「じゃあ私は本部に連絡を入れてくるから」
「はい、分かりました」
食堂で時間を潰した後、ぼちぼち準備をしようかというタイミングになった。
ミサトは
「って、スーツの予備は1着しかないわよ?」
自室までスーツを取りに行く道中、自分はいいが他3人はどうするのかと気付いたアスカ。そもそも人数分あったとして、似たような体格の少女2人はともかくマイトは着られないのだが。
「ちゃんと持ってきてるから大丈夫だよ」
シンジはそう言うとその場にしゃがみ、マイトの影に手を入れる。そして中から紙袋を取り出すと、そこから自分のプラグスーツをのぞかせて得意気な顔だ。
「……ちょっと待って。今何をしたのよ」
アスカはそれがお気に召さなかったようだ。
手品にしてもさすがにあり得ない。そんな視線をマイトに向ける。
「日本に古来より伝わる陰陽術の1つですよ。自分の影の中に式神と呼ばれる使い魔を忍ばせる技術の応用です」
マイトは影からそれっぽい
実際は
「おんみょーじ、なるほど、さすが日本………………ん? いやいや、え?」
しかし彼女の精神力はそれを耐えたようで、もう一押し必要かと考えたときに、視界の隅に白い影が入り込んできた。
「……シロちゃん」
自分の半身なだけあって、レイはすぐにその正体に気付く。出迎えるためにしゃがんだ彼女は、子ネコが何かを
「んっ、って何よそれ?」
思考を一時的に放棄したアスカもそれに気付き、レイの肩越しに覗き込む。
子ネコが床に置いたもの、それはぎょろりとした大きな目玉が特徴的な、脊椎動物の胎児のような姿をしていた。明らかに生きた存在であり、その証拠に目玉が動き、アスカを捉える。
「────────!?」
「ああこれ、第1使徒じゃないか」
叫び声が飛び出る前にマイトに抑えられるも、続けて発せられた言葉にさらに動揺する。人類の敵として教えられ、それを倒すために訓練を積んできたのだ。そんな存在が目の前に居る。
「へー、これがそうなんだー」
「初めて見た」
のだが。
同じ使命を背負っているはずの他のチルドレンの反応は淡白である。
「…………?」
「
どういうことかと目線で尋ねてみれば、マイトからは訳の分からない回答が返ってくる。
これが証拠だと見せられた画像には、たしかに上半身しかない巨大な人型生物が十字架に張り付けられているのが見て取れる。何かの役に立つかもしれないから撮ったというが、だったら何故こいつら3人も並んで写っているのか。
というかこれは、観光名所での単なる記念撮影では?
「にしても、なんでこんな所に居るんだ?」
マイトが良い機会だからと
自力で身動きできない状態にある第1使徒。となれば誰かがこの船に持ち込んだことになるのだが。
「シロちゃん、コレどこから持ってきたの?」
「ニャー」
シンジが尋ねると、シロは一声鳴いてトコトコと歩き出す。どうやら先導してくれるらしいので、第1使徒を拾い上げてついていく。なお見た目が直接触れたくない系だったので、ゴミ用トングで掴んでいる。
そして歩き続ける事、5分ほど。
「ニャー」
「この部屋で見つけたの?」
空母内のとある客室の前までたどり着いた。船員用の部屋ではなく、客室である。つまり……
「え、ここって加持さんの部屋……」
先ほどの怪しげな男の部屋であった。
扉を開けて中に入って見ると、大きくて頑丈そうなトランクが1つ。その中央には半透明のオレンジ色をした直方体が置かれており、表面には『SAMPLE』や『A-01』といった文字が書かれている。
「……硬化ベークライト?」
「みたいね」
要は熱硬化性樹脂のことで、その名の通り熱によって固まる樹脂状の物質である。
どうやらこれで固めて運搬していたようで、内部に第1使徒がすっぽり収まりそうな空洞が見受けられる。
「とりあえず、戻しておくか」
マイトがゴミ用トングを突っ込み、元の位置に第1使徒を押し込む。もしかしたらポーズが違うかもしれないが、まあいいだろうとトランクを閉め、部屋の外へと出る。
「……この場合、どう考えればいいのかな?」
「味方であれば思っていたよりも重要人物、裏切り者であればかなりの危険人物、ってとこか?」
第1使徒の運搬を任されるほどの人物と見るべきか、それとも誰にも気付かれずに持ち出せるほどの能力を持った人物か、誰にも気付かれないように日本に持ち込もうとする危険人物か。
シンジとマイトが先ほど
「……なんでそんなに微妙な顔してるの?」
「いや、そこまでの人物だとは思ってなくてな」
マイトの見立てでは、かなりランクの低い
「何か根拠はあるの?」
「足元、だな」
シャツにネクタイに黒いパンツまでは良かったのだが、足元がローファーに白ソックスだったのだ。
「それが、お子様ファッションだったと」
「まあこれが日本だったら影で笑われるくらいで済むだろうが。海外、特にヨーロッパだとな……」
まあ良くて『学生気分が抜けていない』と社会人失格の烙印を押されるくらいか。
ダークスーツに白ソックスが許されるのは、マイケルジャクソンくらいである。彼のように足元に視線を集めたいというのでもなければ、良い大人がランドセルを背負っているような注目を集めることになる。
「お父さん、そんな人だったらただの運び屋の可能性はないの?」
「うーん、さすがにモノがモノだけに、それは無いな」
例えば今のように使徒が迫っている状況で、危なくなったから荷物を捨てて避難、という選択肢を取られてはたまらない。もしくはうっかり中身を見て、気持ち悪いから捨てるとか。なので荷物の重要性を理解できる、つまりは中身の正体を知っても任務を遂行できるだけの人物が、ただの運び屋であるはずがない。
「なるほど……」
「それはいいけど、なんで『お父さん』なのよ? それにシンディのことも『お兄ちゃん』って呼んでるし」
考えれば考えるほど怪しくなってくる加持のことはもう諦めて、それよりもアスカは呼称のほうが気になった。
同年代に対して『お父さん』はおかしいし、女の子に対して『お兄ちゃん』もおかしいではないか。
「ラングレー先輩、ボクはシンディじゃなくてシンジだよ」
「……私の記憶が確かなら、シンジって男に付ける名前よね?」
「ボクは男だよ?」
「……どう見ても女でしょ」
男物の
なので、一体どういうことだとマイトに目を向ける。
そもそもサードチルドレンは男だと聞いていたがために、先ほどの惨劇が起きたのだ。
それを受けたマイトは、シンジの頭を撫でながら答える。
「男の子を望んでいたシンジの両親が、生まれてきた女の子に男の名前を付けて、男として育てた結果ですよ」
結局は妻の死とともに不要になった
もはや顔も思い出せない両親であるが、中々の外道に仕立ててしまったものである。
「レイも両親居ないから、これじゃ
「……お
「いや、そこがお
シンジの腕を取って微笑むレイと、そんな彼女にツッコむアスカ。
やはり2人の関係はボケとツッコミかとマイトは感心する。
「そんなボクたち社会的弱者が集まって、相互扶助を目的とした……」
「それゼッタイ違う話でしょ」
「家族計か」
「だからそれ違うっ」
シンジもボケ側なので、実に楽しそうである。
とはいえ、いつまでもじゃれ合っている場合ではない。
散歩を続けるというシロに別れを告げた一行はアスカの部屋へと向かい、そこで着替えを済ませる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「な、なによっ、みんなして人の胸を見て!」
赤いプラグスーツに身を包んだアスカに対し、3人の視線が突き刺さる。それから逃げるように腕で胸を隠すが、目的はそこではないのだ。
「胸じゃなくて、胸元の数字なんだけど……」
「数字?」
彼女の胸元には02と描かれている。
これがどうしたのだと首を
「セカンドチルドレンが弐号機に乗って02って、ズルくない?」
「何の話よ」
これでは何の情報も得られない。結局この数字は何を示しているのだろうか。
「普通に乗機に合わせてんじゃないの? シンクロするためのスーツなんだし」
まあ番号だけを見ればその通りなのだが、それだと体型に合わせて調整が必要なスーツを、どのエヴァンゲリオンにも乗れるよう何着も
「私が初号機に乗るときも、00のスーツだったわ」
そしてレイのこの証言である。テストパイロットである彼女ですらそんな運用になっていないのだ。
ちなみに
「これは
余談だが、本来の
「……そっちも気になるけど、このスーツは何なのよ」
アスカがマイトのプラグスーツ?を指で
彼女たちのダイビングスーツのような細身のデザインではなく、装甲と筋肉、さらにはのっぺりとしたヘルメットまで付属した、異質なデザイン。
「いつまでも専用のスーツが支給されないので、自分で陳情した『
「………………は?」
史上空前の高機動戦闘能力を持った、アーリィ・フォックスと並ぶ最強のウォードレスである。空を走ると謳われた逸品だ。
実物は初めて見たなーと
「でもこれ、パイロットは着れないよね?」
「配置換えでスカウトになって着替えて、それからパイロットに戻れば大丈夫だ」
初プレイの熊本城3戦目にダメージの蓄積で機体性能が低下し、複座型が大破して生身で戦うことになってしまった。その経験からパイロットでも戦闘用のウォードレスに着替えるようになったのだ。まあ攻撃手段はキックだが。
「私も可憐が欲しい」
「せめて久遠にしときなさい」
レイの要望については、さすがに4本腕はエントリープラグに入らないので却下である。というかメインヒロインの顔を隠すようなスーツを着せると、番組がさらに炎上してしまう。
「……何言ってんのか、全っ然わかんないんだけど」
言って分からないなら、身体に教えてやろう。
ということでその機動力を見せるべく、マイトは3人を抱えて移動を開始する。目標は弐号機のある輸送船、つまりは今いる空母のすぐ隣である。
「この程度なら、移動射撃バグを使うまでもない」
「むしろ使っちゃったら、
すぐ隣とはいえ、輸送船と空母が並走しているだけである。当然隙間が開いているし、高低差もある。そんな状況下を問答無用で高速移動することになったアスカは、到着と同時に両手と膝をついて
「リテルゴルロケットは、こんなものじゃないわ」
「……だから、何の話よ」