新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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1-3 第3使徒(サキエル)戦 裏(1)

 

 

 

 碇シンジは、客観的に見れば不幸な少年である。

 3歳のときに彼の目の前で母親が事故死し、その影響からか人が変わってしまった父に捨てられてしまう。

 引き取られた先では虐待こそ無かったものの、異物としての疎外感は(つい)ぞ消えず。

 しまいには別人格(マイト)というイマジナリーフレンドを作って、自分の殻に閉じこもる始末である。

 

 そんな彼のもとに1通の封筒が届いた。最後に会ったのがいつかも思い出せない、父親からの呼び出しであった。

 ただしそれは親子の愛情によるものではなく、どちらかというと召喚状に近い印象があった。

 

(これは……IDカードかな?)

(1日限りの仮入館カード、ではなさそうだな)

 

 ちなみに彼は別人格(マイト)も同時に稼働するタイプの解離性同一性障害である。

 肉体の主導権という意味ではシンジにあるが、場合によっては別人格(マイト)に身体を明け渡すこともある。

 普段はシンジの相談役(サポート)であり、今も一緒に封筒の中身を確認している。

 というかシンジが物理的に見えていない位置も見えていたりするのは何故であろうか。

 

(これは行かないとマズいよね?)

(正式な手続きで発行されたものだろうから、大勢の人たちに迷惑がかかると思う)

 

 親子の確執、というよりあまり面識のない人からの呼び出しで遠出するのはなあ、という気分であったが、それでも無関係な人たちに迷惑をかけるのも忍びないので、観光がてらこの話を受けることにする。

 

 まあそれはいいとして。『私が迎えにいくから』と女性の写真が同封されているのはなぜであろうか。

 いや、迎えに来てくれるのはありがたいし、相手の顔が分かると探しやすいので、写真を付ける気遣いは嬉しいのだが。

 恐らく真面目な話になるであろう呼び出しに、薄着で前かがみになってウインクしている写真(キスマーク付き)というのは、正直どうなのであろうか。

 まあ父親からして書類の余白に『来い 碇ゲンドウ』と書き殴っているので、似た者同士というか。

 ちなみに『来い』は太いマジックで、『碇ゲンドウ』の方は細いマジックで書いていたりする。どのような心境で使い分けたのだろうか。

 

 

 

 まあそんなわけで第三新東京市までやってきたのだが。

 

(観光するところがない)

(そもそもが行政の中心にするための都市だからなあ)

 

 そのコンセプトもあってか思っていたよりも面白みのない街並みを眺めて、どうやって時間をつぶそうかと心配になる。

 しかし幸いなことに、すぐに黒服サングラスな人たちに囲まれてそれどころではなくなった。

 

(どうする? 代わる?)

(んー、いや、今は大人しく付いていけばいいよ)

 

 荒事担当の別人格(マイト)に代わればこの人数の大人が相手でも、たとえ武装していても問題は無い。

 しかしこれがただのチンピラならともかく、いかにも組織で動いていますな人たちを退(しりぞ)けたとしても意味が無い。

 こちらに対して敵意も無いし、何ならお仕事ができて嬉しいです感すら見えるので、彼らに従ってみようと考えたのだ。

 

 この常夏の国となった日本で黒スーツ、しかも防弾だか防刃だかのインナーで着ぶくれまでして頑張っている人たちに、同情心が湧いたというのもあるのだが。

 

 

 

 気さくにとまではいかないが、そこそこ会話をしながらやってきましたは地下空洞(ジオフロント)。集光システムにより地表と同じく日光が降り注ぎ、緑豊かな世界が築かれている。

 途中で何度か父親から贈られてきたIDカードの出番があったことから、彼らに付いてきたのは間違いではなかったようだ。

 

(こんな大きな建物、どうやって作ったんだろーね)

(気にしちゃダメだぞ)

 

 予算も資材も人手も期間も、どうやっても無理な気がするが。

 そのせいなのかそれとも趣味なのか、一部では壁も手すりも無い空中回廊なんてものが採用されていたりする。しかも気圧差で強風が発生するというオマケ付きである。

 

 そんな危険な施設を進む、どこかのん気な彼……彼ら?が到着したのはとある会議スペースだった。

 そこで写真の女性、葛城ミサトと合流し、以降は彼女が案内役となるようだ。

 

「それにしても、まさかこんなに早く来ちゃうとはね~」

「慣れない遠出でしたから不安で、時間前に着くようにしてたんですよ」

 

 お堅い黒服の人たちとは違ってフレンドリーな、あるいはそう装ったミサトとの会話に、少し身構えてしまうシンジである。まだ黒服の人たちの方が気楽に話せていたのは気のせいか。

 ちなみに時間通りに駅に着くよう行動していた場合、特別非常事態宣言が発令された影響で電車が止まり、途中駅で立ち往生するところだったのはここだけの話である。

 

 

 

 案内役のミサトと世間話をしながら移動することしばし。

 さらに施設の奥に進んでいくと、そこにあったのは赤い水に満たされた区画とボート。ホバークラフトのように見える。

 

(え……?)

(動線設計がおかしいのか、今回だけ例外だからなのか)

 

 まさか施設の中をボートで移動することになるとは思わなんだ。

 しかも赤い水を通してやたらとでかい腕が透けて見えるし。

 

 ここまで御膳立てされれば誰でも分かる。

 要は、巨大ロボに乗れというのだろう。

 

 ここまで来て、ただロボットを見学するだけというのはあり得ない。

 ロボットを開発したり整備したりといったスキルも持ち合わせていない。

 そして人を介して(おおやけ)の手段で呼ばれたということは、ココで生体部品に加工されるという心配もないだろう。

 

 だったら他に可能性の高いモノは何か。作ったはいいけど誰も動かせないロボットのパイロット、だろう。

 宇宙人の技術とか超古代文明の遺産とかで、何か条件がそろわないと動かせないタイプの。

 

(じゃあ悪の宇宙人とか巨大怪獣とかもどこかにいるのかな?)

(さすがに興味本位で動かしてみたいだけです、はあり得ないだろうし……)

 

 ココが悪の秘密結社なら、相手が居なくとも動かすことはあるだろうが。

 

(もしかしてニュースで言ってた、戦自がどうのってコレの事?)

(あれ国連軍じゃなかったか?)

 

 戦自、戦略自衛隊や国連軍の相手といえば、他国か巨大怪獣と相場が決まっている。

 それが大集結しているとなれば、そういうことなのだろう。

 

(どこかの小島の漁師さんとかが『あ、あれはなんだー』って)

(シルエット紹介の導入が終わって、戦車が蹴散らされるフェーズってとこかな)

 

 不謹慎だがワクワクしてしまうのは、子供だから仕方のないことである。

 

 

 

 ボートが桟橋に着くとそこで新たな人物が合流する。髪を金色に染めた、白衣の女性である。

 お堅い公務員でコレが許されるということは、それがこの組織の特色なのか、それともこの人物がそれを許されるほど優秀なのか。

 

「……例の男の子ね」

「そ、マルドゥックの報告書による、サードチルドレン」

 

 白衣の人物はミサトに確認を取った後、ちらりと視線を向ける。

 

「よろしくね」

「あ、はい」

 

 自分は名乗らずにこの対応、よろしくする気はなさそうだ。

 こちらについては知っているようだし、改めてこちらから名乗る礼儀も不要だろう。

 

 彼ら?はそう判断し、シンジは当たり障りのない返事に留める。

 

(マルドゥックって、どこかの神様の名前だよね?)

(ってことは超古代文明のほうか? しかもサードチルドレンときたか)

 

 サードという事は当然、ファーストとセカンドが居る。

 ゼロが出てくるかは今後の展開次第だろう。

 

 そしてチルドレン。

 ロボットを操縦する資格が年齢にあるからチルドレンなのか。

 それとも何らかの存在から操縦資格を得た、もしくはもっと直接的に血がつながっているという意味でチルドレンなのか。

 

(もし年齢だったら、超古代文明の成人年齢っていくつなんだろ?)

(そっちだったらいいけど、政治家じゃあるまいし30すぎてもチルドレンと呼ばれるパイロットとか、悲惨だな)

 

 まさにアダルトチルドレンである。

 

(どうして複数形の『サードチルドレン』なのかな?)

(音で聞いた時に、そっちのほうがカッコいいからじゃね?)

 

 まあ『小類人(ちゃいるど)』で複数を指す例もあるので大丈夫だろう。

 

 そんなくだらないことを考えている間に女性陣の会話も終わったようだ。

 移動を始めた彼女たちに続いて桟橋から階段を上がり、何やら暗い空間へと足を踏み入れる。

 

(おお、予想通り巨大ロボットがあるな)

(なんでマイちゃんはこんなに暗いのに見えてるの?)

 

 何故か唯一の光源である入り口を閉めて、ブラックアウトしてから明かりを付けるという謎演出によってシンジにも見えるようになった。

 確かに目の前には大きな顔がある。顔の大きさから判断すると、ロボットの全長は40mから200mといったところか。

 

「人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機」

 

 そんな巨大ロボットを目の前にして、リツコは語る。

 

「建造は極秘裏で行われた、われわれ人類、最後の切り札よ」

 

(ロボットじゃなくて、人造人間だって)

(人類の最後の切り札ってことは、怪獣をどうにかしないと人類は滅亡する系だな)

 

 だから戦自ではなく国連軍が対処に当たったのだろう。日本の危機、ではなく人類全体の危機だったのだ。政治に負けて手柄を得るチャンスを横取りされた、とかではないはずだ。

 

 彼ら?が感心したようにエヴァンゲリオンを眺めていると、ミサトが不穏なことを(つぶや)く。

 

「でもこれほんとに動くの? まだ一度も動いたことないんでしょう?」

「…………起動確率は0.000000001%。オーナインシステムとは、よく言ったものだわ」

「それって、動かない、ってこと?」

「あら失礼ね。ゼロではなくってよ」

「数字の上ではね。ま、どの道、動きませんでしたーではもう済まされないわ」

 

(これ絶対、動くやつだよね)

(間違いないな)

 

 もはや確定である。

 これだけ特別な存在なのだから一度動けば怪獣なんて一捻り、というお膳立てである。

 

 なのでこの流れならそのうち来るだろうと予想していた言葉に。

 

「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」

「分かりました。乗ります」

 

 即答したのだが。

 

 女性陣の動きが止まってしまうという不具合が発生してしまったのは何故だろうか。

 

(なんかさっきから、外部スピーカーの電源をオンオフするようなノイズが何度も聞こえるんだが)

(……?)

 

 

 

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