新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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4-6 第10使徒(サハクィエル)

 

 

 

 第8使徒(ムシケラ)との死闘から数日後。子供たちはNERV(ネルフ)本部にて訓練を行っていた。

 今日はついでにハーモニクス・テストも実施された。

 

「さすがはアスカね。この中で一番の成績よ」

「………………」

 

 リツコからテスト結果の印刷された紙を受け取ったアスカ。しかし彼女は一番だといわれても、どうにも納得できていないようだ。

 

 機体とパイロットとの神経回路の同調率、つまりはシンクロ率が高いほど機体を自在に動かせる。つまりは優秀なパイロットの尺度の一つだといえる。

 たしかに自分のシンクロ率は過去最高だし、残る3人がこれ以上の、いやこれに迫る値を出したと聞いたことはない。なので自分が一番だというのは当然の結果とも思えるのだが。

 

「ちょっとアンタたちのも見せなさいよ」

「え? あっ」

 

 横から紙を奪われたシンジと、おとなしく差し出すマイトとレイ。

 

 

 『0%』 『0%』 『0%』

 

 

「どーゆーことなのよコレはっ!?」

「ラングレー先輩、殿中でござる、殿中でござるぞっ」

 

 マイトに羽交い締めにされたアスカは手足をバタバタと振り回している。

 

「そういわれても、ボクたちは通常のシンクロとかできないし……」

「そうだけど、たしかにそうだけどっ」

 

 シンジの言葉に『納得いかねェんだよォォ!!』と莎草(さのくさ)った状態のアスカは、次なる標的に目を向ける。

 

「少なくともレイは普通にシンクロしてたじゃないのっ」

「……………………」

 

 やべーヤツに目を付けられたからか、それとも他の理由からか。レイは目線を下にそらしつつ答える。

 

「…………やり方、忘れちゃった」

「何でよ?!」

 

 再度暴れだしそうなアスカだったが、今度はマイトによって完全に抑えられているため安全である。

 

「そもそもラングレー先輩は、どうやってシンクロしてるの?」

「…………え?」

 

 シンジからの質問に、アスカは考える。

 いわれてみれば、自分はどうやってシンクロしているのだろうか。だいたいシンクロとは何なのだろうか。訓練すれば伸びるものなのだろうか。誰でもできるものなのだろうか。

 

 負けてはいけない使徒との闘い……

 

 地下空洞(ジオフロント)のさらに地下に眠る第1使徒アダム。使徒が指一本でも接触すれば、人類の死を意味する特殊さ……

 

 わずかな崩れが文字どおり命取りとなるうえで、レバー2本で操作するという不安定さ……

 

 何よりシンクロの初動の箇所が、ヘッドセットという()から始まる違和感……

 

 点という不安定さから最大の力が出るという、のどを通らない理屈……

 

 繰り返す自問自答は、親方の一言で光明を得る。

 

「……足からブワーっと染み出し、スー…っと吸い上げる感じ?」

 

 その言葉の意味がまったく脳に溶けていかないので、シンジたちはこれからもLCLに溶けていくことにした。

 

「おーい、そこの4人組~」

 

 そんなちょうど結論が出たタイミングで現れたミサト。部屋の入り口から顔を覗かせている。

 さすがにこれだけ日が開けば、アルコールは抜けたようだ。

 

「新しい使徒が見つかったってー」

「あ、すぐに行きまーす」

 

 というわけでお仕事の時間である。

 さて今回のお相手はというと……

 

「また目玉?」

 

 インド洋の上空、衛星軌道上にて見つかったのは、オレンジ色の目玉であった。目玉を中心にアメーバのように左右に広がったそれは、まるで両手を広げているようにも見える。

 

 シンジは前回に続けての目玉使徒に不満そうだが、それに対してミサトは甘いわねと返す。

 

「今回の使徒は過去最大級の大きさよ。つまり『おおめだま』ね」

「いわれてみればデザインが似てる……かな?」

 

 重力の影響下にないからか、発育が良かったようだ。

 一説にはエヴァンゲリオンの数十倍もあるとされるが、そのときのエヴァンゲリオンは40mから200mのどのサイズだったのだろうか。

 

 そんなことを考えながら観測衛星によって撮影された使徒を眺めていると、触手の先端、指先のような部分から(しずく)(こぼ)れるように何かが落ちていった。

 それは重力に引かれるまま、すさまじい速度で落下していく。そのまま断熱圧縮による高熱で燃え尽きることもなく、海面へと激突して大爆発を起こした。

 

 インド洋上空からこちらに向かっている使徒。その使徒からほぼ垂直に落下したとはいえ、衛星軌道上にいる自身の慣性と地球の自転が合わさり、初弾は太平洋への落下となった。

 

「たいした破壊力ね」

 

 ミサトがあきれたようにため息とともにこぼす。

 どうやら落下したのは使徒の身体の一部のようで、その状態でもATフィールドを展開していたことが判明した。これによって燃え尽きることなく海面まで到達し、さらに爆発するという結果につながったようだ。

 

「落下のエネルギーをも利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものですね」

 

 NERV(ネルフ)の誇るスーパーコンピュータ、MAGIによる解析結果を確認していたマヤが補足する。

 もし使徒本体の大きさでNERV(ネルフ)本部に落下した場合、富士五湖が一つになって太平洋とつながるというシミュレーション結果も出ている。

 

「これ、防げる?」

 

 ミサトはマイトに視線を投げかける。

 彼は強力なATフィールドによって第5使徒(ミョウバン)の加粒子砲を防いだ実績がある。

 今回の大質量によるスパイラルマタイから、大地を守護(まも)れるのだろうか。

 

「……ええ、大丈夫です」

 

 マイトはミサトの眼をまっすぐに見つめて答える。

 

「どんな攻撃であっても、俺の回転レシーブで拾って見せます」

 

 それに続けてレイも答える。

 

「そのあとは、私が殺人トスでつなげます」

 

 締めはもちろん────

 

「じゃあ最後はボクのイナズマアタックで……」

「待ちなさいよ、最後はやっぱりエースのアタシがって、せっかく拾ったのに地面にアタックしちゃダメでしょっ?! てゆーか殺人トスって何っ?!」

 

 アスカが何やら騒いでいるがそんなものは関係ない。

 どちらにボールを上げるのかは、セッターが決めるのだ。

 

「というわけでスパイラルマタイは防げますが、そもそもやりますかね、アイツ」

「え、どういうことよ?」

 

 使徒の目的は、地下に眠る第1使徒アダムとの()()である。地表もろともNERV(ネルフ)本部を吹き飛ばすことではない。それだと第1使徒アダムも吹き飛んでしまう。

 ピンクの自爆精霊のように両手の広げ具合で爆発を調整できるならともかく、全力全開で自分も消滅する威力を出す理由がないのだ。

 

「使徒は再生能力があるので、先ほどのお試しレベルのものを雨あられと降らせたほうがお得では?」

「確かに……言われてみればそうよね」

 

 使徒はコアが無事であれば再生できる。現に先ほど分離した分の質量はすでに回復しているように見える。

 海に落ちたあの一撃だけでも第三新東京市の地表施設を吹き飛ばすには十分な威力を持っていたのだ。連続して降ってくれば地下施設も含めてすぐに壊滅するだろう。

 

 衛星軌道上から無限に降り注ぐ爆弾にどう対処するのか。

 ミサトは思考を巡らせる。

 

「……………………よし、決めた」

 

 

 Nantokashite(何とかして)

 Aitsuno     (アイツの)

 Subetewo    (すべてを)

 Uketomeru   (受け止める)

 

 

「作戦名、NASUよ!!」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 作戦名が決まってから数時間後。子供たちは各自の機体に乗って地上に待機していた。

 今回の使徒は今までと違い、広範囲に影響の出る攻撃を仕掛けてくる。いくら使徒迎撃用都市といえどさすがに耐えられる規模ではないため、ごく一部の関係者を残して市民全員が市外へと脱出している。

 

 そろそろ使徒が第三新東京市を爆撃できる位置に到着するはずだ。

 

「結局どうするの? 高得点でも狙う?」

「うーん、4人もいるから楽に達成できるとは思うが……」

 

 明確な終わりは無いし、スコアのカンストでも終わらない。どうしたものか。

 使徒もマイトも疲労や消耗とは無縁の存在である。そのため無限にNASUを楽しめるのだが、決着が付かないのは困りものだ。

 シンジとマイトは頭を悩ませる。

 

「こっちから攻撃することはできないの?」

「手持ちの銃器で衛星軌道まで届くものは無いわ」

 

 好戦的なアスカとしては攻撃あるのみである。しかし唯一NERV(ネルフ)本部で銃に関する訓練を受けていたレイによると、そこまでの威力があるものは存在しないらしい。

 アメリカの大砲クラブであれば、月に砲弾を撃ち込める巨大な大砲を用意できるのだが。

 

 とはいえ今回の敵は使徒である。銃弾が届いたとしても第8使徒(ムシケラ)のようにダメージを与えられるだろうか。

 

「銃がダメなら、剣とかないの?」

「ブラスティングゾーンか」

 

 シンジとマイトが思いついたネタは、すでに第6使徒(さかな)戦で似たようなことをしているので却下である。

 

「じゃあ投擲(とうてき)武器?」

「定番ならトマホークとか手裏剣、ナイフ…………ナイフ?」

「こっち見ないでよ。できるわけないでしょ」

 

 ナイフといったらアスカだろうと視線が集まるが、不可能だと拒否されてしまう。

 しかしレイは彼女の肩に手を置き、説得を試みる。

 

「いまのきみの(パワー)の上にまっすぐわたしの力を()()()ことができればたぶん…………やれるだろう」

「やれないわよ」

 

 まあ巨大な使徒にちっぽけなナイフで立ち向かうのは、それこそ第6使徒(さかな)戦の二の舞になってしまうので却下である。

 

 ネタ被りの無い、目新しい攻撃手段を用意しないと視聴率に響く。ただでさえ前回はひどかったというのに、さらに使いまわしでは目も当てられない。

 

「こう都合よく、空から何か降ってこないかな」

「……衛星軌道上の使徒に攻撃できて」

「しかもATフィールドを貫けるヤツね」

「まあ、これから降ってくるのは使徒の攻撃だけどな」

 

 HAHAHAと笑いながら空を見る4人。

 今日もいい天気で、青い空と入道雲の白のコントラストが実に夏らしい。

 

「………………ん?」

 

 そんな空で何かがキラリと光ったかと思うと、4人の中心に棒状のモノが落ちてきた。

 速度の割にはサクッと軽い音を立てて刺さったそれは、血のような暗い赤色のねじくれた棒。先端が二股に分かれている。

 

「何これ?」

「お菓子に付いてくるヤツ?」

「いやアンタたち、もう少し慌てなさいよ」

 

 シンジとレイがしゃがんで観察しているが、正体は分からない。指で(つつ)いてみるも反応は無し。

 

「……ふむ」

 

 何やら納得したマイトは、おもむろにその棒を引き抜く。

 

「つまりはロケットランチャーだな」

「なるほど」

「そうなのね」

「どーゆうことよ?」

 

 まだ日本の文化に慣れていないアスカには難しかったようだが、そういうことである。

 

『ちょっ、マイトくん待って?!』

 

 リツコから通信が入るが、構わずマイトは右手に棒を構えて向き直る。

 目指すは、衛星軌道上にいる第9使徒(おおめだま)

 

『待って、マイトくんお願いだから待っ』

『水をやれ!』

『は?』

 

 必死なリツコに対し、強い口調のミサトが割って入る。

 シンジたちからは見えていないが、彼女は眩しいものを見るかのような眼差しでマイトを見つめている。

 

『水を飲ませてやれ。あいつは、カーリマンだ』

『そうじゃないでしょミサト!』

 

 2人の漫才をよそに、マイトは右手を後ろに回すように身体を(ひね)る。

 

「ボスを目の前にして、武器が降ってきたならば」

 

 顔を上げて目標を確認したら、軽くステップを踏んで加速する。

 

「その場で使うのが、作法というもの!」

 

 前方へ強く踏み込んだ左足を起点に膝、腰、背中、肩と順番に加速させ、発生したパワーのすべてを右腕へと伝える。

 (すさ)まじい勢いで降りぬかれた右腕は、持っていた棒を必殺の兵器へと変える。込められた不思議パワー(ATフィールド)によって空気抵抗も重力も無視し、使徒めがけて一直線に突き進むそれはまるでレーザービーム(トバイチロー)のようであった。

 

 それは難なく衛星軌道上に到達し、使徒の張ったATフィールドを一切の抵抗も許さずに突破し、ついには使徒の本体を貫いた。

 

『目標、消滅!』

 

 爆発を観測したオペレーターの報告により、オペレーションNASUは無事に完了。発令所では歓声と拍手が巻き起こり、書類が紙吹雪のように舞い上がる。そして近くの人と肩を叩きあって喜びを分かち合う。

 なんとなくエアロスミスが似合いそうな雰囲気だ。

 

「南極の碇司令から、通信が入っています」

 

 ミサトも周囲の人たちと盛り上がっていたのだが、その報告により冷静さを取り戻す。

 実は司令と副司令、2人そろって出張中なのである。両方が一度に居なくなるというのは組織としてどうかと思われるが、前回の軽井沢の件を根に持っているとか、そういうのはおそらく関係ないだろう。

 

「お繋ぎして」

「はい」

 

 メインモニタに映し出される髭面、かと思いきや、音声のみの通信(SOUND ONLY)のようだ。

 

『使徒が現れたそうだな』

「はい、先ほど殲滅いたしました」

 

 現在の責任者であるミサトが今回の使徒戦について報告を行う。いくつかの判断について質問はあったが、特に問題は無いようだ。お褒めの言葉をもらって終了となる。

 

 が、通信はまだ終わらない。

 先ほどまでとは違い何やら歯切れの悪い様子の司令に、ミサトは首を(かし)げる。

 

『…………あー、ところで、だな。何か飛んでこなかったか?』

「は?」

 

 ようやく出てきた言葉を理解できなかった彼女は、上司に対して失礼な返しをしてしまう。

 しかし一同がそれに気付く前にリツコが横から(くち)をはさむ。

 

「飛んできました…………そして、飛んで行きました」

『…………なに?』

 

 頭痛をこらえるかのように頭を押さえているリツコの心情は、もうどうにでもな~れ、である。

 

「……宇宙の彼方に、飛んで行きました」

『…………そうか』

 

 もう一方のゲンドウにしても、南極にてようやく回収した重要アイテムがいきなり空に向かって飛んで行ったのだ。正直わけ分からん、という感じである。

 

 まあ何にせよ、今回の使徒戦も無事に終わってめでたしめでたし、であった。

 

 

 

 

 

 

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【奇跡の価値は】

 

 レイ 「あ、小鳥」

 アスカ「手乗り文鳥ね」

 

 

 レイ 「欲しい」

 アスカ「あれだったら飼ってもいいわね」

 

 

 ごおおおぉぉ

 

 

 使徒 「ふははは! 手乗り使徒参上!!

     何故だ! なぜ逃げる!」

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