使徒の脅威が去って数日後。
書類整理の休憩がてら、リツコの執務室でコーヒーのご相伴に預かっていたミサトに来客があった。
「あら珍しい。今日はマイト君だけなのね」
「ええ。2人は家に居ますので」
それは何かの書類を手にしたマイトであった。とある手続きに際してミサトを探していたのだ。
「実はマイカー申請について相談がありまして」
リツコにコーヒーを勧められるもすぐに済むからと遠慮しつつ、赤木さんにも用があったので丁度良かったと話を切り出す。
「マイカー申請? たしかに私はマイカー通勤してるけど……」
「事務の人に葛城さんと赤木さんに対処してもらえと言われまして」
『対処? ただの事務手続きに対処って何だ?』
2人はお互いに顔を見合わせながら、少し不穏な空気を感じ取る。
「そもそも、あなた免許持ってないでしょ? それで何でマイカー通勤なの?」
「あ、通勤じゃなくて、どちらかというと駐車場的なモノを借りたいって感じなのですが」
リツコの疑問はもっともである。いくらセカンドインパクトで地軸が傾こうと、免許取得の年齢制限は変わらない。つい最近生まれたマイトであるが、戸籍はシンジと同じ14歳で偽造しているので、自動車運転免許は取得できないのだ。
しかしマイトが求めているのは駐車場の利用許可であって、自動車は関係ないようだ。
「免許のいらない軽車両……大八車とか?」
「いえ、この子なら馬の可能性もあるわね」
嫌な予感が増す大人たちだが、ここで尻込みしていても話が進まない。思い切って聞いてみる。
「実は今朝、自宅に届いたばっかりなんですが……」
サプライズのつもりか、あくまでハッキリとさせないマイトの先導により、彼の自宅へと向かう。
その途中で、というか
たしかにアレは、事務ではなく自分たちの管轄だ。
大人たちは頭痛をこらえるように眉間を抑える。
「……士翼号。ウイングオブサムライじゃないの」
「……なんで人型戦車がココにあるのよ」
「いえ、そろそろ私も専用機が欲しいと思いまして」
前回の戦闘に勝利したことで発言力が必要量たまったので陳情したのだ。
「そうじゃなくて、世界観的に……」
「世界観で言えばむしろふさわしい気がしますが」
そう言われてリツコは考える。
『徴兵された中学生』
『人工筋肉で動く人型戦車』
『黒い月』
『幻獣』
『第6世代は天使と呼ばれる』
『士翼号が戦う時、その背に翼が見えたという』
『制作会社に繋がりがある』
様々なキーワードが頭の中を駆け巡る。
「なるほど。たしかに」
「え、リツコ納得しちゃったの?」
頭のいい人間を納得させるには、自分で考えさせるのがいい。
納得するだけの材料を自分で勝手に用意してくれるのだから。
というわけで技術開発部が受け入れたので、戦術作戦部としても受け入れることに問題はない。ないのだが、確認しなければならないことはある。
「で、これは23番目のクラスメイト? それとも史上最悪のAI兵器?」
「業者の人によると、その中間、らしいですよ」
この世界に合わせてカスタマイズしているが、パイロットに合わせているわけではない、だそうだ。
機械式の機体を人工筋肉で置き換えたり。ATフィールドに対応したり。コックピットを外してエントリープラグを挿入できるように変更したり。機体の全長を40mから200mの可変式にしたり。
ちなみに原材料は、基本的にどこの世界でも虚数空間に消えてしまうエヴァンゲリオン、と言っていた。
制作会社的に都合が良かったらしい。
「絢爛舞踏になったら、一点ものを作ってくれるそうです」
「そりゃまた楽しみね」
「使徒を300体……」
まだ3体である。先は長い。
そんな話をしているうちにマイトの自宅へと到着する。庭先には人型戦車が鎮座しており、その前にシンジとレイの姿が見える。
「……2人とも、なんで首輪してるの?」
「え、なんでって……全能力値が255上がるから?」
いつも通りお気楽なシンジの様子に、ミサトは再度の頭痛に襲われる。中学生の女の子がペット用の首輪をしているというだけでも不味いのに、魅力も大幅にアップしている状態なのでさらにである。
まあ危険度で言えばネコミミの話題を振ってくる人のほうが怖いのだが。絢爛舞踏も一撃である。
「……何故かよく似合っているけど、訓練の効果が下がるから外しておきなさい」
「はーい」
とりあえず、こちらの対処はこれでいいだろう。
問題は人型戦車のほうである。
エヴァンゲリオンと同じく人型だが、受ける印象は大きく異なる。
全体的にスリムで細長い初号機に対し、肩幅が広く腕周りや太ももが発達している士翼号は、より力強く見える。
頭部はその反対で、鋭い目つきと角の生えた兜によって凶悪な印象を与える初号機と、微笑みのように彫刻された口元と丸みを帯びたヘルメットにより柔和な印象の士翼号。
「肝心のスペックはどうなってるの?」
「あ、これ仕様書と整備マニュアルです」
ミサトとリツコはそれぞれに差し出された書類を読み進める。そして2人でお互いの領分について確認し合い、今後の運用を検討していく。戦闘能力が高くとも整備できなければ出撃できず、逆もまた然りである。
「読む限り問題はなさそうだから、とりあえず使ってみる?」
実際に運用してみなければ分からない。どうせ元々は予定に無かったものだから、使えなかったとしてもダメージはない。
そういう考えでミサトは提案するが、リツコの方が険しい顔をしている。
「……問題が1つあったわ。これはエヴァンゲリオンじゃないのよ」
使徒を倒せるのはエヴァンゲリオンのみ。
そこにきて、この士翼号である。
エヴァンゲリオンと同じくATフィールドを展開でき、戦闘力も申し分ない人型戦車。確実に使徒を倒せるだろう。
そうなると前提が崩れてしまうのだ。
「実は極秘裏に建造していたとか……」
「無理ね。世界各国で十数機を並行して建造してるから、そこら辺はきっちり管理されてるのよ」
ドイツで弐号機が、アメリカで3、4号機がといった具合に、現在13号機まで計画が動いている。そんな状況下では、さすがにごまかしが効かない。
ではどうするか。士翼号をエヴァンゲリオンだと言い張るしかない。
「……じゃあ、
「それは量産型にはもったいないですね」
できればそれは絢爛舞踏を取った後の機体に付けたい、とマイトが要望を出す。
「だったら、壱号機にしましょ」
「……紫色に塗って角付けたらバレないかしら」
というわけで戦術作戦部の提案を技術開発部も受け入れたので、この方針で行くことになった。ロスト・ロワイヤルな状況になってしまったが、まあ問題ないだろう。
これで
「3機同時に起動したら街のブレーカーが落ちるとか……」
「アンペアは足りてるから大丈夫よ」
シンジの心配はリツコによってすぐに解消された。
「3機同時に動いて背中のケーブルが絡まるとか」
「……注意して動けば大丈夫よ」
マイトの心配はリツコによってすぐに解消された。
「3機同時発進で衝突事故とか起きませんか?」
「…………1機ずつやれば大丈夫よ」
レイの心配はリツコによってすぐに解消された。
何も心配いらない。これからは3機体制だ。新しい時代の幕開けなのだ。