新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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2-6 第4使徒(シャムシエル)戦の振り返り

 

 

 

 すっきりしたところで、お仕事の時間である。

 

 先述の通り今回は戦闘で使用したパレットライフルとATフィールドに関する聞き取りである。ホームシアター設備を使って、当時の映像を見ながら質問を行うのだ。

 

「……本部で使ってるのより、映りが良いわね」

「そりゃまあ、お金に物を言わせましたから」

「個人宅に設置するようなモノじゃない、って言われたよね」

 

 ということで上映開始である。

 使徒発見から順次、昨夜のうちに編集されたのであろう映像が流れる。一通り見終わって復習が済んだら、改めて調書開始である。

 

「まず気になったのは、使徒が変形したところなんですが」

 

 マイトが気付いたのはそのタイミングである。

 それまでは防衛施設からの銃弾、ミサイルの雨を完全に無視して飛行を続けていた使徒が、初号機の発進と同時くらいに戦闘モードへと移行したのだ。

 

「これ、地下に居ることに完全に気付いてますよね?」

「でも触手を出してないから、敵だとは思って無さそうだよね」

 

 戦闘開始時にシンジと『いつか射出と同時に攻撃を受けるだろう』と冗談交じりに話していたが、これを見る限り本当に実現しそうである。

 

「実はそれ、第3使徒のときも起きてるのよね」

 

 マヤは端末を操作し、以前の戦闘記録を再生する。そこでは確かに、射出口が変化を起こす前に使徒が反応しているように見受けられる。

 

 ちなみにこの映像、シンジたちは初見である。子供相手だからなのか、それともパイロットの管轄ではないと判断されているのか、使徒や戦闘に関する情報は公開されず、それに対する発言権も無い。今回もマヤと仲良くなっていなかった場合、質問への回答以外のことはできなかったのだろう。

 

「使徒は目で見なくても、遮蔽物(しゃへいぶつ)越しでもコチラを認識してると思った方が良さそうだな」

「バトル物でよくある『気を感じる』ってやつだね」

「………………」

 

 レイは最近、シンジたちが買い集めた漫画を読んでいる。そのため『気』についても履修済みであり、なるほどと納得する。

 実際はATフィールドなのだが。

 

 ちなみに彼女、人間を理解するために医学書や遺伝子工学なんかの専門書で勉強するお茶目さんである。お見舞いの時に気付いたシンジたちはそれを取り上げて、有名どころの漫画を渡したのだ。真面目で優秀な彼女は既に結構な数を読破したようだ。

 

 

 

 話を今回の使徒戦に戻す。

 次はお待ちかね、パレットライフルである。

 

「使用感はどうだった?」

「痛くなかったです」

 

 シンジからは何か違うモノが返ってきた。

 それに続けてマイトも感想を述べる。

 

「今の銃だと、威力が足りなかった時にもう打つ手がないんですよね」

「お約束の120%的なあれこれが使えないもんね」

「ふむふむ」

 

 マヤはメモを取りながらも、そういった銃がどこかにあったようなと記憶を探る。

 

「大量の電力を消費することで威力を上げられるものはあるけど、その場のノリで変えられるほどの柔軟性はないわね」

 

 あったとしても、電力消費量が増えるとエヴァンゲリオンの電源の方に支障が出そうである。ブレーカーが落ちたら大惨事である。

 緊急用として内部電源も搭載しているため、すぐに機能停止とはならないのだが。

 

「初号機の内臓バッテリーって、戦闘だと数分しかもたないんでしたっけ」

「背中にコードついてるとジャマだから、どうにかして欲しいよね」

「んー、まだまだ技術的に難しいのよね……」

 

 母艦から重力波ビームでエネルギーを供給するシステムは、実用化まであと180年くらいかかるし。

 

「そういえば、エヴァに対抗して作られてる巨大ロボットが、たしか核分裂炉を搭載するとか」

「それはちょっと……」

120%(メルトダウン)!」

 

 市街戦で劣化ウラン弾を使用しておいて言えるセリフではないが、もっと安全性を考慮した設計にして欲しいものである。

 

「あとは理論だけならスーパーソレノイド機関、通称S2エスツー機関っていうのもあるのよね」

 

 これは使徒の動力源で、無限にエネルギーを発生させる永久機関である。

 第1使徒を発見した際に実在が確認されたが、これを再現したりといったことはまだできていない。

 

(もしかしてマイちゃんなら、作れる?)

(できるけど、いろいろと問題になりそうな……)

 

 夢の永久機関である。問題が起きないはずがない。

 だったら念のため緊急時用に搭載だけでもしておいて、普段は今まで通り電力供給に頼るか。

 

(でもそれだと背中のコードは残るから、あまりメリットが……いや待てよ)

 

 不思議パワー(ATフィールド)で無線給電して、それを隠すためにケーブル等は幻覚でごまかせばいいのでは?

 

(そこまでするなら、電力じゃなくてもいいんじゃない?)

(いや、外部から分かりやすい動力をもらってたほうが120%(フルパワー)なときにいいかなと)

 

 スクリーンの消費電力ゲージが真っ赤になって限界突破する感じである。

 

「使徒のサンプルとか手に入れば、S2エスツー機関の実用化も見えてくると思うんだけど……」

 

(……自爆させてるのは内緒だからな)

(うん、分かってる)

 

 マヤの要望には応えられそうにない。

 戦闘の締めとしての爆発のほうが大事である。

 

「サンプルと言えば、ATフィールドのデータが手に入ったのはありがたいわね」

 

 マヤは端末を操作し、初号機がATフィールドを展開して使徒の攻撃を防いだ場面を映し出す。

 大きな八角形のバリアがオレンジ色に輝いている。

 

「にしても、まさか膜みたいに裂かれるとは」

「ね。『パリンッ』じゃなくて『ビリッ』って感じだったよね」

「ホント、意外だったわね」

 

 レイも(うなず)いている。バリアは割れるのが常識なのだ。

 それと1度張ったら終わりではなく、攻撃されると圧力を受けるのも常識である。

 

「これじゃあ、ピンチのときにヒビが入ってく演出も無理か」

「徐々に裂けてく感じはあったけどね」

「それだと断面がちょっと汚いのよね」

 

 割れた破片が飛び散るのは美しいのに、ちぎれた場合はなんだかネバついてそうでどうも。

 やはり割れるATフィールドを開発した方が良いのだろうか。

 

「お兄ちゃん」

 

 レイがシンジに呼びかける。どうやら彼女も疑問があるようだ。

 

「なんでATフィールドで使徒を切れたの?」

 

 トドメとなった一撃、シンジが投げたATフィールドが使徒を切断した。

 この事実がATフィールドをバリアとして認識しているレイには理解できなかったようだ。

 

「うーん、ほら、あれじゃない? 紙で指が切れるってやつ」

 

 簡単に破くことができる薄い紙でも、当たり様によっては出血するような傷を負うのだ。

 それを受けてマイトが端末に1つの動画を映す。

 

「こんな感じで、トランプ投げできゅうりを切ったり、木の板に刺したりもできるんだよ」

「なるほど」

 

 つまり大英図書館特殊工作部のエージェント、ザ・ペーパーである。

 これにはレイも納得である。ATフィールドなら使徒も切れるだろう。

 

「これからも武器として使えそう?」

「難しいですね。使徒が弱いうちならなんとかなりそうですが」

 

 マヤは期待していたようだが、必殺技としては使えそうにない。前提として、使徒のATフィールドの強度を上回る必要があるからだ。

 お約束として徐々に使徒は強くなっていくだろう。であれば使徒のATフィールドを中和して、さらに武器として使える強度が求められるこのやり方では、早晩限界が来るはずだ。

 

 実際には来ないのだが。

 

「だったら合体技とかできないかな?」

 

 横一列に並んだエヴァンゲリオンが同時にATフィールドを展開し、それによって威力を増したことで敵を圧倒する姿を思い描く。

 敵1体に対して複数で挑むのはお約束の範疇(はんちゅう)である。決して反則ではない。

 

「なるほど。王道パターンだな」

 

 特にトドメのシーンでは、全員が参加しての必殺技は盛り上がるものである。

 それに人数が増えたときにバリエーションが増えるのがまた良い。例えば3人でビッグバンアタック、4人でメキシカン・ビッグバンアタック、5人でビッグバンアタック・インターナショナルといった具合だ。

 

「レイちゃんもやる?」

「やる」

 

 レイも乗り気のようだ。力強く(うなず)いた。

 

(これでボクたちも、必殺技の補助要員として生き残れるかな?)

(画面の端に見切れる感じで生き残れるんじゃないか?)

 

 これで必殺技も決まったし、どんな使徒が来ても負けないだろう。

 そう意気込む3人とは裏腹にマヤは少し不安なようだ。

 

「お互いのATフィールドが中和しあったりしないのかしら?」

「大丈夫ですよ。味方同士ではそうならないはずです」

 

 そうでないと、例えば初号機と零号機でお互いのATフィールドが干渉して消え去り、防ごうとした敵の攻撃が直撃するという間抜けな絵面になってしまう。熱血ロボットものとしてはダメである。

 

 とはいえ実戦で使う前に試しておいたほうがいいだろう。

 

「零号機っていつから動かせるんですか?」

「んー、あと一週間くらいかな?」

 

 マヤが予定表を確認し、マイトに答える。初号機が2度の戦闘を無傷で終えたため、零号機に充てる資源も人員も必要分以上に確保できており、それくらいだろうと予想する。

 

「ということは、次の使徒はそこら辺か」

「だね。ぜったい来るよね」

「?」

 

 レイは首を(かし)げているが、お約束というのはそんなものである。

 

「今までと違い、強大な使徒の前に成す術のない初号機」

「そんなピンチに颯爽と駆け付けた零号機が、圧倒的なパワーで使徒を粉砕!」

 

 盛り上がること間違いなしである。

 

「………………」

 

 2人の言葉に、レイは無理無理と首を横に振っているが。

 

「あのね、零号機ってプロトタイプだから……」

 

 マヤも苦笑いで補足する。

 ちなみに初号機はテストタイプ、弐号機以降が先行量産機、5号機以降が量産機となっている。

 

「……プロトタイプだから、秘めたパワーが開花して、とか?」

「………………」

 

 テストタイプだとどこかで手も足も出ずに大破、もしくは自爆という見せ場を作って退場くらいだろうか。大幅な改修を施しても、せいぜい盾役として散るくらいしかできない。

 それに対してプロトタイプは可能性の塊であり、その出自が謎であるほどパワーアップが見込める。

 

 そんなマヤの言葉に、レイは無理無理と首を横に振っているが。

 

「もしかしたら、機体じゃなくてパイロットの腕で、ってどうしたレイちゃん?」

「………………」

 

 マイトがさらに上げようとしたハードルは、身を乗り出したレイの手によって物理的に防がれる。必死になって無理無理と首を横に振っている。

 

謙遜(けんそん)してるのかな?)

(病み上がりだから不安なのかもしれん)

 

 そんなレイの姿を見てなお、彼女を信じている者と(いじ)っている者。どちらがどちらかはあえて言うまい。

 

 それはともかく、次の使徒戦が近いことが分かったのでレイの慣らし運転が必要だろう。

 

「レイちゃんを初号機に乗せてリハビリしたほうが良いと思いますが」

「えっとね、それは……」

 

 エヴァンゲリオンとパイロットは、専用に調()()したコアと呼ばれるモノを通して結び付けられている。現在は初号機とシンジが結び付いた状態だ。もしレイがパイロットとして乗り込むのであれば、レイ専用のコアに載せ替える必要がある。

 はずなのだが。

 

「……もしかしてマイト君は、コアに関係なくシンクロできる?」

「できますよ」

「シンジ君以外の、他人と一緒でも?」

「はい」

 

 シンジたちはコアを介した既存のシンクロシステムではなく、もっと直接的な手段で操縦している。

 ということはレイではなく、訓練した大人のパイロットとかでもいいのではないか。

 

「あ、それはやめた方がいいですよ」

 

 誰でも再現できる科学的な手法ではなく個人のよく分からない能力に頼った場合、その人が居なくなったときに破綻してしまう。

 敗北がそのまま人類滅亡に直結するという建前の中でやるには、リスクが高すぎるのだ。

 

「じゃあそれは置いといて、レイちゃんと一緒にはどうかな?」

 

 これはコアを書き換える手間を惜しんだ、だけではない。

 既存のシンクロシステムはパイロットの精神状態に大きく左右される。久しぶりで緊張しているレイが、慣れない初号機でのシンクロに失敗する可能性があるのだ。そして最悪の場合はその失敗を引きずってしまい、続く零号機での起動実験に失敗してしまう可能性すらある。

 だったら確実にシンクロできる手段を取りたいのだ。

 

 

 

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