技術開発部に所属するマヤは、シンジたちの住む社宅に派遣されていた。昨日の戦闘で使用したパレットライフルやATフィールドに関する聞き取り調査のためである。
「…………あれ?」
そしてそこに居るはずのない綾波レイの姿を発見し、首を
それに気づいたマイトが状況を説明する。
「ああ、
「そうなんだ」
白い子ネコと正面から向かい合って床に座ったまま微動だにしないレイを見つつ、パイロット同士仲が良いのは良いことだと
その反応から、彼女がレイの事情を知らない事を確信する。
マヤ自身も以前言っていたが、
この一ヶ月弱で把握したマヤの性格は『普通の人、より少し真面目で、精神的に弱い』という感じである。非人道的な
「……私の荷物、ジャマになってない?」
「大丈夫ですよ。部屋はまだ余ってますから」
最初は着替えと洗面用具だけだったのが、今ではいろいろと私物を持ち込んでいたりする。スペースの広さと資金力に物を言わせて『快適な居住空間造り』に余念がないシンジとマイトのせいで、居心地が良いのだ。という建前の元、独りでは淋しいのでつい通ってしまうのだ。
「いっそマヤさんもココに引っ越します?」
「うーん、それが良いかも……」
マヤは地上の
「そもそも地上だと、いつ戦闘に巻き込まれるかヒヤヒヤするのよね。昨日も発令所のメインモニタに自宅が映らないか心配だったし」
二度の使徒戦において、職員の中にも家族親族が巻き込まれて死傷した者、自宅が被害にあった者も出てきている。使徒迎撃用都市に住む以上、仕方のないことである。
そういう意味では
まあこの家自体はこっそり
「使徒の攻撃で私の家が大破しましたー、とか聞こえたら、笑って戦闘どころではなくなりますね」
「…………次の使徒戦で言っちゃったらゴメンね?」
オペレーターとして私情を挟むのはダメなのだが、それでもつい言ってしまいそうだ。
今までの使徒は遠距離の攻撃をしない、正確には遠距離攻撃をする間もなく倒せていたが、次はどうなるやら。
いつ来るのか分からないので、できるだけ早めに引っ越しを済ませた方がいいだろう。
そんな話をしながら、マイトはマヤの観察を続ける。
今でこそこうやって冗談を交わし、楽しそうに笑っている彼女だが、出会った当初は精神的にかなり追い詰められた状態だったのだ。
初対面では真面目な人、その翌日にはうっかりな人とイメージが変わり、いろいろあって仲良くなる過程で分かったのは、彼女は孤独だということだ。
マヤの精神的な弱さの根底は、この孤独にある。
誰にも頼ることができないから、自分の容量を超えるようなモノから目を逸らす。
もはや『自分』しか残されていないから、それを変えてしまうような外部の存在に接するのが怖い。
その結果としていつまでたっても周囲に馴染めず、押しつぶされていく。
それが今はマイトという、もはや何でもありな存在が後ろに控えている。
自分ではどうにもできない状況でも、頼りになる人が居てくれるだけで心に余裕を持てる。
だから冗談を笑うこともできるのだ。
(けどこれって、根本的な解決になってないんだよな……)
(え、そうなの?)
そこにお茶を淹れてきたシンジと、彼に促されたレイが合流する。
シンジはお茶を配りながら、マイトにピッタリと寄り添って座っているマヤを見る。
今のマヤは、マイトに依存している状態である。最近は落ち着いたものの、最初は精神的にも肉体的にもそれはもう大変だったのだ。
元々シンジが孤独に耐えかねて生み出された存在がマイトである。同じように孤独の中にいる人への特攻持ちな上、それが最近は使徒という強大な存在を取り込んでさらにパワーアップしている。マヤに勝ち目は無かったのだ。
そんな状態で、もしマイトが居なくなったとしたら。
(そう考えると、軽々しくココから逃げるなんてことはできないか)
(一緒に、はちょっと難しいもんね)
シンジとマイトは身寄りが無いので、そのまま飛び出しても何の問題も無い。
しかしマヤには家族が居る。親元を離れて生活しているとはいえ、ほとぼりが冷めるまで年単位の逃亡生活なんてことは無理なので、一緒に連れて行くことはできない。
ならば逃げずにどうにかする方法を模索するしかない。
とはいえ実はそんな大げさな話ではなく、逃げるのは『その方が楽だから』というだけなので、まあなんとかなるだろう。
居場所を勝ち取るために動く分、いろいろと周囲に影響が出ると思うが、そちらもまあなんとかなるだろう。むしろ関係各所には諦めてもらいたい。
とまあ自身のあずかり知らぬところで変な話が進んでいる中、マヤはというと1つのことが気になっていた。
「もしかしてシンジ君とレイちゃんって、血が繋がってる?」
目の前に並んで座っていると、やはり共通点に気付くもので。
実際には血の繋がりというか何というか、かなり複雑怪奇なもので説明が難しいのだが、マイトは事前に用意してあった回答で乗り切る。
「実は母方の
「そうなんだ」
シンジとレイの関係は、とりあえず対外的にはこの方向で行くことにしたのだ。
(あ、本当のことは教えないんだ)
(マヤさんにはあまり関係ないし、しかも解決済みだしな)
どこまで教えるかにもよるが、おそらく今の精神状態であればある程度は耐えられるだろう。
ただし、耐えられるからといって教える必要性は無い。
どうせ放っておいても、この手の話は次々と出てくるだろうし。
だったらわざわざ心労の種を増やさなくてもいいだろう。
「……
「………………」
(言われてみれば、ちょっと不自然?)
(同じ年で、さらには同居するほどの仲で『先輩』は、ちょっと他人行儀か)
元々は先任パイロットに対しての呼び名としての『先輩』だったのだ。勤務中はともかく、プライベートではちょっと不適切だろう。
何ならレイからも『そこがちょっと不満だった』的な視線が来てることだし。
ではこれを機に変えてみよう、とはなったのだが。何が適切だろうか。
「無難に名前呼びかしら?」
マヤの提案でとりあえず試してみる。
まずはレイとシンジから。
「シンジくん」
「レイ」
「……何かすごく違和感が」
「おかしいわね。何でかしら?」
外野の反応が渋いが、次にマイト。
「マイちゃん」
「レイちゃん」
「あ、そっちで呼ぶんだ」
「こちらも少し違和感があるわね」
外野の反応は今ひとつである。
まあそれはともかく。
「これだと
「………………」
マイトの
彼女は他者との繋がりを求めている。それも特別なモノを。なので呼び方にも特別感が欲しい。
そんなわけで1つ思いついたことがあるので、彼女はシンジの方を向いて呼びかけた。
「姉さ……兄さん?」
ではこれに対する3人の評価は。
「レイちゃんの『兄さん』呼びは似合ってるけど」
「シンジ君って『兄さん』って感じじゃないわね」
「えー?」
では気を取り直して。
「お兄ちゃん?」
レイは再度呼びかける。
「あー、なんかしっくりきた感じが」
「うん、良い感じね」
「えー?」
満場一致のようだ。
ではお次はマイトである。
今度こそはとレイは気合を入れる。
「兄さ」
「マイちゃんって、兄よりも父親な感じだよね」
しかしシンジからのインターセプトが入る。
そしてそれを聞いて天啓を得る。
「……お父さん」
表情に乏しいながらも、やけに満足そうなレイ。
そんな彼女に、訂正を切り出すことはできない。
「やってくれた
「えへへー」
「うん、良い感じね」
冷静に考えると『母親から兄だの父だの呼ばれる息子』という状況だが、気にしてはいけない。