新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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4-4 第8使徒(サンダルフォン)

 

 

 

 そんなわけで浅間山までやってきた一行。

 さっそく専用の装備とやらを装着した弐号機を見て、アスカは(うな)る。

 

「……何よコレ」

「D型装備。マグマに潜るための耐熱耐圧に加え、なぜか耐核まで付いてる優れものよ」

 

 リツコの語るソレは、一見すると潜水服のような見た目をしていた。

 前面がガラス張りの丸い頭部に、同じく丸みを帯びた全身鎧のような白いボディ。腕の関節部分は蛇腹のような構造になっており、手の先はレトロなCの字型である。そして何故か壁に寄りかかり、足を投げ出す形で座っている。

 

「なんかレッドリボン軍が使ってそうな……」

「ピラフ一味(いちみ)が乗ってた気がする」

 

 そのコミカルなシルエットから、シンジとレイは懐かしい気持ちになっていた。

 2人もプラグスーツに着替えて待機しているが、役割は地上での後方支援である。残念ながらプロトタイプの零号機、テストタイプの初号機ではD型装備を着用できないからだ。

 

「……アタシがアレに乗るの?」

 

 アスカは乗り気ではないようだが、彼女にしか乗れないのだから仕方がない。

 ……そもそもこれ、どうやって乗るのだろうか。D型装備を先に装着すると、エントリープラグを挿入できないような気がするのだが。

 

「……リツコ?」

「ほ、ほら、演出の都合で、装着した姿を先に見せた方がインパクトあるし……」

 

 お披露目が終わったら一度脱がせてエントリープラグを差し込むのだろう。きっとそうだ。

 

「耐熱装備は他にもあるのよ。アスカ、右のスイッチを押してみて」

 

 まるで話題を逸らそうとしているかのようなリツコにうながされ、アスカは着ているプラグスーツの手首のスイッチを押す。

 すると何やら水音のようなものが聞こえ、それに合わせてスーツが膨らんでいく。

 

「いやぁぁぁ! 何よ、これぇ!」

「耐熱仕様のプラグスーツよ」

 

 胴体から太ももにかけてが膨らみ、球体のようになったアスカから悲鳴が上がる。

 

「フーセンドラゴンみたいだね」

「せいけんづきしなきゃ」

 

 赤くて手足の先は細いので、これまた実にコミカルなシルエットである。

 

「Hello Gentleman」

「お前の命を貰いに来た」

 

 黒かったからコチラである。

 まあアスカは生身では不思議パワー(ATフィールド)を使えないので、本物のような動きはできないのだが。

 

 こんなおマヌケな姿だが、マグマの熱に耐えるには必要な処置なのだ。

 

「これに似合うヘルメットって、どんなんだろうね」

「きっと赤くて丸い……タコ?」

 

 プラグスーツに耐熱性が必要だとなれば、つまりはエントリープラグ内、もっと言えばLCL自体が熱を持つということである。その熱から頭部を守るというだけでなく、肺に取り入れて呼吸するのだから冷却してヘルメット内に取り込む機能も必要になる。きっとそこそこの大きさの装置になるに違いない。

 

「………………………………あっ」

「え、何その反応」

 

 リツコが何かに気付いたかのように硬直してしまう。

 それを見てアスカは言い知れぬ不安に襲われる。

 

「まさか」

「…………ヘルメットがあると、画面映えしないわ」

 

 女の子がロボットに乗って戦うアニメで、その女の子の顔が映らないようなヘルメットをかぶる。

 それでは何のために女の子をパイロットにしたのだという話になる。

 

「そうなると視聴率が下がって番組が打ち切られてしまうわ」

「このままだと私の人生が打ち切られるほうが早いわよ!」

 

 火災による死亡原因として、熱風を吸い込んだことによる気道や肺の火傷からくる呼吸困難が挙げられる。

 LCLの熱伝導率がどの程度かはわからないが、同じようなことが起きるのは容易に想像できるのだ。

 

 このままでは地味にクローンナンバーが増え、アスカ03になってしまう。

 どうせトラブルシューターの(レッド)の命は軽いのだから、派手な爆発とかで楽しませて欲しいところである。

 

「こーゆーネタは男の役割でしょ、マイトはどこに行ったのよ!」

「え、マイちゃんなら……」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 浅間山は火山である。そのため周辺には有名な温泉が数多く存在する。

 

 温泉。

 日本人ならやはり、温泉を堪能しなくてはならない。セカンドインパクトによって常夏の国となった現在でも、それは変わらない。

 

 湯舟を前に(はや)る気持ちを抑え、まずは掛け湯である。

 これは身を清めるという意味もあるが、お湯の温度に身体を慣らすという意味もある。なので周囲にお湯が飛び散らないように十分に配慮したうえで、しっかりと行う必要がある。

 

 そうしたらいよいよ湯舟へと浸かるのだが、ここでも焦ってはダメである。足から腰、胴へと徐々に慣らすように浸かっていくのだ。

 

「…………あぁ」

 

 肩まで浸かったときには、思わず息が漏れてしまう。

 

『あぁじゃないわよこのバカ!』

「ん?」

 

 至福のひと時を堪能していたマイトに、アスカからの通信が入る。

 

「どうかしましたかラングレー先輩」

『どうかしてるのはアンタよっ』

 

 ひどい言われ様である。

 

『なんで壱号機を溶岩に沈めてんのよ!』

 

 ひどいのはマイトで合っていた。

 頭だけを溶岩から出している壱号機は、いつも通りのアルカイックスマイルを浮かべている。

 

「ラングレー先輩がマグマに潜るって話なんで、その補助ですよ。ダイビングとかでもあるやつです」

 

 シンジたちは地上で離れた位置から、マイトはより近い位置からというわけである。

 ただし壱号機にはD型装備のようなものは無いため、素潜りになるのだ。

 

『士翼号ってマグマに耐えられたかしら……?』

『マイト君、実際のところどんな感じ?』

 

 アスカと一緒に居るリツコとミサトも通信に加わる。

 別世界の士翼号にいろいろと手を加えた産物である壱号機は、当然オリジナルとは異なった性能になっている。実戦でのまともな運用もほとんどないためデータが取れておらず、何がどこまでできるのかを推測することすらできない。

 

「現状ではまったく問題ないようですので、軽く潜ってみます」

 

 これは機体の性能というより不思議パワー(ATフィールド)のお陰なのだろうが、溶岩に肩まで浸かっているというのにまったく熱さを感じない。機体へのダメージもないので、とりあえずマグマの圧力に耐えられるラインを探ることにした。

 

 溶岩の下にあった右手を外に出し、親指を立てて頭上に掲げる。

 

 準備が整ったので徐々に身を沈めていく。

 指先まで見えなくなったであろうタイミングで身体を反転させ、今度は頭を下にして両足でマグマを蹴って推進力を得る。

 

 どこからともなくダン・マイルドのテーマ曲(Fly Me to the Moon)らしきものが聞こえてくる。

 

(マイちゃん、EDに入っちゃったよ)

(大丈夫だ。すぐ終わらせる)

 

 実は今回見つかった巨大な影の正体は、使徒なのである。

 なのだが、正直なところこんな場所で戦いたくはない。マグマの中で危険だというのも勿論だが、視界が悪すぎて画面映えしないのだ。赤い光しか見えないなんて放送事故を起こしたら、視聴率がさらに下がって打ち切りまっしぐらである。

 

 というわけで不思議パワー(ATフィールド)の射程に入り次第、さっくりと片付ける。NERV(ネルフ)の関係者に気付かれなければ番組で取り上げられることもないので、視聴率にも影響しないというわけだ。

 

(よし、終わり)

(おつかれー)

 

 何故かこの間の第1使徒のように胎児状態だったため、すんなり終わった。今回は爆発させる必要もないため、実に静かである。

 あとは適当な時間を潰して地上に上がり、何も無かったと報告するだけである。

 

 

 

 

 

 

「そう……リツコはどう見る?」

「単純に見間違いだったから見つからない、使徒だったけど対流に運ばれて遠くに行った。どちらかしらね」

「対流によって深部まで行って、圧力に耐えられずに死んだとかは?」

「爆発による振動が検知されてない以上、それは無いわね」

 

 大人たちのまじめな考察が始まり、マイトは自分のやらかした失敗に気が付く。

 

(……そりゃあ、仮にも公的な組織をここまで動かして『なにもありませんでしたー』じゃ終わらんよな)

(どうしようね。今さらそれっぽいのを拾ってくるわけにもいかないし)

 

 観測機器を投入して追跡していたわけではないので、発端となった巨大な影は既に見失っている。それを幸いと好き勝手にやったのだが、どうも裏目に出た気がする。

 何かしら、それこそマグマの底から金属鉱床でも引きはがして持ってきていれば、これと誤認したのだと言い訳でもして終われたのかもしれない。

 

「……もしかしたら長期戦になるかもしれないわね」

「ええ……」

 

 成果が上がらない限り、今回の件は終わらない。

 ミサトとリツコが険しい顔をしてモニターを見つめている。

 

「……本部から浅間山(ここ)までは、かなりの距離があるわね」

「ええ……」

 

 本部、つまり箱根にある第三新東京市からは、直線距離でも100kmを超える。今回は輸送ヘリで空路を使ったのだが、それでもかなりの時間が必要だった。

 毎日これでは身体が持たないというのもあるが、往復にかかる時間も経費も無駄が多い。

 

「……そうなると、こっちに泊まり込みになるわね」

「ええ……」

 

 ならばこちらに仮の拠点を構えて詰めたほうがいい、となるのは当然の帰結である。

 

 2人はモニターから目を離し、今度はお互いに目を向ける。

 そしてリツコは最終確認を行う。

 

「やるの? 本気で?」

「ええ、そうよ」

 

 強い意志を宿した視線が交差する。

 

「勝算は0.00001%。万に一つもないのよ」

「0ではないわ。使徒に賭けるだけよ」

「葛城一尉」

「現責任者は私です」

 

 通常の使徒戦における責任者は司令ないし副司令になるのだが、彼らはNERV(ネルフ)本部に残っている。

 そのためこの場における責任者は、戦術作戦部作戦局第1課の課長であるミサトなのだ。

 

「やることはやっときたいの。使徒殲滅は私の仕事です」

「仕事? 笑わせるわね。自分のためでしょ?」

 

 リツコの顔に笑みが浮かび、つられてミサトも笑う。

 

「……温泉ね!」

「ええ……!」

 

 2人はガシッと腕を組んで喜びを分かち合う。

 火口にも負けない熱気が吹き上がる。

 

「近場の温泉宿は既にリストアップできています!」

 

 マヤがモニターに周辺地図を映し、旅館のある位置に印を付ける。特徴や利用客の感想などから割り出したおススメ度も併せて表示する。

 

「さすがマヤ、早いわね」

「それはもう、先輩の直伝ですから」

 

 話が聞こえていたオペレーターたち、そしてそこからさらに整備士たちにも話が広まり、周囲はもはやお祭り騒ぎである。

 

(どうしようね。今さらそれっぽいのを拾ってくるわけにもいかなくなったね)

(……そりゃあ、仮にも公的な組織をここまで動かして『温泉は無しです。帰りましょう』じゃ終わらんよな)

 

 

 

 

 

 

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【マグマダイバー】

 

 レイ 「サードチルドレンってなんでもできるのね」

 アスカ「もちろん」

 

 

 レイ 「ここによーく沸騰したマグマがあるわ」

 

 

 レイ 「全身突っ込んで『ようがんげんじん』ってやってくれる?」

 アスカ「そのくらいはできるでしょ」

 

 

 シンジ「うおッちゃーッッ! ああ゛ッ!」

 レイ 「(たの)しみね」

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