さて、これまでの戦闘シーンを振り返っても尺が余ってしまった。
なのでここからは恒例の実験シーンでお茶を
今回の実験の趣旨は、専用機以外へのシンクロである。
これも前回の実験同様オートパイロットのための実験であり、パイロットと機体の組み合わせを変えることによって発生する差分を見ようというものだ。
「零号機のパーソナルデータは?」
「書き換えはすでに終了しています。現在、再確認中」
リツコの質問に対し、技術局員として対応に当たっていたマヤが答える。
「被験者は?」
「若干の緊張が見られますが、神経パターンに問題なし」
今度はパイロットをモニタリングしているマコトが答える。
どうやらここまでは問題ないようなので、先に進める。
いつもの手順を1つ1つ確認しながらエヴァンゲリオンへのエントリーを行う。
「どう、アスカ。零号機のエントリープラグは?」
『なんだか、変な感じぃ』
リツコの問いかけに対し、アスカはエントリープラグの中で目線を
「違和感があるのかしら?」
『そうじゃなくて……』
マヤの質問を受けて考える。
違和感、ではない。
ブワーっと広がらないのだ。
いつもの足からブワーっと染み出し、スー…っと吸い上げる感覚がないのだ。
『フワッフワのグラッグラね』
「分かる訳ねーだろ……フワッフワとかグラッグラとか……」
「もっと具体的に教えてくれっての……」
モニタリングしながら聞いていた日向マコトと青葉シゲルはため息をつく。
まさに名操縦者、名被験者にあらずというヤツである。
そしてこれが原因なのかなんなのか、この後のエントリー手順を進めていくも一向にシンクロできない。
事前に想定していた代替手段も試してみたが、それでも状況に変化はない。
「想定通りといえば想定通りなんだけど……」
シンクロの仕組みを知っているリツコとしては、まあ納得できる結果なのだが。
それはそれとして、実験としては『できないということを確認できた』というのも立派な成果とはいえ、何か次につながるヒント的なものも欲しい。
「シンジ君は何か気付いたことある?」
「……え、ボクですか?」
何となく方向性を変えたくてシンジに質問する。
いつもならパイロット全員で実験に当たるのだが、今回の実験は通常のシンクロができないと何の意味もない。ということでアスカ以外は待機となるのだが、アスカだけ別行動にすると彼女が
「そうですね、素人質問で恐縮ですが……」
「そういう前振りはいらないわ」
モニタを兼ねた大きなガラス越しに零号機を眺める環境を利用し、水族館に来たカップルごっこをして遊んでいたシンジたちは、実験の経過にまったく興味が無かったので何も考えていない。
ただ何も言わないのは不味かろうと目線を
「あれなんですが……」
そこには現在エントリーしている被験者の名前が『SUBJECT:ASUKA LANGLEY』という形で表示されている。
「何でミドルネーム+ラストネームなんですか?」
「……え?」
『……え?』
これまで誰かが実験をしている姿を見たことがなかったので気付かなかったが、これはおかしいだろう。
この場合は『SORYU LANGLEY』とか『SORYU A LANGLEY』になるはずで、なんでミドルネームからの表記なのか。
それに同意するように
「………………あのね、アスカはアスカがファーストネームなのよ?」
「……え?」
なんと、アスカはミドルネームではなかったのだ。
「ちなみに惣流はアスカのお母さんの旧姓ね」
「……え?」
なんと、ソーリューではなく惣流だったのだ。
まさかの事態にシンジたちは驚きを隠せない。
『……アンタたち、まさか今の今までっ』
そしてそんな3人を見たアスカは怒りを隠せない。
「パイロットの神経パルスに異常発生!」
「精神汚染が始まっています!」
マヤたちオペレータから次々に報告が入る。
どれもパイロットの危険を知らせる警報であり、実験室内が
「まさか、このプラグ深度ではありえないわ!」
「プラグではありません、アスカからの侵蝕です!」
アスカの怒りに呼応し、零号機が徐々に動き始める。
固定用の器材が悲鳴を上げ始める。
「まさか、ありえないわ! シンクロしていないのよ、動くはずないわ!」
「シンクロ無しに動いている……というより怒ったの、彼を……?」
リツコが何度ありえないと叫ぼうと、事態は止まらない。
ミサトは何故か『行ける!』という確信に至る。
零号機は動き続け、固定具は今にも壊れそうなほどに
「零号機、制御不能!」
「全回路遮断、電源カット!」
エヴァンゲリオンは外部からの電力供給によって稼働している。そのためそこをカットすれば強制的に動きを止められるのだ。ただし非常用の内部電源も装備しているため、すぐには停止しない。そのためしばらくは動き続けてしまう。
そしてとうとう耐えきれずに固定具の一部が壁から
「アスカは?」
ミサトがパイロットの様子を確認すると、何やら元気いっぱいに叫んでいるアスカの姿がモニタに映っている。シートから身を乗り出し、零号機と同じようにこちらに掴みかからんばかりの勢いだ。
「うるさいので音声を切断しました」
「パイロットの救出急いで!」
マヤの判断はナイスだが、まだ怒りが収まっていないことを知り慌てる。早く鎮めないと後が面倒だ。
「というわけで、あなたたちお願いね」
「えー?」
シンジは不平の声を上げるが、今回の騒動の原因というのもあるので断れない。仕方ないので子供たち3人でアスカのもとへと向かう。
その道すがら、どうやってアスカに対応するのかという話し合いを行うが、そもそも何でこんなに怒っているのだろうか。
「もしかしたら、学校のことが影響してるのかもな」
マイトがいうのは、アスカの通う第壱中学校の状況のことである。
先の
一見すると気の強い少女であるアスカだが、メンタル的には弱いところがある。その影響が出てしまったのだろうか。
そんな予想を立てて格納庫の零号機前までやってきた一行。
ちょうどエントリープラグのハッチを開けて出てきたアスカと鉢合わせする。
「さぞかし名のある山の主と見受けたが、なぜそのように荒ぶるのか」
「アンタのせいでしょーがっ!」
シンジの必死の呼びかけにも関わらず、アスカは理性を失ったままのようだ。仕方がないのでマイトが背後から拘束する。プラグスーツの固い部分が当たって痛いうえにLCLでべっちゃべちゃである。
「何でアタシの名前を間違えてんのよっ!」
「えー?」
シンジは不満そうだ。
今回のように字として確認していればすぐに気付いたのだろうが、初対面の時にミサトから紹介を受けただけ、つまりは音として聞いたことしか無かったというのもあるだろう。
『セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ』
基本的に『姓+名』しかない日本人に向けて3部構成の名前を出されても、姓と名の組み合わせを正しく理解することはできない。せいぜいが海外では姓名の順が逆になるとか、ミドルネームというものがあるというくらいの知識しかないからだ。
なのでまさか『姓+名+姓』なんて並びだなんて思わなかった。
普通に惣流アスカとか、アスカ・ラングレーって言ってくれればこっちだって分かったのに、というのがシンジの主張である。
「何でこんな、ややこしいことしたの?」
「それは監督に言いなさいよっ!」
アスカにしても、何でそんな言い回しになったのかは分からないのだ。そういう世界観だと割り切るしかない。
「だいたいもうシンクロもマグマダイバーも終わってんだから、いい加減アスカって呼びなさいよ」
「ボクたちシンクロしてないし、マグマダイブしたのはマイちゃんだよ」
LASでなくともこの2つのイベントが終わればほぼ名前呼びになるものである。
しかし一般的に男子中学生が女の子を名前呼びするのはハードルが高い。そもそも『アスカ』をミドルネームだと思っていたため、ミドルネームはよっぽど親しい人か、もしくは相手がそう呼べと言ってきた時以外は呼ばないものだと聞いていたのが合わさり、とうてい呼べるものではなかったのだ。
「だからそっちから『ラングレーと呼ぶな、キョウと呼べ』とか言ってくれれば良かったのに」
「アタシは今日じゃなくて明日よっ」
今日は彼女の母親の名前である。
「
「まじめな話?してるから、レイちゃんはおくち閉じてような」
何やら納得して
そして彼女の顔を見ていたマイトはふと気付いてしまう。
「……レイちゃんはニセ勇者顔が似合いそうだな」
「?」
そうなるとアスカがもりそば、シンジがうおのめだろうか。
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シンジ「やったあ! 最後の使徒を倒したぞッ!」
アスカ「これで世界平和まであと一歩ねッ!」
レイ 「鼻血」
全人類「
シ・ア「ああ゛ッ! あと一歩が逃げて行くッッ!!」
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そんな電波を受信した2人も含め、アスカはシンジたちに向けて宣言する。
「だったら言ってあげるわよ。アタシのことはアスカと呼びなさい!」
これでパイロット仲間である3人からも名前呼びされることになる。
自分だけ『ラングレー先輩』などという他人行儀な呼称は終わるのだ。
別に仲が悪いというわけではない。
裸の付き合いだって何度もある。
それでも先輩呼びのせいで、どこか線を引かれている感があったのだ。
「分かったよ、アスカ先輩」
「だから何でそう距離を置くのよっ!?」
先輩呼びはこの作品の唯一といっていい個性である。それが無くなってしまえばどうなることやら。
エヴァFFといえば『どんなシチュエーションを挙げても、何かしらの作品が引っ掛かる』とまで言われた巨大コンテンツである。無個性は許されないのだ。
「そこは呼称じゃなくて、もっと他のことで個性を出しなさいよ。話の展開とか」
正論だが難しいことである。
再構成といえば聞こえはいいが、実際にはただ原作をなぞっているだけになってしまうのだ。
「だいたい先輩ってゆーなら、レイのほうが先輩でしょうが」
今度はレイに
「私は2人目だと思うから」
「アンタは
逃走失敗である。レイの言い訳はお気に召さなかったようだ。暴れるセカンドチルドレンを背後から拘束するマイトはLCLでべっちゃべちゃである。
ひとしきり暴れて体力の尽きたアスカを解放する。荒い息を吐きながら膝に手をついている。
「まあこれにて一件落着ということで」
マイトが締めのあいさつに入る。LCLでべっちゃべちゃなので早くシャワーを浴びて着替えたいのだ。
「………………まだよ」
だというのにアスカから待ったがかかる。顔を伏せたままゆらりと立ち上がる姿が不気味である。
LCLでべっちゃべちゃなのでもう終わりたいのだが、その異様さに免じてもう少し見守ることにする。
「…………アンタたちには初対面のときの借りがあるのよねぇ」
にやりと笑ったアスカは、腕を広げながらシンジへと近づく。身の危険を感じて逃げようとする彼の背中に手を回し、顔を近づける。
「さあ、仲良くしましょ?」
「うぇえ……」
さらに強く抱きしめるのに合わせ、
やがて満足したアスカに解放され、LCLでべっちゃべちゃになったシンジはマイトに泣きつく。
「マイちゃん……
なんなら実際に
シンジの背中を撫でて慰めていたマイトは、アスカが
「まあ、仲良きことは美しき
それはそれとして早くLCLでべっちゃべちゃ状態から解放されたいため、シンジを促してレイとアスカを回収し、シャワー室へと向かうのであった。