「水着?」
「そ。買いに行くから付き合って」
ちなみに今日の日替わり定食はサバの味噌煮のようだ。
「なんでまた突然?」
「もうすぐ修学旅行があるの」
アスカの通う市立第壱中学校の2年生は、約2週間後に修学旅行で沖縄に行くのだ。
「え、沖縄?」
「セカンドインパクト後の沖縄って、観光地が残ってるのか?」
それを聞いたシンジとマイトは不安になる。
南極でセカンドインパクトが発生し、またそのときに地軸が傾いたのもあって海面が大きく上昇し、当時の平野部はすべて水の下である。かつては国内で『亜熱帯の南国リゾート』を楽しめる観光地であったが、今や日本全国が常夏。しかも海岸線が新しくなった影響で、わざわざ沖縄まで行かなくともキレイな海を楽しめるのだ。むしろ東京の元ビル街が水没した辺りのほうが、未来少年ごっこが楽しめてお得かもしれない。
「良いのよ、そんなことは。観光なんて興味ないし」
どうせ名のある観光地なんて滅びているので、どこに行っても同じである。泊りで騒ぐのが楽しみというだけなので、ならばできるだけ遠くにというわけである。
「スキューバーダイビングもあるから、水着を新調しておきたいのよ」
「なるほどね」
理由に納得し、そしてふと気になったことをマイトは問う。
「そういえばレイちゃんは、水着持ってる?」
「もちろん持ってるわ」
横でパフェを摘まんでいたレイが
「念のために聞くけど、それはスクール水着じゃないよね?」
「普通の水着」
キャラ的にやらかしかねないので確認するが、別に所有しているとのことで安心したのだが。
「……白一色のワンピース型というのはちょっと味気ないな」
ちょっと遊びに行くには向いていない。
またよくよく考えてみると自分もシンジもこの身体になってから水着を購入しておらず、良い機会だと気付く。
というわけで、アスカのお誘いにより週末のデパートへと繰り出した子供たち。何やかんやと巨大怪獣が数体攻めてきた街でありながら、結構な賑わいである。
「俺はこれだな」
特にこだわりもなく、すぐに決まるからという理由でまずはマイトが選ぶ。
無難なサーフパンツで、少し丈が長い。
「じゃあボクも」
「アンタはそっちじゃないでしょ」
同じくサーフパンツを手に取ろうとしたシンジはアスカに捕まり、そのまま引きずられていった。さすがにチャレンジはさせられない。
水着を買い物かごに放り込んだマイトもレイを連れて続く。
いつ見ても変わり映えのしない男物と違い、デザインの流行り廃りが激しい女物の世界。
とはいっても常夏の国になってからは明確なシーズンの切れ目が無くなったため、今年の流行りはコレのような売り方ができなくなった。なので今は様々なデザインのものが無秩序に並んでいる有様である。
「レイちゃんはどれにする?」
「……よく分からない」
何やら不満顔なシンジのほうはアスカが面倒を見ているので、マイトはレイのほうを相手する。
中高生向けのコーナーで話題を振るが、いまいちな反応である。
「着たい色とか柄とかある?」
「……よく分からない」
これでは選びようがない。
マイトは初対面のときのレイの様子を思い出す。こちらの振る話題に何の反応も示さず、綾波レイとはどういう人物なのか、何を考えているのか、何を欲しているのかまったく分からなかったのだ。
どうしたものかと考える。
「じゃあ防具を選ぶとしたら?」
「
よくわからんが迫力あるなあ……
「じゃあ好きなモンスターは?」
「ベルヘルメルヘル」
カード化しなきゃ。
「じゃあどの水着がいい?」
「……よく分からない」
どうやら今回はコミュニケーションを拒否しているわけではなく、単に水着に対して興味が無く判断できないだけのようだ。
これはこれで厄介だが、一般的な女の子の感性というのはマイトにもどうすることもできない。なのでこの問題は交友関係の中で唯一の一般女性であるマヤに投げるとして、この場は無難に切り抜ける。
「泳ぐの好き?」
「好き」
ならばワンピース型でいいだろう。
デザインについては本人の容姿が派手ではないがかなり目立つほうなので、それに負けないものにするか、それとも逆にシンプルにするか。
「うーん」
「…………?」
マイトはレイの顔を見つめる。
初対面のときの無表情な彼女はどこに行ったのか、今は少し表情が出るようになって丸くなったというか、
それを踏まえて数点選び、レイに渡して試着室へと送り出す。
隣では同じようにアスカがシンジを試着室に放り込んでいた。
「……あの子の『自分は男だ』って意識、筋金入りね」
ため息とともに肩を落とす。どうやらお疲れのようだ。
「娘をこんな風に育てるだなんて、ホントにヒドイ親ね」
「え、ああ、うん」
もはや顔も思い出せない両親へ風評被害が行くが、まあ実際にヒドイし問題無いだろう。
レイに対する育児放棄、どころか人権侵害レベルの行いもあるのだから今更である。
マイトがそう独りで
「で、アタシにはどんな水着を選んでくれるのかしら?」
腕を絡ませながら挑発的な、それでいて楽しそうな声色のアスカに、マイトも目線を向けて考え込む。
本人の性格的に、そして偏見かもしれないが海外からの刺客であることを考慮すると、絶対にワンピースは選ばないだろう。自分に自信がある者しか着こなせない、それなりに露出度の高いビキニだろう。
色は彼女の乗機である弐号機に合わせて赤だろうか。主役に相応しい色である。とすれば、レイの水着は零号機に合わせて青にすべきだろうか。赤いビキニに青いワンピース、美少女2人が見事な対比になって……
対比?
「……あっ」
「え?」
そこでマイトは気付いてしまう。
これ水着回への前振りだと。
本来の予定通りなのか視聴率の低迷から来るテコ入れなのか、おそらく修学旅行先の沖縄のビーチで主人公であるレイとアスカの水着対決があるのだろう。
そこでライバル心に一層火がつき、次の使徒でそれが原因で敗北。さらに
それなのに、自分たちのせいでレイは学校に通っておらず、修学旅行には不参加である。これでは一連のイベントが消化できず、後の展開に支障が出てしまう。
とはいえ今からどうなるものでもない。ここはお約束である『世界の修正力』とやらに頑張ってもらうことにしよう。
「まあそれはともかく、無難なのも一着、持って行くといいですよ」
「なんでよ?」
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【彼女が水着にきがえたら】
レイ 『よおし、水着コンテストやろっか!!』
シンジ『おー、おもしれーじゃん!』
マイト『これこれ何を泣いているんだね?』
アスカ「修学旅行だっていうのに水着を忘れちゃったんです」
マイト『ホイ! これでコンテストにもでれるじゃろ!』
アスカ「まあ!」
マイト『あいつ修学旅行にあんな水着持ってきて……』
シンジ『ホントはスゲー男遊びの激しい奴かもな』
レイ 『自分だけめだとうとかしちゃってさ』
アスカ「うぅぅ……」
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「とまあこんな訳ですよ」
「なるほどね」
これが日本のワビサビってやつなのね、とアスカは
◆
バトル物の息抜き回というか日常回には2種類ある。
途中でジャマが入って結局は戦闘で終わるものと、最後まで平和に終わるものだ。
「たっだいまー」
「あ、おかえりー」
はいお土産、とアスカから箱を渡されたシンジは、パッケージに目を落とす。
「……ちんすこう(サーターアンダギー味)?」
「なんか一番人気らしいから買ってきたの」
他にもあるわよと手提げから色々なお菓子やペナントの類を取り出していく。そして手元の端末を操作し、写真や動画を見せてくる。
どうやら修学旅行を満喫できたようだ。
「……水着の件、助かったわ」
「それは良かった」
どれもアスカを含め数人の女子生徒が写っているが、大人しい水着ばかりである。中学生の学校行事として無難なチョイスである。
たとえアスカのキャラクターであっても、独りだけ派手で露出度の高い水着だったら耐えられなかっただろう。
「で、発令所でみんなして何してんのよ」
「どうも使徒かもしれないものが見つかったらしいですよ」
マイトが巨大モニターの端を指差す。
そこには浅間山地震研究所から報告を受け、火口を空撮したときの写真が数点映し出されている。
「……よく分かんないわね」
マグマの中に巨大な影らしきものがあると言われても、正直なところ上空からでは何の手掛かりも得られない。なので本当に使徒なのか分からず、
「マグマの中を見る方法は無いの?」
「それは……」
「浅間山の研究所が使ってる、観測用の機器なら見えるらしいわ」
それについてはミサトが説明を引き継ぐ。
仕事をしているシーンが少なくて忘れがちだが、彼女は戦術作戦部作戦局第1課の課長でこういう場合の指揮官だったりするのだ。
……指揮官が直々に子供たちに状況説明しているのは、他にやる事が無いからではなく余裕の表れである。
「マグマの中って、そもそも視界が効くんですか?」
「そこはほら、温度変化とかから疑似的に……」
レイの素朴な疑問に対してはふんわりとした答えが返ってくる。
「昔の透明化Modなら見えたんだけどね」
「いつの間にか水しか対応しなくなったんだよな」
なのでしばらくは個人で対応版のModを作成する必要があったのだ。そのおかげでBTWでも透明化できたのだが、アップデートのたびに作り直すのは実に面倒だった。副作用として水中が明るすぎてイカがスポーンしなくなってしまったし。
まあそれはともかく。
現状では浅間山地震研究所が所有する観測機器を使用するしかないのだ。
「それ使えば分かるのに、なんでそうしないのよ」
「それはそうなんだけどね」
アスカの発言はごもっともなのだが、そもそも観測機で見にいった結果が使徒だったとして、その場でどうすることもできないのだ。
観測機が刺激になって使徒が動き出せば、浅間山から出てきたところで戦闘になる。
動かないのなら、ほっとけばいずれ浅間山から出てきて戦闘になる。
使徒じゃないなら見に行くだけ無駄。むしろ使徒だと確定させてしまうと
というわけで、絶賛放置中なのである。
「まどろっこしいわね、直接見にいって使徒だったらサクッとやっつけちゃえばいいじゃない」
「相手はマグマの中だからねえ」
エヴァンゲリオンは究極の汎用人型決戦兵器と銘打っているが、マグマの中で運用できるほどの汎用性は無い。
阿蘇でスポーツアカデミーの理事長をやってる力動山くらい鍛えていれば、溶岩でバタフライも可能なのだが。
実に軟弱である。
とそこで、資料に目を通しながら話を聞いていたリツコが声を上げる。
「あら、じゃあ行ってみる? 耐熱用の装備があるから、たぶん大丈夫なはずよ」