新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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1-2 第3使徒(サキエル)戦 表(2)

 

 

 

 人類最後の切り札であるエヴァンゲリオンを操縦するためのシステムには、いくつかの欠点がある。今回の事件を引き起こしたのはその内の1つである。

 

 パイロットは自身とエヴァンゲリオンとを神経接続によって一体化させるのだが、その度合いはシンクロ率と呼ばれる数値によって表される。操作性を増すためにはエヴァンゲリオンとパイロットのシンクロ率を上げる必要があるというわけだ。

 ただしこのシンクロ率を上げ過ぎると、パイロットはエヴァンゲリオンに肉体ごと取り込まれてしまうのだ。

 

 しかしパイロットは死亡したわけではない。エヴァンゲリオンとの間に自我の境界線をしっかりと再構築できれば復活できる、肉体を再構成できるのだ。これまでにも数度発生している事象であるため、助ける方法もある程度は確立されているのだ。

 まあこれまでとは違って、取り込まれたはずのパイロットの意思でエヴァンゲリオンを動かせていたのはよく分からないが。

 

 

 

 まずはしっかり調査しなければと、この件の責任者となった赤木リツコは初号機のもとへと急ぐ。しかし格納庫に辿り着いた彼女が目にしたのは、首の付け根からエントリープラグが飛びだしている初号機の姿であった。

 パイロットが操縦のために乗りこんでいるエントリープラグ。そのプラグのハッチは、開いていた。

 

「え、何が起こって……」

 

 リツコにとって、これはあってはならない事態である。

 碇シンジの肉体を構成していた物質は、エントリープラグ内という密閉された空間内にすべて確保されているという前提があってこそ、彼の復活が可能なのだ。

 ハッチが開いて中の物質が漏れ出ていた場合は、肉体を再構成できない。

 つまり、彼はもはや死んだも同然なのである。

 

「リツコ? ねえ、リツコ、大丈夫なの?」

 

 彼女についてきたミサトは、この件に関しての前提知識がない。そのため現在の状況がどれだけ深刻なのかを理解できずにいた。

 よく分からない巨大ロボットに乗せた初対面の子供が、内部カメラに映っていない。

 それくらいの認識である。

 

 人造人間に神経接続したら魂が取り込まれて肉体は消滅した、なんてことは理解の範疇(はんちゅう)を超えているのだ。

 

 

 

 そうやって彼女たちが騒いでいたからなのか、エントリープラグの方でも動きがあった。

 中から人が顔をのぞかせたのだ。

 

「あ、葛城さんに赤木さん」

 

 その人物は深刻な状況にもかかわらず、軽い調子で2人に声をかけてプラグから降りてくる。

 

「シンジくっ…………ん?」

 

 声をかけようとしたミサトだが、そこで違和感に気付く。

 彼は、こんなにも大きかっただろうか。

 直接目にした時間は短かったとはいえ、つい先ほどの出来事である。そのときに自分は彼を見おろしていたはず。

 それがどうだ、今ではわずかとはいえ自分の方が見上げているではないか。

 

 それに体格も変わっている。

 彼は年相応か、それよりも少し細身の少年だったはず。

 自分はこれでも軍隊でそこそこの戦闘訓練を受けている身だ。服の上からでもある程度の筋肉の発達具合を把握できる。

 というか服から露出している二の腕の太さを見誤るはずがない。

 

「だいたい何で裸なのよ」

「何か問題でも?」

 

 そう、彼は全裸なのである。しかし実に堂々とした態度である。

 自分には何ら恥じる部分は無いと、自信に満ち溢れている。

 

「自慢するほどの大きさでもないでしょうに」

「そうじゃないでしょミサト!」

 

 2人の視線が下の方に固定されているのは気のせいか。

 彼女たちもまだまだお年頃である。

 

「やれやれ、葛城さんは分かっていない」

 

 男にとって致命傷になりかねない攻撃にも動じない。

 彼は欧米人的ジェスチャーで大げさに肩をすくめるのみである。

 

「ノーマルモードで判断しても意味がないでしょう。バトルモードでは戦闘力が何倍にも跳ね上がるのに」

「なるほど。確かに」

「そうじゃないでしょミサト!」

 

 そもそもプラグスーツはどうしたのか。

 

「ああ、それなら……」

 

 彼が振りむくと同時に、エントリープラグから新たな人影が現れる。

 その人物は恐る恐るプラグから降りてきて、彼の背後に隠れるように身を寄せる。

 

「シンジが着ていますので」

「なるほど。1着しかないから仕方ないわね」

「そうじゃないでしょミサト!」

 

 新たに現れた人物は、ミサトの中にある碇シンジのイメージにかなりの割合で合致した。

 しかし、やはり何か違和感がある。

 身長こそ変わって無さそうだが、少し華奢になっていないだろうか。いや、華奢というより柔らかさが感じられるとでも言うべきか。プラグスーツは身体のラインが強調される作りになっているため、どうしても目についてしまう。

 

「あれ? シンジ君、髪伸びた?」

「え、はい、ちょっと長くなったみたいです」

 

 全体的に髪が少し長くなっている。それに声もわずかに高くなっている。

 

 改めて2人を並べてみると、どちらも碇シンジに似ているが、どちらも碇シンジには見えない。

 どちらもそれぞれ共通点はあるが、しかし元のイメージから遠い部分もあり、2人を足して2で割ると碇シンジになりそうな感じである。

 

「で、どっちがシンジ君?」

「ボクが碇シンジです」

 

 小柄な方が返事をする。

 ということは、こちらは誰だ?

 

「マイちゃんはマイちゃんですよ?」

 

 シンジからはよく分からない回答があった。

 

 ミサトとリツコがどうしたものかと悩んでいると、救護班の1人がタオルを差し出した。

 どうやら話し込んでいる間に手配してくれたようだ。

 

「ありがとうございます」

 

 それを受けとった仮称マイちゃんとやらは、まずはシンジの顔を(ぬぐ)う。

 エントリープラグ内に満たされている謎の液体、LCLはそこまで粘性が高くないので既に落ちているが、それでも肌に違和感は残っているものである。

 

 続いて自分も顔を拭い、続いて体も拭う。

 シンジと違って全身の肌が露出しているので、ついでにというわけである。

 

 そしてそれが終わるとタオルを絞り、再度広げた後に肩にかける。

 

「立ち話もなんなので、どこか落ち着ける場所に移動しません?」

「いや、タオルは腰に巻きなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 エントリープラグから現れた2人はその後、各種検査にかけられた。もともとエヴァンゲリオンに搭乗した後は検査を予定していたのだが、それに追加する必要が出てきた。

 今日はもう遅い時間のため、明日以降にも徹底的に調べる予定である。

 

「で、結論は?」

 

 ミサトはリツコの研究室にて、コーヒーをごちそうになりながら本日分の検査結果を問う。

 彼女も戦後処理としていろいろと作業を抱えているので、それを片付けながら検査が終わるのを待っていたのだ。

 

「…………解離性同一性障害って知ってる?」

「確か、多重人格とかってヤツでしょ?」

 

 それがどうしたと返すミサトに対し、リツコの方は頭痛を耐えるように眉間(みけん)を手で押さえながら答える。

 

「初号機にシンクロし過ぎて人としての形を失った後、元に戻ろうとしたらそれぞれの人格ごとに肉体ができちゃったのよ」

「まるで意味が分かんないんだけど」

 

 専門的なことを全部とっぱらうと、こういう説明になってしまうのだ。

 ある程度の知識があっても机上の空論だろうと切って捨てるような事象に対し、素人の理解が追い付くはずがないと割り切って簡素化したのだが。

 

「質量保存の法則とか、どこ行ったのよ」

「使徒とかATフィールドがある世界でそんなこと言われても」

 

 ATフィールドとは、簡単に言えば使徒が使う防護壁(バリア)である。

 一部では心の壁とも呼ばれるそれは、念じるだけで展開されるトンでも障壁のクセに、現代の通常兵器のほとんどを無効化するという反則的な性能を持っている。

 つまりこれがある限り既存の軍隊では使徒と戦う事すらできないのだ。

 

 しかしエヴァンゲリオンはこれを使うことができるため、それを有するNERV(ネルフ)が使徒殲滅のための超法規的組織として存在する理由になっている。

 

 まあ今は関係ないことなので、本題に戻る。

 

「もう1人の子も、生まれてしまったものは仕方ないわ。認知しましょう」

「言い方がおかしいわね」

 

 もう1人の碇シンジ、彼は何者なのか。

 子供に複数の人格が生まれる原因としては、虐待等による過剰なストレスからの逃避であることが多い。ストレスを引き受ける盾として、または立ち向かう矛として、交代人格は何らかの役割を担っているのだ。

 

「彼の場合は、自分に無い『強さ』を求めた結果ね。

 自分を取り巻く環境に対して、肉体的にも精神的にも負けない強さを欲したのよ」

 

 カウンセリングも兼ねた検査にて分かったことである。

 碇シンジは孤独に耐えかねて別人格を生み出し、それにヒーローとしての役割を、救いを求めたのだ。

 

「その強さのイメージが肉体を構成するときに作用したようね」

「だから『筋肉がついて精悍なシンジ君』って感じだったのね」

 

 あくまで碇シンジがベースだったからか、筋肉の塊ではなく強さと美しさが同居する肉体であった。

 世の彫刻家たちがこの年頃の男を題材にした理由がよく分かる。

 そう、自分たちは芸術を鑑賞していたのだ。決して不純な動機からではない。

 

 なおもう1人、道を踏み外した潔癖症のオペレーターが居たことは内緒である。

 

「もしかして MIGHT でマイちゃん?」

「そうみたいね。碇マイト、なんだか語呂が悪い気もするけど」

 

 嵐を呼ぶ旋風児(マイト)は碇、つまり船に対して縁起が悪い気がする。

 六分儀も使い物にならないのではなかろうか。

 

「なるほど、別人格の子については分かったわ。じゃあ主人格のほうのシンジ君は? なんで髪が伸びたの?」

「………………それなんだけど」

 

 リツコは検査結果の印刷された紙を1枚差し出し、1点を指差す。

 

「なになに。碇シンジ14歳、性別……女?」

「別人格に『自分とは正反対の男らしさ』を求めたら、自分の方はどうなるかってことね」

 

 尽くす女ができあがりましたとさ。

 

「……マヂ?」

「マジ」

「……シンちゃんって呼んだ方がいい?」

「演出上あなたはそれでいいかも知れないけど、私はどうすればいいのよ」

 

 本人的には肉体が女になったことをまったく気にしていないため、呼称はシンジのままでいいのだが。

 

「あれ、ちょっと待って。だったらコレは……」

 

 そこには碇シンジの住所変更届がある。

 もともと彼?には地下空洞(ジオフロント)にある地下街の一室が割り当てられる予定だったのだが、2人に増えたため間取りの広い家族向けの方に移動になったのだ。

 

「いいの? 同居だなんて」

 

 中学2年の男女……男女?である。そんな2人を一緒にしてもいいのだろうか。

 ミサト自身、大学時代のアレコレという前科があり、しかもそれを目の前の友人にも知られている身であるのだが。

 

「彼ら……彼ら?にとってはお互いが居る生活が当たり前なのよ」

「むしろ、一緒に居るほうが自然、か……」

 

 確かに一緒に居るのは自然であるが、目の前に居るのは不自然なのだが。

 

 

 

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