新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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3-7 第6使徒(ガギエル)戦 前編

 

 

 

 まあそれはともかく、出撃の準備である。

 目の前にはうつ伏せになってエントリープラグをのぞかせている弐号機の姿がある。どうやらすでに事前の作業は終えているらしく、あとはパイロットが乗り込み、簡易固定具を解除するだけとなっている。

 

「弐号機って赤いんだね」

「まさに主人公機って感じだな」

 

 もう一人の主人公であるレイの乗機が青色になったこともあり、実に映えるカラーリングである。NERV(ネルフ)の青鬼・赤鬼と呼ばれる日も近い。

 

「私は『青いイナズマ』がいい」

「ほう、その心は?」

 

 レイがマイトの腕を引いて主張する。

 青に関する異名としてはよくあるモノだが、果たして……

 

「サンダードリフト走法でゲス」

「さっきとは違うコブラが出てきたね」

「それだと赤は……ブロッケンGか?」

 

 ソニックとマグナムではないのが何とも言えないが、青や赤は鉄板の配色のためネタに事欠かないのが良い。

 ちなみに走法なのか走行なのか、今一つ分からなかった。個人的には走法という表現が好きだ。

 

「それに比べてボクの初号機は……」

「紫色だもんな」

 

 脇役だからとはいえ、『青+赤=紫』はどうにかならなかったのか。プロトセイバーが一時期紫だった気がするが、これならいっそ脇役らしい地味な量産機型配色のほうがマシだったかもしれない。

 

 そんな話をしながら、またもやアスカを背負ってエントリープラグまで移動する一行。アスカが少し不機嫌なのは、決してウォードレスの固い感触が気に入らないとか、そんなことではないだろう。

 

「あれ、弐号機って目が4つなの?」

「そうだけど、それがどうしたのよ」

 

 うつ伏せになっている弐号機だが、顔は横に向けているため造形を確認することができる。零号機と初号機もそうだが、あまり共通点が見られないのは何か理由があるのだろうか。

 

「ボクの初号機は2つで」

「零号機は1つね」

 

 目玉の数すら異なるのは、そして3を飛ばして4になったのは何故であろうか。

 

「つまり2のn乗個というわけか」

「……それだと次の3号機は8個になるわよ」

 

 ヤツメウナギじゃあるまいしと呆れたようにアスカが声を上げるが、ヤツメウナギのあれは目玉ではない。なのでクモのほうが適切だろう。

 まさか人類の切り札、人型汎用決戦兵器であるエヴァンゲリオンを、ヤツメウナギのようなデザインにするはずがない。

 

両面宿儺(りょうめんすくな)な感じで、2体合体すればいけるんじゃない?」

「なるほど、弐号機のデザインが正式だというならそれもあり得るか」

「何で正式版を量産する前に、そんなイロモノに走るのよ」

 

 そりゃあ勿論、開発部が暇を持て余すからだろう。生産は専用のラインを動かすだけなので、思いついた改良案と以前に没になった案を混ぜ合わせて、なんだかよく分からないモノを作る余裕が生まれるのだ。

 

 NERV(ネルフ)でいうと技術開発部がやらかすんだろうか、等と考えていると、レイに腕を引かれる。

 

「お父さん、地下のアレは7個だった」

 

 自分の本体のことをアレ呼ばわりなのはどうかと思うが、そういえばアレは目が7個の仮面?を付けていた。

 

「仮面の下に隠された単眼と合わせて8個だった、って流れか?」

「つまり3号機は使徒なんだね」

「いや、あり得ないでしょ。なんでそうなるのよ」

 

 アスカは納得していないようだが、敵が姿をマネてくるのは古来よりのお約束である。偽エヴァンゲリオンが襲ってくる可能性は高い。

 

「だいたい、3号機はアメリカ支部で建造中じゃないの?」

「あ、そっか」

 

 じゃあどうなるんだと混乱するシンジたちをエントリープラグに押し込み、アスカはハッチを閉める。4人もいるとさすがに狭いが、シートに座り弐号機の起動を開始する。彼女はしっかりと訓練されたパイロットなので、外部のオペレータに頼らずとも処理可能なのだ。

 

 内部がLCLで満たされる。おそらくドイツから持ってきたのだろうが、賞味期限とか大丈夫だろうか。量が足りなかった場合はどうするのだろうか。そんなことを考えていると、内部モニタが『FEHLER』の文字で埋め尽くされてしまう。何らかのエラーが発生したようだ。

 

「……思考ノイズね。これだけの人数がいるなら当たり前だけど、そもそもアンタたちドイツ語で考えてる?」

 

 すぐに原因に思い至ったアスカは、シートの後ろにいる3人を振り返る。

 

「なんでドイツ語?」

「制御用のOSには言語設定が必要」

 

 同じくパイロット歴の長いレイも気付く。エヴァンゲリオンの制御に利用しているOSは、パイロットの思考言語に合わせて設定されているのだ。

 NERV(ネルフ)ドイツ支部にいたアスカと弐号機は当然ドイツ語を設定している。

 それに対して日本のNERV(ネルフ)本部では零号機、初号機ともに日本語を設定している。

 今回はその差異に気付かず、それぞれが自分の言語で思考したことでノイズが発生してしまったようだ。

 

「……思考を言語で読み取れる技術力があるのに、自動翻訳はできないの?」

 

 そんなものである。

 というわけで全員の思考をドイツ語で統一する必要があるのだが。

 

「ボクたちが知ってるドイツ語って、1つしかないよね」

「だな」

 

 シンジとマイトは(うなず)き、そしてドイツ語の知識を持ち合わせているレイも含めて1つの言葉を紡ぐ。

 

黒色槍騎兵(シュワルツ・ランツェンレイター)艦隊(フロッテ)前進(フォーラン)!』

 

「Schwar……え?」

 

 さすがにネタがマイナー過ぎたのか、それとも吸血鬼ではなかったからか、アスカには理解できなかったようだ。再び内部モニタが『FEHLER』の文字で埋め尽くされてしまう。

 

 もうすぐ使徒が来るというのに弐号機を起動できずにいる。絶体絶命のピンチである。

 

「……仕方ないわね、思考言語切り替えて日本語を」

「ボクたちがジャマになってるみたいだから、先に行ってるね?」

 

 アスカは日本語でも問題無いため、ならば自分が合わせようと思ったのだが。

 それよりも早く事態は動いていく。

 

 シンジの言葉が終わると同時にマイトとレイを含めた3人の姿が消える。

 エントリープラグの中は、静寂に包まれた。

 

「……………………え?」

 

 何が起こったのか分からず、アスカは困惑する。

 シートの上で右から振り返っても、左から振り返っても誰も居ない。

 シートから立ち上がり、背もたれ越しに後方を覗いても誰も居ない。

 右手を伸ばしてみるも、(LCL)を切るだけ。

 

「……………………え?」

 

 今度は左手を伸ばしてみるも、やはり(LCL)を切るだけ。

 何が起こったのかまったく理解できず、アスカは混乱する。

 

『ラングレー先輩、何してるの?』

「!?」

 

 どこからともなく聞こえてきた声に驚き、思わずシートの背もたれに身を隠してしまう。

 そこから顔をのぞかせて周囲を見るも、誰も居ない。

 

『外は先に準備しとくからね』

「え?」

 

 そんな言葉と共に、プラグに振動が走る。

 

「えっ、なに、弐号機が動いてるの?!」

 

 モニタに外部の様子が映っていないためアスカは状況が掴めていないが、今は弐号機がうつぶせの状態から身を起こしたところである。その際にエントリープラグが、中のシートの角度がどう変化したのかは考えてはいけない。

 

 

 

 

「よいしょっと」

 

 シンジは弐号機を輸送艦から隣の空母へと移動させる。マイトが事前に言っていた通りに不思議パワー(ATフィールド)で制御しているため、どちらの船にも負荷はかかっていない。

 空母の甲板からは艦載機がすべて飛び立っており、今は電源プラグが置かれているのみである。それを手に取り、背中の差込口へと持って行くのだが。

 

「あれ?」

 

 シンジの乗る初号機と形状が異なるというのもあるが、そもそも背中にプラグを差し込むというのは難しいのだ。

 

(もうちょっと右だな)

(えっと、こう?)

 

 何故か物理的に見えないはずの位置を捕捉しているマイトの誘導に従って動かすが、それでも上手くいかない。

 

(そっちじゃなくて、向かって………………背中の場合、どう言えばいいんだ?)

 

 たとえ正しく伝えられたとしても、背後の操作になると脳の認識と体の動きが逆になってしまうこともある。

 そんなこんなで苦戦していると。

 

(お兄ちゃん、私に任せて)

 

 レイが代わって操作すると、すんなりとプラグを差し込むことができた。さすがは正規の訓練を受けたパイロットである。

 

(おお~)

(スゴイな、レイちゃん)

 

 褒められてご満悦な彼女と操作を代わり、再びシンジが表に出る。周囲をぐるりと見渡すが、今のところ異常は見られない。

 いや、明らかに何かが迫ってくる気配が感じられる。

 

「これ絶対、使徒だよね」

 

(使徒が地下に居るエヴァンゲリオンを検知できるなら、そりゃあこっちだって出来るはずだよな)

 

 というわけで発見した使徒の気配をミサトに知らせ、レーダーやソナーで調べてもらう。

 結果は黒。いや、青か。300m×90mの空母よりも大きな影が、水中を高速で移動しているというのだ。

 

「え? 水中ですか? 空飛べるのに?」

『そうなのよ。何か水中に(こだわ)る理由でもあるのかしら?』

 

 より速度の出せる空中のほうが適していると思われるのだが。

 

 目的が読めないため、どんな攻撃が来てもいいようマイトが表に出る。攻撃を防ぐだけなら表に出ずとも不思議パワー(ATフィールド)で可能なのだが、シンジだと驚いた拍子に体勢を崩し、空母のブリッジに突っ込む可能性があるためだ。

 

「立ち合いは強く当たって、後は流れでラングレー先輩に交代……って」

 

 今回の主役はアスカのため、攻撃、特にトドメに関しては彼女に一任しようと思ったのだが。エントリープラグのほうに意識を向けると、どうも彼女はまだ起動準備を終えていないようだ。というか状況についていけていないようだ。

 

「……面倒だし、引き込むか」

 

 使徒が迫っている以上、悠長なことをしていられないというのもあるが。このままエントリープラグに居た場合、弐号機がアクションを起こすたびにシェイクされてしまうのだ。それも不思議パワー(ATフィールド)でどうにかできるといえばできるのだが、面倒なので彼女を肉体ごと取り込んでしまうことにした。

 

(………………えっ?!)

(あ、ラングレー先輩、いらっしゃい)

 

 これで心置きなく戦える。

 マイトは使徒の方を見据え、腰を落として蹲踞(そんきょ)の姿勢を取る。

 

(ちょっ、え、何よコレ?!)

 

 海面に飛沫(しぶき)が上がるのを確認し、身体を前に倒し左の拳を甲板へと付ける。

 

(っ、誰か状況を説明しなさいよ!?)

(ラングレー先輩、落ち着いてー)

 

 飛沫(しぶき)は真っ直ぐに高速で弐号機に向かっており、巨大な影を水面下に確認できる。

 それを静かに待ち受ける。

 

(使徒、あれ絶対使徒よね?!)

(慌てなくても大丈夫だよー)

 

 使徒の一部が水上へと現れる。ベージュ色で丸みを帯びた巨体には不釣り合いに小さい、第3使徒(ジャミラ)と同じような顔らしきものが付いている。

 その大きさからは考えられない速度で突進してくるが、迎え撃つ弐号機はしっかりと呼吸を合わせている。

 

(…………始まるわ)

 

 レイの言葉と同時に、右の拳を降ろす。

 それが甲板に触れるや否や、弐号機は渾身のぶちかましを敢行する。

 使徒は海面を飛び出し、その巨体で持って押しつぶそうと迫りくる。

 

(───────!!)

 

 機体を通して衝撃がアスカを貫く。実際には何の影響も受けていないのだが、大型トラックと正面衝突したかのような錯覚に襲われる。

 

 体重差はどれくらいになるだろうか。まともに考えるのが馬鹿らしくなる立ち合いを制したのは、なんと弐号機(マイト)であった。

 下からぶち当てる形になったため、使徒の巨体が宙を舞う。

 

(よいしょっと)

(…………)

 

 それをシンジとレイが不思議パワー(ATフィールド)によって挟み込み、空中に固定する。

 使徒はぶちかましによって意識が飛んでいるのか、されるがままである。

 

(やったの?)

(足止めに過ぎないわ。再度侵攻は時間の問題よ)

 

 動かなくなった使徒を見て終わったのかと思ったアスカであったが、レイによって否定される。

 

 使徒は最期に爆発する。

 おそらく動力源であるS2エスツー機関が暴走しているのだろうという赤木リツコ博士の説が、NERV(ネルフ)での共通認識である。

 

「………………」

 

 実際にはそんなことはなく、様式美(おやくそく)だからとマイトが爆発させているだけである。なので自爆した初戦の第3使徒(ジャミラ)以外は、本来は爆発する予定では無かったのだ。少し手間だが、やはり決着が分かりやすいのでこれからも爆発させるつもりだが。

 

 

 

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