「え? 弐号機ですか?」
「そう。今、佐世保からこっちに向かってるのよ」
太平洋上を飛ぶ輸送ヘリにて。
ミサトのお誘いで訳も分からずに連れてこられたパイロットたちは、ようやくその目的を知らされる。
ちなみにヘリの弱点である騒音問題については
「まだ3機どころか2機での実戦も経験してないのに、もう4機目?」
「2クール予定してたのが、人気が無くて1クールになったのか?」
だとしたら原因は主役であるレイの活躍を奪っている自分たちにあるのではと、シンジとマイトは顔を見合わせ、そしてレイを見やる。
「………………?」
何のことかよく分からないレイは首を
どうしたものかと悩む2人を救ったのは、続くミサトの言葉であった。
「公式記録では、第3使徒はサードチルドレン1人で、第4使徒はサードとフォースの2人、第5使徒はファースト、サード、フォースの3人で倒したことになっているわ」
「……ああ、機体ではなくパイロットの数の方でしたか」
マイトは話の流れを理解する。
これまではいずれも『1つの機体にn人乗り込んで戦う』というものだったのだ。
「つまり今回は、弐号機にセカンドの人も含めて4人で乗るってこと?」
「……なるほど」
「おそらくはそうなるだろうな」
シンジとレイも理解する。機体ではなくパイロットの方がメインだったのだと。
巨大ロボット物なら機体が前面に出てくるだろうという先入観から、その線は考えてもみなかった。
さすがは戦闘指揮官、着眼点が違うと褒める3人に気を良くしたミサトは、今回の裏話を公開する
「任務の内容が『パイロットを連れて、非常用電源ソケットを持って迎えに行け』だったときにピンときてね」
待っていれば数時間もたたずに到着するのに。
現場には弐号機のパイロットであるセカンドチルドレンが居るのに。
わざわざ追加のパイロットを連れて、戦闘指揮官が輸送中の船に向かう。
あ、これは来るなと確信したのだ。
そうなると現場には弐号機とセカンドチルドレンが居て、そこに既存のパイロットが合流することになる。そこから考えていくと『パイロットの人数』が肝になるという結論に至ったのだ。
「でも、海の上で戦えるんですか?」
「電源と足場の確保のため、原子力空母が5隻同行してるわ」
舞台が海ということで、初の水中戦となる可能性が高いが。
「空母か……『都市をまるごとまかなえるほどの空母の電力を、自分の身体に───』とかできないのがおしいな」
エヴァンゲリオンには残念ながら、消費電力を上げて放つ必殺技というものは搭載されていない。
マイト自身は
「でもお父さん、使徒が断末魔砲を撃つと
「そうか。それがあったか」
まさか2度続けて遠距離ビーム攻撃主体で来るはずがない。そんなネタかぶりは許されないのだ。
となると今回の使徒はどんな攻撃をしてくるのだろうか。
「うーん。無難に考えると、水中戦特化か?」
「使徒は空を飛べるのに? さすがにそれは無いわよ」
マイトの考えは、ミサトによってすぐに否定される。
たしかにこれまでの使徒は宙に浮いて移動していたので、わざわざ水中を泳ぐ意味が薄い。
よって『海=水中戦』などという安直な事態にはならないだろう。
「だったら格闘戦とか。空母の甲板の上で殴り合いな感じで」
シンジの案はたしかに意表を突くものだが。
「葛城さん、空母の甲板ってどれくらいの広さ何ですか?」
「今回のやつはニミッツ級航空母艦って話だから、300m×90mってとこかしら」
残念ながら全長40mから200mのエヴァンゲリオンが拳を振るうには、場所が足りないようだ。
「だからシンジ君、出撃するときは40mでお願いね」
「えー?」
かなり無茶な話である。別に200mでもいいじゃないか。
「……電話ボックスのジャック・ハンマーVSシコルスキー」
レイの呟きは無視するものとする。
さて。次なる驚異の襲来に警戒を
「甲板の上は風が強いね」
「じゃあちょっと止めるか」
輸送ヘリから顔を出したシンジが、風になびく髪を抑えながらぼやく。性別が変わったときに髪が伸びているため、以前よりも被害が大きいようだ。
それを見たマイトが
「……あんまり歓迎されてないね」
「あれだな、『ガキが冒険者ギルドに何の用だ』ってヤツだな」
輸送ヘリから降りた彼らを、周囲の軍人たちがニヤニヤと笑いながら見ている。そのあからさまな態度が実に小者臭い。
「私のときは酒場でミルクが鉄板だったんだけど、時代は変わったのね」
ミサトがしみじみと語るが、彼女が生まれる数十年も前の西部劇のネタなので、時代が合わないハズなのだが。もしや身分証明書の年齢欄を塗りつぶしているのは、そういうことなのだろうか。
「アイルミルク。ダブルで」
「電磁ナイフのドグが本気で怒るからダメ」
レイの注文はマイトによって却下されてしまった。
(レイがおかしな方向に進んでる……)
(そりゃあシンジが面白がっていろいろ読ませるから)
学習能力の高い、優秀な子である。今後も活躍してくれる事だろう。
ちなみに余談だが、某
レイの発言で和んだ一行だが、周囲の視線は変わらず刺さってくる。
実害はないが
「……適当に
「それやるとみんな居なくなっちゃうよ?」
勇次郎の
そんな不穏な会話をする一行に近づく者が一人。
「Hello! ミサト、元気してた?」
黄色いワンピース、いや肩の露出からしてサンドレスだろうか。今は止めているとはいえ風の強い甲板の上でスカート姿の、背中まで伸びる長い茶色の髪が特徴の少女である。整った顔立ちだが、それ以上に強気とか、勝気といった印象を受ける。というより、この年代の少女にありがちな背伸び感が強いのは気のせいだろうか。
「まあねー。あなたも背、伸びたんじゃない?」
それに返すミサトの口調が、そんな子供をあしらう感じなのも拍車をかける。
(なんか、メンドウなことになりそうな予感が……)
(まあレイちゃんの
少女とミサトが会話を続けるのを眺めつつ、シンジたちは彼女がセカンドチルドレンだろうと当たりを付ける。ここまでキャラが立っている同年代が脇役ということはないだろう。
レイのほうに反応がないのは、興味が無いのか彼女も初対面だからなのか。この10年近く、世界に2人しかいなかったパイロットがお互いに知らないというのは組織運営的にどうなのだろうか。
そんなことを考えていたマイトは、そこでふと気づいてしまう。
(なあシンジ。女の子2人が主役のロボットアニメを見ているときに、突然男が
(んー、大量のクレームからの炎上、打ち切りコース?)
彼らのやろうとしていることは、そういうことである。
レイを守るために、男である自分たちが矢面に立つ……片方は今は女の子なので、実質マイトが単独で最前線に出ることになるが、それはともかく。レイの見せ場とかそんなものは気にせず、彼らも戦うと決めたのだ。
たとえその結果、
そんなことを考えていると、話が終わったのかミサトがシンジたちのほうを向き直る。
「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機の専属パイロット。セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」
最初に登場して以来、ずっと右手を腰に当てて仁王立ちしている少女の名前が判明した。ついでにやはりセカンドチルドレンであったことも判明した。
(ドイツの人なのに日本語が上手いと思ってたけど、もしかしてハーフかな?)
(ラングレー……CIAとセットでよく聞く単語だからか、ドイツじゃなくてアメリカを連想してしまうな)
ちなみに彼女はドイツ3、日本1のクォーターで、アメリカ国籍というややこしい人物である。
そして人格についてはさらにややこしい人物のようで。
「で、アンタがウワサのサードチルドレンね」
「……だとしたら?」
彼女はマイトに向かって
(赤木さんと同じで、よろしくするつもりがなさそうだね)
(少なくとも言葉の上ではよろしくと言った人と、どっちが良いのやら)
この状況に『面白そうなので乗ってみるか』と考えている者たちと比べるとどうなのかも知りたいところである。
「フーン、冴えないわね」
おそらく最初から用意されていたのだろう、すぐにそんな言葉が出てきた。
「というか、何で子供が
どうやら追撃ポイントを見つけたようで、さらに難癖をつけてくる。
がしかし、対するマイトのほうは余裕の態度である。
「たしかに、そのサンドレスはとてもオシャレですね」
「あら、分かってるじゃない」
褒められて気を良くしたのか、軽く胸を逸らせて得意気な顔をしている。
しかし彼が大人しく引き下がるはずはなく。
「我々は
割と適当にそれらしいことを言っているが、完全にその場の思い付きである。
彼らが制服を着用するのは
なので社会人云々というのは単に挑発のために持ってきただけである。
わざと間を取り、マイトは続ける。
「そのサンドレス。よくお似合いですよ、
「────!!」
皮肉気に釣り上がった口元がなくとも、言いたいことは十分に伝わっただろう。反撃すること自体が不快だというのに、さらに子供扱いという彼女の逆鱗に触れたのだ。
それを理解した途端、身体が動いていた。一気に間合いを詰め、右手を振りかぶる。パイロットとしての長年の訓練が活かされた平手打ちは、常人であれば反応することもできずにその身に受けていただろう。
しかし残念ながら、今回の相手は常人どころかヒトですらなかった。
自分から一歩踏み出すことで間合いをゼロにし、さらに彼女の身体を抱きとめることでその攻撃を完全に潰してしまった。
「いやー、ハグでしたっけ? 海外の人の挨拶は情熱的だなー」
「っ!? ────??!」
一瞬何が起こったのか理解できなかったアスカだが、マイトの腕の中に居ることに気付くとすぐに脱出を試みる。しかしいくら暴れようともそれは叶わず、それどころか顔を彼の胸元で抑え込まれているため声を上げることすらできずにいた。
実際のところ声については
「上手いわね。アスカの上半身は関節が固定されてて動けないし、じゃあ足ならと思うと体重移動で重心を崩されてそれどころじゃない」
自身も格闘技の心得のあるミサトは、感心したように
そしていくら訓練を積んでいようと、14歳の少女でしかないアスカの体力では全力を出せる時間はそう長くもなく。平静ではなかったことも相まって、早々に力尽きてしまった。
ぐったりとした彼女を抱えたまま、マイトは勝利の笑みを浮かべる。
「あ、申し遅れました。わたくし
わざわざ一部を強調した彼のセリフにピクリと反応するも、それ以上はできないようだ。
所詮は人間も動物の一種、しつけの方法は変わらない。どちらが上かを分からせるのだ。
そして挨拶が大事なのも変わらない。
シンジが動き出したのに合わせ、マイトは腕の中に居るアスカの身体を半回転して正対させる。
「サードチルドレンの碇シンジです。Nice to meet you!」
「………………はいはい」
シンジもアスカの身体を抱きしめると、定型の挨拶を交わす。
抵抗する気力が残っていないというのもあるが、同年代の女の子に力尽くというわけにもいかず、アスカはそのまま受け入れるしかない。
というかサードは男だったはずだ。ぽっと出の少年が使徒を次々に撃破したと聞いてライバル心を燃やしていたのだが、一体どういうことなのか。
訳の分からない状況に呆然としているアスカ。
そしてそれを見ていたレイも、続いて抱き着く。
「ファーストチルドレンの碇レイ。Welcome to Japan」
「………………もう好きにして」
もはや諦めの境地である。
そんな子供たちのじゃれ合いを見ていたミサトも、区切りがついたのを機に声をかける。
「ほら、遊んでないで行くわよー」
「はーい」
仕事としてきているので責任者へ挨拶に向かわねばならない。
ということで歩き出したミサトの後ろにシンジ、レイが続き、まだ復活していないアスカを背負ったマイトが最後尾を歩く。
「…………アンタたち、全員『いかり』なのね」
「
意外に素直に背負われているアスカから、久しぶりに意味のある言葉が出てきた。とは言っても耳元で
シンジたち3人の関係は公式には
ちなみにレイの姓は綾波のままなので、先ほどのは単なる自称である。
「エヴァンゲリオンのパイロットは『選ばれた存在』なのに……本部ではまさかの縁故採用だなんて」
言外に自分だけは特別な存在であると言っているようにも聞こえるが、まあ世界に4人しか居ないパイロットの内、3人が血縁関係であればそう考えるのも無理はない。
「縁故採用……まあこれも縁故採用と言える、のか?」
この状況下でも何とか突破口を見つけ出そうとする負けん気の強さは素晴らしい。
マイトはそんなことを考えつつ自身の携帯端末を取り出し、1枚の画像を呼び出す。
ちなみにアスカを背負うために両手が塞がっているので、
「……『来い 碇ゲンドウ』? 何よコレ」
「シンジの父親から10年ぶりに連絡があったと思ったら、実際には
そして訪問当日に使徒が襲来、そのままエヴァンゲリオンのパイロットとして出撃することになったのだ。縁故採用という言葉から連想するような状況では、断じてない。
「…………………………」
彼女自身が両親、正確には実父実母継母の3人と上手く行っていないこともあっての発言だったのだが、どうやらこちらも複雑な家庭のようだ。
黙り込んでしまったアスカに、さらに追い打ちとしてもう一枚の画像を見せる。
「……廃墟?」
「ファーストチルドレン、レイちゃんの自宅です」
身寄りがなく、
「…………………………」
これはアスカの価値観にヒビを入れる一石となった。
最近まで世界に2人しか居なかったエヴァンゲリオンのパイロット。選ばれた特別な存在ではなかったというのだろうか。
いや、まだファーストチルドレンだからという可能性はある。正規のパイロットである自分と違い、テストパイロットなのだから扱いが違うのは当たり前である。
しかし、いくらテストパイロットでもコレはないだろう。
もしこれが正しいのだとしたら、こんな扱いをする組織の行ったテストにどれくらいの信頼性があるのだろうか。
そしてこれからの自分の扱いはどうなるのだろうか。
「…………………………」
言い知れぬ不安に襲われ、マイトの首筋に回していた腕に力が入る。
今の彼女に